日月SS




「日向、この前言ってた雑誌貸してくれない?」
「おーいいぞ、…あ、そうだ。伊月家にお土産あるから今日家寄っていけよ」
「りょーかい」

…と、そんな会話をしたのが昼休みだ。
部活おわりに伊月がオレの家に寄って、あがってもらえばと促されたのと入れ替わりで母親が出掛けたのが少し前。伊月を先に部屋に入れて、スポドリを持って戻ったら、

「…なにしてんの?」
「………」

伊月が、オレのベッドに潜っていた。

「オイコラ、何してんだ」
「いや、エロ本とかないかなーと思って」
「それがなんで布団かぶってんだよダアホ」
「いいじゃんー日向のケチー」

勢いよく掛け布団を剥がすと、枕を抱えて伊月が座っていた。お前なんなんだそのポーズは。狙ってんのか。

「ほら、なんだかんだで日向んとこ来るの久々だなーと」
「…まあ、そうだけどさ」

さすがにほら、オレだって健全な男子高校生なわけだし、そのあたりの危機感をもう少しは持ってもらいたいわけだ。初めてじゃないんだから、そういう流れになる可能性だってわかってるわけなんだから。
そんなことをつらつらと脳内で考えてしまうくらいには、伊月は無防備に見えた。部活後ということも手伝って、普段より制服も着崩しているし、家には二人だけだし。

「ほらこれ、お土産持って帰れ」
「えっ」
「…なんだよその顔」
「お泊まりパターンかと思ってたよ」

真顔で伊月がそんなことを言うものだから、思わず飲んでいたドリンクを吹き出した。

「大丈夫かよー」
「誰のせいだと思ってんだ、誰の!」
「え、オレのせいなの?やったね」
「ふざけてんのか……」
「だって動揺したとか驚いたってことだろ?」
「………まあ、」
「それなら嬉しいよ、オレは」

枕を抱えたまま、伊月がオレのとなりに座った。じ、と目を覗き込まれる。

「……なんだよ、」

切れ長の瞳に気持ちを全部見透かされたような気がして、思わず後ずさる。

「…えい」
「はっ?」

いきなり枕を顔に押し付けられたかと思えば、すぐ抱きつかれた。それも、なかなかの力で。

「おい、伊月」
「……」
「…おーい」

ああ、このパターンは。ここまでされて、ようやく気付いた。今までの行動も、言葉も、

「…そういうときは言ってくれって」
「やだ」
「なんでだよ、オレ前科めっちゃあるじゃん」
「……学習しない日向可愛いし?」
「どの口が言うか、このやろー」

さら、と髪に指を通せばさらに抱きつく力を強めてきた。
甘えたかっただけだ、こいつは。
それに気づけばなんてことはない、今まで悶々としていた気持ちもどこかに行ってしまう。

「…こういうのしたいとか言って、甘く見られるのってすごく悔しいんだよね…」
「別にそんなのねぇって」
「ある。今だってにやにやしてるじゃん。その顔すげームカつく」
「いってぇ! お前何してんだ、背中つねってんじゃねぇよ」

仕返しとばかりに思い切り抱き締め返してやれば、言葉では悪態をつきながらも楽しそうな声色で反論してくる。

「ったく、もう…!」
「言ってくれって頼んでるだろうが」
「……はー…」

やれやれとわざとらしく伊月がため息を着いた。どうやら折れてくれたらしい。



「くっついてたいだけ……文句ある?」



若干睨まれながらも予想以上の言葉が出てきたので顔が緩んだ。全く、これだからやめられないんだって。





END

120404
日月の日企画「Sol*Luna」様参加作品


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