日月SS




それは12月はじめのこと。予定表を配られた日向は思わず呟いた。


「…な」


ふるふると小さく持っている予定表が震える。
12月最大のイベントと言えばやはりクリスマス。次いで大晦日だろうか。いや大晦日はイベントではないか。
無意識だが真っ先に目についたその日にち。


「2日連続練習試合だと…!?」


日向の眼鏡にヒビが入ったのは言うまでもない。


カントクいわく「だって私のせいじゃないもん。向こうから来たんだもん」………可愛く言ってもこれはちょっとどうかと思うぞ。


「もーうるっさいわねー!仕方ないじゃないもう決まっちゃったんだし!」

「気持ちの問題なんだよ!!てっきりどっちかはオフだと…」

「去年の話でしょうが。だいたいみんなが試合ってことは私もいるんだからね!!私をかわいそうに思いなさいよ」

「………一緒にいたい奴はオレだっているし」

「彼女じゃない限り却下」

「う」


そんなやり取りがあり、まあ結局練習試合はやったわけで。
……向こうもこっちも半分ヤケだった。勝ったけど。
終わったあとは疲れきった体を引きずるようにして各々帰って行った。
……2人一組の奴らもいたが。そのうち一組はオレと伊月だけど。

さすがに26日はオフで。
そんでクリスマスの分26日にいちゃつこうと思って伊月もそれに乗ってくれてお泊り会になったが、風呂入って一緒に横になったらムードもなんもなく、寝た。ソッコー。


………そんで次に目が覚めたら昼、っていうね。なにこれ。しかも伊月はまだむにゃむにゃ言ってる。とりあえずキスしとこう。


「…………」

「…………」

「………寝込み襲うの反対だぜキャプテン」

「お約束過ぎるだろ伊月君よぉ」

「オレにはイーグルアイがあるのを忘れたか」

「目閉じてたじゃん」

「気配です」

「……知らん。する」

「ちょっ、んっ」


なんだかんだ言いながらも伊月は抵抗はしないから調子に乗る。
こういう時間をさ、……昨日とかなーしたかったなーとちょっと思ってみた。
終わってしまったものはもうどうにもならないが。
唇が離れると、一瞬睨まれたがそれは慣れてる。伊月の癖だ。


「……もうアレだな、初詣は今から予約な」

「…うん………ん?」

「なに?」

「ごめん先約がありました」

「え」


ガラガラガッシャーン。
漫画で言ったらそんな効果音を背景にオレは呆然とした。
待て待て待て!え、なんで!?クリスマスも試合でさようなら、初詣も無理とか……そんなん聞いてねぇぞオイ!!


「…いーづーきー」

「ひゅ、えっなに!?」


ガバッと覆いかぶさる形で伊月を逃げられないような態勢をとる。
はーいクラッチ入りまーす。


「誰だよ」

「は?」

「何の用事?」

「…………覚えてないのか」


伊月が軽く苦笑する。全くわかんねぇ。
と思ってたら首に腕を回されてぐいっと引き寄せられた。
あと3センチ、のところで動いた唇から聞こえた言葉で思い出す。
あ、という声は伊月の唇で塞がれて音にはならなかった。


「思い出したな」

「……勘違いとか恥ずかしいんですけど」

「でもねー約束は守ってもらわないとねー」


綺麗にそう伊月が笑うから余計に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「……今日どうするよ」

「んー……このままでいいかな」

「え」

「だから来年は『恋人はサンタクロース』やってくれ」

「……考えとく」

「マジ?やった」


こういう時間。たいしたことない会話。
そういうときの伊月が一番自然に笑う。それを見るのが実は一番好きだ。
……こういう奴で良かった。


「約束な」

「おう」


まぁオレらにはこんな過ごし方が一番合ってるのかもしれない。
……とりあえず来年は気合い入れなきゃ、と思った。





END


091226


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