水金SS




水戸部とケンカ、した。


「…嘘つけ」

「嘘じゃねーもん」

「ひでぇ膨らまし方だな」


ぶく、と思いきり不細工にこれでもかと頬を膨らませて、小金井は机に突っ伏した。
どうせコガが何か勘違いでもしたんだろう、と向かいに座る伊月は苦笑する。
ごくたまに、こいつらはケンカするらしい。
そして小金井は伊月のところに愚痴を吐きに来るのだ。


「だってー…オレ間違ったこと言ったかな…?」

「とりあえず説明してくれ」

「んー……」


伊月も小金井に合わせて机に突っ伏した。


あのねあのね、オレは水戸部のことわかってるつもりなんだよ?
どんだけの意味で?
えー…言いたいこととかの意味?
ん、で?
………水戸部ってさ、すき、って言うの恥ずかしいみたい。
は?
あああわかってるんだってー!水戸部はちゃんと態度で表現してくれてるんだよー!でもやっぱり不安なんだってばー!!


伊月はにっこりと綺麗に唇で曲線を描いた。
しかしよく見ると小さく青筋が。


「ただの惚気じゃんか!!」

「なんで!?伊月だってそういうのあるだろ!?」

「まあ…そりゃなくはないけど、オレらはお前たちとは違うし」

「う…」

「もうそれはオレにはどうもできません。だいたいな……」

「?」

「…お迎え。」


そう伊月が言ったと同時に教室のドアが開いた。


「……みとべ」

「…っ」


良かった。
そう水戸部が言った気がした。
それは伊月にも伝わったらしく、小金井を引っ張って水戸部に押し付けた。


「じゃーねー」


ひらりと手を振ってやると、口をつぐんだ小金井が見えた。



◇◇◇



水戸部に引っ張られて、屋上の隅に並んで座る。
しばらく沈黙が続いた。


「……あのさ」

「!」


膝を抱えて、ぽつりと小金井が呟いた。


「………不安に、なっちゃったんだよねー…」

「……」

「ごめんな。……いつもこんなんじゃないのにさ…いきなり言って、とかワガママだよな…」


目に見えて小さくなる小金井に、水戸部は目を丸くする。
そしてぎゅう、と横から抱きしめた。


「……っ」

「…え?違っ、水戸部が謝ることじゃないってばー!」


水戸部は回す腕に更に力を込める。


「…うん、うん。……、オレはね、水戸部のこと、すごい好き。……わかる、よ。だからね、オレのワガママだから…っ」

「……」


好き、って。
そう言う水戸部が見たかった。
言葉が、欲しかった。
いつもそんなこと気にしないのに何故だか今回は言ってしまった。
そして一方的にまくし立てて、とか…本当馬鹿だな。


「…ん?」


抱きしめていた力が緩み、水戸部に掌を掴まれた。
そして指がなぞったのは、欲しかった2文字。そして軽くおでこにキス。


「~~~っ!!絶対!この方が恥ずかしいと思うんだけど!!」


まだまだ水戸部のことはわからないことだらけだ、と小金井はこういうときに思い知らされる。
照れながらも微笑んだ水戸部につられて小金井も笑うしかなかったのだが。


「……今度はちゃんと言ってな」


冗談混じりにそう呟いて、水戸部に体を預けた。



てのひらに文字

(このてのひらの熱が、悔しい)



END


100730
水金の日企画「恋するマーキュリー」様参加作品



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