水金SS
おおきなてのひら、だ。
自然な仕草で頭を撫でていった掌の感触に心地良さを感じる。
目が合えば形のいい笑顔で好きだと言われて、顔が熱くなった。
「帰ろっか」
別に今更なことだが、真っ赤であろう顔を見られるのが少しだけ恥ずかしくて、そして何故だか悔しくて、水戸部の手を取って歩き出す。
ぐい、と引っ張られる形になった水戸部の息を飲む音が聞こえて、一瞬だけ驚きの表情になった水戸部を想像した。
(………あつい、な)
握り返してくれた水戸部の手は、思ったよりも高い熱を持っていた。
それに自分の体温が重なって、まるで掌に心臓があるような、ドクドクと脈打つ感覚に襲われる。
(好きだよ、って…伝わるかな)
ちらり。
「…?」
「んーん、なんでもねぇ」
きょとんとした水戸部に、そう笑う。
水戸部の表情を読む。微かな息遣いを、唇の動きを追うのは、探り合いだと思った。
「……」
「え?わっ」
思わず目を閉じる。すると、聞こえてきたのは心臓の音。
その音に自分だけじゃなかった、と嬉しいような、安心したような気持ちが胸の中でひとつになる。
顔を上げて水戸部を見れば、西日に照らされた、赤い頬。
きっと自分もそんな感じなんだろう、そう思って思わず微笑む。
夏の一歩手前、夕焼けのオレンジに長く伸びた二人の影が静かに繋がった。
END
100618