水金SS




「………水戸部……これどういうこと……?」

「!?」


わなわなと声に怒気を含ませて小金井は自分の部屋にいる水戸部に言う。
水戸部は一体何が原因で今の状況になってしまったのか、見当もつかずただ焦ることしかできなかった。


「…もういい」

「?」

「水戸部なんか………もう知らねぇっ!!」


***


「……で、何が原因?」


机に頬杖をついて、伊月は小金井のふて腐れた顔を見ながらため息をついた。


「ひでーんだよ水戸部!!オレが我慢に我慢を重ねて来る日も来る日も耐え抜いて、心おきなく食べられる日を待ちに待っていたショートケーキをだね、水戸部はうちのかーさんに出されたからと言って食べちゃったんだよ!!しかも苺だけ食べたあとにオレが部屋に戻ってきてからオレのって言ったらスポンジだけでもみたいな顔でこっちを見るからさ、もう水戸部のバカ!!苺のないショートケーキなんかただの砂糖の塊だろーがぁぁぁ!!」


伊月の机に広げたポテチをバリバリとやけ食いしながら、小金井は一息にそう言った。
机を挟んで向かいに座る小金井を見ながら、伊月はなんだただの惚気がと流した。


「ノロケじゃなーい!オレは本気で怒ってんの!!水戸部のバカ!アホ!」

「世間はそれを痴話喧嘩と言います」

「言わないっ!!」

「てか何日そのケーキとっておいたんだよ」

「1日と14時間36分33秒」

「オレ日向のとこ行っていい?」


ニッコリと青筋をたてて微笑んだ伊月に、小金井はなんでだよーと唇を尖らす。当たり前だろうがと伊月は小金井の頭をペシッと叩いてやった。
そしてちょうど、午後授業開始の予鈴が鳴る。
食べるだけ食べ散らかして、小金井は伊月ありがとーと言って教室を出て行った。何だあいつ。
どうせ部活のときには仲直りしてんだろうと思い、伊月は特に気にせず授業の準備を始めた。


***


「きりーつ、れい」


瞬間、ざわめく教室。午後授業も終わり、部活に向かう。
小金井は掃除当番の水戸部を無視して一人で部室に向かった。


部室の鍵は既に開いていたので、一人で練習着に着替えながら小金井は尚ブツブツと水戸部に対してバカだの何だの呟いていた。

すると勢いよく部室のドアが開いたので、小金井は思わず肩を跳ねさせた。

「ちょ、びっくりさせんなよ!」

走って来たのだろうか、水戸部の呼吸は多少荒くなっていた。
そして、隣に荷物を置いて着替え始める。

「………」

「………」

気まずい。

「……………」

「……………」

…重い!何だこの空気!
雰囲気に耐えられず、着替え終わった小金井は部室を出て行こうとした。

「っ!」

だが、くいっと水戸部に肩を引っ張られて足を止める。

「……なに」

「…………」

オレは怒ってんだぞ、というようにムッとした声を出す。
すると水戸部が自分のバッグから白い袋を取り出した。確か、学校の近くのコンビニの。
水戸部はそれをズイと小金井に押し付けた。

「……くれんの?」

そう聞くとこくん、と水戸部は頷いた。
ガサリと音をたてて袋に入っていたものを取り出す。

「…ケーキ……」

小金井が呟いて顔を上げた瞬間、水戸部がぎゅうっと小金井を抱きしめる。
『ごめんね』と、微かに頭上から声がした。

「みと、べ」

くるしい、と小金井が言えば、ハッとしたように水戸部は離れた。


「………」

「………」

「……今度は、一緒にいるときに食べろよな」

「…っ」


俯いていた水戸部が顔を上げる。小金井がいつもの笑顔で言った。


「…なんかオレがバカみたいじゃん」

「………」

「でも、」

「?」


疑問符を浮かべる水戸部に、今度は小金井から抱き着く。


「ごめん、やっぱオレ水戸部大好きっ!」

「…!」


真っ赤になった水戸部は、再度小金井を抱きしめるしかなかった。



世間はそれをバカップルと言います


(……伊月何してんの?)
(お、キャプテンー、部室に入れませーん)
(…はあ?)



END

090806
水金の日

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