日月SS


「キャプテン、ちょっといいですか?」

「ん、何?」


練習が終わり、部室で着替える部員たち。
早々に帰っていく者から、自主練の為にストリートに寄る物まで様々だ。
着替え終わった黒子は日向となんやかんやと話している。


「…で、ここはこーなるだろ」

「あ、なるほど、わかりました。どうもありがとうございますキャプテン」

「うん、お疲れ」

「……黒子ー」

「あぁすみません火神君。じゃあ皆さん、さようなら」

「おつかれー」

「じゃーなー」


とっくに着替え終わって黒子を待っていた火神の声に、黒子は速足で去って行った。
いつの間にあんなに仲良くなったんだと部員たちは思いながらその光景を見ている。


「あれ、伊月まだ帰らねぇの?」


ふと振り返った小金井が、伊月に聞いた。


「オレ日誌書かなきゃだから」

「そっかー、あ、じゃあ次オレ当番じゃん!やだなー」

「じゃあ代われよ」

「それもやだー。じゃーなー」

「おー」


ひらひらと小金井に手を振って、ひとつ溜め息をついた。


「あ、伊月お疲れ」


ガタンと音を立てて、部室に日向が入って来た。


「もう帰ったかと思った」

「日誌当番だから」

「そっか」

「日向は?」

「倉庫の鍵閉めに行ってた」

「なるほどー」


カリカリとシャーペンを走らせながら、伊月は相槌を打つ。
日向は荷物をまとめると、伊月のとなりに座った。


「なにー?」

「待ってる」

「…そりゃどーも」


最近忙しさで頭がいっぱいだったから、久々の日向のその言葉に伊月は少し口元を緩めた。


***


「なぁ、さっき黒子何だって?」

「んー、次の試合どーするかとか聞いてきた。気合い入ってるよ」

「……ふーん」


…何だか少し嬉しそうに話す日向を見てると、…面白くない。
緩んだ口端はまた元に戻る。


それに気づいた日向は、


「…え、何、怒ってる?」

「怒ってない」


嘘つけ、なんか棘あるし。


「………妬いた?」

「何を?」

「いやだから、もしかして俊がヤキモチ妬いてくれたのかなーと」

「………ちがう」


冗談半分で聞いたからてっきり伊月に叩かれるかと日向は思っていたのだが、意外にもその返事が小さかったので伊月を見る。


………うん、何で顔逸らすかな


「しゅーん?」

「!」


顔を覗き込めば、少し頬を赤に染めた伊月がいて。


「…じゅんぺーの馬鹿」

「え、ひどくね!?」

「じゅんぺーが悪い」


そう言うと、伊月は止めていたペンをまた走らせる。


…あぁもう、何でこんなに可愛いかな、


「ごめん、俊」


初めてそんな伊月を見れたから正直悪いとはあまり思わないが、横から抱きしめてみる。


「………じゅんぺー」

「何?」

「呼んだだけ」

「はぁ?」

「………久々だなと思って」


こーゆーの、とボソッと言って伊月は日向の腕の中でさらに顔を赤くした。


「最近色々あったからな」

「クラス違うし」

「それは仕方ねーだろ」

「屋上は火神と黒子にとられちゃったし」

「あー…確かに」

「…順平、」

「何、俊?」


顔をあげた伊月と、日向の目がしばし合った。


「…名前呼びやっぱすき」

「これも久々だっけ?」

「うん、なんか色々久しぶり」


フッと伊月が笑う。


「俊、」

「な、に………」


え、と伊月が言う間もなく日向が唇を重ねる。
突然のそれに一瞬伊月は目を見開いたが、やがてゆっくりと目を閉じた。


「…ふ、ぁ」


息をしようと離れるそぶりをすれば、離すまいと日向は回した腕の力を強くした。


「は…あ、じゅん、…」


名前を呼ぶ数秒さえ惜しい。
少し開いた口から舌を絡めれば、苦しそうにしながらも伊月は日向の舌を追ってきた。

それが日向にはかなり効いたようで、さらに歯列の裏をゆっくりとなぞり、わざと音をたてる。

静かな空間にそれはやけに大きく響いて、伊月はトン、と日向の胸を押して離れたいと言うのだが、


「ん、ふ……ぅ、」


伊月の口端から、どちらのものともわからない唾液が零れ落ちる。
日向は最後に伊月をちゅ、と吸い上げて唇を離した。

真っ赤になった伊月は日向の胸に顔を埋め小さくなっている。


「…じゅんぺーえろい」

「その気にさせたのどっちだ」


二人で顔を見合わせ、それから同時にクスッと笑いあった。

瞬間、最終下校時刻を知らせる鐘が鳴る。


「…帰っか」

「うん」


パタンと日誌を閉じて、荷物を持って電気を消して部室を出た。
日向がドアの鍵を掛けて、学校を出る。

等間隔に並んだ街灯が照らす道を二人、少しの間を保ちながら歩いていく。


「…俊、今日家来る?」


久々に、と日向が何気なく伊月の手をとる。

それに気づいた伊月は、日向を見上げて、


「……日向の馬鹿」


くしゃ、と顔を歪めてとてもとても幸せそうに、笑った。





ずきゅん、
なんて効果音

((その笑顔は反則だ!))






END

090326
キリ番6666記念SS

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