火黒(2011年以降)
「今日、火神君の家にお邪魔してもいいですか?」
「え、いいけど…明日も練習あるのにめずらしいな」
「君の期待しているような展開にはならないと思うのでご安心を」
「てめぇ…」
バタリ、とロッカーの扉を閉めながら黒子は無表情で言った。
そうして火神家に帰宅し夕飯を食べて食器を片づけて。
「先にお湯頂きました」
「おー」
「……」
「…ん?」
「いえ、」
なんでもありません、と黒子は顔を背ける。
今日は、いつにもまして黒子がそっけないと火神は思う。なぜだろうか。顔は何か言いたそうな、そんな表情がうっすら見えるのだけれど。
「黒子ー、黒子」
「はい」
「ちょっと」
「なんですか」
ちょいちょいと黒子を呼び寄せて、ソファのとなりに座らせた。
黒子は頭の上に疑問符を浮かべている。
「どうかしましたか?」
「お前、なんかオレに言いたいことあんのか?」
「え?」
「平日に泊まりに来るとか普段ねぇしさ。でもやたらブアイソだし」
「……」
「…なんか言えよ」
「……あと」
「ん」
「…3分待ってください。もう、あと少しだったのに…」
「はー?意味わかんねぇ」
「わからないならそれでいいです。本当、少しだけ待ってください」
「いいけどよ…」
なんだか拍子抜けした、と思い火神はソファの背にもたれかかる。
時計の、秒針の音だけが部屋に響く。
そうして、0時ぴったりを指した。
「火神君」
「え、わっ」
今まで時計を睨んでいた黒子が、火神の上に覆いかぶさる。
突然の行動に火神は驚きながらも黒子を受け止めた。
「も、なんだよ…」
「お誕生日、おめでとうございます。火神君」
「……え」
「おめでとうございます」
黒子にそう言われて、バッとカレンダーを確認する。8月2日。
「……そうだな、誕生日か」
「はい。だから、あの、一番に言いたくて」
「…それで泊まりに来るとか言い出したのか」
「…すみません。うまいプレゼントが思いつかなくて…その、言葉だけでも、と…」
ぎゅ、と火神の服を握りしめながら黒子は顔を上げずに淡々と話す。
「明日も朝から会うのにか?」
「それでもです。一番が良かったんです。君の一番が、」
「……ああもうっ」
たまらなくなって、思い切り黒子を抱きしめた。
すっぽりと収まる体から、心臓の音が響く。耳元で、黒子の息を飲む音が聞こえる。
「か、火神く、」
「一番とか、そんなの決まってんだろバァカ」
「……っ」
「…サンキューな」
「…いえ」
ぴったりと黒子の頬に耳をつけてみると、じわりと温度が上がった気がした。
顔は見えないけれど、どんな表情をしているのかと思うと黒子が愛しくてたまらない。何も言わずにしばらく抱きしめていると、もぞりと黒子が動いて腕から抜け出した。
そして向かい直して、ちゅ、と目尻に唇を落とされた。そのまま紡がれた言葉に恥ずかしくも嬉しくて、愛しくて、火神はもう一度抱きしめざるを得なかった。
20120802
(ボクと出逢ってくれて、本当にありがとう)
END
120802