火黒(2009/02/19~2010/11/21分)

※『青空に攫われた』から続いています。


──あれから一週間が過ぎた

あの後火神くんはフラリとどこかへ行ってしまって、ボクは遅れて授業に参加した。
影が薄いから途中参加なのに気づかれなかった(それはそれで複雑なんですが)
部活にも出た。会ったら気まずいが、それ以外は普段通りなんだから出ないわけにはいかない。
でも、その日だけは火神くんは部活に来なかった。

内心、ホッとした

次の日からは何事もなかったように部活に参加していた。
練習もいつも通り、だ。

──ただ、

ボクは昼休みに屋上に行こうと思うが、どうにも気持ちが乗らなかった
(雨が続いたから結局行けなかったんだけど)
マジバーガーにもあの日を境に行っていない。

脳内は正直ものすごく混乱している。

あの日から暫く何にも集中できなかったし
思い出すだけでいっぱいいっぱいで

首筋に指で触れる。

跡はもうすっかり消えたはずのそこは、今でもジィンと熱を持っている気がした。

あのとき、火神くんはボクを『好き』だと言った。
しかしよくよく考えてみればボクはきちんとした返事は返してないのに
あんなこと…

「……っ」

そこまで考えて、恥ずかしくなって目を手で覆う。
最近ずっとこの繰り返しだ。
こんなこと生まれて初めてで、どうしていいのかなんてさっぱりわからない。
返事、というかボクの気持ちは伝えるべきであって…いや、絶対伝えないといけない。
火神くんに失礼だ、とても。
そう思うのだが、どうすればいいのかわからないのでまた振り出し戻ってしまう。

ベッドに倒れ込み窓の外を見る。
暗い上に雨音、気分も落ち込む。
先程見た天気予報では、もう暫く悪天候が続くと言う。

…光が欲しいな

ふとそう思った。
暖かい光を浴びたい。


──よし。


次に晴れたら、きっと屋上に行こう。
そして、ちゃんと火神くんと話そう。

ちくんとどこかが疼いた気がした。





「…嘘でしょう」

朝起きて窓を開けて思わず呟いてしまった。
それもそのはず、外は清々しいほどの快晴。
もう暫くは雨とか言ってたじゃないか、まだ全然気持ちの整理がついていない。

とりあえず昨日の自分とお天気お姉さんを恨んだ


「はい、じゃあ今日はここまで」

きりーつ、れい、

瞬間、賑やかになる教室。
あぁ昼休みになってしまった。
どうしよう、か。
はぁ、と溜め息をついて机に突っ伏してみる。
窓の方に目をやれば、嫌味なくらいに雲ひとつない青が広がっていて何だかムッとした。
反対、廊下の方に目をやれば、生徒たちが元気に騒いでいる。

……あれ…?

今教室の前を通り過ぎたずば抜けてデカイ身長の男子。
あんなのは一人しかいない。

「かがみくん…?」

どこへ行くのだろう、その手にはパン等の類のものは握られていなかった。
食堂も購買もそちらの道では遠回りである。

ボクは無意識に彼を追った。

もともとの影の薄さで気づかれることもなく後をつける。
こっちは体育館倉庫の裏だ。
まさか喧嘩などに呼び出されたりとかしたのだろうか?

「…あっ、あの……!」

そんなことを考えていたらもう一人別の誰かが来たみたいで、とりあえず死角になるところから覗いてみる。

…スカートが揺れた。

女子、ですね、

はぁ、なるほどと納得する。
つまり女子から呼び出しを受けていたわけだ。

「………」

ここからでは声はよく聞こえないが、大方告白とかそんなものだろう。

「…何、してるんでしょうね」

ずくんと、首筋に痛みが走った。
そういえば、昼食がまだだった。
音をたてないようにその場から離れる。

足が鉛のように重かったのは、
気のせいだろうか







一週間ぶりの屋上は、なんとなく心が明るくなった。
ほんの少しの間来なかっただけなのに、懐かしい気がする。
いつもの定位置に座り、本を開く。

──そして、無意識に彼が来るのを待った。

そうだ、いつもこうして彼を待っていた

不意に本にひとつ、雫が落ちた

──え?

雨かと思って空を見上げても、雲はない。

頬に熱いものが伝っているとわかって
あぁ涙かと理解するまで数十秒の時間を要した。

「……っう」

となりでくだらない会話をしながら、二人でいた時間が随分前のことのように感じる。

「…か、がみく…っ」

──いつからだったのだろう

君にこんな感情を抱くようになったのは

「…あ、…ぅ…」

──いつからだったのだろう、

君の傍にいることが当たり前になったのは。

極力声を出さないように、と思うと逆に色々なものが込み上げてきて、嗚咽を漏らさずにはいられなかった。

火神くん、火神くん、
ボクは、
認めるのが恐かった。
気づくのが恐かった。
だから触れないようにしていた。
君の傍にいられなくなってしまうと、きっと無意識のうちに考えていた。
あのとき、
君がボクを好きだと、
そう言ってくれたとき、

本当は多分、嬉しかった。

でも。
ボクが蓋をした感情、
それが溢れ出してしまうのが恐かった。

『…………すき』

無意識だったんだ。本当に。
言葉にするつもりなんか、なかった。
なのに。

「っふ、………っ」

君が残した熱が引かない。
唇に、瞼に、頬に、首筋に、
ボクの全身が、熱を覚えている

「火神くん……っ!」

あのとき好きだと言えば
こんな思いはしなかったのだろうか?
今日、気まぐれで君の後をつけたりしたから?

「………い」

火神くん、火神くん、

「おい!黒子!」
「っ!?」

突然頭上から低い声が降る。

「…なんで」

いるんですか、

火神くん……

「…何泣いてんだよ」
「ち、ちが…!」

ぐしぐしと袖で涙を拭う。
こんな顔、見られたくなかった。
こんな場面、見られたくなかった。

「…何が違うんだよ」
「……」

返す言葉がない。
顔も見れない。

「バッカじゃねーの…」

火神くんはハァ、と大きく息を吐き出した。

「こ、これは………っ!」

なんでもない。
そう言った声は風に消えた。
火神くんに抱きしめられる。
途端、今まで考えていたことが頭から全部飛んでしまった。

「か、がみ、くん」

ボクなんかより、一回りも二回りも大きな肩、腕、背中、回された掌……
火神くんは黙ったままだ。

「か、火神、くん…」

君の首に腕を回して抱き着く。
ビク、と火神くんの肩が跳ねた。
もう無理だ、抑えられない、

「…すき、です…」

ぼたぼたと火神くんの肩に涙が落ちて染みになる。

「……て」
「え?」
「…もう一回言って」

一週間前と、同じやり取りだ。
違うのは、ボクが泣いているのと火神くんの肩が少しだけ震えていること。
ちゃんと、認めよう。

「…すきです、火神くん」

君のことがこんなにも好きだということを。

ぎゅうぅと一回強く、抱きしめられる。
それから、ゆっくりと離れた。
見上げた顔は、今まで見たことのないほど、
泣きたくなるような笑顔だった。

「…あのとき」

火神くんが口を開く。

「すっげ後悔した」

オレばっかで最低だと思った。

「…火神くん、」

最低なのはボクもです。

「ボクは、ボクは火神くんがすきだってこと認めるのが恐かった」

わかって下さい、

「あのとき、嫌じゃなかった。だから逃げなかったんです」

今度は、ちゃんと目を見て言おう

涙も、拭いてから。

「…ボクは火神くんが好きです」
「……うん、あー……」
「?」
「なんか今更スッゲーはずい」

火神くんがボクの頭にポンと手を置く。
一週間前の君はどこに行ったんですか、なんてからかったら、顔を真っ赤にして。

「…じゃあ、やり直し」

そう言って、
唇を重ね合わせた。

今度はちゃんと、
両想いのキスを。



に溶けたになりました
(光の傍にはいつも、)



END

090303
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