火黒(2009/02/19~2010/11/21分)
火神くん
火神くん
届いていますか
あれから5年経ちました
君のいない世界で
ボクは5年も生きました
火神くん
悲しいです つらいです
哀しいです いたいです
心に大きな穴が空いたみたいに
ボクは虚ろなまま
今日も君の夢をみる
君の声
君の髪
君の眼差し
君の大きな掌
触れたくて
見つめたくて
梳きたくて
聞きたくて
君にもらったものすべて
大切に大切にここにあるのに
なのに記憶は酷く甘く曖昧で
日を数える毎に
すこしずつ
すこしずつ
剥がれ落ちて零れ落ちて
「かがみくん…」
いつかこの名さえも
忘れてしまうのでしょうか
忘れた記憶さえ
消えてしまうでしょうか
「火神くん」
「かがみくん」
「カガミクン」
呪文のように毎日君の名を呼ぶボクはまるで機械仕掛けの人形のようでしょう
そうでもしなければ
恐くて
怖くて
こわくて……
涙が枯れた日は
まだ一日として無く
ボクが笑った日も
君と一緒に居た
あの日あのときが最後で
「火神くん、ボクは、君無しでは笑い方も忘れてしまった。
君が教えてくれたことは、君がいなければ
ボクにはできません…」
はらはらと流れる涙は
どんなに月日が流れても
やっぱり熱くて
「火神くん、ボクは
もう……、君無し、では…」
それでも生きている、
意味などありません。
「がんばりました、火神くんの分まで
たのしいことや
うれしいことや
たくさん、たくさんのこと
それなのに、
ぜんぜんたのしくなくて
うれしくなくて
かなしくて かなしくて、」
何故ボクはここにいるのでしょうか、
本当なら、火神くん、
その場所にはボクがいるはずだったのに
「…ごめんなさい、火神くん、
君との約束を
最後の約束を
破ります。」
赦してくれなくて、いいから
「光がなければ、影など何の意味もない…」
だから、
その声で、
『馬鹿野郎』
と、叱って下さい
咎めて下さい、
その声で、
『黒子』
と、呼んで下さい
笑いかけて下さい、
その瞳に、
どうか
ボクを映して下さい
「…今日の夕陽はまるで、君のようですね」
おちていく中、
君色にボクは染まる。
そんなことを、
やけに冷静に思いました。
そこからあとのきおくはありません。
きみのところにぼくはいけたのでしょうか、
*
*
*
「…今日も来てくれたんだ」
「あ、…どもっス」
「いつもありがとうね、黄瀬くん…」
「…そういうカントクさんだっていつも来てるじゃないスか」
「もう『カントク』じゃないけどね」
墓石の前に花を供えた黄瀬の横に、相田もしゃがみ手をあわせる。
「………」
「………」
暫く沈黙が続いた。
「……バカ……」
ず、と鼻を啜るような音がやけに響く。
相田は小さく呟いた後も数分間手をあわせていた。
「…オレ」
「…うん?」
不意に黄瀬が口を開く。
「オレ、本当は…黒子っちはもう大丈夫って思ってたんス」
「うん」
「あれから5年も経ってたし、会ったりした時も『頑張ります』って言ってたから」
くしゃ、と黄瀬は前髪をかきあげる。
「だから、まだホント信じられなくて…」
「…黒子くんはね」
それまで相槌を打っていた相田が口を開いた。
「全部自分のせいだと思ったままだったの…」
「え、」
「『火神くんをあんな目に遭わせたのは全部自分のせいだ』って、最初、ずっと言ってた」
「でも、あれはどうみても」
「うん、黒子くんに全然非はないの。…でも」
「……」
「…ここ2、3年は言ってなかったから、私も大丈夫だと思った」
ふぅ、と相田がひとつ息をはく。
「約束破って…」
「…約束?」
「火神くんとね、約束したって黒子くんが言ってた。………『待ってる』って」
「……」
「『火神くんが最後に待ってろって言ったんです』って。『だからボクはずっと待ちます』って黒子くん言ってたの」
「……でも、火神は」
「…うん。でも、それでも黒子くんは5年も待ってた」
一息に相田はそう言って、それから俯いて何も喋らずに肩を震わせた。
「…黒子っち、逢えたっスか?」
墓石に向かって呟く。
黒子っちの出したこたえは、
正解だったのかな?
火神は、どんな気持ちで
黒子っちに『待ってろ』って
言ったんスかね?
「黒子っち…こんなことを言うのは失礼かもしれないっス」
だから、先にごめんね。
「オレが火神だったら……やっぱり、どんなにボロボロのぐちゃぐちゃになっても、生きていて欲しかった」
届いてますか、
「つらくてもいたくても、やっぱり生きて欲しいっス」
聞こえていますか、
「…向こうで倖せにならないと、赦さないっスから」
そう言ったきり、黄瀬も口を開かなかった。
寒空に、柔らかな風が吹く
供えた線香が、全部灰になって崩れ落ちた。
夕影
(もうどこにもいかないでおねがいだからきみのそばにぼくをいさせて)
(あたまをなでててをつないでくちづけをして、)
END
090227
当時のメモ
高1で火神と黒子くっつきます。
冬に交通事故に遭います。
この時黒子を助けようとした火神は亡くなります。
火神が最後に黒子に言ったのが『待ってろ』の言葉。
火神は黒子の目の前で動かなくなりました。
それから5年後、の冬の日からスタートです。
火神の死をようやく受け入れた黒子が選んだのは後追い。
その後は墓参りのシーン。