火黒(2009/02/19~2010/11/21分)

『なぁ、黒子』

何ですか?
火神くん?

『…やっぱりさ、オレら』

…?

『…別れねぇ?』

………………え?
か、がみくん…?

『……わり、』

火神くん、待って下さい!!
どうして急に…っ!!
待って、行かないで……っ!!

「火神くん…っ!!」



「…黒子?」
「…っ」

途端に視界が明るくなり、頭上から低い声が降る。

「……か、がみく…」
「どした?……って、おい、何で泣いてんだ?」
「かがみくん…!」

ぎゅうっとボクは火神くんに抱き着いた。
珍しく自分から。
ここは火神くんの部屋。
今日は日曜日だが、部活が半日だけだったということで、ボクは火神くんの家に遊びに来ていた。

「…すみません…」
「や、別にいいけどさ」

確か、火神くんの部屋で一緒に映画を見ていて…いつの間にか寝てしまったようだ。

「気づいたらお前オレの肩で寝てるからさー、何か掛けてやろうと思って…動こうとしたらうなされてるみたいだったけど」

何、恐い夢でも見た?

そう言って抱き着いたボクの背中をさすってくれる。
あぁ、あったかい…
じわっと涙が溢れてしまう。

「……わ…れ、よって……」
「あ?」
「か、火神くんに…わ、かれようって言われて…っ」
「は!?」
「どんどん、火神くんが…遠くなっ、て、……っ」
「…それで泣いてんのか?」

我ながら随分子供みたいなんだろうと思う。
って、これアレでしょうか?
夜泣き、みたいな…?
…それとは違いますかね…

「…っ、不安で、……ほんとに、な…るかもって、思っ…!」

口にしたら色々堪えきれなくなって、ボロボロと涙が頬を伝った。
そんなボクを火神くんは何も言わず抱きしめたまま。
ボクはすっぽりと火神くんの腕の中に納まっていて、お互いの顔は見えない。

「い、つかそんな日が…本当に来そ、で……っ」

だって、ボクたちの関係はおおっぴらに言えたものではないでしょう…?
それが明日なのか一年後なのか十年後なのか…わからないだけで、いつかそんな日は、きっとやってくる。

「…こわい、です……火神く……っ」

最後まで言えなかった言葉は口内で掻き消された。
火神くんに口を塞がれたから。
強く優しく、ボクを包む腕、肩、背中、…君の手。

「んぅ……っ!」

触れるだけのキスが苦しくて酸素を欲すれば、すかさず舌をねじこまれる。
いつもと違う、甘いだけじゃない感覚に戸惑ったものの、火神くんから離れたくなくて離れたくなくて、必死に舌を追った。

「ふ、…っぁ…」
「……っ」

ながいながいキスが終わり、火神くんの唇が離れていった。
そして、苦しいくらいに抱きしめられる。

「…火神くん…?」
「離さねぇよ」
「え」
「…絶対、手離せねぇよ…」

そんくらいお前に嵌まってんだ。

ボクの肩に顔を埋めたまま火神くんが言う。

「…っ」

その声は、ほんの少しだけ震えていて
でも優しくて優しくて
頬に触れる君の髪とか
君の体温とか
全身にかかる重みとか
ぜんぶぜんぶいとおしくて
はなしたくなくて

「…火神くん」
「…もうちょっとこうさせろ」

君のその一言で
その一言だけで、ボクは

「火神くん」
「何」
「…すきです」
「知ってる」

だってオレもそうだから、

そう言った火神くんの顔は見えなかったけれど
きっと真っ赤なんだろうな。

…だってボクもそうだから。


いつかその日がくるまで



それでもやっぱり、避けて通れる道ではないのだろうと思う
それならせめてそのときまではこうして
君の腕の中で君の体温を感じていたい



END

090226
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