火黒(2009/02/19~2010/11/21分)



小さな小さな変化を、読み取れることに優越感を覚えた。

ほんの少し、声が低いとか。
ほんの少し、眉間にシワが寄ってるだとか。
ほんの少し、目つきが鋭いとか。

不機嫌。って言ってやれば、別にそんなことないです。と顔も見ず言われて苦笑する。
こいつの機嫌を直すのも少しは慣れたものだ。
いつもより優しく髪を撫でて、ぽんぽんと叩く。
そのあとは状況にまかせて、シェイクを奢ってみたり本屋にいつもより長く付き合ったり、しばらくほっておいたり。
マイペース主義な黒子は、一人の時間を好きに過ごしたあとはたいてい機嫌も良い。

「機嫌いいな」
「わかります?」
「うん」
「そんな人、君くらいですよ」
「そりゃ光栄だな」

機嫌がいいときは。

ほんの少し、表情がやわらかいと思う。
ほんの少し、まとう空気が緩いと思う。
ほんの少し、この距離が近づくと思う。

こてん、と腕に寄り掛かってくるる重み。
見れば、黒子が腕に顔を埋めている。

あぁ。これは。

「どうした?」
「察してください」

わかってるよ、それくらい。
そんな可愛い行動、見逃すわけがないだろう。
顔を見せない黒子の頬を撫でる。
オレだけしか知らないその表情。

「…なにニヤついてんですか」
「んー…別に?」
「わかります」
「なんで?」
「バカガミ君だからです」
「…んのヤロー」

素直になれば、と言えば、お互い様です。と即答されて言葉が詰まる。
口では黒子に勝てた試しがない。だから少し強引に腕から引きはがして唇を重ねた。

「……っ」

驚いたような表情をしたのは一瞬で、すぐ首に黒子の腕が回る。
小さくリップ音を立てて唇を離すと、少し間を置いて黒子から唇を寄せてきた。
黒子から、っていうのはあまりないことだ。つまりそれは、相当甘えたいという証拠。

「…ん、…っ」

柔らかい髪に指を絡めながら、どこまでも甘やかしてやろう、とオレは思うほかなかった。



メロドラマティックに恋して。



END

100607
*献上品でした

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