火黒(2009/02/19~2010/11/21分)
「黒子ー、マジバ行く?」
「はい。」
お疲れっしたー、と火神が言いながら黒子と出て行った。
日向が入れ替わりで入ってくる。
「あいつら今日早くね?」
「今マジバ安いから…」
「なるほど」
たまにはオレらも行く?と伊月が笑う。日向は二つ返事をした。
*
(…今日、シェイクも安いんですね)
いつも通り並んだ列から壁に貼ってあるメニューを見つめる。
ザッと店内を見渡せば、チョコレートシェイクを口に運ぶ人が多い。
(………)
「黒子ー、先行ってんなー」
「あ、はい」
いつも通り山盛りのハンバーガーが積まれたトレイを持っていつもの席へと火神は向かった。
じ、とその背中を見つめて、さあどうしようと十数秒考えたが、やらずに後悔よりやって後悔という結論に至り、シェイクを2本持って席へと向かった。
「…なんで2本?」
「…火神君こそ、ドリンク頼むなんて珍しいですね」
「………」
「………」
「……なぁ」
「……あの」
二人の声が重なって、それからまたしばらく沈黙が続いて、火神が先に言えと言うので黒子は持っていた1本を火神に差し出した。
「…は?」
「あげます」
「え」
「あげます」
「…あっそ」
ハテナマークを飛ばしながら火神はそれを口に運ぶ。
「…!」
ズズ、ともう一口飲んで、それから黒子を見て、火神は自分で頼んだドリンクを黒子に差し出した。黒子はそれを見てキョトンとしている。
「…火神君?」
「やる」
「でも、これ火神君の…」
「やる」
「…ありがとうございます?」
なんだかさっきのやり取りと同じだ、と黒子は思いながら火神のくれたそれに口をつける。
「…!」
ズズ、ともう一口飲んで、それから火神を見て、…微笑んだ。
「…何笑ってんだよ」
頬杖をつきながら、火神は窓の外を見ながら言う。
「いえ…、嬉しかったので」
「…同じこと考えてたな」
「はい…ありがとうございます、火神君」
(本当は、どうしようかと思いました)
(14日と言っても、ボクたち男同士ですし。)
(火神君がこの日のことをどう思っているかなんて、わかりませんでしたから)
マジバを出て、暗くなった夜道を並んで歩く。
「……火神君は、チョコ貰えたら嬉しいですか?」
「…チョコでもなんでも、お前から貰えたら嬉しいだろ」
「……恥ずかしい人ですね」
「お前には言われたくねーな」
「…来年はもっとどうにかしますね」
シェイクじゃなくて、と黒子が付け加えれば、火神が歩くのをやめた。どうしたのかと火神を見上げれば、降ってきたのは唇。
触れるだけの一瞬のもの。
いきなりの火神の行動に思考が追いつかず、数秒後にボッと顔に熱が集まった気がした。
「…か、火神君…!」
「オレは」
黒子の手を引いてすたすたと歩き出す火神が言葉を発す。
「今日みたいなのでもいい。別にこだわんねぇよ。……そりゃ貰えるもんは貰うけど、んなことしなくたって、こうしていられれば…、それで、」
「火神君、」
火神の言葉を遮るように名前を呼んで、ボフッと音を立てて、黒子は火神の腕に抱き着いた。
「なっ、んだよ!」
「……もういいです、ボクが恥ずかしくて顔から火が出そうです。火神君の馬鹿」
「テメェ…人が恥を忍んで言ってたのになぁ…!!」
「わかりました。いっぱい伝わりました。だからいいです。ボクも同じです、火神君のそういうところ、すきなんです」
「……恥ずかしいのはお互い様じゃねぇかコノヤロー!」
ぐりぐりと黒子の髪を掻き乱し、道端だなんて忘れて抱きしめた。
言葉にしたって伝わるかはわからないけれど、この体温が幸せだと二人は思わずにはいられなかった。
こんな二人のバレンタインデー
(お揃いチョコシェイク!)
END
100214