火黒(2009/02/19~2010/11/21分)



その一言だけで、涙が溢れそうになるのはおかしいだろうか。
いつの間にこんなに涙腺が緩くなったんだ、と思う。

携帯越しの声が耳に残る。

きっと、『普通』のことなんだろう。
君とボクは恋人同士で、そういう行動を取るのは、きっと『普通』のことなんだろう。

ベッドの上で、膝を抱えて、携帯電話を握りしめる。
誰に見られている訳でもないのに熱くなった顔を隠したい。恥ずかしい、うれしい、うれしい。


1月31日 AM00:05


しあわせです、とか言ったら君は笑うだろうか。
いくらでも言ってやる。って。
数時間後に見られるだろうその顔を思い浮かべて、苦しいのに甘い痛みを覚えて、どれだけボクは君のことが好きなのでしょう?
その一言がどれだけボクをしあわせにさせたかなんて、君は考えもしないだろう。

『…あ、黒子?』
「こんな時間にどうかしましたか?ボクもう寝ますけど」
『あーうん、用はある。あるにはあるけど…』
「…………」
『…………』
「…………用がないなら切っていいですか」
『ちょ、ある!あるけど!………っ』
「?」


『…誕生日、おめでとう』


それだけ。たった一言。
それがこんなにもうれしい。
あとから来たメールには照れ隠しのような文面のお誘い。
覚えていてくれたこと。
わざわざ電話してまで言ってくれたこと。
ひとつひとつが、特別ではないこと。
それがボクの、特別なんですよ。

15歳、最後に聞いたのは君の呼吸音。
16歳、一番に聞いたのは君の真っ直ぐな声でした。


20100131

(しあわせな1日が始まります)



END

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