火黒(2009/02/19~2010/11/21分)
「よく考えたら、物凄い確率だと思うんですよ」
「…は?」
「君とこうしている、ということのすごさです」
唐突に何を言い出すかと思えば、黒子は至極真面目な顔でそんなことを呟いた。
「だって考えてみて下さいよ、」
火神の膝上にちょこんと収まって背中を預ける。
当然のことのようにそれを受け入れている火神だが、黒子の言葉がいまいち理解できなかったらしく頭の上に疑問符を飛ばしていた。
「世界中の億単位の人間の中で、この国に生まれこの年代に生まれ……って思うと、一人の人間とこうしていられることって本当に凄いことじゃないかなって」
「…よくわかんねぇ」
「もっと頭使って下さい」
「るせぇよ」
お前はいつもイキナリ過ぎんだ、と火神は黒子の頭をぐしゃりと掻き乱す。
やめてください、と黒子は頭上の手を退けるがどことなく柔らかい雰囲気だ。
楽しそうな、というには些か表情が足らない気もするが。
「だいたいそーゆーのって、考え出したらキリねぇだろ…」
「まぁ確かに」
「それに、今こーしてられんだから他のことごちゃごちゃ考えてらんねー。とりあえず黒子こっち向け」
「…やです、って言ったらどうしますか」
「言わねーだろ、よっぽどのことがない限り」
「さぁ、どうですかね」
珍しく黒子が上機嫌だ、と火神は思う。
なんだかんだ言いつつも、火神に背中を預けていた黒子はおとなしく向きを変えていた。
吸い込まれる、と錯覚しそうな瞳が火神を見上げている。
火神はその顔を両手で包みこんでやった。
「…火神君?」
一瞬で、その空間だけがひどくゆったりとした雰囲気に変わる。
自分の名前をなぞる唇、互いを映す瞳、今二人が二人だけのために──言うならばそう、それは二人だけの世界。
そんな中で、黒子の唇が緩く曲線を描いた。
「…んだよ?」
「いえ、……なんだか今、色々と通じ合えた気がしたので」
「…あっそ」
「っ」
顔から手を離して背中に回す。
こうなると思いました、というどこか嬉しそうな黒子の声を心地よく感じながら。
「たまには…」
「ん」
黒子が火神の耳元にくちびるを寄せる。
静かな、それでいてあたたかな声が二言三言、音を紡いだ。
そんなことをよく言えるもんだと火神は少しばかり赤面し同時にいつものことだと笑って、オレも、と黒子だけに聞こえるように小さく囁いた。
僕の真ん中にあなた
(なにもかも、君で満たしたい)
END
091120
「黒子のバスケ1周年企画」様提出作品
参加させていただきありがとうございました!