火黒(2009/02/19~2010/11/21分)



「ん……う…」

もぞりとベッドの上で丸まった体が動いた。
ベッド脇にある時計を手を伸ばし時刻を確認する。
起きるのにちょうどよい時間なので、けだるい上半身を起こす。
足をおろして立ち上がろうとした。

「……っ」

…した、ら、膝からがくりと折れてへたりこんでしまった。
力が入らない。心なしかいつもよりも体がほてっているような気がする。
嫌な予感を覚えつつ、体温計を手に取った。

*

「休み?」
「うん。熱出したから休むって連絡あったわよ?聞いてないの?火神君」
「…聞いてねぇ、です」

眉間にシワを寄せた火神がリコに黒子のことを聞いていた。今日は休むなんて一言も聞いてない。

「まぁ風邪みたいだって言ってたし…今は疲れが溜まる時期なのよね、火神君も気をつけなさいよ」
「…っス。」

あからさまに不機嫌なオーラを出して火神は練習に加わって行った。わかりやすいわぁとリコは笑った。

*

ピンポーンと火神は黒子家の呼び鈴を鳴らす。
今日は午前練習だったため、マジバでバニラシェイクを買ってやってお見舞いとやらに来た。
しばらくするとこちらに向かってくる足音が聞こえ、静かにドアが開いた。

「…こんにちは」
「…おう」

ドアに隠れるようにちょこんと顔だけ出す黒子の可愛いこと可愛いこと。……知ってる。
どうしたんですか、と小さな声がしたのでマジバの袋を差し出す。

「見舞い。」
「…あ、ありがとうございます」

袋を渡すとき、受け取る黒子の手に触れる。そして、思わず手を引っ込めた。

「あつっ!ちょ、お前熱何度!?」
「えっ…と……朝起きて計ったら…39度、」
「高ッ!!」

そりゃあびっくりするくらい熱いもんだから、相当辛いだろうと火神は思った。
よく見れば肩なんか微かに震えているし(寒気とかすんのかな)、頬の赤みもいつもよりつよい。

「…大丈夫かよ?」

ぼーっとして焦点の合わない黒子の頭を撫でる。
黒子が顔を上げた。

「かがみ、くん」
「ん?って、おい!!」

黒子はふらりと火神の方に倒れてきた。
かろうじてその体を受け止める。

「オイ、大丈夫か?」
「…み、ませ……」

はぁ、と震える声を出す黒子。
そして力入らないんですと言ったので、とりあえず火神は黒子を部屋に連れて行ってやった。
ベッド脇の机には、薬や食後だと思われる食器がバラバラと置いてあった。
体温計を取って、ベッドに寝かせた黒子にもっかい計れと促す。

「すみません…迷惑、かけて、しまって……」
「いや、別にいいけど。早く治せよ、お前いねぇとなんか調子出ないし。」

よしよしと軽く黒子の頭を撫でながら言う。
すると黒子は体にかけていた布団を鼻まで引き上げて、火神を見つめた。
熱のせいでいつもより潤んだ瞳を向けられて、火神は良からぬ方向に思考が行ってしまう。落ち着けと自分自身に言い聞かせた。

「…かがみくんが、優しい、と、ヘンなかんじ、です……」

そう言って黒子の目が微笑んだ。

「シツレイな。オレはいつでも優しいだろが」
「……そ、ですね」

お前限定だけど。と火神はそこまで言わなかったが。
その時、ピピピと小さな電子音がした。

「何度?」
「…さんじゅーきゅーてん、よんど」
「はああ!?上がってんじゃねぇか!39.4度って…!」

あーあと火神がため息を漏らす。
これはさっさと帰った方が良さそうだ、おとなしく寝てるに限る。

「…オレもう帰るかんな、喋んのも辛いだろーし、寝てた方がいいだろ」

じゃーな、と言って受け取った体温計を机に置いて部屋を出て行こうとした。
そうしたら、黒子に名前を呼ばれた。
そしてこんな台詞を言ったのだ。

「…あ、の、もう少し、だけ、一緒に…」

は、と思いくるんと向き直れば、上半身を起こして火神の学ランの裾をほんの少しだけ引っ張っている。

「今日、親…遅いんです、淋しい、です」

…そんな台詞を言われて?
潤んだ目で見上げられて?
落ちない男がいるだろうか、いやいない!
しかも火神が思うに、黒子は無意識にやっているのだからタチが悪い。勝てるはずがないだろう。
可愛いんだよちくしょー、との意味を込めて黒子の頭をぐりぐりとしてやった。

「…あ、ゃ、いたい、です…っ」

びくっと黒子が体を震わせる。
なんだか、悪いことをしているようなフクザツな気持ちになんだけど……

「わ、わりィ」
「いえ…」
「…と、とりあえずお前が寝るまでいてやるから…」
「…ありがとう、ございます…あ、お茶出します…っ」
「え、おい寝てろって…!」
「あ、」

無理に体を起こして立ち上がろうした黒子だが、やはりふらついて火神に倒れ込む形になってしまった。
言わんこっちゃねぇ、と火神は黒子を抱きしめた。

「…すみ、ません…」
「あーもー、動くな寝てろ。心配するから。」
「……はい」

抱きしめた黒子の体は熱く、それなのに折れてしまいそうな細さを感じた。
周りより体力がないというのにも頷ける。
早く、早く治せ。

「…お前いねーとしっくりこねーんだよ…」
「え」
「バスケ。」
「……早く治します。でも」
「?」
「…も、もう少しだけ」

きゅ、と黒子が軽く火神の服を掴む。もうそれだけで十分。
かわいいかわいいと思いながら、火神はハイハイと二つ返事で黒子に微笑んだ。

その3日後、火神が風邪を引いたのは言うまでもない。


love love love!

(…でもボクの中から火神菌が消えないんですが。)



END

091107
*リク作品でした

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