火黒(2009/02/19~2010/11/21分)
たまに、無性に思うときがある。
『足りない』
『触れたい』
…でもそう思ってるのは自分だけなんだろう、と決め込んでいたのだが。
「…奇遇ですね」
「いや最近ずっと思ってたし」
「ボクだってそうですよ」
「あー…じゃあ何?オレら同じこと考えてたってのか」
「遠慮する必要はなかったんですね…」
「うあーなんだそれ、ここ1週間のオレの悩んだ時間返せ」
「……ボクだって同じです」
なんだかんだ忙しくて、まともに二人きりの時間が作れなくなって今日で1週間。
事あるごとに邪魔が入り、十分な時間が取れなかった。
ようやく休日になり、部活も終わった夜。
久々に来た火神の部屋で黒子は火神に後ろから抱きしめられる形でその腕に収まっていた。
「…はー……やっぱ落ち着く」
ぐり、と肩に顔を埋める火神。
「火神君は、この態勢好きですよね」
「ん…そーだな」
柔らかい黒子の声音に、火神は抱きしめる腕の力を強くする。
その腕にそっと手を重ねて、黒子が火神の指をなぞっていく。
火神のあたたかな大きな掌が好きで、無意識にそうしているのだと最近自覚した。
しばらくすると黒子がくるりと体を動かして火神に向き合う。
そして火神の背中に腕を回して、ぱふ、と胸に頬を寄せた。
「…ふう」
「どーした?」
「いえ…久々だな、と」
互いに目が合い、同時に笑みが零れる。
再度抱きしめあって、どちらともなく唇を寄せ合う。
触れるだけの唇を一度離して、もう一度重ねて、そこからはもう止まらない。
火神が黒子の薄い唇を割り、舌を侵入させる。
拒むことなく、むしろそれを歓迎して受け入れる黒子。
「…はっ、んん、」
「ん、あ…っ」
幾度も角度を変えて、互いの口内をそう、すべて食するように何度も何度も。
ゆっくりと名残惜しそうに火神が離れれば、
「…火神君、」
もっと。
そう目で訴えられてまた唇を重ねる。
いつもよりも、優しくやさしく、深くふかく、甘くあまく。
それでいて、息もまともにできないほど激しくしたい。
そんな感情がぐるぐる胸を巡っている。まぁ結局、優しいものになっているのだけれど。
もっと、もっと。
いっそ二人で溶けてひとつになってしまえたら。
触れる体温が心地よくて。
その手が愛おしくて。
重なる鼓動を聞いていたくて。
「ん…、何、今日は素直だな」
「火神君こそ、やたら優しいですね。明日は雪ですか」
「はあ?…いーじゃねぇか、足りねぇんだよ」
「何がですか?」
「…絶対言わね」
「そうですか、ボクは火神君が足りません」
「………………お前」
「もっとキス、したいです。もっと火神君と、」
「あー!もうやめろ恥ずかしいだろが!!」
火神の大きな手で口を塞がれたので、黒子はとりあえず黙る。
火神の顔は真っ赤で。
「ったく…なんでトートツにお前は…」
「いいじゃないですか。それより火神君」
続き、しましょう?
そう黒子に誘われたので、火神は何を言うでもなく再び黒子に唇を重ねた。
君依存症。
(こんなに溺れたのはお互い様。)
END
091011