火黒(2009/02/19~2010/11/21分)



出逢った最初は、こんな感情を抱くなんて夢にも思わなかった。
あの日言った言葉は純粋な気持ちで、今も変わってはいない。
…チームメイトとして、仲間としての一線を越えた感情を抱くなんて、夢にも思わなかった。

一体、いつ、彼のどんな行動がきっかけでこんな気持ちを抱くようになったのかとかは、よく覚えていない。
ただ、気付くと視線の先にあるのはいつもその背中で。
「黒子」と呼んでくれるのが、妙に嬉しくて。
自覚したのは、結構後になってからだったと思う。
それまで感じていたもやもやを、落ち着かせることはできたのだけれど、それからが大変だった。

たとえば、変に意識して思ってもないことを口走ってしまったりだとか。
たとえば、女子と話しているのを見て嫌になったりだとか。
たとえば、マジバでの時間がこれ以上ないくらいにしあわせだったりとか、数えていくとキリがないくらい。
…女々しいな、とは自分でも思った。苦しくて気持ちに押し潰されてしまいそうで、毎晩のように泣いた。
そして朝起きて少し赤い目の自分を鏡で見る度に、今日こそは玉砕してしまおう、と意気込んで行く。
結局毎朝、その思いを打ち砕かれることにはなるのだけど。

だって、その赤髪が、ボクを呼ぶから。
何気ない仕草に幸せを感じてしまったから。
もう少し、あと1日とそれを繰り返す日々。

どうしようもなかった。
『火神大我』個人を、求めてしまった。

世間一般的にはその…男性間での恋愛は認められていないわけであって、ボクはそりゃあもう今までの人生の中で一番悩み通したに違いない。
ぐるぐるぐる、言ってしまおう、はい、何ですか火神君……………だ・か・ら!どうして君はそういつもボクの決意を踏みにじるような行動をするんですか!
気まぐれで優しくしたりなんてしないでください!

「………何怒ってんだよ」
「怒ってません」
「…あーそうですか。」

いつだったか、1回だけこんな会話をした。
何なんだよ、と火神君が唇を尖らせる。
それはこっちの台詞ですボクの気持ちも知らないで。もういっそ、そのまま、

「………に…」
「は?」

こんなこころなんか、しんでしまえばいいのに。

たわいない会話だとか。
ふとした瞬間に触れた手だとか。
全部全部全部全部、嬉しくて苦しくて幸せで泣きたくて。

ねぇ、火神君?
君は、知ってましたか、柄にもなくボクがこんなにも君を想っていたことを。

部活帰りのいつもの時間。
街灯が二人分の影を映しだしている。
一息に話すと、ふうと肩の荷が下りたような感覚になる。

「……知るわけねぇだろ」
「まぁそれが普通ですよね」
「…でもさ、」
「はい?」

ふい、と火神君を見上げれば歩みを止めて、肩を抱き寄せられて互いのくちびるが重なった。
柔らかい感触はすぐに離れていく。

「……ここ道端ですけど」
「…うっせーなしたかったんだよ!」

ほわ、と頬に熱が集まる。
自然に口元が緩まる。

──信じられます?
ボク達、両想いだったんですよ?

「ところでさっきのは」
「え」
「『でもさ』のあと…」
「…もうよくね?」
「聞きたいです」
「う…」
「聞きたいです」

さぁ吐いてしまいなさいと言うように赤い瞳を見つめる。
しばらくすると、ようやく腹を括ったのか、ボクの左手に指を絡めて来た。

「……多分」
「はい」
「オレもお前が思ってる以上にお前のこと好きだよ」
「………」
「…………」
「…………おい」
「…………」
「なんか言えよ!はずかしーだろーが!!」

ガッと手を引っ張られて、バランスを崩した。
あぁ、顔を覗きこまれた。

「…ちょっと見ないでください」
「は、何お前!」

勢いよく顔を逸らして、火神君を見ないようにする。
だってだって、火神君、が!あぁもう!

耳まで赤くなっていることはどうか月明かりではわからないでほしい。
何も言えない。ただただ、君がこんなにも好きで、それだけで。
幸せ過ぎて顔があつい。言葉がのどに張り付いて音になってくれない。
だからぎゅっと、掴まれていた左手に力をこめる。
火神君はそれに気づいたのか、ひとつため息をして、それからぎゅっと握り直してくれた。

「か、火神、くん」
「ん」

からからになった声でこの気持ちが伝わるかわからないけれど。

「…しあわせ、で…す…」
「…うん」

二人並んで手を繋いで。
恥ずかしくて顔を見ることはできなかったけれど、その声が微笑んでいたような気がしたので。


きゅっと幸せを噛み締めて、今日も帰路に着くのです。



スを

(ここからきっと、ボクらは繋がっていく)


END

090728

「黒星流星群」様提出作品
参加させていただきありがとうございました!

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