火黒(2009/02/19~2010/11/21分)
ふと、ボクが死んだあとにはどうなるだろうとか明日地球最後の日と言われたらどうしようだとか宝くじで3億円当てたら何に使おうとか、唐突に考えるのとこれは同じことだろうと思う。
さてはて、この横で幸せそうに寝息をたてている彼に、果たしてボクは××してると言ったことがあるだろうか。
多分××してるなんて言ったことはおろか言われたこともない。
だいたいボクは××してるとか言われたいのだろうか?
隣で眠る赤髪は、悩みなんてありませんとでもいうように規則正しい寝息をたてている。
少しだけ幼く見えるその寝顔に微笑みながら、はだけた布団をかけ直してやる。
お腹出して寝たら、風邪引きますよ。
そう心の中で呟いて頭に手を伸ばす。
そのままゆっくりと髪に指を絡ませていくと、なんだかいつもより彼より優位になった気がしてちょっと嬉しくなる。
「…く…、ろこ、…」
名前を呼ばれて手を止めた。
次の瞬間、ぼろりと頬を水が伝った。
え、と少し動揺して頬を拭う。
しかし時間が経つのと比例してぼろり、ぼたぼたとシーツに落ちて染みが広がっていく。
「……っ、」
──言ってはいけない。
言っては、いけないと本能が警告してくる。
一時の感情に任せてこんな言葉を発してはいけない。
これは××なんかじゃない、これは恋。
だから、ボクは今彼に恋しているんだ。
彼もまた、ボクを好きだと言ってくれたのだ、それだけで充分じゃないか。
しかもこうして君のとなりで体温を感じられるなんて、幸せの極みだろう。
だから間違っても言ってはいけない。
これは、恋。
ボクらが××を語るなんて──
一度止まった涙がまた溢れる。
ちがう、ちがう。ボクにはまだ××なんてわからない。
だから言わないし、火神君にも言ってほしくない。
好きだから、大好きだから。
お願い××してるなんて思わせないで、一時の想いにそんな重くて甘美な言葉、ボクはいらない。
「火神君、好きです」
誰よりも君を
(言ったら何かが崩れ落ちてしまいそうで)
END
090510
091217/加筆修正