火黒(2009/02/19~2010/11/21分)
ひらり ひらり
淡い色の花弁が舞う
ひらり はらり
またひとつ、
「……火神君、火神君」
「…んぁ」
「…そんなところで寝てたら風邪引きますよー」
「うー……、ん…」
「……」
ゴロンと寝返りをうった火神は、ちょうど黒子の座っている横に来た。
大きな体が芝生の上に広がる。
さんさんと降り注ぐ暖かな陽射しに、空を見上げた黒子は目を細めた。
日を数えるごとに暖かくなって春に近づいていくのを感じられるこの季節が、黒子は好きだった。
「かーがみくん」
今にも涎を垂らしそうな火神の額を、ペシペシと軽く叩く。
火神は眉間にシワを寄せ、先程からうーんだのあーだのと起きているのかいないのかわからない反応を繰り返している。多分夢の中だ。
校舎の真ん中というのだろうか、中庭には桜やイチョウといったメジャーなものから、見た限りでは名前がわからない木々まで、ずらりと並んでいる。
中庭に面していた部屋がちょうど図書室ということもあり、黒子は中庭へ出て気分良く読書を満喫していた。
…先客がいたのだけれど。
図書室から見える一番大きな桜の樹の下で、火神はスースーと寝息を立てていた。
火神が、寝るのは屋上が一番だと言っていたのにどうしてだろうと黒子は疑問に思いつつも火神のとなりに腰を下ろし、樹に寄り掛かるようにして本を開いた。
「……う、」
うっすらと目を開けた火神に気づいて、黒子も本から目を離す。
「火神君、」
「……くろこ…?」
まだ寝ぼけているようで、ぼんやりと火神は顔だけ黒子の方に向けた。
あぁ、なんか可愛いなぁ、と黒子は思い微笑んだ。
「…早く起きないとキスしちゃいますよ」
「!?」
顔を近づけようとすると、勢いよく火神が跳ね起きた。
「おはようございます、ねぼすけさん」
「~っお前なぁ…!」
「わ、ちょっ」
しれっと言う黒子に、火神はしてやられたと顔を赤くしたのがバレないように黒子の頭をガシガシと乱した。
「もう…ぐちゃぐちゃにしないで下さい」
嫌じゃないんですから、と言って黒子は手ぐしで髪を整える。
すぐに元に戻るほどサラサラなんだから、別にいいだろと火神が言った。
「そういえば、どうしてこんなところで寝てたんですか?」
「最初は屋上行ったんだけど……先輩がいた…」
「バスケ部のですか」
「…多分キャプテンと伊月先輩」
「へぇ、」
珍しいですね、と黒子が言った。
いつも自分たちが屋上にいても、鉢合わせたことはない。
ふぅ、と風が吹いて読みかけのページをめくっていった。
ひらりと頭上の桜も花弁を散らせる。
「…桜、綺麗ですよね」
「日本って今、どこ行っても桜だらけじゃねぇ?」
「国花ですし、日本人は昔から桜大好きですからね」
「ふーん…」
「アメリカって桜はあるんですか?」
「種類とか知らねーけど、似たようなのはあったぜ」
「そうなんですか………あ、火神君」
「あ?」
「ちょっと」
動かないで下さい、と言って黒子は隣に座っている火神に手を伸ばした。
「…何?」
「ついてます」
桜、と言って火神の髪に触れた。
指先には桜の小さな花弁が一つ。
火神は、取れましたと言った黒子の腕をつかまえた。
「火神君?」
自然と上目遣いになる黒子に、また吹いた風が桜を舞わせて妙に色っぽい。
「…サンキュ」
「はい…」
そう言った火神は黒子に唇を重ねる。
黒子も微笑んで、それを受け入れた。
一つ強く吹いた風が二人を桜で囲んだおかげで、図書室からは二人の姿は見えなかった。
桜花凛々
(…なんか変な味する)
(……桜に邪魔されましたね)
END
090407