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断片

[현성]8月4日

日の出の瞬間から真夏の熱が街のそこかしこを容赦なく焼くような暑い日だった。

久しぶりの休日、冷房の効いた部屋に見るともなくつけたテレビの音声が鳴っている。
ソンギュはソファに横になり、うとうとしながら眠りに落ちそうな意識の遠くで玄関のロックが解除される音を聞いた。

『今日、母さんが来ると言ってたかな。それとも姉さんがユヌを連れて遊びに来ると言ってたんだっけ』

定かではない記憶をぼやけた頭で探りながら身体を起こそうと肘を突いて上体を捻ったところで忙しい足取りでバタバタとリビングに駆け込んできた人物を見てソンギュは目を丸くした。

「なん、お前??」
「ただいま!ソンギュ兄!!」

驚いて固まるソンギュの上に飛び乗って、胸にしがみついているのはウヒョンだった。

「お... おかえり」
条件反射的にそう答え、首を上げて見下ろす胸元にふわふわの黒い髪が見える。
身体にグッと巻きついたがっしりとした太い腕は紛れもなくナムウヒョンのものだった。

「ただいま」
そう言ってウヒョンはソンギュの胸に顔を擦り寄せ大きく息を吸い込む。
身動きが取れないようガッチリと押さえ込んでスーハースーハーと呼吸を繰り返すウヒョンの下でソンギュがじたばたと暴れた。

「や!匂いを嗅ぐな!!」
「ははは」

明るく笑う奥二重の目元、いたずらっぽくケタケタと声を上げる口元に覗く八重歯、メンバーたちの誰より鋭く高い鼻梁、嗅ぎ慣れたシャンプーの匂い、そこにいるのは確かにナムウヒョンだが、そのナムウヒョンがどうしてここにいるのかがわからなかった。

「ウヒョナ、お前、今日解除日だろ。なんでこんなとこにいるんだ」
「なんでって解除日だからいちばんに会いにきたんじゃないか。迎えにも来てくれないなんて恋人としてちょっと冷たすぎるんじゃないの?キムソンギュ氏」
「そんな、お前自宅から通ってるし... 先週も会ったじゃないか。いや、そうじゃない。事務所は?行ったのか??今日なんかイベントやるんだろ?」

へばりつくウヒョンを押しのけて剥がそうとするがどういうわけかびくともしない。
ソンギュは諦めてされるがままになった。
なんだか頭が痛くなって来た気がする。

「事務所は顔だけ出して抜けて来た。また戻るけど今日で一般人も終わりだし最後に"ただの俺"で兄に会いたかったんだ。可愛いだろ?」

ソンギュの顔の横に両手をついて上から覗き込んでくるウヒョンの顔が眩しかった。
この弟がどれくらいこの日を待っていたのか、自分も同じ経験をしているからよくわかる。

兵役に就けば終始衆目に晒され失敗や失言の許されないストレスからは解放されるが、コツコツと築いてきた自分の居場所を強制的に手放して、次に戻ったときにそこがまだ存在するのかわからないという不安は計り知れない。
監視のストレスのかわりに得るのは見えない将来から与えられる『恐怖の闇』だ。

その闇が今日明ける。
安堵と少しの不安、開放感と興奮。
そんな感じなのだろう。

「ああ、はいはい。可愛い、可愛い。ナムウヒョン、お前は本当に可愛い男だよ。ほんとマジでびっくりだ」
適当に言いながらウヒョンの背に腕を回して乱暴にギュッと抱きしめた。
言い方が雑だとか、気持ちがこもっていないだとかなんだかんだと文句を言っているが耳に聞こえているウヒョンの胸の高鳴りがとても愛しかった。

また一緒に歌えるのだと思うと自分も嬉しい。
2人が揃ってはじめてINFINITEのメインボーカルなのだから。
こうして驚かそうと突然会いに来てくれるところもそれなりに可愛いと言えなくもない。

ウヒョンの身体を抱きしめてくすくすと笑い、大きく息を吸い込んでスーハースーハーと何度も繰り返した。

「や!キムソンギュ!!自分だって勝手に人の匂い嗅ぐな!」


騒がしい恋人の身体からは真夏の太陽の匂いがした。

(終わり)






******
最後、スーハーしたあと『仕返し』と言って笑うソソギュたそを至近距離で見たナムが、そのあまりの可愛さにソファから落ちて両手で顔を隠しながら『かっ... かわいい... かわいい...あああああッ!!!!!!!!!!!』と床を転げ回れば良いと思います( ˙-˙ )
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