夜伽

…本当は昨日の夜、ヒサシに付けられた物だ

俺が飲みに行って帰りが遅かったからと、体のあちこちに爪で傷を付けられた

こんな事、誰にも言える筈がない…



「そういえば、ヒサシとは上手くいってるのか?」

「えっ」

突然、頭の中で考えていた人物の名前を出されて俺は躊躇する


「…うん
愛されてるんだなって思うよ」

「そうか…
お前が幸せなら、それでいいよ」


ヒサシが俺にしている行為は愛?
俺は幸せ?

…分からない


タクロウは、何故か少し寂しそうな表情をしている




「…あっ、時間だから俺もう行かなきゃ!」

タクロウの顔を見ないようにして、俺は勢い良く立ち上がった
そしてタクロウに背を向けて、その場を離れた





「…お前の綺麗な顔に傷なんて、俺は耐えられないよ」

タクロウが何か呟いた気がしたけど、俺は振り返らなかった
顔に触れられた時から、心臓はまだ激しく鼓動していた
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