儚い薔薇の歌
隊首室へ足を踏み入れたのと同時に、
マユリの瞳から期待の色が消え失せた事を阿近は見逃さなかった。
何を待ち望んでいたのか、という疑問は浮かばない。
ずっと、ずっと前から知っているのだから。
「報告書の提出と、これを隊長へ」
阿近は書斎机に報告書と共に、綺麗に包装された小包を置いた。
マユリが気に入っている店の菓子らしい、
小包には短く切り揃えられた白い薔薇が一輪添えられている。
「…忠実な奴だネ、お前も」
阿近と小包を一瞥したマユリは呆れたように溜息を吐く。
思えば蛆虫の巣から連れてこられ、マユリの部下となったあの頃から毎年欠かす事無く
阿近はマユリへ贈り物を渡していた。
物は違えど必ず、白い薔薇を一輪添えて。
「今も昔も、俺の好きでやってますから」
阿近はそう言ってマユリを真っ直ぐ見つめる。
昔、マユリから「あの男の真似事をする必要はない」と言われたことがあったが、
それは「気を使うな」という遠慮ではなく
「お前は浦原の代わりにはなれない」という意味だと阿近は理解していた。
ずっと、ずっと傍で見てきたのだから、解らないはずがない。
しかし解っているからこそ、
これから先もずっと阿近はマユリに贈り続けるだろう。
「隊長、お誕生日おめでとうございます」
例えその白い薔薇が、赤く染まる事無く枯れたとしても。
end