赤きヒヤシンスを贈られし君へ
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双方無言で強く腕を引かれたまま暫く廊下を歩いていくと局長室に辿り着く。
隊長は部屋に入るや否や扉の内鍵を閉め、室内を徘徊する監視蟲の動作を止めた。
その時点で私は酷く震えが止まらなかった。
外部からの接触を断つ程の説教もとい、八つ当たりをするつもりなのだろうか。
もしかしたら拷問レベルの体罰、被験体にされてしまうかもしれない。
そうなったら真っ先に副隊長の枕元に化けて出てやる…!
私が恐怖と復讐心に震えていると、ぐいっと更に強く腕を引かれた。
不意を突かれたように引っ張られた為、私は小さく悲鳴を上げて前へと躓いてしまう。
受け身を取ろうとするがそれより先に、温かい何かに体がぶつかり支えられた。
…ぶつかった何かが涅隊長の腹部だと、気付くのに時間が掛かる訳もなく。
『も、申し訳御座い…っ!?』
謝罪の為に慌てて体を起こそうとしたが、
隊長が私の頭に手を置いたことでそれは叶わなかった。
…髪を掴まれて殴るか膝蹴りか、はたまたこのまま頭を捥がれるか。
度重なる無礼に怒りは最高潮だろう、覚悟を決めて次に来る痛みに身構えていたが
隊長の手は私の頭をわしわしと撫でるだけで、暴力を振るわれる気配は一切無い。
それどころかぶつかったことにより密着していた体を更に抱き寄せられ、
頭上からは深い溜息が聞こえた。
「名無し」
『…はい』
「お前は阿近を男として好いているのかネ?」
『いいえ!』
隊長からの問い掛けに即答する、が顔は上げられない。
「では、浦原喜助のことは」
『そのように意識したことは御座いません』
一体何を思っておられるのだろう。
阿近副隊長のことはいけ好かない上司だと思ってるし、
浦原さんのことだって初めて会って間もないのにそんな感情持ち合わせていない。
そもそも意中の相手なんて、毎日仕事仕事で忙しい私にそんな暇は無い。
だからそんな心配をする必要も無いのに。
…心配?
「そうかネ」
安心したかのような、緊張が抜けた呟きが頭の上から聞こえた。
少し顔を上げると、こちらを見下ろす金色の瞳と目が合う。
それが酷く美しくて、思わず視線を逸らしてしまった。
『私はお叱りを受けるのではないのですか?』
居た堪れなくなり問い掛ければ、隊長は喉を鳴らして笑う。
機嫌は治ったらしい。
「そのつもりだったが、必要がなくなった
だが…そうだネ、お前には手を焼きそうだヨ」
『申し訳御座いません、副隊長に習って精進致します』
手を焼く、ということはまだまだ未熟者という事だろう。
隊長自らそう言っているのならばこれまで以上に頑張らないといけない。
そう、意気込む私の言葉に隊長は眉を顰めたかと思うと一層強く抱き締めてきた。
「何かあれば私を頼ればいい」
僅かに怒気を含んだ声
その真意が分からぬまま、私は隊長の抱擁から解放された。
業務に戻り給え、と
扉の鍵を開けた後背を向けてモニターの前にある椅子へ向かってしまったので、
私はそれ以上何も言えず一礼をして局長室を後にした。
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