そんな夜も好きになれる






ふと 目が覚めた



辺りを見回すと、まだ薄暗く
やけに明るい月明かりが障子で隔てた向こう側を静かに照らしているその中で
鈴のような虫の羽音が響き渡る


現状確認を終えれば、自然と吐き出された溜息


変な時間に起きちゃったな...


別に悪い夢を見たわけじゃない
特別体が疲れているわけじゃない


月に一度か二度

丑の刻程の時間に起きてしまうことがある

そして質が悪いことに
眼球の奥からすっと、目が冴えてしまうのだ

こうなってはその後
すぐに寝付くことは中々難しい

眠くなるまで酒を煽るか
瀞霊廷通信の読み掛けの記事に目を通すか...

とりあえず夜風に当たりたいと思い、
体を起こそうと横向きに寝返りをうてば


思い出した存在が、傍らに一人



『...そういえばマユリの部屋だった...』




鼻先すれすれの距離に

安らかなマユリの寝顔


今夜は恋人であるマユリの自室で二人、
満月を肴に熱燗でホロ酔いになった後

更に
汗が滲む程に熱く互いを求め合い、眠りに落ちた

そのまま力尽きて眠ったはずなのに着流しがきちんと整えられているというとこは
またもマユリが眠る前に着せてくれたのだろう

相変わらず、マメな男だ


そうぼんやりとマユリの寝顔を眺め、観察を始める


不自然な揃え方をされた髪は蒼色で
色素が薄いのか、近くで見ると透き通っているかのように繊細で滑らかだ

伏せられた瞼から覗く睫毛は長く、
普段のような剣幕は想像もつかない程に穏やかなその表情はどこか幼い

あの兇気の十二番隊隊長涅マユリの
こんな普通の人らしい柔らかな寝顔が見れるなんて

恐らく恋人の特権…


…否


この人は、他の誰よりも人らしい




「…眠れないのか…?」



『あ、起こしたね…ごめん』



私の起きている気配に気付いたのか

長い睫毛の隙間から金色の瞳が覗いた後、
掠れた声が私に問い掛ける



「明日は…仕事だろう…?辛くなるヨ…」



でも声も瞼も微睡んでいて、
今すぐにでもまた眠りに落ちていってしまいそうだ

それでも
布団の中からすっと伸びた手は、懸命に
優しく私の頭を撫でた


温いマユリの手のひらが頬を柔らかく包み込む



『うん…もう眠るから、大丈夫だよ』



細長い指先をぎゅっと上から包み返して
そう、微笑めば

マユリは安心したように瞼を閉じて
手のひらを頬から腰へ移動させ、ゆっくりと私を抱き寄せた




「…お休み」







こんなにも、心が満たされることなど
あるだろうか


この人が、マユリが

一人の男として人を愛し、甘え
無防備にその身を預けてくれる


あの、涅マユリからの素直な想いを

いつものように、当たり前のように

この腕で抱き締められる


そんな出来事の




なんと、幸せなことだろう





『おやすみ…マユリ』





小さく聞こえてきた寝息に愛しさが沸き上がり

起こさぬよう、
そっと額に唇を寄せた



私は幾度か、眠れない夜を繰り返す


でも

貴方が傍で眠っているのなら……








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