不死鳥の騎士団
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「マンダンガス!」
廊下の先、階下からシリウスの吠えるような怒りの声が聞こえた。
階段の上からこっそりと下を覗くと、ダンブルドアが会議室に入っていくところだった。
一瞬だけ見えたその顔に、燃えるような怒気が宿っていた。言葉はなくとも、ダンブルドアが激怒していることはすぐにわかった。
ハーマイオニーは蒼白な顔をしてから、ナマエに「だから危険だと言ったでしょう」と言わんばかりに目配せした。
廊下の奥から何かにつまづくような音が聞こえた。トンクスがバタバタと慌ただしく走ってくるところだった。
「トンクス、ハリーは?マンダンガスがどうしたんだ?」
ナマエは呼び止めた。
「ああ、ええ!あたしたち、今からハリーを迎えに行くの!マンダンガスが持ち場をほっぽっちゃったらしいのよね」
そう言ったトンクスの顔は鼻の穴が丸見えで、ついさっきまで七変化でジニーを笑わせていたようだった。ハーマイオニーが言った。
「待って、トンクス。鼻が豚のまま!」
「あらっ!ほんとだ、ありがと」
トンクスは短く応えてすぐに階段を駆け降りていった。大人たちはみんな慌ただしく誰かに連絡を取って、会議室に出入りしていた。
その様子を見に来た子供たちに、アーサーさんが言葉をせき立てるように叫んだ。
「お前たち、上にいなさい!会議もあるし、ハリーを迎えに行かないと。ナマエ!ロン!君たちの部屋でハリーが寝られるように準備しておいておくれ!」
子供達はまたしても何も知らされないことに不満だったが、ただならぬ気配を感じ取って大人しく従った。
「何が起きてるんだろう」
ロンが言ったが、ナマエも首を捻った。
「──未成年のハリー・ポッター氏は、守護霊の呪文を使ったのさ。なんと、マグルのダドちゃんの前で」
いつの間にか部屋にいたフレッドが言った。
「──で、魔法省がハリーをとっ捕まえようとしてるんだ」
同じく姿を現したジョージが言った。
「まさか、それだけで?」
ロンが言った。フレッドがロンの顔の前で人差し指を立てて横に振った。ジョージがたらりとオレンジの紐をもったいぶって垂らした。
「俺たちはこの伸び耳でバッチリ聞いてきた。今はジニーが踊り場で伸び耳を立ててるぜ。おやっ……もしかして、君らも欲しいかい?」
フレッドがニヤリと言うと、ジョージが伸び耳をロンとナマエの前で揺らしながら続けた。
「まだ値段を決めてないんだけど、そうだな──特別に──2ガリオンってところかな」
「ジニーには1ガリオンだったじゃないか!」
ロンが憤慨した。ナマエは金貨を探してポケットに手を突っ込みながらぶつぶつと呟いた。
「あー、ハリーは3回目だ。最初のはドビーだったけど……今の魔法省はおかしいし……待って、1ガリオンと……12、13、14シックル……絶対にあるんだけど」
ナマエはロンの手を借りてシックル銀貨をズボンのポケットからいくつも取り出して数えた。ロンは両手でコインを受け止めながら尋ねた。
「3回目って?」
「国際魔法使い機密保持法と、未成年魔法禁止の違反よ!」
ハーマイオニーがナマエの見た目よりも深そうなポケットを疑わしそうに睨みながら言った。ナマエはハーマイオニーから目線を逸らしてロンを見た。
「──いや、車の件を入れると4回か?」
ナマエは思い出したように付け加えた。
「あれは、僕たち魔法を使ってない!パパの車を使っただけだよ──ほら、17シックルと1ガリオンだよ」
ロンはナマエの銀貨を待つのをやめ、自分のシックル銀貨を2枚足して、ジョージに硬貨を見せた。双子は代金を受け取るとにっこり歯を見せた。
「まいどあり」
伸び耳を手渡すと、二人はバシッと音を立てて姿くらましをした。
手に入れた伸び耳は思っているよりも役に立った。ロンとナマエは交代で大人たちの会話を盗み聞くことに成功した。団員がひっきりなしに行き来するので、ドアに魔法をかける暇もないようだった。
どうやら、マッド-アイが数名を率いてダーズリー家まで直接ハリーを保護しに向かったらしかった。しかし、階下に垂らした伸び耳はすぐにモリーさんに見つかり、ゴミ箱に捨てられてしまった。
「わざわざあのマグルの家まで迎えに行くなんて、そんなにまずい状況なの?」
買ったばかりの伸び耳を失い、苦々しい顔でロンが言った。
「わからないわ。けど、そもそも吸魂鬼がマグルの街にいることが異常よ」
ハーマイオニーは床にあらゆる法律の本をひっくり返していた。ナマエはその本を踏まないようにしながらも落ち着きなく歩き回った。
「アズカバンの看守をやめたのか?またシリウスを探してるとか?」
ナマエのぶつぶつを遮るように、窓がコンコンと音を立てた。三人は振り返った。ナマエがカーテンを引くと、真っ白なふくろうが夜の街に浮かんでいた。
「ヘドウィグ!」
ナマエが叫ぶと、ロンとハーマイオニーも振り返った。窓を開けるとヘドウィグはいつにも増して不機嫌そうにナマエの手を突き回して、次にロンの頭をつついた。
「手紙を持ってるわ」
ハーマイオニーは急いでヘドウィグの脚から手紙を取り外した。ナマエとロンはヘドウィグの猛攻を受けながら手紙を覗き込んだが、魔法界の現状を何でもいいから教えて欲しいという、いつもと変わらない内容だった。
ロンが顔を上げた。
「吸魂鬼に襲われる前に書いたのかも──イタッ」
ヘドウィグは営巣中のドラゴンのように気が立っていた。前回にも増して執拗に三人を攻撃した。
ナマエはヘドウィグに狙われないよう手をズボンのポケットに突っ込んで頭を振った。
「痛い痛い、ヘドウィグ!わかってる、ハリーに言われたんだろう!返事をもらうまでそうしろって」
ヘドウィグは高い声で鳴いたが、攻撃をやめなかった。ロンとハーマイオニーも手が血だらけだった。ロンが叫んだ。
「ハリーはもうすぐここに来るんだ!落ち着けよ!」
ヘドウィグは聞かなかった。部屋には白い羽根が舞っていた。
ヘドウィグの嘴によってロンとハーマイオニーの手は傷だらけで、ナマエの頭はボサボサに乱れていた。床には本やらなにやらが散乱して、三人は息を弾ませながら顔を見合わせた。
「この部屋にいたらそいつに殺されちゃうよ」
ロンは息絶え絶えに言って、ドアノブに手をかけようとした。が、その前に扉が開いた。
ハーマイオニーが小さく悲鳴を上げた。扉の向こうに立っていたのは、ハリーだった。
ハリーは見ないうちに、ロンほどではないが少し背が伸びていた。ハリーはほっとしたように笑った。
──ナマエは心臓がキュッと締まった。ハーマイオニーがハリーに飛びついて、ほとんど押し倒しそうになるほど抱き締めたのだ。
一方、ロンのチビふくろうのピッグウィジョンは、興奮して、二人の頭上をブンブン飛び回っていた。
「ハリーが来たわ。ハリーが来たのよ!到着した音が聞こえなかったわ!ああ、元気なの?大丈夫なの?私たちのこと、怒ってた?怒ってたわよね。私たちの手紙が役に立たないことは知ってたわ──だけど、あなたに何にも教えてあげられなかったの。ダンブルドアに、教えないことを誓わせられて──」
ロンがやれやれとでも言いたげにニヤッと笑いながらドアを閉めた。
「無事でよかった、ハリー」
ナマエは優しくハーマイオニーをハリーから引き剥がした。すると、白ふくろうが洋箪笥の上から舞い降りてハリーの肩に止まった。
「ヘドウィグ!」
ヘドウィグは嘴をカチカチ鳴らして、優しくハリーの耳を噛んだ。ロンが肩をすくめた。
「このふくろう、ずっとイライラしてるんだ。見ろよ──」
ロンが右手の深い傷を見せたが、ハリーは一瞥して笑顔を消し、短く答えた。
「へえ、そう」
ハリーの声に、ナマエは嫌な汗が流れた。
「悪かったね。だけど、僕、答えがほしかったんだ。わかるだろ──」
「そりゃ、僕らだってそうしたかったさ」
ロンが言った。
「ハーマイオニーなんか、心配で気が狂いそうだったし、ナマエはまさに今日、君の家に行くとまで言ってたよ。だけどダンブルドアが僕たちに──」
「──僕に何も言わないって誓わせた」
ハリーが言った。
「ああ、ハーマイオニーがさっきそう言った」
ハリーの表情はみるみる硬く冷ややかになり、機械的にヘドウィグを撫で始め、張り詰めた沈黙が流れた。
「それが最善だとお考えになったのよ」
ハーマイオニーが息を殺して言った。
「ダンブルドアが、ってことよ」
「ああ」
ハリーはハーマイオニーの手の傷をちらりと見たが、気は晴れないようだった。
「僕の考えじゃ、ダンブルドアは、君がマグルと一緒のほうが安全だと考えて──」
ロンが話しはじめた。
「へー?」
ハリーは眉を吊り上げた。
「君たちの誰かが、夏休みに吸魂鬼に襲われたかい?」
「そりゃ、ノーさ。だけど、少なくともナマエは家ごと吹き飛びかけた」
ハリーはナマエを見た。ナマエはボサボサになった頭を撫で付けてできるだけ明るい声で言った。
「ああ、でも、見ての通り無事だ。キングズリーが俺のお守りをしてくれてたおかげだけど。──騎士団が俺にマンダンガスをつけてたら、本当に吹き飛んでたかもな」
ハーマイオニーが不謹慎だと言いたげに肘でナマエを小突いた。ハリーは意地を張ったように言った。
「なら、そのマンダンガスが僕の監視でよかった、ここに来られたんだから。ところで、どなたか騎士団が何か教えて下さいますかね?」
「秘密同盟よ」
ハーマイオニーがすぐに答えた。
「不死鳥の騎士団。ダンブルドアが率いてるし、設立者なの。前回『例のあの人』と戦った人たちよ」
「ああ」
ハリーは苛立ちを抑えるように短く応えて三人のそばを離れ、満足そうなヘドウィグを肩に載せたまま部屋を見回した。
「ねえ、僕のベッドは誰かの書斎?」
「あっ」
ナマエはあわてて、ベッドの上に散らかしていた羊皮紙や本をどさどさと自分のトランクに戻した。
「誰かがここにくるなんて思ってなかったんだろう。僕はずっとダーズリー家にいるもんだから!だから、何が起こってるかなんて僕に知らせる必要ないよな?誰もわざわざ僕に教える必要なんてないものな?」
ハリーはどんどん語気が荒くなり、しまいにはほとんど叫んでいた。溜まっていた不満が席を切って溢れ出したようだった。ロンは度肝を抜かれて口を開けて突っ立っていた。ハーマイオニーは泣き出しそうな顔をしていた。
「言ったでしょう、ダンブルドアが──」
「ダンブルドアが誓わせた!でも、君たちはここにいたんだ!そうだろう?ダンブルドアは知ってるはずだ、賢者の石を守ったのは誰だ?リドルを倒したのは、ヴォルデモートの復活を見たのは誰だって言うんだ?」
ハリーは止まらなかった。ヘドウィグは洋箪笥の上に避難し、ピッグウィジョンはハリーの興奮につられてピーピー鳴きながら急旋回していた。
「僕は四週間もダーズリーの家に釘付けだ!ゴミ箱から新聞を漁って、どうにか何が起こってるのか知ろうとしてたんだ!」
ナマエはだんだんムカムカしてきた。ハリーの言い分はわかっていても、不満があるのはナマエとて同じだった。言うべきではないときに、つい口をついて出てしまった。
「……あのな、あんたが今晩このベッドでドクシーに噛まれないのは、俺が夏休み中ずっと屋敷しもべの仕事をしてたからだ」
ナマエはベッドシーツをピンと張って鼻を鳴らした。ハリーは眉を上げた。
「へえ。でも、君は少なくとも潔癖症のペチュニアおばさんじゃなくて、シリウスと一緒に掃除をしてたんだろう」
ばか、とロンがナマエに小声で言った。口喧嘩となると、ハリーはかなり手強かった。しかし、ナマエも引かなかった。
「ああ、シリウスと」
ナマエはわざとうんざりしたような口調で言った。 シリウスと過ごすことに後ろめたさを覚えていた自分が馬鹿らしく思えた。
「あんたもこんな陰気な屋敷で、大の大人同士のいがみ合いを何度も何度も見てたら、うんざりするに決まってる。シリウスはスネイプと顔を合わせる度に──」
「スネイプ!」
ハリーが鋭く叫んだので、ナマエは目を瞬いた。苛立ちに任せて煽るような調子で言い返してしまったが、これはこれで厄介そうな名を出してしまった──やや遅れて自分の軽率さを恥じた。
「スネイプがここにいるの?」
「マル秘の報告をしてるんだ、いやな野郎」
ロンが頷いて答えた。
「スネイプはもう私たちの味方よ」
ハーマイオニーが咎めるように言った。ロンは鼻を鳴らした。
「それじゃあ、スネイプですらこの場にいるのに……いったいどうしてダンブルドアは、僕に何も教えなかったのかなあ」
ハリーが苛立ちを抑えるように、上擦った声で言って、三人を見た。ちょうど、三人で顔を見合わせていたところだった。ハリーの機嫌は最悪だった。
「君たちはダンブルドアに何をお考えかは聞かなかったわけだ」
ナマエは、今世で最も偉大な魔法使いに理由を問うなんて、馬鹿げてる。とも、訳もわからないのに従うなんて愚かだ。とも思った。
ダンブルドアが意味なくハリーを除け者にするわけがない。ダンブルドアはハリーの性格をよくわかっているはずだ。それに、保護するためだとしてもマグルの家のほうが安全だとも思えない。
騎士団の中にスパイがいるとか?それとも──。
ナマエは口に手を当てて考え込んだ。
不機嫌さをいっさい隠さなくなったハリーに、ロンができるだけ待たせないように、ハーマイオニーはできるだけ言葉を選びながら現状を説明した。
それを聞きながらもナマエは思案を巡らせた。
ダンブルドアは騎士団を使って、ハリーに知られたくないことをしようとしているのか?ダンブルドアはハリーにできるだけ情報を与えたくないし、魔法界にすら近づいてほしくない。ヴォルデモートを退けて生き残った男の子で、その目で復活を見た張本人なのに。逆にいうと、例のあの人からすれば、ハリーがダンブルドアに近い方が良い理由があったり──。
「ヴォルデモート!」
ハリーの怒声で、ナマエははっと我に返った。ロンとハーマイオニーではハリーの怒りを抑えきれなかったようだった。
「ヴォルデモートは今どうしているかって、聞いているんだよ」
「ハリー、本当よ、騎士団が何をしているかは本当に知らないの」
ハーマイオニーが目に涙を溜めながら気遣わしげに言った。
「でも、こっそり聞いたところによると」
ハリーの様子を見てロンが急いで付け加えた。
「面の割れてる『死喰い人』を追けてることだけはわかってる。つまり、様子を探ってるってことさ。うん──騎士団に入るように勧誘しているメンバーも何人かいる。それに、何かの護衛に立ってるのも何人かいるな」
「もしかしたら僕の護衛のことじゃないのかな?」
ハリーが皮肉った。
「ああ、そうか」
ロンが急に謎が解けたような顔をした。ハリーはフンと鼻を鳴らした。
「ハリー、悪かった。でも、本当に騎士団に入れるのは成人した魔法使いだけなんだ。あんたが聞くなら教えてくれるかも──」
ナマエがおずおず話しかけると、ウィーズリー夫人が部屋の戸口に現れた。
「会議は終わりましたよ。降りてきていいわ。夕食にしましょう。ハリー、みんながあなたにとっても会いたがってるわ!」
廊下の先、階下からシリウスの吠えるような怒りの声が聞こえた。
階段の上からこっそりと下を覗くと、ダンブルドアが会議室に入っていくところだった。
一瞬だけ見えたその顔に、燃えるような怒気が宿っていた。言葉はなくとも、ダンブルドアが激怒していることはすぐにわかった。
ハーマイオニーは蒼白な顔をしてから、ナマエに「だから危険だと言ったでしょう」と言わんばかりに目配せした。
廊下の奥から何かにつまづくような音が聞こえた。トンクスがバタバタと慌ただしく走ってくるところだった。
「トンクス、ハリーは?マンダンガスがどうしたんだ?」
ナマエは呼び止めた。
「ああ、ええ!あたしたち、今からハリーを迎えに行くの!マンダンガスが持ち場をほっぽっちゃったらしいのよね」
そう言ったトンクスの顔は鼻の穴が丸見えで、ついさっきまで七変化でジニーを笑わせていたようだった。ハーマイオニーが言った。
「待って、トンクス。鼻が豚のまま!」
「あらっ!ほんとだ、ありがと」
トンクスは短く応えてすぐに階段を駆け降りていった。大人たちはみんな慌ただしく誰かに連絡を取って、会議室に出入りしていた。
その様子を見に来た子供たちに、アーサーさんが言葉をせき立てるように叫んだ。
「お前たち、上にいなさい!会議もあるし、ハリーを迎えに行かないと。ナマエ!ロン!君たちの部屋でハリーが寝られるように準備しておいておくれ!」
子供達はまたしても何も知らされないことに不満だったが、ただならぬ気配を感じ取って大人しく従った。
「何が起きてるんだろう」
ロンが言ったが、ナマエも首を捻った。
「──未成年のハリー・ポッター氏は、守護霊の呪文を使ったのさ。なんと、マグルのダドちゃんの前で」
いつの間にか部屋にいたフレッドが言った。
「──で、魔法省がハリーをとっ捕まえようとしてるんだ」
同じく姿を現したジョージが言った。
「まさか、それだけで?」
ロンが言った。フレッドがロンの顔の前で人差し指を立てて横に振った。ジョージがたらりとオレンジの紐をもったいぶって垂らした。
「俺たちはこの伸び耳でバッチリ聞いてきた。今はジニーが踊り場で伸び耳を立ててるぜ。おやっ……もしかして、君らも欲しいかい?」
フレッドがニヤリと言うと、ジョージが伸び耳をロンとナマエの前で揺らしながら続けた。
「まだ値段を決めてないんだけど、そうだな──特別に──2ガリオンってところかな」
「ジニーには1ガリオンだったじゃないか!」
ロンが憤慨した。ナマエは金貨を探してポケットに手を突っ込みながらぶつぶつと呟いた。
「あー、ハリーは3回目だ。最初のはドビーだったけど……今の魔法省はおかしいし……待って、1ガリオンと……12、13、14シックル……絶対にあるんだけど」
ナマエはロンの手を借りてシックル銀貨をズボンのポケットからいくつも取り出して数えた。ロンは両手でコインを受け止めながら尋ねた。
「3回目って?」
「国際魔法使い機密保持法と、未成年魔法禁止の違反よ!」
ハーマイオニーがナマエの見た目よりも深そうなポケットを疑わしそうに睨みながら言った。ナマエはハーマイオニーから目線を逸らしてロンを見た。
「──いや、車の件を入れると4回か?」
ナマエは思い出したように付け加えた。
「あれは、僕たち魔法を使ってない!パパの車を使っただけだよ──ほら、17シックルと1ガリオンだよ」
ロンはナマエの銀貨を待つのをやめ、自分のシックル銀貨を2枚足して、ジョージに硬貨を見せた。双子は代金を受け取るとにっこり歯を見せた。
「まいどあり」
伸び耳を手渡すと、二人はバシッと音を立てて姿くらましをした。
手に入れた伸び耳は思っているよりも役に立った。ロンとナマエは交代で大人たちの会話を盗み聞くことに成功した。団員がひっきりなしに行き来するので、ドアに魔法をかける暇もないようだった。
どうやら、マッド-アイが数名を率いてダーズリー家まで直接ハリーを保護しに向かったらしかった。しかし、階下に垂らした伸び耳はすぐにモリーさんに見つかり、ゴミ箱に捨てられてしまった。
「わざわざあのマグルの家まで迎えに行くなんて、そんなにまずい状況なの?」
買ったばかりの伸び耳を失い、苦々しい顔でロンが言った。
「わからないわ。けど、そもそも吸魂鬼がマグルの街にいることが異常よ」
ハーマイオニーは床にあらゆる法律の本をひっくり返していた。ナマエはその本を踏まないようにしながらも落ち着きなく歩き回った。
「アズカバンの看守をやめたのか?またシリウスを探してるとか?」
ナマエのぶつぶつを遮るように、窓がコンコンと音を立てた。三人は振り返った。ナマエがカーテンを引くと、真っ白なふくろうが夜の街に浮かんでいた。
「ヘドウィグ!」
ナマエが叫ぶと、ロンとハーマイオニーも振り返った。窓を開けるとヘドウィグはいつにも増して不機嫌そうにナマエの手を突き回して、次にロンの頭をつついた。
「手紙を持ってるわ」
ハーマイオニーは急いでヘドウィグの脚から手紙を取り外した。ナマエとロンはヘドウィグの猛攻を受けながら手紙を覗き込んだが、魔法界の現状を何でもいいから教えて欲しいという、いつもと変わらない内容だった。
ロンが顔を上げた。
「吸魂鬼に襲われる前に書いたのかも──イタッ」
ヘドウィグは営巣中のドラゴンのように気が立っていた。前回にも増して執拗に三人を攻撃した。
ナマエはヘドウィグに狙われないよう手をズボンのポケットに突っ込んで頭を振った。
「痛い痛い、ヘドウィグ!わかってる、ハリーに言われたんだろう!返事をもらうまでそうしろって」
ヘドウィグは高い声で鳴いたが、攻撃をやめなかった。ロンとハーマイオニーも手が血だらけだった。ロンが叫んだ。
「ハリーはもうすぐここに来るんだ!落ち着けよ!」
ヘドウィグは聞かなかった。部屋には白い羽根が舞っていた。
ヘドウィグの嘴によってロンとハーマイオニーの手は傷だらけで、ナマエの頭はボサボサに乱れていた。床には本やらなにやらが散乱して、三人は息を弾ませながら顔を見合わせた。
「この部屋にいたらそいつに殺されちゃうよ」
ロンは息絶え絶えに言って、ドアノブに手をかけようとした。が、その前に扉が開いた。
ハーマイオニーが小さく悲鳴を上げた。扉の向こうに立っていたのは、ハリーだった。
ハリーは見ないうちに、ロンほどではないが少し背が伸びていた。ハリーはほっとしたように笑った。
──ナマエは心臓がキュッと締まった。ハーマイオニーがハリーに飛びついて、ほとんど押し倒しそうになるほど抱き締めたのだ。
一方、ロンのチビふくろうのピッグウィジョンは、興奮して、二人の頭上をブンブン飛び回っていた。
「ハリーが来たわ。ハリーが来たのよ!到着した音が聞こえなかったわ!ああ、元気なの?大丈夫なの?私たちのこと、怒ってた?怒ってたわよね。私たちの手紙が役に立たないことは知ってたわ──だけど、あなたに何にも教えてあげられなかったの。ダンブルドアに、教えないことを誓わせられて──」
ロンがやれやれとでも言いたげにニヤッと笑いながらドアを閉めた。
「無事でよかった、ハリー」
ナマエは優しくハーマイオニーをハリーから引き剥がした。すると、白ふくろうが洋箪笥の上から舞い降りてハリーの肩に止まった。
「ヘドウィグ!」
ヘドウィグは嘴をカチカチ鳴らして、優しくハリーの耳を噛んだ。ロンが肩をすくめた。
「このふくろう、ずっとイライラしてるんだ。見ろよ──」
ロンが右手の深い傷を見せたが、ハリーは一瞥して笑顔を消し、短く答えた。
「へえ、そう」
ハリーの声に、ナマエは嫌な汗が流れた。
「悪かったね。だけど、僕、答えがほしかったんだ。わかるだろ──」
「そりゃ、僕らだってそうしたかったさ」
ロンが言った。
「ハーマイオニーなんか、心配で気が狂いそうだったし、ナマエはまさに今日、君の家に行くとまで言ってたよ。だけどダンブルドアが僕たちに──」
「──僕に何も言わないって誓わせた」
ハリーが言った。
「ああ、ハーマイオニーがさっきそう言った」
ハリーの表情はみるみる硬く冷ややかになり、機械的にヘドウィグを撫で始め、張り詰めた沈黙が流れた。
「それが最善だとお考えになったのよ」
ハーマイオニーが息を殺して言った。
「ダンブルドアが、ってことよ」
「ああ」
ハリーはハーマイオニーの手の傷をちらりと見たが、気は晴れないようだった。
「僕の考えじゃ、ダンブルドアは、君がマグルと一緒のほうが安全だと考えて──」
ロンが話しはじめた。
「へー?」
ハリーは眉を吊り上げた。
「君たちの誰かが、夏休みに吸魂鬼に襲われたかい?」
「そりゃ、ノーさ。だけど、少なくともナマエは家ごと吹き飛びかけた」
ハリーはナマエを見た。ナマエはボサボサになった頭を撫で付けてできるだけ明るい声で言った。
「ああ、でも、見ての通り無事だ。キングズリーが俺のお守りをしてくれてたおかげだけど。──騎士団が俺にマンダンガスをつけてたら、本当に吹き飛んでたかもな」
ハーマイオニーが不謹慎だと言いたげに肘でナマエを小突いた。ハリーは意地を張ったように言った。
「なら、そのマンダンガスが僕の監視でよかった、ここに来られたんだから。ところで、どなたか騎士団が何か教えて下さいますかね?」
「秘密同盟よ」
ハーマイオニーがすぐに答えた。
「不死鳥の騎士団。ダンブルドアが率いてるし、設立者なの。前回『例のあの人』と戦った人たちよ」
「ああ」
ハリーは苛立ちを抑えるように短く応えて三人のそばを離れ、満足そうなヘドウィグを肩に載せたまま部屋を見回した。
「ねえ、僕のベッドは誰かの書斎?」
「あっ」
ナマエはあわてて、ベッドの上に散らかしていた羊皮紙や本をどさどさと自分のトランクに戻した。
「誰かがここにくるなんて思ってなかったんだろう。僕はずっとダーズリー家にいるもんだから!だから、何が起こってるかなんて僕に知らせる必要ないよな?誰もわざわざ僕に教える必要なんてないものな?」
ハリーはどんどん語気が荒くなり、しまいにはほとんど叫んでいた。溜まっていた不満が席を切って溢れ出したようだった。ロンは度肝を抜かれて口を開けて突っ立っていた。ハーマイオニーは泣き出しそうな顔をしていた。
「言ったでしょう、ダンブルドアが──」
「ダンブルドアが誓わせた!でも、君たちはここにいたんだ!そうだろう?ダンブルドアは知ってるはずだ、賢者の石を守ったのは誰だ?リドルを倒したのは、ヴォルデモートの復活を見たのは誰だって言うんだ?」
ハリーは止まらなかった。ヘドウィグは洋箪笥の上に避難し、ピッグウィジョンはハリーの興奮につられてピーピー鳴きながら急旋回していた。
「僕は四週間もダーズリーの家に釘付けだ!ゴミ箱から新聞を漁って、どうにか何が起こってるのか知ろうとしてたんだ!」
ナマエはだんだんムカムカしてきた。ハリーの言い分はわかっていても、不満があるのはナマエとて同じだった。言うべきではないときに、つい口をついて出てしまった。
「……あのな、あんたが今晩このベッドでドクシーに噛まれないのは、俺が夏休み中ずっと屋敷しもべの仕事をしてたからだ」
ナマエはベッドシーツをピンと張って鼻を鳴らした。ハリーは眉を上げた。
「へえ。でも、君は少なくとも潔癖症のペチュニアおばさんじゃなくて、シリウスと一緒に掃除をしてたんだろう」
ばか、とロンがナマエに小声で言った。口喧嘩となると、ハリーはかなり手強かった。しかし、ナマエも引かなかった。
「ああ、シリウスと」
ナマエはわざとうんざりしたような口調で言った。 シリウスと過ごすことに後ろめたさを覚えていた自分が馬鹿らしく思えた。
「あんたもこんな陰気な屋敷で、大の大人同士のいがみ合いを何度も何度も見てたら、うんざりするに決まってる。シリウスはスネイプと顔を合わせる度に──」
「スネイプ!」
ハリーが鋭く叫んだので、ナマエは目を瞬いた。苛立ちに任せて煽るような調子で言い返してしまったが、これはこれで厄介そうな名を出してしまった──やや遅れて自分の軽率さを恥じた。
「スネイプがここにいるの?」
「マル秘の報告をしてるんだ、いやな野郎」
ロンが頷いて答えた。
「スネイプはもう私たちの味方よ」
ハーマイオニーが咎めるように言った。ロンは鼻を鳴らした。
「それじゃあ、スネイプですらこの場にいるのに……いったいどうしてダンブルドアは、僕に何も教えなかったのかなあ」
ハリーが苛立ちを抑えるように、上擦った声で言って、三人を見た。ちょうど、三人で顔を見合わせていたところだった。ハリーの機嫌は最悪だった。
「君たちはダンブルドアに何をお考えかは聞かなかったわけだ」
ナマエは、今世で最も偉大な魔法使いに理由を問うなんて、馬鹿げてる。とも、訳もわからないのに従うなんて愚かだ。とも思った。
ダンブルドアが意味なくハリーを除け者にするわけがない。ダンブルドアはハリーの性格をよくわかっているはずだ。それに、保護するためだとしてもマグルの家のほうが安全だとも思えない。
騎士団の中にスパイがいるとか?それとも──。
ナマエは口に手を当てて考え込んだ。
不機嫌さをいっさい隠さなくなったハリーに、ロンができるだけ待たせないように、ハーマイオニーはできるだけ言葉を選びながら現状を説明した。
それを聞きながらもナマエは思案を巡らせた。
ダンブルドアは騎士団を使って、ハリーに知られたくないことをしようとしているのか?ダンブルドアはハリーにできるだけ情報を与えたくないし、魔法界にすら近づいてほしくない。ヴォルデモートを退けて生き残った男の子で、その目で復活を見た張本人なのに。逆にいうと、例のあの人からすれば、ハリーがダンブルドアに近い方が良い理由があったり──。
「ヴォルデモート!」
ハリーの怒声で、ナマエははっと我に返った。ロンとハーマイオニーではハリーの怒りを抑えきれなかったようだった。
「ヴォルデモートは今どうしているかって、聞いているんだよ」
「ハリー、本当よ、騎士団が何をしているかは本当に知らないの」
ハーマイオニーが目に涙を溜めながら気遣わしげに言った。
「でも、こっそり聞いたところによると」
ハリーの様子を見てロンが急いで付け加えた。
「面の割れてる『死喰い人』を追けてることだけはわかってる。つまり、様子を探ってるってことさ。うん──騎士団に入るように勧誘しているメンバーも何人かいる。それに、何かの護衛に立ってるのも何人かいるな」
「もしかしたら僕の護衛のことじゃないのかな?」
ハリーが皮肉った。
「ああ、そうか」
ロンが急に謎が解けたような顔をした。ハリーはフンと鼻を鳴らした。
「ハリー、悪かった。でも、本当に騎士団に入れるのは成人した魔法使いだけなんだ。あんたが聞くなら教えてくれるかも──」
ナマエがおずおず話しかけると、ウィーズリー夫人が部屋の戸口に現れた。
「会議は終わりましたよ。降りてきていいわ。夕食にしましょう。ハリー、みんながあなたにとっても会いたがってるわ!」
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