不死鳥の騎士団
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朝食を終えて食卓を立った時、モリーさんが声をかけた。
「ナマエ、ちょっといいかしら」
ナマエは食器を運びながら振り返った。視界の端で、フレッドとジョージがこちらに耳を傾けているのが見えた。
「客間の文机に何か閉じ込められているの。しょっちゅうガタガタうるさくて」
「じゃあ、腹ごなしに見てきます」
ナマエはとくに断る理由も、他にやることもないので、にっこり頷いた。
ウィーズリー夫人は、こんな調子でナマエによく些細な頼み事をした。夫人は、子供たちが騎士団について詮索するのを嫌がっていたので、仕事を与えてそんな暇をなくしたいのかと思っていた。しかし逆に、フレッドとジョージにはそれが好都合だった。
二人はいつもナマエが除染したそばから、悪戯道具の材料になりそうなものを片っ端から持ち去っていた。
ナマエが客間に向かうと、当たり前のように双子もついてきた。
「パンディマンだったら、希釈薬をつくってくれないか?もち、ママには内緒で」
フレッドが言った。ナマエは部屋の匂いを嗅いだ。
「パンディマンじゃなさそうだ、ドクシーも駆除したし……」
「ああ、それじゃあ、マッド-アイを呼んでこようか?中を見て貰えば?」
「そこまで──」
ジョージが言うと、答えを聞く前に二人は姿をくらませた。
「……そこまでしなくても」
ナマエはもう、魔法生物の駆除には慣れっこだった。二人の帰りを待たずに引き出しを杖先でトントンと叩いた。ピタリと机の揺れが止まり、古びた金具が呻くように鳴ると引き出しがひとりでに開いた。
しかし、なんの気配もない。ナマエは警戒しながら近づいた。引き出しの奥は、まるで別の世界の入口のように深く、暗かった。中を覗いた瞬間、ひやりと冷たい空気が肌を撫でた。その直後、引き出しの中から男の体が、まるで闇から押し出されるようにこちらへ倒れてきた。
ナマエは咄嗟にそれを受け止めた。冷たい感触。動かない身体。虚ろな目。
瞬間、心臓が凍りついたような心地がした。
「──父上……?」
言葉にならない声が、喉から漏れた。ナマエは奇しくも自分の声を聞いて、ありえない現実を認識した。──父上がブラック家の引き出しの中で死んでいるわけがないだろう。
ナマエはチチオヤの死体を突き飛ばし、杖を構えた。
「リッ──リディクラス!」
声が僅かに震えていた。死体は、ただ動かずに転がっていた。
「リディクラス!──リディクラス!」
呪文を何度も繰り返したが、どれも効果がない。心が、じわじわと冷えていくようだった。まね妖怪 に違いない、いや、果たして本当にそうだろうか?これが現実ではないとはわかっている。でも、どこかナマエの知らないところで同じことが起こっているかもしれない──。そう考えた途端、足から力が抜けるようにへたりとその場に座り込んだ。
すると、突然死体の手足がピクリと動き、みるみる足が増え、全身が毛に覆われ──八つ目の巨大な蜘蛛に姿を変えた。
「リディクラス!」
背後から誰かの声がした。呪文を受けた蜘蛛は脚が消え、ボールのようにゴロゴロ転がりだした。振り返ると、声の主はロンだった。ロンがもう一度呪文を唱えると、まね妖怪は破裂し、何千という細い煙の筋になって消え去った。
「ロン──!」
「何してるんだよ、ただのボガートだぜ」
ロンが呆れたように眉を寄せた。
ナマエは床にへばったまま、さっきまで父親の死体──の姿をしたまね妖怪 いた場所を見た。
「……俺さあ、それ、成功したことないんだよ」
ナマエは、父親を失うかもしれない恐怖が、心の中に根を張っていることに気づいてしまった。今、自分が恐れていることは、二度と父親に会えないかもしれないことだ。それも、自分が父親がどんな人間なのか、息子をどう思っているのか、なにも確証がないまま。
「まさか!君が?そんなわけないだろ」
「本当。前も親父になった」
ロンは奇妙な顔をした。
「君って案外、──パパっ子なんだな」
ロンなりに言葉を選んだのが見え見えで、ナマエは思わず息を漏らすように笑った。
ナマエはロンに引っ張り上げられるように立ち上がった。
「ありがと……あんたの呪文、完璧だった」
「まあ、初めてじゃないし」
ロンの顔が少しピンク色になった。得意げな顔を誤魔化すように言った。
「──フレッドが、『マッド-アイは出かけちゃった』って伝えてくれって僕に頼んだんだ。あの二人、なにか発明を思いついたからって部屋に戻っちゃった」
「そう……」
この一件があってから、ギクシャクしていたロンとの関係が回復したように思えた。もう不名誉な言いがかりはこりごりだと言わんばかりに、ロンはナマエとハーマイオニーへの態度を改めた。ハーマイオニーにはばかに丁寧に接して、ハーマイオニーを困惑させていた。ナマエはロンに発破をかけたのが果たして正しかったか測りかねていた、が、以前よりも随分過ごしやすくなったことは素直に嬉しかった。遺憾だが、ロンの機嫌がいいと楽しく過ごせるのは今までもそうだった。
屋敷の除染に、ロンとの関係。ナマエの頭を悩ませるものが少なくなると、決まって心の奥がずしんと重さを取り戻した──チチオヤの行方が、安否がわからないことが、ナマエ自身が自覚しているよりも、心を圧迫していた。
ロンの様子と裏腹に、ハリーから届く手紙は、文面から苛立ちが隠せなくなっていた。
ナマエ、ロン、ハーマイオニーの三人はヘドウィグから返事の催促を受けて指先が噛み傷だらけになっていた。
「あんまりだよな、あのひどいマグルの家で閉じ込められてるなんて──イテッ!」
ロンが哀れそうに言ったが、ヘドウィグは容赦なくロンの手をつついた。
「……会いに行ってやろうかな?」
ナマエがヘドウィグを見つめてなんとなく言った。
「だめよ!」
ハーマイオニーが激しく咎めた。
「あなた、家を襲撃されたのよ?危険すぎるわ!ハリーの家はマグルがたくさんいるのよ?魔法を使っちゃいけないわ。それに、あなたは未成年でしょう!どうやって行くつもり?」
ハーマイオニーは捲し立てた。ナマエは思いつきが口をついて出ただけだったが、そこまで言われるとなぜかむきになった。
「……ヘドウィグに連れてってもらう」
ナマエはまだ、動物もどき であることを二人に話していなかった。
ハーマイオニーは呆れたような顔をした。ロンはやれやれという顔をつくったが、まだヘドウィグにつつきまわされていた。
「ねえ、危険よ。ダンブルドアがお許しになると思うの?」
「ダンブルドアは俺の父親じゃない」
ナマエは少し棘のある言い方をしてしまった気がして、顔をドアの方に逸らした。すると、突然ドアが開いた。
「ハリーが!」
息を切らせたジニーが飛び込んできたのだ。気づけば、階下も心なしか騒がしい様子だ。
「ジニー!ノックを覚えられないのか?」
ロンが言った。ジニーは無視した。
「ハリーが──ハリーが……吸魂鬼に襲われたって!」
「何だって?」
三人は顔を見合わせた。
「ナマエ、ちょっといいかしら」
ナマエは食器を運びながら振り返った。視界の端で、フレッドとジョージがこちらに耳を傾けているのが見えた。
「客間の文机に何か閉じ込められているの。しょっちゅうガタガタうるさくて」
「じゃあ、腹ごなしに見てきます」
ナマエはとくに断る理由も、他にやることもないので、にっこり頷いた。
ウィーズリー夫人は、こんな調子でナマエによく些細な頼み事をした。夫人は、子供たちが騎士団について詮索するのを嫌がっていたので、仕事を与えてそんな暇をなくしたいのかと思っていた。しかし逆に、フレッドとジョージにはそれが好都合だった。
二人はいつもナマエが除染したそばから、悪戯道具の材料になりそうなものを片っ端から持ち去っていた。
ナマエが客間に向かうと、当たり前のように双子もついてきた。
「パンディマンだったら、希釈薬をつくってくれないか?もち、ママには内緒で」
フレッドが言った。ナマエは部屋の匂いを嗅いだ。
「パンディマンじゃなさそうだ、ドクシーも駆除したし……」
「ああ、それじゃあ、マッド-アイを呼んでこようか?中を見て貰えば?」
「そこまで──」
ジョージが言うと、答えを聞く前に二人は姿をくらませた。
「……そこまでしなくても」
ナマエはもう、魔法生物の駆除には慣れっこだった。二人の帰りを待たずに引き出しを杖先でトントンと叩いた。ピタリと机の揺れが止まり、古びた金具が呻くように鳴ると引き出しがひとりでに開いた。
しかし、なんの気配もない。ナマエは警戒しながら近づいた。引き出しの奥は、まるで別の世界の入口のように深く、暗かった。中を覗いた瞬間、ひやりと冷たい空気が肌を撫でた。その直後、引き出しの中から男の体が、まるで闇から押し出されるようにこちらへ倒れてきた。
ナマエは咄嗟にそれを受け止めた。冷たい感触。動かない身体。虚ろな目。
瞬間、心臓が凍りついたような心地がした。
「──父上……?」
言葉にならない声が、喉から漏れた。ナマエは奇しくも自分の声を聞いて、ありえない現実を認識した。──父上がブラック家の引き出しの中で死んでいるわけがないだろう。
ナマエはチチオヤの死体を突き飛ばし、杖を構えた。
「リッ──リディクラス!」
声が僅かに震えていた。死体は、ただ動かずに転がっていた。
「リディクラス!──リディクラス!」
呪文を何度も繰り返したが、どれも効果がない。心が、じわじわと冷えていくようだった。
すると、突然死体の手足がピクリと動き、みるみる足が増え、全身が毛に覆われ──八つ目の巨大な蜘蛛に姿を変えた。
「リディクラス!」
背後から誰かの声がした。呪文を受けた蜘蛛は脚が消え、ボールのようにゴロゴロ転がりだした。振り返ると、声の主はロンだった。ロンがもう一度呪文を唱えると、まね妖怪は破裂し、何千という細い煙の筋になって消え去った。
「ロン──!」
「何してるんだよ、ただのボガートだぜ」
ロンが呆れたように眉を寄せた。
ナマエは床にへばったまま、さっきまで父親の死体──の姿をした
「……俺さあ、それ、成功したことないんだよ」
ナマエは、父親を失うかもしれない恐怖が、心の中に根を張っていることに気づいてしまった。今、自分が恐れていることは、二度と父親に会えないかもしれないことだ。それも、自分が父親がどんな人間なのか、息子をどう思っているのか、なにも確証がないまま。
「まさか!君が?そんなわけないだろ」
「本当。前も親父になった」
ロンは奇妙な顔をした。
「君って案外、──パパっ子なんだな」
ロンなりに言葉を選んだのが見え見えで、ナマエは思わず息を漏らすように笑った。
ナマエはロンに引っ張り上げられるように立ち上がった。
「ありがと……あんたの呪文、完璧だった」
「まあ、初めてじゃないし」
ロンの顔が少しピンク色になった。得意げな顔を誤魔化すように言った。
「──フレッドが、『マッド-アイは出かけちゃった』って伝えてくれって僕に頼んだんだ。あの二人、なにか発明を思いついたからって部屋に戻っちゃった」
「そう……」
この一件があってから、ギクシャクしていたロンとの関係が回復したように思えた。もう不名誉な言いがかりはこりごりだと言わんばかりに、ロンはナマエとハーマイオニーへの態度を改めた。ハーマイオニーにはばかに丁寧に接して、ハーマイオニーを困惑させていた。ナマエはロンに発破をかけたのが果たして正しかったか測りかねていた、が、以前よりも随分過ごしやすくなったことは素直に嬉しかった。遺憾だが、ロンの機嫌がいいと楽しく過ごせるのは今までもそうだった。
屋敷の除染に、ロンとの関係。ナマエの頭を悩ませるものが少なくなると、決まって心の奥がずしんと重さを取り戻した──チチオヤの行方が、安否がわからないことが、ナマエ自身が自覚しているよりも、心を圧迫していた。
ロンの様子と裏腹に、ハリーから届く手紙は、文面から苛立ちが隠せなくなっていた。
ナマエ、ロン、ハーマイオニーの三人はヘドウィグから返事の催促を受けて指先が噛み傷だらけになっていた。
「あんまりだよな、あのひどいマグルの家で閉じ込められてるなんて──イテッ!」
ロンが哀れそうに言ったが、ヘドウィグは容赦なくロンの手をつついた。
「……会いに行ってやろうかな?」
ナマエがヘドウィグを見つめてなんとなく言った。
「だめよ!」
ハーマイオニーが激しく咎めた。
「あなた、家を襲撃されたのよ?危険すぎるわ!ハリーの家はマグルがたくさんいるのよ?魔法を使っちゃいけないわ。それに、あなたは未成年でしょう!どうやって行くつもり?」
ハーマイオニーは捲し立てた。ナマエは思いつきが口をついて出ただけだったが、そこまで言われるとなぜかむきになった。
「……ヘドウィグに連れてってもらう」
ナマエはまだ、
ハーマイオニーは呆れたような顔をした。ロンはやれやれという顔をつくったが、まだヘドウィグにつつきまわされていた。
「ねえ、危険よ。ダンブルドアがお許しになると思うの?」
「ダンブルドアは俺の父親じゃない」
ナマエは少し棘のある言い方をしてしまった気がして、顔をドアの方に逸らした。すると、突然ドアが開いた。
「ハリーが!」
息を切らせたジニーが飛び込んできたのだ。気づけば、階下も心なしか騒がしい様子だ。
「ジニー!ノックを覚えられないのか?」
ロンが言った。ジニーは無視した。
「ハリーが──ハリーが……吸魂鬼に襲われたって!」
「何だって?」
三人は顔を見合わせた。
