不死鳥の騎士団
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夏休みが半分過ぎても、父に関する知らせはなかった。初めの頃はたまに騎士団本部を訪れていたダンブルドアも、最近はめっきり見かけなかった。ナマエは相変わらずグリモールド・プレイス十二番地に缶詰状態で、宿題も読書も掃除もできることはやり尽くしてしまった。
ブラック邸はすっかり快適で清潔な屋敷になったが、永久粘着呪文が施されたヴァルブルガ夫人の肖像画をはじめとした、純血貴族然とした装飾品たちはそのままになっていた。ナマエがシリウスと飾り棚を片付けようとすると、戸棚を開いた途端に『瘡蓋粉』が噴き出し、ナマエの手をかさぶたまみれにした。それに懲りたナマエは、必要以上に家具に触れるのをやめた。
「まったく、クリーチャーは何年も全く掃除をせずになにをしていたんだ?」
「シリウス、クリーチャーは気が変になってしまったのよ。ね、ナマエ。そうでしょう?」
「えっ?あぁー……」
ハーマイオニーはシリウスを咎めながらナマエの手に杖を振った。曖昧な返事をするナマエの肌から瘡蓋が剥がれて、白さを取り戻した。
「そうだな、屋敷しもべが仕事もせずに正気を保てるわけがない」
シリウスがナマエの代わりにいらいらしたように答えた。
「君はクリーチャーがどんなに偏屈なやつか、まだわかっていないだけさ。それで、ナマエ。君のほうはシノビーが懐かしいだけだ」
ナマエはむっとしたが、否定はできなかった。実際、クリーチャーは人の神経を逆撫でするのが得意だった。とぼけたふりをして部屋に勝手に入ってきては、汚い言葉を吐き散らした。そのくせ、料理も掃除も一切せず、ただただ屋敷を徘徊しつづけていた。ナマエはハーマイオニーとマグル嫌いのクリーチャーが鉢合わせないように気を遣って、いつもクリーチャーに何かを命じていたし、(命令を聞くかは別として)シリウスは恐らくナマエの思惑に気がついていた。
ナマエは屋敷に来てから何度かシノビーの名前を呼んでみたこともあった。しかし、以前ならすぐに目の前に現れたはずのしもべ妖精は一度もナマエの呼びかけには答えなかった。
ナマエは手をさすって、ハーマイオニーに目配せをして部屋を出た。
シリウス自身も気が参っているのだ。彼の性格からしても、ずっと屋敷に閉じ込められながら、騎士団の仲間の活動を聞くのは歯がゆいに違いない。
ナマエとハーマイオニーは騎士団の会議室に寄って、大人たちが読み終わった日刊預言者新聞とかぼちゃジュースの瓶を持って、自室に戻った。肖像画が飾られているホールを、ナマエはハーマイオニーの手を引いて急いで歩いた。肖像画たちがハーマイオニーを蔑む言葉を発する前に通り抜けたかった。二人は黙って廊下を抜け、無事に部屋の前まで辿り着くと、ナマエはようやくハーマイオニーを振り返った。
「ナマエ、私は大丈夫よ」
ハーマイオニーは俯いて手を引っ込めた。ナマエはパッと手を離した。
「ご、ごめん」
ほかに気が利いたことが言えず、ナマエは口をもごもごさせてから、諦めて部屋に入った。
部屋ではロンが一人でベッドに寝転んでいた。ちらっとこちらを見たが、話しかける気はなさそうに目を閉じた。壁にはフィニアス・ナイジェラス・ブラックの肖像画が眠ったふりをしながら、同じようにこちらをチラッと見た。
ナマエはため息を堪えてハーマイオニーと部屋に入った。ナマエは日刊預言者新聞を読み、ハーマイオニーは屋敷しもべに関する分厚い本を開いた。
しばらく経って、沈黙を破ったのはナマエだった。
「これ、印象操作だ」
ナマエが新聞から顔を上げると、ハーマイオニーが振り向いた。ロンはちらっと顔を上げてから、興味がなさそうにピッグヴィジョンに餌を投げた。
「あちこちでリータが書いたハリーの記事が──」
「だったら何だ?リータはもう記事を書いてないだろう」
ロンは顔を向けもせずに、ナマエの言葉を遮った。ナマエはむっとして言った。
「『何だ?』だって?リータはもう書いてないけど、去年は書いてた。ここ見ろ」
ナマエは二人に見えるように新聞を広げて、片隅の記事を指差した。ロンは一瞥してまたピーピー鳴くピッグヴィジョンに目を落とし、ハーマイオニーは食い入るように記事を読んだ。
「リータの記事を引用して、あちこちでハリーを小馬鹿にしてる。こんな事件、ハリーには何にも関係ないのに……馬鹿げたことは全部『まるでハリー・ポッターのよう』だと」
「ちょっと貸して、ナマエ」
ハーマイオニーは新聞を受け取ると、少し考えてから部屋を出ていった。ナマエはハーマイオニーの考えを尋ねるために後を追うよりも、溜まり溜まった鬱憤をどうにかするほうを優先してしまった。大きなため息をついてから、ロンを振り返った。
「──いい加減にしろよ!なんのつもりだ、ロン」
ナマエがハーマイオニーとの再会に踊る気持ちとは裏腹に、ロンはあからさまに不機嫌な態度をとっていた。はじめは、ハーマイオニーとまた喧嘩でもしているのかと思ったが、どうやらそういうわけでもなさそうだった。理由はほとんど確信していたが、ロンはしかめっつらでとぼけたセリフを返した。
「何のつもりって?何のことだ?」
「とぼけるなよ。俺に文句があるんだろう、はっきり──」
ナマエはロンに詰め寄ると、すぐ後ろで空気が割れるようなバシッ、バシッという音がして、ナマエはそのまま前につんのめった。
「おっと失礼」
「──それ、やめろって!」
ナマエが諦めたような低い声で言った。さっきまで立っていたところに、フレッドとジョージが姿現わししたのだ。
「君の甘ーい声が聞こえたように思ってね、ナマエ」
ジョージが言った。手には何やら長い薄橙色のひもを持っている。いつもならナマエと一緒にこの双子の姿現わしを非難するロンだが、今はナマエを転ばせたことが嬉しいらしく、ほくそ笑んでいるようにも見えた。
フレッドが紐をくいっとつまんで言った。
「とにかく、ナマエ。君の声が受信を妨げているんだ。『伸び耳』のね。下で何してるのか、聞こうとしてたんだ」
ナマエは眉を釣り上げた。
「無駄だ、会議室のドアはモリーさんが『邪魔よけ呪文』を掛けてる。ジニーが糞爆弾を投げてたけど、跳ね返されてたって──」
──ハーマイオニーが言っていた。と言いかけてやめた。
それを聞いてジョージががっくりした。
「素敵な情報をありがとう」
フレッドが言って、またバシバシッと音を立てて二人は消えた。
ロンとナマエとの間に気まずい沈黙が流れた。ナマエは単刀直入に尋ねた。
「……ハーマイオニーに気があるのか、ロン」
「誰がっ?──誰が誰に気があるって?お門違いもいいとこだ」
ロンは声をひっくり返しながら、露骨に機嫌を損ねた。
今なら、ハリーにハーマイオニーとの関係を白状するように迫ったクラムの気持ちがわかるような気がした。ナマエはロンに一歩踏み出した。
「答えになってない」
今までもナマエとロンは何度かぎくしゃくすることがあった。しかし、少なくともこの夏休み、ブラック邸では仲良くやっていた。ハーマイオニーが来る前までは。
ナマエは苛立ちを抑えるようにふーっと長い息をついて、わざとらしく、にやっと挑戦的に笑った。
「……俺はハーマイオニーに気があるぞ、いいんだな」
ロンは一瞬目を見開いて、顔がピンク色になった。ナマエは口角を上げたまま、探るようにロンを睨んだ。ロンは焦ったような小馬鹿にしたような、乾いた笑いを漏らした。
「──何言ってんだ?君はフラーと踊ってたじゃないか!それに、ハーマイオニーはクラムと踊ってた」
ナマエは咄嗟に口を開いたが、反論は浮かばなかった。ロンの言葉は事実なのだった。去年のユールボールでハーマイオニーが選んだのは、ここにはいない──年上で、逞しい、仏頂面の、ブルガリアのクィディッチ代表選手だった。返事をしないナマエに、ロンは勝ち誇ったような顔をした。
「何を言い出すかと思ったら!正気じゃないぜ、掃除のしすぎだ」
ロンは無理やり会話を切り上げて、ナマエに背を向けた。ロンはピッグウィジョンにふくろうフーズを食べさせようとしていたが、もう腹が満たされているようでピーピー鳴いて拒んでいた。
「……俺は正直に言ったからな」
ナマエはロンの背にそう告げたが、返事はなかった。ロンの耳はまだピンク色に熱を帯びていた。ナマエは不機嫌に鼻を鳴らして踵を返し、部屋を出た。
苛立ちながら廊下に一歩踏み出した瞬間、足元の床にオレンジ色の小さなものが動くのが見えた。ナマエはすぐにそれが何か理解し、咄嗟に足でそれを踏んづけた。
オレンジ色の、紐で繋がれた人間の耳のようなものがピクピク動いた。ナマエの靴の下で紐の伸びる方へと引っ張られていた。ナマエはゆっくり紐の先を見て、眉を下げた。
「ジーニーィ……」
『伸び耳』を取り戻そうと引っ張っていたのは、ジニーだった。ジニーはもう片方の耳をしっかり手に持っていて、にっこり笑った。
「フレッドから買ったの。大丈夫よ、あたししか聞いてないわ」
「……」
ナマエは靴を伸び耳の上からどかして、ジニーに近づいた。きょろきょろあたりを見て、ロンとナマエの会話を聞いていたのは、本当にジニー一人だけだということがわかって少しだけ安心した。ナマエの心配をよそに、ジニーは目を輝かせていた。
「ねえ、ハーマイオニーに告白してないの?」
ナマエは咄嗟に「シー!」と人差し指を立てたが、ジニーは面白そうにくすくす笑った。ナマエは観念して肩を落とし、低い声で答えた。
「したも同然だけど……」
「なあにそれ、曖昧ね」
ジニーは非難するように言った。ただ、やはり面白がっている様子は隠しきれていなかった。ナマエはさらに声を落とした。
「……ハーマイオニーは、ようやく俺が女友達じゃないって気付いたとこなんだ。……それに、あんただって、ハリーに告白してないだろう」
ナマエは言われっぱなしの状況が気に食わず、反論した。ナマエの言葉に、ジニーは顔を赤くしながら眉を吊り上げた。ジニーは一年生のころから(ロンによれば入学前から)ハリーにお熱だった。
「ごめん、違う。からかいたかった訳じゃなくて──おんなじ状況だってこと」
ジニーが怒って何かを言おうとする前にナマエが言った。ジニーは口を尖らせた。
「どういうこと?」
「だから──つまり」
ジニーがどれだけ前からハリーを想っていたとしても、今ハリーが気になっている女の子はチョウ・チャンであることは明らかだった。それと同じように、ナマエはあることに気がついていた。ナマエは声を絞り出した。
「──ハーマイオニーは俺のことより……ロンを気にしてるんだ。それくらいわかる、ずっと見てたんだから」
ナマエは、ふーっと前髪を吹いた。認めたくはないが、実際そうだった。
ハーマイオニーがダンスパーティーの夜に泣いていたのは、何となく、ロンと何かあったのだろうと思っていた。フラーとダンスをするナマエには何とも思わなくても、ロンがフラーにキスをされると、ハーマイオニーは顔を真っ赤にして怒っていた。ナマエやハリーや、他の人ではそうはならないだろうということが、ナマエにはわかっていた。
口に出してみると、そんなことは自明の理のようでいたたまれなくなった。ジニーはかける言葉がない様子でナマエを見つめていた。
「……そんな顔で見ないでくれる?」
ナマエは肩を落とした。今になってなぜか、ジニーはマイケルとダンスを踊っていたことを思い出した。
ブラック邸はすっかり快適で清潔な屋敷になったが、永久粘着呪文が施されたヴァルブルガ夫人の肖像画をはじめとした、純血貴族然とした装飾品たちはそのままになっていた。ナマエがシリウスと飾り棚を片付けようとすると、戸棚を開いた途端に『瘡蓋粉』が噴き出し、ナマエの手をかさぶたまみれにした。それに懲りたナマエは、必要以上に家具に触れるのをやめた。
「まったく、クリーチャーは何年も全く掃除をせずになにをしていたんだ?」
「シリウス、クリーチャーは気が変になってしまったのよ。ね、ナマエ。そうでしょう?」
「えっ?あぁー……」
ハーマイオニーはシリウスを咎めながらナマエの手に杖を振った。曖昧な返事をするナマエの肌から瘡蓋が剥がれて、白さを取り戻した。
「そうだな、屋敷しもべが仕事もせずに正気を保てるわけがない」
シリウスがナマエの代わりにいらいらしたように答えた。
「君はクリーチャーがどんなに偏屈なやつか、まだわかっていないだけさ。それで、ナマエ。君のほうはシノビーが懐かしいだけだ」
ナマエはむっとしたが、否定はできなかった。実際、クリーチャーは人の神経を逆撫でするのが得意だった。とぼけたふりをして部屋に勝手に入ってきては、汚い言葉を吐き散らした。そのくせ、料理も掃除も一切せず、ただただ屋敷を徘徊しつづけていた。ナマエはハーマイオニーとマグル嫌いのクリーチャーが鉢合わせないように気を遣って、いつもクリーチャーに何かを命じていたし、(命令を聞くかは別として)シリウスは恐らくナマエの思惑に気がついていた。
ナマエは屋敷に来てから何度かシノビーの名前を呼んでみたこともあった。しかし、以前ならすぐに目の前に現れたはずのしもべ妖精は一度もナマエの呼びかけには答えなかった。
ナマエは手をさすって、ハーマイオニーに目配せをして部屋を出た。
シリウス自身も気が参っているのだ。彼の性格からしても、ずっと屋敷に閉じ込められながら、騎士団の仲間の活動を聞くのは歯がゆいに違いない。
ナマエとハーマイオニーは騎士団の会議室に寄って、大人たちが読み終わった日刊預言者新聞とかぼちゃジュースの瓶を持って、自室に戻った。肖像画が飾られているホールを、ナマエはハーマイオニーの手を引いて急いで歩いた。肖像画たちがハーマイオニーを蔑む言葉を発する前に通り抜けたかった。二人は黙って廊下を抜け、無事に部屋の前まで辿り着くと、ナマエはようやくハーマイオニーを振り返った。
「ナマエ、私は大丈夫よ」
ハーマイオニーは俯いて手を引っ込めた。ナマエはパッと手を離した。
「ご、ごめん」
ほかに気が利いたことが言えず、ナマエは口をもごもごさせてから、諦めて部屋に入った。
部屋ではロンが一人でベッドに寝転んでいた。ちらっとこちらを見たが、話しかける気はなさそうに目を閉じた。壁にはフィニアス・ナイジェラス・ブラックの肖像画が眠ったふりをしながら、同じようにこちらをチラッと見た。
ナマエはため息を堪えてハーマイオニーと部屋に入った。ナマエは日刊預言者新聞を読み、ハーマイオニーは屋敷しもべに関する分厚い本を開いた。
しばらく経って、沈黙を破ったのはナマエだった。
「これ、印象操作だ」
ナマエが新聞から顔を上げると、ハーマイオニーが振り向いた。ロンはちらっと顔を上げてから、興味がなさそうにピッグヴィジョンに餌を投げた。
「あちこちでリータが書いたハリーの記事が──」
「だったら何だ?リータはもう記事を書いてないだろう」
ロンは顔を向けもせずに、ナマエの言葉を遮った。ナマエはむっとして言った。
「『何だ?』だって?リータはもう書いてないけど、去年は書いてた。ここ見ろ」
ナマエは二人に見えるように新聞を広げて、片隅の記事を指差した。ロンは一瞥してまたピーピー鳴くピッグヴィジョンに目を落とし、ハーマイオニーは食い入るように記事を読んだ。
「リータの記事を引用して、あちこちでハリーを小馬鹿にしてる。こんな事件、ハリーには何にも関係ないのに……馬鹿げたことは全部『まるでハリー・ポッターのよう』だと」
「ちょっと貸して、ナマエ」
ハーマイオニーは新聞を受け取ると、少し考えてから部屋を出ていった。ナマエはハーマイオニーの考えを尋ねるために後を追うよりも、溜まり溜まった鬱憤をどうにかするほうを優先してしまった。大きなため息をついてから、ロンを振り返った。
「──いい加減にしろよ!なんのつもりだ、ロン」
ナマエがハーマイオニーとの再会に踊る気持ちとは裏腹に、ロンはあからさまに不機嫌な態度をとっていた。はじめは、ハーマイオニーとまた喧嘩でもしているのかと思ったが、どうやらそういうわけでもなさそうだった。理由はほとんど確信していたが、ロンはしかめっつらでとぼけたセリフを返した。
「何のつもりって?何のことだ?」
「とぼけるなよ。俺に文句があるんだろう、はっきり──」
ナマエはロンに詰め寄ると、すぐ後ろで空気が割れるようなバシッ、バシッという音がして、ナマエはそのまま前につんのめった。
「おっと失礼」
「──それ、やめろって!」
ナマエが諦めたような低い声で言った。さっきまで立っていたところに、フレッドとジョージが姿現わししたのだ。
「君の甘ーい声が聞こえたように思ってね、ナマエ」
ジョージが言った。手には何やら長い薄橙色のひもを持っている。いつもならナマエと一緒にこの双子の姿現わしを非難するロンだが、今はナマエを転ばせたことが嬉しいらしく、ほくそ笑んでいるようにも見えた。
フレッドが紐をくいっとつまんで言った。
「とにかく、ナマエ。君の声が受信を妨げているんだ。『伸び耳』のね。下で何してるのか、聞こうとしてたんだ」
ナマエは眉を釣り上げた。
「無駄だ、会議室のドアはモリーさんが『邪魔よけ呪文』を掛けてる。ジニーが糞爆弾を投げてたけど、跳ね返されてたって──」
──ハーマイオニーが言っていた。と言いかけてやめた。
それを聞いてジョージががっくりした。
「素敵な情報をありがとう」
フレッドが言って、またバシバシッと音を立てて二人は消えた。
ロンとナマエとの間に気まずい沈黙が流れた。ナマエは単刀直入に尋ねた。
「……ハーマイオニーに気があるのか、ロン」
「誰がっ?──誰が誰に気があるって?お門違いもいいとこだ」
ロンは声をひっくり返しながら、露骨に機嫌を損ねた。
今なら、ハリーにハーマイオニーとの関係を白状するように迫ったクラムの気持ちがわかるような気がした。ナマエはロンに一歩踏み出した。
「答えになってない」
今までもナマエとロンは何度かぎくしゃくすることがあった。しかし、少なくともこの夏休み、ブラック邸では仲良くやっていた。ハーマイオニーが来る前までは。
ナマエは苛立ちを抑えるようにふーっと長い息をついて、わざとらしく、にやっと挑戦的に笑った。
「……俺はハーマイオニーに気があるぞ、いいんだな」
ロンは一瞬目を見開いて、顔がピンク色になった。ナマエは口角を上げたまま、探るようにロンを睨んだ。ロンは焦ったような小馬鹿にしたような、乾いた笑いを漏らした。
「──何言ってんだ?君はフラーと踊ってたじゃないか!それに、ハーマイオニーはクラムと踊ってた」
ナマエは咄嗟に口を開いたが、反論は浮かばなかった。ロンの言葉は事実なのだった。去年のユールボールでハーマイオニーが選んだのは、ここにはいない──年上で、逞しい、仏頂面の、ブルガリアのクィディッチ代表選手だった。返事をしないナマエに、ロンは勝ち誇ったような顔をした。
「何を言い出すかと思ったら!正気じゃないぜ、掃除のしすぎだ」
ロンは無理やり会話を切り上げて、ナマエに背を向けた。ロンはピッグウィジョンにふくろうフーズを食べさせようとしていたが、もう腹が満たされているようでピーピー鳴いて拒んでいた。
「……俺は正直に言ったからな」
ナマエはロンの背にそう告げたが、返事はなかった。ロンの耳はまだピンク色に熱を帯びていた。ナマエは不機嫌に鼻を鳴らして踵を返し、部屋を出た。
苛立ちながら廊下に一歩踏み出した瞬間、足元の床にオレンジ色の小さなものが動くのが見えた。ナマエはすぐにそれが何か理解し、咄嗟に足でそれを踏んづけた。
オレンジ色の、紐で繋がれた人間の耳のようなものがピクピク動いた。ナマエの靴の下で紐の伸びる方へと引っ張られていた。ナマエはゆっくり紐の先を見て、眉を下げた。
「ジーニーィ……」
『伸び耳』を取り戻そうと引っ張っていたのは、ジニーだった。ジニーはもう片方の耳をしっかり手に持っていて、にっこり笑った。
「フレッドから買ったの。大丈夫よ、あたししか聞いてないわ」
「……」
ナマエは靴を伸び耳の上からどかして、ジニーに近づいた。きょろきょろあたりを見て、ロンとナマエの会話を聞いていたのは、本当にジニー一人だけだということがわかって少しだけ安心した。ナマエの心配をよそに、ジニーは目を輝かせていた。
「ねえ、ハーマイオニーに告白してないの?」
ナマエは咄嗟に「シー!」と人差し指を立てたが、ジニーは面白そうにくすくす笑った。ナマエは観念して肩を落とし、低い声で答えた。
「したも同然だけど……」
「なあにそれ、曖昧ね」
ジニーは非難するように言った。ただ、やはり面白がっている様子は隠しきれていなかった。ナマエはさらに声を落とした。
「……ハーマイオニーは、ようやく俺が女友達じゃないって気付いたとこなんだ。……それに、あんただって、ハリーに告白してないだろう」
ナマエは言われっぱなしの状況が気に食わず、反論した。ナマエの言葉に、ジニーは顔を赤くしながら眉を吊り上げた。ジニーは一年生のころから(ロンによれば入学前から)ハリーにお熱だった。
「ごめん、違う。からかいたかった訳じゃなくて──おんなじ状況だってこと」
ジニーが怒って何かを言おうとする前にナマエが言った。ジニーは口を尖らせた。
「どういうこと?」
「だから──つまり」
ジニーがどれだけ前からハリーを想っていたとしても、今ハリーが気になっている女の子はチョウ・チャンであることは明らかだった。それと同じように、ナマエはあることに気がついていた。ナマエは声を絞り出した。
「──ハーマイオニーは俺のことより……ロンを気にしてるんだ。それくらいわかる、ずっと見てたんだから」
ナマエは、ふーっと前髪を吹いた。認めたくはないが、実際そうだった。
ハーマイオニーがダンスパーティーの夜に泣いていたのは、何となく、ロンと何かあったのだろうと思っていた。フラーとダンスをするナマエには何とも思わなくても、ロンがフラーにキスをされると、ハーマイオニーは顔を真っ赤にして怒っていた。ナマエやハリーや、他の人ではそうはならないだろうということが、ナマエにはわかっていた。
口に出してみると、そんなことは自明の理のようでいたたまれなくなった。ジニーはかける言葉がない様子でナマエを見つめていた。
「……そんな顔で見ないでくれる?」
ナマエは肩を落とした。今になってなぜか、ジニーはマイケルとダンスを踊っていたことを思い出した。
