不死鳥の騎士団
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ウィーズリー家に行くのかと思ってた……」
ナマエは辺りを見回した。周囲の家々の煤けた玄関は、あまり歓迎ムードには見えなかった。あちこちの家の割れた窓ガラスが、街灯の明かりを受けて鈍い光を放っていた。ペンキが剥げかけたドアが多く、何軒かの玄関先には階段下にゴミが積み上げられたままだ。いま立っているのは十一番地。左を見ると十番地と書いてある。右は、なんと十三番地だ。
「静かに──さっき見せたものを思い出すんだ」
キングズリーが辺りを警戒しながら言った。ナマエは言われたとおりに先ほど見たメモを思い出した。
──グリモールド・プレイス十二番地。
すると、十一番地と十三番地の間にどこからともなく古びて傷んだ扉が現れ、たちまち、薄汚れた壁と煤けた窓も現れた。まるで、両側の家を押し退けて、もう一つの家が膨れ上がってきたようだった。キングズリーがすり減った石段を上がって扉を杖で叩いた。カチッカチッと大きな金属音が何度か続き、鎖がカチャカチャいうような音が聞こえて扉がギーッと開いた。
「早く入るんだ」
キングズリーが囁いた。
「ただし、あまり奥には入らないよう。何にも触らないよう」
ナマエは敷居を跨ぎ、ほとんど真っ暗闇の玄関ホールに入った。湿った埃っぽい臭いと、饐えた臭いがした。ここには打ち捨てられた廃屋の気配が漂っている。
柔らかいジュッという音が聞こえ、旧式のガスランプが壁に沿ってポッと灯った。長い陰気なホールの向こうから、足を引き摺る音が近づいてきた。
「久しぶり、というわけにはいかんようだ」
「──ムーディ、先生」
ナマエの身体が無意識に強張った。数週間前、この姿をした男によってナマエは生死を彷徨う大怪我を負わされた。そして、その瞬間までは教師として、むしろ理想的な父親にすら近いような信頼を寄せていたのだ。苦い裏切りの記憶は、警戒に足る十分な理由だった。
「……わしが先生かどうかは、わからん。なかなか教える機会がなかったろうが?」
ムーディは唸るように、しかし少し気遣わしげに言った。姿だけではなく立ち居振る舞いまでも、この九ヶ月間見ていたペテン師と何も違わないように見えた。ダンブルドアをも欺いたクラウチ・ジュニアの演技力は並大抵ではなかったのだと気がついた。
「大丈夫。背が伸びたね、ナマエ」
今度は懐かしい声がした。
「ルーピン先生!」
ナマエの心が踊った。ルーピンの姿は一年以上も見なかったが、以前よりも白髪が増えてくたびれたように見えた。
「私も、もう先生ではないけどね」
ルーピンは柔らかく笑った。
「詳しく効かせてくれ、何があった」
ムーディは魔法の目をぎょろぎょろさせながらキングズリーに尋ねた。
「この子が寄り道 をしてくれて不幸中の幸いだった」
キングズリーは疲れたように息を吐いて話し始めた。
「念のため、君が帰宅する前に私が君の家で待っておく手筈だった。しかし──私が扉に手をかけた途端……」
キングズリーは手をぱっと開いて爆発の手振りをした。
「それで、すぐに君の元へ迎えに行ったわけだ」
「あの、俺のこと、見張ってたんですか」
ナマエは気恥ずかしい思いで言った。
「念のためにね」
キングズリーはナマエが真っ直ぐ家に帰らず何をしていたかを詳しく話す気はなさそうだった。ナマエはほっと胸を撫で下ろした。
しかし、ムーディは納得していない様子で、ナマエを見た。
「なにか家にミョウジが隠していたものだとか、そういうものは」
「えっと……わかりません。俺は父の部屋に入ったことがないし──」
ナマエが言い淀むと、魔法の目がナマエを捉えた。ふと思い出したのは、指輪だった。憂いの篩で見た、ゴーントの黒い石の指輪。母が父に預けたところを見た。あれはどこにあるのだろう。しかし、憂の篩で見たことはダンブルドアから「ロマニ以外に言うな」と口止めされていた。
「ええと、いえ。なんでも──」
突然、叫び声がこだました。あとの言葉は、耳を劈き血も凍る、恐ろしい叫びに呑み込まれてしまった。みんなが呆れたような慌てたような様子で走っていくので、ついていくと、虫食いだらけのビロードのカーテンが、左右に開かれていた。黒い帽子を被った老女がいて、叫んでいる。まるで拷問を受けているかのような叫びだ。ナマエがいままで見た中で一番生々しい等身大の肖像画だった。老女は涎を垂らし、白目を剥き、叫んでいるせいで、黄ばんだ顔の皮膚が引き攣っている。
ホール全体に掛かっている他の肖像画も目を覚まして叫び出した。
「ごめん!」
強烈な紫色の短髪の魔女が、申し訳なさそうにカーテンを引き老女を閉め込もうとした。ルーピンも手伝ったが、カーテンは閉まらず、老女はますます鋭い叫びを上げて、二人の顔を引き裂こうとするかのように、両手の長い爪を振り回した。
「穢らわしい!クズども!塵芥の輩!雑種、異形、でき損ないども。ここから立ち去れ!わが祖先の館を、よくも──」
魔女は何度も何度も謝り倒したが、二人はカーテンを閉めるのを諦め、ムーディと一緒にホールを駆けずり回って、ほかの肖像画に杖で「失神術」をかけはじめた。
「シレンシオ、黙れ!」
ナマエも一緒になって肖像画の一つに「黙らせ呪文」を掛けると、壮年の魔法使いの絵はナマエを睨みつけた。
すると、ナマエの行く手の扉から、黒い長い髪の男が飛び出してきた。
「黙れ。この鬼婆。黙るんだ!」
──シリウスだ。シリウスは、みんなが諦めたカーテンをつかんで吼えた。 老女の顔が血の気を失った。
「こいつぅぅぅぅぅ!」
老女が喚いた。シリウスの姿を見て、両眼が飛び出していた。
「血を裏切る者よ。忌まわしや。わが骨肉の恥!」
「聞こえないのか──だ──ま──れ!」
シリウスが吼えた。そして、ルーピンと二人がかりの金剛力で、やっとカーテンを元のように閉じた。 老女の叫びが消え、しーんと沈黙が広がった。少し息を弾ませ、長い黒髪を目の上から掻き上げ、シリウスがナマエを見た。
「まったく、トンクスめ……!やあ、ナマエ。私の母親に会ったようだね」
「母親──」
ナマエは改めてホールを見渡した。人に見捨てられたような仄暗く古びた館だが、不気味なオブジェや内装は気位の高い闇の魔法使いの好みそうなものに見えた。
「ここは──ブラック家?」
「察しがいいな。急いで上に行こう。奴らがまた起きないうちに」
シリウスはナマエのトランクを持ち上げての後をナマエは抜き足差し足で通った。トロールの足を切って作ったのではないかと思われる巨大な傘立ての脇をすり抜け、暗い階段を上り、萎びた首が掛かった飾り板がずらりと並ぶ壁の前を通り過ぎた。よく見ると、首は屋敷しもべ妖精のものだった。ナマエは顔を顰めた。
薄汚れた踊り場を歩いて、シリウスは寝室のドアの取っ手を回した。取っ手は蛇の頭の形をしていた。
シリウスが扉を開くと、ベッドが三つ置かれた天井の高い部屋だった。そして、ベッドの壁の間に小さな背丈で大きな耳の屋敷しもべ妖精が背中を丸めてぶつぶつと独り言を漏らしていた。
「ああ、奥様はお屋敷にカスどもが入り込んだことをお知りになったら、このクリーチャーめになんと仰せられることか。おお、哀れなこのクリーチャーは、どうすればいいのだろう……」
「クリーチャー!この部屋を出ていくんだ」
シリウスがイライラしたように言った。クリーチャーと呼ばれた屋敷しもべ妖精はゆっくりと振り返った。シノビーよりもずいぶんと年老いて見えた。腰に巻かれたボロ布以外は素っ裸で、目は血走り、耳から白髪がぼうぼう生えていた。
「クリーチャーはご主人様に気がつきませんでした」
クリーチャーは顔を上げることもせず、煤だらけの絨毯を睨みつけたままとぼとぼとドアに向かった。
「新顔の子がいる。クリーチャーは名前を知らない。ここで何をしてるのか?クリーチャーは知らない……」
独り言と呼ぶには大きな言葉を、このしもべ妖精は誰にも聞かれていないと思い込んでいるように見えた。今まで見てきた屋敷しもべは、キーキー甲高い声で魔法使いにへつらっていたが、このクリーチャーは違った。ナマエはいけないと思いつつも何故かおかしい気持ちで口角を上げてしまった。
「ナマエだ。ナマエ・ミョウジ」
「ミョウジ?イングランドにそんな純血家系はない。馴れ馴れしい小僧、クリーチャーに友達づらで話しかける」
ナマエは耐えきれずに笑うと、シリウスは苦々しい顔で言った。
「さっさと出ていくんだ!」
「おお、気が狂ったガキに罪人。ご主人様は恩知らずの卑劣漢。クリーチャーめは出ていくところです」
クリーチャーは恭しくお辞儀をして部屋を出た。シリウスはため息をついた。
「全く、何を企んでるんだか……ああ、ここは君たちの部屋だ。誰が使ってもいい」
「俺たち?」
「じきにウィーズリー家がここにくる」
ナマエはきょとんとしてシリウスを見返した。
「ハリーは?」
「……ハリーは来ない。しばらくはダーズリー家で過ごしてもらう」
「なぜ?」
「ダンブルドアの考えだ」
そう言われれば誰であろうと何も反論はできまい。しかし、シリウスは明らかに承服しかねるといった表情だった。
ナマエは部屋を見渡した。使っていいと言われても、あちこちに埃がたっぷり貯まっていて、とても人が住めるようには思えなかった。換気をしようとナマエがカーテンに手を伸ばすと、カサカサと嫌な音がした。
「気をつけろ、ドクシーがいるかもしれない。誰も住んでいなかったんだ、まったく。クリーチャーめ、この十年間何をしてたんだ」
ナマエは手を止めた。シリウスはナマエのトランクを床に置いた。
「じゃあ、何してたんだ?こんな広くてやることが山ほどありそうな家、シノビーなら泣いて喜ぶぜ」
「さあね、偏屈な奴だ。早く首を切られて壁に飾られたいらしい」
シリウスはが吐き捨てた。ナマエは杖をベッドに向け、「スコージファイ」と唱えてから座った。
「みんなでこんなところに集まって何してるんだ?」
「ここは不死鳥の騎士団──対ヴォルデモートの対策本部だ」
ナマエは辺りを見回した。周囲の家々の煤けた玄関は、あまり歓迎ムードには見えなかった。あちこちの家の割れた窓ガラスが、街灯の明かりを受けて鈍い光を放っていた。ペンキが剥げかけたドアが多く、何軒かの玄関先には階段下にゴミが積み上げられたままだ。いま立っているのは十一番地。左を見ると十番地と書いてある。右は、なんと十三番地だ。
「静かに──さっき見せたものを思い出すんだ」
キングズリーが辺りを警戒しながら言った。ナマエは言われたとおりに先ほど見たメモを思い出した。
──グリモールド・プレイス十二番地。
すると、十一番地と十三番地の間にどこからともなく古びて傷んだ扉が現れ、たちまち、薄汚れた壁と煤けた窓も現れた。まるで、両側の家を押し退けて、もう一つの家が膨れ上がってきたようだった。キングズリーがすり減った石段を上がって扉を杖で叩いた。カチッカチッと大きな金属音が何度か続き、鎖がカチャカチャいうような音が聞こえて扉がギーッと開いた。
「早く入るんだ」
キングズリーが囁いた。
「ただし、あまり奥には入らないよう。何にも触らないよう」
ナマエは敷居を跨ぎ、ほとんど真っ暗闇の玄関ホールに入った。湿った埃っぽい臭いと、饐えた臭いがした。ここには打ち捨てられた廃屋の気配が漂っている。
柔らかいジュッという音が聞こえ、旧式のガスランプが壁に沿ってポッと灯った。長い陰気なホールの向こうから、足を引き摺る音が近づいてきた。
「久しぶり、というわけにはいかんようだ」
「──ムーディ、先生」
ナマエの身体が無意識に強張った。数週間前、この姿をした男によってナマエは生死を彷徨う大怪我を負わされた。そして、その瞬間までは教師として、むしろ理想的な父親にすら近いような信頼を寄せていたのだ。苦い裏切りの記憶は、警戒に足る十分な理由だった。
「……わしが先生かどうかは、わからん。なかなか教える機会がなかったろうが?」
ムーディは唸るように、しかし少し気遣わしげに言った。姿だけではなく立ち居振る舞いまでも、この九ヶ月間見ていたペテン師と何も違わないように見えた。ダンブルドアをも欺いたクラウチ・ジュニアの演技力は並大抵ではなかったのだと気がついた。
「大丈夫。背が伸びたね、ナマエ」
今度は懐かしい声がした。
「ルーピン先生!」
ナマエの心が踊った。ルーピンの姿は一年以上も見なかったが、以前よりも白髪が増えてくたびれたように見えた。
「私も、もう先生ではないけどね」
ルーピンは柔らかく笑った。
「詳しく効かせてくれ、何があった」
ムーディは魔法の目をぎょろぎょろさせながらキングズリーに尋ねた。
「この子が
キングズリーは疲れたように息を吐いて話し始めた。
「念のため、君が帰宅する前に私が君の家で待っておく手筈だった。しかし──私が扉に手をかけた途端……」
キングズリーは手をぱっと開いて爆発の手振りをした。
「それで、すぐに君の元へ迎えに行ったわけだ」
「あの、俺のこと、見張ってたんですか」
ナマエは気恥ずかしい思いで言った。
「念のためにね」
キングズリーはナマエが真っ直ぐ家に帰らず何をしていたかを詳しく話す気はなさそうだった。ナマエはほっと胸を撫で下ろした。
しかし、ムーディは納得していない様子で、ナマエを見た。
「なにか家にミョウジが隠していたものだとか、そういうものは」
「えっと……わかりません。俺は父の部屋に入ったことがないし──」
ナマエが言い淀むと、魔法の目がナマエを捉えた。ふと思い出したのは、指輪だった。憂いの篩で見た、ゴーントの黒い石の指輪。母が父に預けたところを見た。あれはどこにあるのだろう。しかし、憂の篩で見たことはダンブルドアから「ロマニ以外に言うな」と口止めされていた。
「ええと、いえ。なんでも──」
突然、叫び声がこだました。あとの言葉は、耳を劈き血も凍る、恐ろしい叫びに呑み込まれてしまった。みんなが呆れたような慌てたような様子で走っていくので、ついていくと、虫食いだらけのビロードのカーテンが、左右に開かれていた。黒い帽子を被った老女がいて、叫んでいる。まるで拷問を受けているかのような叫びだ。ナマエがいままで見た中で一番生々しい等身大の肖像画だった。老女は涎を垂らし、白目を剥き、叫んでいるせいで、黄ばんだ顔の皮膚が引き攣っている。
ホール全体に掛かっている他の肖像画も目を覚まして叫び出した。
「ごめん!」
強烈な紫色の短髪の魔女が、申し訳なさそうにカーテンを引き老女を閉め込もうとした。ルーピンも手伝ったが、カーテンは閉まらず、老女はますます鋭い叫びを上げて、二人の顔を引き裂こうとするかのように、両手の長い爪を振り回した。
「穢らわしい!クズども!塵芥の輩!雑種、異形、でき損ないども。ここから立ち去れ!わが祖先の館を、よくも──」
魔女は何度も何度も謝り倒したが、二人はカーテンを閉めるのを諦め、ムーディと一緒にホールを駆けずり回って、ほかの肖像画に杖で「失神術」をかけはじめた。
「シレンシオ、黙れ!」
ナマエも一緒になって肖像画の一つに「黙らせ呪文」を掛けると、壮年の魔法使いの絵はナマエを睨みつけた。
すると、ナマエの行く手の扉から、黒い長い髪の男が飛び出してきた。
「黙れ。この鬼婆。黙るんだ!」
──シリウスだ。シリウスは、みんなが諦めたカーテンをつかんで吼えた。 老女の顔が血の気を失った。
「こいつぅぅぅぅぅ!」
老女が喚いた。シリウスの姿を見て、両眼が飛び出していた。
「血を裏切る者よ。忌まわしや。わが骨肉の恥!」
「聞こえないのか──だ──ま──れ!」
シリウスが吼えた。そして、ルーピンと二人がかりの金剛力で、やっとカーテンを元のように閉じた。 老女の叫びが消え、しーんと沈黙が広がった。少し息を弾ませ、長い黒髪を目の上から掻き上げ、シリウスがナマエを見た。
「まったく、トンクスめ……!やあ、ナマエ。私の母親に会ったようだね」
「母親──」
ナマエは改めてホールを見渡した。人に見捨てられたような仄暗く古びた館だが、不気味なオブジェや内装は気位の高い闇の魔法使いの好みそうなものに見えた。
「ここは──ブラック家?」
「察しがいいな。急いで上に行こう。奴らがまた起きないうちに」
シリウスはナマエのトランクを持ち上げての後をナマエは抜き足差し足で通った。トロールの足を切って作ったのではないかと思われる巨大な傘立ての脇をすり抜け、暗い階段を上り、萎びた首が掛かった飾り板がずらりと並ぶ壁の前を通り過ぎた。よく見ると、首は屋敷しもべ妖精のものだった。ナマエは顔を顰めた。
薄汚れた踊り場を歩いて、シリウスは寝室のドアの取っ手を回した。取っ手は蛇の頭の形をしていた。
シリウスが扉を開くと、ベッドが三つ置かれた天井の高い部屋だった。そして、ベッドの壁の間に小さな背丈で大きな耳の屋敷しもべ妖精が背中を丸めてぶつぶつと独り言を漏らしていた。
「ああ、奥様はお屋敷にカスどもが入り込んだことをお知りになったら、このクリーチャーめになんと仰せられることか。おお、哀れなこのクリーチャーは、どうすればいいのだろう……」
「クリーチャー!この部屋を出ていくんだ」
シリウスがイライラしたように言った。クリーチャーと呼ばれた屋敷しもべ妖精はゆっくりと振り返った。シノビーよりもずいぶんと年老いて見えた。腰に巻かれたボロ布以外は素っ裸で、目は血走り、耳から白髪がぼうぼう生えていた。
「クリーチャーはご主人様に気がつきませんでした」
クリーチャーは顔を上げることもせず、煤だらけの絨毯を睨みつけたままとぼとぼとドアに向かった。
「新顔の子がいる。クリーチャーは名前を知らない。ここで何をしてるのか?クリーチャーは知らない……」
独り言と呼ぶには大きな言葉を、このしもべ妖精は誰にも聞かれていないと思い込んでいるように見えた。今まで見てきた屋敷しもべは、キーキー甲高い声で魔法使いにへつらっていたが、このクリーチャーは違った。ナマエはいけないと思いつつも何故かおかしい気持ちで口角を上げてしまった。
「ナマエだ。ナマエ・ミョウジ」
「ミョウジ?イングランドにそんな純血家系はない。馴れ馴れしい小僧、クリーチャーに友達づらで話しかける」
ナマエは耐えきれずに笑うと、シリウスは苦々しい顔で言った。
「さっさと出ていくんだ!」
「おお、気が狂ったガキに罪人。ご主人様は恩知らずの卑劣漢。クリーチャーめは出ていくところです」
クリーチャーは恭しくお辞儀をして部屋を出た。シリウスはため息をついた。
「全く、何を企んでるんだか……ああ、ここは君たちの部屋だ。誰が使ってもいい」
「俺たち?」
「じきにウィーズリー家がここにくる」
ナマエはきょとんとしてシリウスを見返した。
「ハリーは?」
「……ハリーは来ない。しばらくはダーズリー家で過ごしてもらう」
「なぜ?」
「ダンブルドアの考えだ」
そう言われれば誰であろうと何も反論はできまい。しかし、シリウスは明らかに承服しかねるといった表情だった。
ナマエは部屋を見渡した。使っていいと言われても、あちこちに埃がたっぷり貯まっていて、とても人が住めるようには思えなかった。換気をしようとナマエがカーテンに手を伸ばすと、カサカサと嫌な音がした。
「気をつけろ、ドクシーがいるかもしれない。誰も住んでいなかったんだ、まったく。クリーチャーめ、この十年間何をしてたんだ」
ナマエは手を止めた。シリウスはナマエのトランクを床に置いた。
「じゃあ、何してたんだ?こんな広くてやることが山ほどありそうな家、シノビーなら泣いて喜ぶぜ」
「さあね、偏屈な奴だ。早く首を切られて壁に飾られたいらしい」
シリウスはが吐き捨てた。ナマエは杖をベッドに向け、「スコージファイ」と唱えてから座った。
「みんなでこんなところに集まって何してるんだ?」
「ここは不死鳥の騎士団──対ヴォルデモートの対策本部だ」