不死鳥の騎士団
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
⚡️─────
今夜の大広間での夕食は、ハリーにとって楽しいものではなかった。アンブリッジの授業でハリーが怒鳴り合いをしたというニュースは、ホグワーツの基準に照らしても例外的な速さで広まっていた。ロンとハーマイオニーに挟まれて食事をしていても、ハリーの耳には周囲の囁きが絶え間なく聞こえてきた。おかしなことに、ひそひそ話の主たちは、話の内容を当の本人に聞かれても一向に構わないようだった。それどころか、ハリーが腹を立ててまた怒鳴り出せば、本人から直接話が聞けると期待しているふしさえあった。
「セドリック・ディゴリーが殺されるのを見たって言った……」
「『例のあの人』と決闘したなんて……」
「まさか……」
「誰がそんな話を信じると思っているんだ?」
「全くいい面の皮だ……」
両手が震え、ナイフとフォークを握っていられなくなったその時、ハリーの背後で呪文の火花が走った。
「シレンシオ、黙れ!」
振り返ると、ハッフルパフの上級生の一人が金魚のように口をぱくぱくさせていたが、何の音も漏れてこなかった。その隣に座っていた生徒が色をなして立ち上がり、杖を取り出した。
「何をするんだ、ミョウジ!」
沈黙呪文を放ったのはナマエだった。レイブンクローのテリー・ブートも連れている。ナマエはハリーと目が合うと、不敵に口角を上げて見せた。
「おかしいな。フウーパーの鳴き声でも聞こえたかと思ったのに」
「……フウーパーはハリー・ポッターの方だろう!」
ハッフルパフ生の声が響き、その場がしんと静まり返った。誰もがハリーたちの出方を窺っている。ハリーが立ち上がろうとするのをハーマイオニーが必死に制したが、制約のないナマエはさらに煽るように言った。
「信じられないな。夏休みのたった二ヶ月の間に、セドリック・ディゴリーのことも、ダンブルドアの言葉も、ぜーんぶ忘れたのか?そんなんでNEWT の試験を受けられるわけ?」
ハッフルパフ生は顔を真っ赤にして、手に持っていた教科書を背後に隠した。
「……ディゴリーは事故で死んだんだ! くだらない虚言に巻き込むな! ──君は『日刊預言者新聞』をろくに読んでいないのか!」
ハーマイオニーがおろおろと立ち上がりかけていた。ナマエは鼻で笑った。
「今世紀で最も偉大な魔法使いの言葉よりも、どこの馬の骨とも知れない記者を信じるのが賢明だと思っているなら、あんたがレイブンクローに選ばれなかったのも頷ける」
陰でひそひそ話に興じていたレイブンクローの下級生たちが、一斉に黙り込んで下を向くのをハリーは見逃さなかった。
「──ナマエ! その辺にしておこう。アンブリッジに聞かれるとまずいぜ」
テリー・ブートが大広間の入り口を落ち着かなげに気にしながら言った。ナマエはふんと鼻を鳴らすと、「じゃあな、ハリー」と言い残し、歩き出した。去り際にテリーが少し気まずそうに、ハリーにひょいと片手を上げて見せた。
「……しばらくは静かに過ごせるんじゃない?」
ハーマイオニーは座り直して、ツンとした声で言った。しかし、その顔は心配そうにナマエの背中を追っていた。
「きざな野郎だ」
ロンは吐き捨てるように言ったが、ナマエが公然と支持を表明したことが、ハリーとダンブルドアを疑う声を封じ込めたのは明らかだった。
ナマエは、時折ロンのいう通り鼻につくほどきざだが、たいていは気さくで、ハンサムで──少し鈍臭いところもあるが、成績は五年生の中でもハーマイオニーと並んでトップだった。
それに、ナマエがいつも連れ立っているレイブンクローの男子生徒たちも、あの中にいれば、後ろ指を指されずに済むような連中だった。その中の一人、アンソニー・ゴールドスタインは監督生でもある。
もしチョウに見られるのであれば、今の自分のような孤立した立場ではなく、彼らのようなスマートな一団の中にいたいと、ハリーは思わずにはいられなかった。
🐦⬛───────────
テリーと共に西塔へと続く大廊下を歩いていたナマエは、角を曲がったところで三人の影に道を塞がれた。フレッドとジョージ、それにリー・ジョーダンだ。彼らは何やら共謀者めいた笑みを浮かべ、ナマエを取り囲んだ。
「よう、ナマエ。君のパパはホンモノだな」
フレッドが心底感心したように言い、ジョージがそれに深く頷いた。
ナマエは目をぱちくりさせた。嫌な予感がして、小脇に抱えた重い教科書を抱え直した。
「……また誰かが、『ゲーゲートローチ』でも食べて担ぎ込まれたのか?」
「さすが、察しがいいね! 昨日の夜、一年坊主が試作品を誤飲 して、顔を紫にしてあろうことか医務室へ飛び込んだんだ」
リーが愉快そうに教えた。
「普通なら、マダム・ポンフリーに絞られて、マクゴナガルにバレて一週間の居残り刑だ」「ところが、チチオヤ先生は違った」
ジョージが声を潜め、芝居がかった手つきで続けた。
「先生はニコニコしながら、その生徒を一瞬で治しただけじゃない。僕らにこう言ったんだ。『面白い、君たちの調合は実に見事だ。ただ、吐き気を催させる成分に、少しばかりゼニアオイのパウダーを混ぜてごらん。そうすれば、吐き気が引いた後に、もっと爽やかな後味が残るはずだ』ってね」
ナマエは絶句した。
「……助言をしたのか? あの人が?あんたたちの悪戯グッズに?」
「それだけじゃないぜ!」
フレッドが興奮気味に付け加えた。
「『鼻血ヌルヌルヌガー』の副作用を抑えるための、魔法的な血清の配合まで教えてくれたんだ。おかげで商品の安全性が飛躍的に向上した。まさに、悪戯界の救世主だよ」
ナマエは混乱してテリーを見たが、テリーもわけがわからず肩をすくめた。
家でのチチオヤは、自分の息子を一人の人間として見ることすら避け、視線すら合わせようとしない。それなのに、学校では生徒たちの悪戯に加担してまで「物分かりの良い、茶目っ気たっぷりの先生」を演じている。その徹底した外面の良さが、ナマエの神経を逆なでした。
「じゃあな。改良版ができたら、最初に君に試させてあげるよ。チチオヤ先生の太鼓判付きだ!」
双子たちは陽気に手を振って去っていった。ナマエはその後ろ姿を見送りながら、胸の奥で煮えくり返るような不快感を抑えきれなかった。
「テリー、悪いけど──」
「ううん、いってらっしゃい」
ナマエは踵を返すと、図書室へ戻る予定を変更し、迷いのない足取りで医務室へと向かった。 問いただしたいことは山ほどある。一体全体、どういうつもりなんだ。どこでどう生きていたのか、なぜ連絡を寄越さなかったのか、耳飾りはなんなのか、そしてなぜ、今さら校医などという肩書きでホグワーツにやってきたのか。
「……ちょっと、どいてくれ」
医務室の扉の前に到着したナマエは、思わず足を止めた。
そこには、異様なほどの人だかりができていた。
「ほら、君はもう大丈夫だ。寮に戻りなさい」
扉の隙間から聞こえてきたのは、ナマエの記憶にある高圧的な父の声ではなかった。
「うわぁ……ありがとうございます、先生! 」
「先生、さっきの呪文、もう一度詳しく教えていただけますか? 救急魔法の理論、もっと知りたくて」
ナマエは、あまりの光景に扉の取っ手を掴んだまま硬直した。
中を覗き込めば、そこには煤けた旅装を脱ぎ捨て、清潔感あふれる白いローブを纏ったチチオヤがいた。彼は、生徒一人ひとりに慈愛に満ちた微笑みを振りまいていた。
チチオヤがふっと顔を上げ、入口に立つナマエへと視線を向けた。その瞳は一瞬だけ、いつもの険しさを取り戻したが、すぐにまた、貼り付けたような優雅な笑みに上書きされた。
ナマエは拳を握り締め、ツカツカと女子生徒の群れに囲まれた父親に歩み寄った。
「……バシュト !」
ナマエが低い声で叩きつけた耳慣れない言葉に、周囲の女子生徒たちは一瞬で静まり返った。その言葉の意味は分からなくとも、ナマエの機嫌が悪いことは誰の目にも明らかだった。パタパタとみんな連れ立って医務室を出ていくと、チチオヤはふうと息を吐いた。
「この学校は怪我人が多すぎるな」
くたびれた顔でナマエに笑いかけた。まるでいつもそうしているかのような態度が、ナマエの心を逆撫でた。しかし、ナマエは初め気が付かなかったが、奥のベッドではチチオヤの言うとおり、何人もの男子生徒がマダム・ポンフリーの治療を受けていた。双子の仕業だろうか。マダム・ポンフリーはベッドの間を縫って一人一人に薬を飲ませながら、「よくもそんな野蛮な遊びを!」と叱り飛ばしていた。
急に、夏休み中チチオヤを心配していたのがひどく馬鹿らしく思えた。
「……本当に、ここで働くつもりなわけ?」
「公式な手続きは済ませた。誰も彼も、権力ある人間は体裁を気にする。そこにつけ込むのが私のやり方というわけだ」
チチオヤは椅子に深く腰掛けて、ナマエをまじまじと見つめた。
「──よく無事だった」
「いつの話だよ」
ナマエはイライラしていた。死に目にあった息子と、短い間とはいえ生き別れも同然になっていたというのに、この男は説明もなく、悪びれもせず、普通の親子が交わすような抱擁の一つもない。
「わかっている、悪かった。しばらく身を隠す必要があった。その話は──」
チチオヤがナマエの背後に視線をやり、言葉を切って立ち上がった。
「……これほどまでに怪我人が多いとは、由々しき事態ですわね」
ピンクのカーディガンを揺らしながら、アンブリッジが医務室に足を踏み入れた。その目は、ベッドを埋め尽くしている生徒たちを見定めていた。
チチオヤは手袋を嵌め直し、微笑みを浮かべて彼女に向き合った。
「まったくです。私のような専門家が、このタイミングで着任したことは幸運でしたな。ポンフリー一人では、今頃悲鳴を上げていたでしょう」
「……ええ、それは良うございましたこと。ですが、これほどの負傷者が出る原因 をご存知かしら? 」
アンブリッジはなぜかナマエを見て微笑んだ。
「はて、クィディッチの練習に精が出たとか?」
チチオヤが答えた。ナマエは嫌な予感がしてその場を去ろうとすると、アンブリッジは短い杖の先で、ナマエをピシャリと指して制した。
「教えて差し上げますわ。……生徒たちの間で、上空の箒からダイブする、野蛮で危険極まりない遊びが流行っているのです!そして、その遊びを最初に始めたのが誰か、もちろんご存知ですわね? 」
ナマエの背中に冷たい汗が流れた。フレッドとジョージが流行らせたに違いないが──始めたのはたしかにナマエだった。
チチオヤの視線が、ゆっくりとナマエへと向けられた。ナマエは思わず目を逸らした。
「ミスター・ミョウジ。あなたの息子さんですわ」
「……はて。それは初耳ですな。うちの息子は、どちらかと言えば地に足のついた性格だと思っておりましたが」
チチオヤはとぼけるように首を傾げた。その口調は丁寧ではあったが、アンブリッジの言葉をこれっぽっちも重要視していない、傲慢なまでの余裕が透けて見えた。当のアンブリッジはチチオヤの態度には気づかない様子でナマエに向き直ると、優しげな笑みを向けた。
「ミスター・ミョウジ。……レイブンクロー十点減点! そして、金曜の夜五時にわたくしの部屋へ来なさい。反省文を書いていただきますわ。……よろしいかしら、校医先生?」
「もちろん。教育は魔法省の管轄ですから。……ナマエ、しっかり指導していただくんだぞ」
チチオヤは優雅に一礼したが、その目は笑っていなかった。
ナマエは、アンブリッジの視線と、嘘くさい父親の笑顔に挟まれ、逃げ場のない息苦しさを感じていた。
「……はい」
ナマエは短く答えた。
今夜の大広間での夕食は、ハリーにとって楽しいものではなかった。アンブリッジの授業でハリーが怒鳴り合いをしたというニュースは、ホグワーツの基準に照らしても例外的な速さで広まっていた。ロンとハーマイオニーに挟まれて食事をしていても、ハリーの耳には周囲の囁きが絶え間なく聞こえてきた。おかしなことに、ひそひそ話の主たちは、話の内容を当の本人に聞かれても一向に構わないようだった。それどころか、ハリーが腹を立ててまた怒鳴り出せば、本人から直接話が聞けると期待しているふしさえあった。
「セドリック・ディゴリーが殺されるのを見たって言った……」
「『例のあの人』と決闘したなんて……」
「まさか……」
「誰がそんな話を信じると思っているんだ?」
「全くいい面の皮だ……」
両手が震え、ナイフとフォークを握っていられなくなったその時、ハリーの背後で呪文の火花が走った。
「シレンシオ、黙れ!」
振り返ると、ハッフルパフの上級生の一人が金魚のように口をぱくぱくさせていたが、何の音も漏れてこなかった。その隣に座っていた生徒が色をなして立ち上がり、杖を取り出した。
「何をするんだ、ミョウジ!」
沈黙呪文を放ったのはナマエだった。レイブンクローのテリー・ブートも連れている。ナマエはハリーと目が合うと、不敵に口角を上げて見せた。
「おかしいな。フウーパーの鳴き声でも聞こえたかと思ったのに」
「……フウーパーはハリー・ポッターの方だろう!」
ハッフルパフ生の声が響き、その場がしんと静まり返った。誰もがハリーたちの出方を窺っている。ハリーが立ち上がろうとするのをハーマイオニーが必死に制したが、制約のないナマエはさらに煽るように言った。
「信じられないな。夏休みのたった二ヶ月の間に、セドリック・ディゴリーのことも、ダンブルドアの言葉も、ぜーんぶ忘れたのか?そんなんで
ハッフルパフ生は顔を真っ赤にして、手に持っていた教科書を背後に隠した。
「……ディゴリーは事故で死んだんだ! くだらない虚言に巻き込むな! ──君は『日刊預言者新聞』をろくに読んでいないのか!」
ハーマイオニーがおろおろと立ち上がりかけていた。ナマエは鼻で笑った。
「今世紀で最も偉大な魔法使いの言葉よりも、どこの馬の骨とも知れない記者を信じるのが賢明だと思っているなら、あんたがレイブンクローに選ばれなかったのも頷ける」
陰でひそひそ話に興じていたレイブンクローの下級生たちが、一斉に黙り込んで下を向くのをハリーは見逃さなかった。
「──ナマエ! その辺にしておこう。アンブリッジに聞かれるとまずいぜ」
テリー・ブートが大広間の入り口を落ち着かなげに気にしながら言った。ナマエはふんと鼻を鳴らすと、「じゃあな、ハリー」と言い残し、歩き出した。去り際にテリーが少し気まずそうに、ハリーにひょいと片手を上げて見せた。
「……しばらくは静かに過ごせるんじゃない?」
ハーマイオニーは座り直して、ツンとした声で言った。しかし、その顔は心配そうにナマエの背中を追っていた。
「きざな野郎だ」
ロンは吐き捨てるように言ったが、ナマエが公然と支持を表明したことが、ハリーとダンブルドアを疑う声を封じ込めたのは明らかだった。
ナマエは、時折ロンのいう通り鼻につくほどきざだが、たいていは気さくで、ハンサムで──少し鈍臭いところもあるが、成績は五年生の中でもハーマイオニーと並んでトップだった。
それに、ナマエがいつも連れ立っているレイブンクローの男子生徒たちも、あの中にいれば、後ろ指を指されずに済むような連中だった。その中の一人、アンソニー・ゴールドスタインは監督生でもある。
もしチョウに見られるのであれば、今の自分のような孤立した立場ではなく、彼らのようなスマートな一団の中にいたいと、ハリーは思わずにはいられなかった。
🐦⬛───────────
テリーと共に西塔へと続く大廊下を歩いていたナマエは、角を曲がったところで三人の影に道を塞がれた。フレッドとジョージ、それにリー・ジョーダンだ。彼らは何やら共謀者めいた笑みを浮かべ、ナマエを取り囲んだ。
「よう、ナマエ。君のパパはホンモノだな」
フレッドが心底感心したように言い、ジョージがそれに深く頷いた。
ナマエは目をぱちくりさせた。嫌な予感がして、小脇に抱えた重い教科書を抱え直した。
「……また誰かが、『ゲーゲートローチ』でも食べて担ぎ込まれたのか?」
「さすが、察しがいいね! 昨日の夜、一年坊主が試作品を
リーが愉快そうに教えた。
「普通なら、マダム・ポンフリーに絞られて、マクゴナガルにバレて一週間の居残り刑だ」「ところが、チチオヤ先生は違った」
ジョージが声を潜め、芝居がかった手つきで続けた。
「先生はニコニコしながら、その生徒を一瞬で治しただけじゃない。僕らにこう言ったんだ。『面白い、君たちの調合は実に見事だ。ただ、吐き気を催させる成分に、少しばかりゼニアオイのパウダーを混ぜてごらん。そうすれば、吐き気が引いた後に、もっと爽やかな後味が残るはずだ』ってね」
ナマエは絶句した。
「……助言をしたのか? あの人が?あんたたちの悪戯グッズに?」
「それだけじゃないぜ!」
フレッドが興奮気味に付け加えた。
「『鼻血ヌルヌルヌガー』の副作用を抑えるための、魔法的な血清の配合まで教えてくれたんだ。おかげで商品の安全性が飛躍的に向上した。まさに、悪戯界の救世主だよ」
ナマエは混乱してテリーを見たが、テリーもわけがわからず肩をすくめた。
家でのチチオヤは、自分の息子を一人の人間として見ることすら避け、視線すら合わせようとしない。それなのに、学校では生徒たちの悪戯に加担してまで「物分かりの良い、茶目っ気たっぷりの先生」を演じている。その徹底した外面の良さが、ナマエの神経を逆なでした。
「じゃあな。改良版ができたら、最初に君に試させてあげるよ。チチオヤ先生の太鼓判付きだ!」
双子たちは陽気に手を振って去っていった。ナマエはその後ろ姿を見送りながら、胸の奥で煮えくり返るような不快感を抑えきれなかった。
「テリー、悪いけど──」
「ううん、いってらっしゃい」
ナマエは踵を返すと、図書室へ戻る予定を変更し、迷いのない足取りで医務室へと向かった。 問いただしたいことは山ほどある。一体全体、どういうつもりなんだ。どこでどう生きていたのか、なぜ連絡を寄越さなかったのか、耳飾りはなんなのか、そしてなぜ、今さら校医などという肩書きでホグワーツにやってきたのか。
「……ちょっと、どいてくれ」
医務室の扉の前に到着したナマエは、思わず足を止めた。
そこには、異様なほどの人だかりができていた。
「ほら、君はもう大丈夫だ。寮に戻りなさい」
扉の隙間から聞こえてきたのは、ナマエの記憶にある高圧的な父の声ではなかった。
「うわぁ……ありがとうございます、先生! 」
「先生、さっきの呪文、もう一度詳しく教えていただけますか? 救急魔法の理論、もっと知りたくて」
ナマエは、あまりの光景に扉の取っ手を掴んだまま硬直した。
中を覗き込めば、そこには煤けた旅装を脱ぎ捨て、清潔感あふれる白いローブを纏ったチチオヤがいた。彼は、生徒一人ひとりに慈愛に満ちた微笑みを振りまいていた。
チチオヤがふっと顔を上げ、入口に立つナマエへと視線を向けた。その瞳は一瞬だけ、いつもの険しさを取り戻したが、すぐにまた、貼り付けたような優雅な笑みに上書きされた。
ナマエは拳を握り締め、ツカツカと女子生徒の群れに囲まれた父親に歩み寄った。
「……
ナマエが低い声で叩きつけた耳慣れない言葉に、周囲の女子生徒たちは一瞬で静まり返った。その言葉の意味は分からなくとも、ナマエの機嫌が悪いことは誰の目にも明らかだった。パタパタとみんな連れ立って医務室を出ていくと、チチオヤはふうと息を吐いた。
「この学校は怪我人が多すぎるな」
くたびれた顔でナマエに笑いかけた。まるでいつもそうしているかのような態度が、ナマエの心を逆撫でた。しかし、ナマエは初め気が付かなかったが、奥のベッドではチチオヤの言うとおり、何人もの男子生徒がマダム・ポンフリーの治療を受けていた。双子の仕業だろうか。マダム・ポンフリーはベッドの間を縫って一人一人に薬を飲ませながら、「よくもそんな野蛮な遊びを!」と叱り飛ばしていた。
急に、夏休み中チチオヤを心配していたのがひどく馬鹿らしく思えた。
「……本当に、ここで働くつもりなわけ?」
「公式な手続きは済ませた。誰も彼も、権力ある人間は体裁を気にする。そこにつけ込むのが私のやり方というわけだ」
チチオヤは椅子に深く腰掛けて、ナマエをまじまじと見つめた。
「──よく無事だった」
「いつの話だよ」
ナマエはイライラしていた。死に目にあった息子と、短い間とはいえ生き別れも同然になっていたというのに、この男は説明もなく、悪びれもせず、普通の親子が交わすような抱擁の一つもない。
「わかっている、悪かった。しばらく身を隠す必要があった。その話は──」
チチオヤがナマエの背後に視線をやり、言葉を切って立ち上がった。
「……これほどまでに怪我人が多いとは、由々しき事態ですわね」
ピンクのカーディガンを揺らしながら、アンブリッジが医務室に足を踏み入れた。その目は、ベッドを埋め尽くしている生徒たちを見定めていた。
チチオヤは手袋を嵌め直し、微笑みを浮かべて彼女に向き合った。
「まったくです。私のような専門家が、このタイミングで着任したことは幸運でしたな。ポンフリー一人では、今頃悲鳴を上げていたでしょう」
「……ええ、それは良うございましたこと。ですが、これほどの負傷者が出る
アンブリッジはなぜかナマエを見て微笑んだ。
「はて、クィディッチの練習に精が出たとか?」
チチオヤが答えた。ナマエは嫌な予感がしてその場を去ろうとすると、アンブリッジは短い杖の先で、ナマエをピシャリと指して制した。
「教えて差し上げますわ。……生徒たちの間で、上空の箒からダイブする、野蛮で危険極まりない遊びが流行っているのです!そして、その遊びを最初に始めたのが誰か、もちろんご存知ですわね? 」
ナマエの背中に冷たい汗が流れた。フレッドとジョージが流行らせたに違いないが──始めたのはたしかにナマエだった。
チチオヤの視線が、ゆっくりとナマエへと向けられた。ナマエは思わず目を逸らした。
「ミスター・ミョウジ。あなたの息子さんですわ」
「……はて。それは初耳ですな。うちの息子は、どちらかと言えば地に足のついた性格だと思っておりましたが」
チチオヤはとぼけるように首を傾げた。その口調は丁寧ではあったが、アンブリッジの言葉をこれっぽっちも重要視していない、傲慢なまでの余裕が透けて見えた。当のアンブリッジはチチオヤの態度には気づかない様子でナマエに向き直ると、優しげな笑みを向けた。
「ミスター・ミョウジ。……レイブンクロー十点減点! そして、金曜の夜五時にわたくしの部屋へ来なさい。反省文を書いていただきますわ。……よろしいかしら、校医先生?」
「もちろん。教育は魔法省の管轄ですから。……ナマエ、しっかり指導していただくんだぞ」
チチオヤは優雅に一礼したが、その目は笑っていなかった。
ナマエは、アンブリッジの視線と、嘘くさい父親の笑顔に挟まれ、逃げ場のない息苦しさを感じていた。
「……はい」
ナマエは短く答えた。
