不死鳥の騎士団
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談話室に戻ると、いろんな視線を感じた。ハリー・ポッターの虚言癖についてだったり、突然現れた特任校医だったりの話をしているのがうっすら聞こえた。ナマエは相手をする気力がなかったので、聞こえないふりをして真っ直ぐ寝室に向かおうとした。すると、ルーナがナマエの行く手をふさぐように立ち止まって、大きな目でナマエを覗き込んだ。
「ねえ、あたしは、ハリー・ポッターの言ってることを信じてるよ。あんたが死喰い人に襲われて、『名前を言ってはいけないあの人』が帰ってきて、セドリックは例のあの人に殺されたって。あたしのパパもそう言ってるモン」
「──けど、しわしわ角スノーカックも信じてるだろう?」
テリーがニタニタして言ったが、ルーナは動じなかった。
「うん、昔はみんな信じてなかったけどね」
ルーナは大きな目をナマエから背けずに答えた。テリーが呆れたような笑い方をした。
ナマエも曖昧に笑い、ルーナの脇をすり抜けて男子寮の四人部屋に戻った。服を脱ぎ捨てて雑にパジャマに着替えると、ベッドに飛び込んだ。横になってゆっくり考えたいことが山ほどあった。
「──なあ、君。家が燃えちゃって、どこで暮らしてたんだ?」
ナマエがベッドに潜り込むと、暗がりからテリーが出し抜けに聞いた。
「あー、……ウィーズリー家だよ。何回か泊まらせてもらってるし、親父も知り合いだから」
実際はブラック邸だが、半分本当だった。
すると、突然興味を持ったマイケルが言った。
「ジニー・ウィーズリーもいた?」
「そりゃそうだろ──え?あは、何だよ」
ナマエはニヤッとしたが、マイケルは曖昧な声を出した。
「──君、少し気をつけた方がいいよ」
アンソニーが遠慮がちに言った。ナマエは少ししてから自分に言われているのだと気がついて、首を声の方に向けた。
「何が?」
「僕らは君と仲が良いから、君が言うならハリーも──全くの嘘っぱちを言ってるとは思わないよ。けど──」
ナマエは困ったように前髪を吹き飛ばした。腹立たしいような、ありがたいような、よくわからない気持ちを飲み込んだ。
「……うん、わかった。ありがとう。けど、本当に──例のあの人は帰ってきたんだぜ」
「君は、大怪我をして帰ってきた。それも関係あるの?」
反対側のベッドからテリーが言った。マイケルもベッドに腰掛けながらナマエの答えを待っているようだった。ナマエは眠るのを諦め、起き上がった。毛布から這い出て、蝋燭台を片手に持ち、もう片方の手でパジャマを捲り上げて見せた。
「そうだ──この傷が、その時の怪我だ。ここの骨を取られた」
歪に凸凹したケロイドが蝋燭の火に照らされると、三人が息を呑んだ。ナマエは続けた。
「マッド-アイに化けていた死喰い人にやられたんだ。血縁者の骨が、例のあの人の復活に必要だったんだと。例のあの人はゴーント家の血筋で、俺の母上もそうみたいなんだ」
「だから君は蛇語がわかるんだ!」
テリーが思い出したように叫んだ。ナマエは小さく頷いた。
「俺は見てないけど、この骨を使って例の──ヴォルデモートが復活するのを、ハリーが見た。俺は医務室で、コーネリウス・ファッジがダンブルドアと口論しているのを見た。ファッジは、『ハリーの言うことを信じない、嘘だから魔法省は何にも対策なんかしない』って言い張った」
ナマエがヴォルデモートの名を口にすると、三人はぎくりと固まった。
「じゃあ……校長がウィゼンガモットを解任されたのも、国際魔法使い連盟から除名されたことも──そのせいなの?」
テリーが聞くと、ナマエの代わりにマイケルが頷いた。
「そうなんじゃないか。他に理由がないだろう──うん、筋が通る」
「賢いやつ」
ナマエは救われる思いで言った。テリーがまた尋ねた。
「じゃあ、君んちが襲われたのは何でなの?」
「それは、……俺にもわからない。校医にでも聞いてみようかな」
ナマエは眉を顰めて言った。
そうだ、あの父親に、今夜のことだけでなく、何もかも問いたださなければならない。──生きていたのだから。
「言っても無駄だろうけど、無茶しないでね、ナマエ」
アンソニーが言った。ナマエは眉を緩めて笑った。
「うん。そういうところが、俺より監督生向きだと思う」
大広間でのチチオヤの衝撃的な登場から一夜明け、ナマエは一睡もできないまま朝を迎えた。ナマエは疲れた足を引きずってうとうとしながら廊下を歩くアンソニーたちに合流した。
「ナマエ、どこに行ってたの?」
いつもの四人で初めの授業に向かっていると、アンソニーがナマエに尋ねた。
「……医務室に行ってたんだ、親父がいると思って……でも、マダム・ポンフリーしかいなかった。なんなんだ、特任校医ってのは」
「よりによってふくろうの年に親が学校にいるなんて、災難なやつだなあ」
マイケルが哀れそうに言った。
五年生になって初めての授業は、闇の魔術に対する防衛術の授業だった。レイブンクローの五年生がぞろぞろと教室に入っていくと、アンブリッジ先生はもう教壇に座っていた。ふわふわのピンクのカーディガンを着て、頭のてっぺんに黒いビロードのリボンを結んでいる。まるで少女のような服装だ。
「さあ、こんにちは!」
クラス全員が座ると、先生が挨拶した。何人かが「こんにちは」とボソボソ挨拶を返した。アンブリッジ先生が舌を鳴らした。
「チッチッチ……それではいけませんねえ。みなさん、どうぞ、こんなふうに。『こんにちは、アンブリッジ先生』。もう一度いきますよ、はい、こんにちは、みなさん!」
「こんにちは、アンブリッジ先生」
みんな一斉に挨拶を唱えた。ナマエの視界の端で、マイケルが心底面倒くさそうに天井を仰いでいた。
「そう、そう」
アンブリッジ先生がやさしく言った。
「難しくないでしょう?杖をしまって、教科書を出してくださいね」
アンブリッジ先生はハンドバッグを開け、自分の杖を取り出した。ナマエが見た中で一番短い杖だった。先生が杖で黒板を強く叩くと、たちまち文字が現れた。
闇の魔術に対する防衛術 基本に返れ
「さて、みなさん、この学科のこれまでの授業は、かなり乱れてバラバラでしたね。そうでしょう?」
アンブリッジ先生は両手を体の前できちんと組み、正面を向いた。
「先生がしょっちゅう変わって、しかも、その先生方の多くが魔法省指導要領に従っていなかったようです。しかし今年は、慎重に構築された理論中心の魔法省指導要領どおりの防衛術を学んでまいります──では、五ページを開いてください。『第一章、初心者の基礎』。おしゃべりはしないこと」
アンブリッジ先生は黒板を離れ、教壇の先生用の机の椅子に陣取り、クラスを観察した。ナマエは教科書を開いたまま、アンブリッジと教科書を交互に見つめた。アンブリッジは静かな教室でじっと座っていた。これを読めというだけのことが「授業」だとは、甚だ信じられなかった。
「あの、先生……」
「わたくしのクラスで発言したい生徒は、手を挙げること。ミスター──?」
「ミョウジです」
ナマエは手を高く挙げた。アンブリッジ先生は一瞬目を細めてから、ますますにっこり微笑んだ。
「よろしい、ミスター・ミョウジ。この章について質問がありますか?」
「いえ、防衛術の基礎理論は予習したので理解しているつもりです」
「良い心がけです、ミスター・ミョウジ。しかし、授業に関係ない質問はいただけません。クラスが終わってから──」
「この教科書には呪文が一つも載っていませんでした。実技の練習はしないんですか?」
アンブリッジは、わざとらしい咳払いをしてから、心底不快そうに言った。
「私の話を遮ることは許されません。レイブンクロー、五点減点!」
ナマエの減点を受けてクラスがざわついた。が、果敢にもアンソニーが挙手をした。
「──あなた、お名前は?」
「アンソニー・ゴールドスタインです。今年はO・W・L 試験があると思いますが──」
「試験に合格するためには、理論的な知識で十分足りるというのが魔法省の見解です。結局学校というものは、試験に合格するためにあるのですから。それで、あなたのお名前は?」
アンブリッジは生徒の言葉を遮って答え、いま手を挙げたばかりのパドマを見て聞いた。
「パドマ・パチルです。それじゃ、『闇の魔術に対する防衛術』のOWLには、実技はないんですか?実際に反対呪文とかやって見せなくてもいいんですか?」
「理論を十分に勉強すれば、試験という慎重に整えられた条件の下で、呪文がかけられないということはありえません」
アンブリッジが、素っ気なく言った。
「それまで一度も練習しなくても?」
パドマが信じられないという顔をした。
「初めて呪文を使うのが試験場だとおっしゃるんですか?」
「繰り返します。理論を十分に勉強すれば──」
「嫌なばばあ」
テリーがアンブリッジには聞こえないように小さく言った。マイケルも不服そうに羽ペンを回していた。レイブンクロー生がざわめいた。O・W・L は全ての五年生にとって今年最大の関心ごとだが、多くのレイブンクロー生は、この試験を他の寮生よりも重く捉えていた。
「静かになさい!同じ質問を繰り返さない!」
アンブリッジは甲高い声で言い放ち、足を組み替えて座り直した。生徒は絶望の沈黙に包まれた。
「……うあーぁ、スネイプ以外から授業中に減点されたのは初めてだ」
二限続きの地獄のようにつまらない授業が終わり、廊下に出た途端にナマエは大欠伸をした。アンソニーが不安そうに言った。
「本気であの人、呪文を教えないつもりかな?」
「二時間ぶっ通しで教科書を読むだけ?あんなの授業とは言えない、ほぼ独学で試験に臨まなきゃ」
マイケルが鼻を鳴らして言った。ナマエもウンウン頷いた。
「来週には読むモン無くなってるぜ。待ってるのが試験だけならいいけどさ──」
「ハアイ、ナマエ」
ぶつくさ文句を言っていると、グリフィンドールの上級生の女子がすれ違い様にナマエに手を振った。教室を出て渡り廊下を歩く間、何人かの話したことがない女の子たちがナマエに挨拶をしてきた。
この頃ナマエは、今までよりも自分が女の子の視線を集めている自覚があった。モリーさんのいう通り、髪が短い方がハンサムに見えるのかもしれないと思った。
しかし、ナマエに降りかかる視線は好意だけではなかった。
「……またハリーの話か」
耳を澄まさずとも、肘を突きあって低い声で話すときは、大抵はナマエが『狂言癖』のハリー・ポッターと付き合いがあることについてのヒソヒソ話だった。ハリー・ポッターと親しくして、死喰い人に襲われたとのたまうナマエも虚言癖があるという噂だ。
昼食のために大広間に向かうと、ハリーが一人で大広間から出てくるところだった。
ハリーを見つけると、レイブンクローの何人かは群れを固めた。群れを離れるとハリーに襲われるのを恐れているかのようだった。
腹立たしい気持ちを抑えて、あえてナマエは明るく声を上げた。
「ハリー!」
当のハリーは不機嫌さを隠さずに顔を上げた。ナマエは、去年の 三大魔法学校対抗試合 の代表に選ばれた時のハリーを思い出した。いや、思い返せば、ハリーが後ろ指を刺されることはしょっちゅうあった。一晩でグリフィンドールの点数を百五十点減らしたとき、秘密の部屋の継承者だと思われていた時──衆目に晒され、悪意に晒される日々はナマエには想像しかできなかったが、放っておくことはできなかった。ナマエはにっと笑ってみせた。
「一人?」
「ハーマイオニーなら、ロンと一緒だよ」
固まってヒソヒソしている生徒を睨みつけながら、ハリーは言った。ナマエは眉を下げた。
「別に、彼女に用があるわけじゃない。──なあ、こいつらはあんたのこと信じてるよ」
ナマエがアンソニー、テリー、マイケルに目配せすると、テリーが言った。
「まあ、ナマエが言うならね」
ハリーは不服そうに鼻を鳴らした。
「誰が言っても言わなくても事実だ、セドリックは勝手に死んだんじゃない」
「味方に噛み付くなよ、ハリー」
ナマエは呆れたように言ったが、ハリーは見るからに参っているようだった。アンソニーが補うように穏やかに言った。
「グリフィンドールは、防衛術の授業はまだこれからだろう?アンブリッジの授業は酷いよ、質問しただけで減点だ」
「気をつけろよ、ハリー。あの女、僕はスネイプより嫌いだ」
マイケルも親しげに言った。臨戦態勢だったハリーは、はじめよりも幾分か表情が和らいだ。ハリーが行ってしまうと、テリーがぼそっと呟いた。
「ありゃ相当参ってるな」
「無理ないよ──日刊預言者新聞はだいたいの魔法使いが読んでるし……みんながみんな君みたいな態度じゃいられない──あれ、マイケルは?」
アンソニーがキョロキョロした。ナマエもマイケルの姿を探すと、大広間の端っこで、マイケルはジニーと楽しげに話していた。テリーが目を丸くした。
「できてるのか?あの二人」
「さあ……」
ナマエはマイケルたちから目を離し、グリフィンドールのテーブルでロンとハーマイオニーを見つけた。二人は一言も交わさず黙々と昼食を食べていた。テリーはナマエの視線に気がついてニヤニヤして言った。
「あの二人は?」
「できてちゃ困る……ごめん、俺やっぱりハリーと話してくる!」
ナマエはアンソニーたちに手を振ると、大広間のテーブルからパンプキン・パスティを一つ掴んで走り出した。
「ハリー!」
玄関ホールを歩いていたハリーが、怪訝そうに足を止め、顔を上げてナマエを真っ直ぐに見た。
「……ナマエ、君のパパって──魔法省の手先じゃないよね?」
「多分な。仲良しの役人は多いらしいけど、ダンブルドアは親父がここに来るのを承知してたみたいだ。それ以外は……何も教えてくれない」
ナマエは苦い顔で答え、パスティを乱暴に頬張ると、そのまま歩き出した。
「今朝も医務室に行ったけど、特任校医様は不在だ。親父には、騎士団とは別の目的がある気がする」
二人が中庭に出ると、ナマエはハリーの首に腕を回して肩を組んで、片方の口角を上げた。
「気晴らししようぜ、箒を呼べよ。外に出よう」
「箒?ナマエ、乗れるようになったの?」
「スカッとしたい気分なんだ」
ナマエはパスティを平らげ、周囲に誰もいないことを確認すると、地面にバッグを放り出した。
「──杖を構えてろ、ハリー」
ナマエは植え込みの影に屈み込み、次の瞬間には一羽のカササギになって勢いよく飛び出した。ハリーの目の前を掠め、一気に高度を上げる。ハリーが豆粒に見えるほどの高さまで登り詰めた。
そして、──空中で変化を解いた。
ハリーの悲鳴が聞こえた。
ナマエは体の重みに身を任せ、ハリーに向かって真っ逆さまに落ちていく。風が真正面からぶつかってきて、ローブも、髪も、思考も、全部まとめて後ろへ吹き飛ばしていく。風が鼓膜を叩き、景色が猛スピードで流れた。そして、地面が迫った。
「レヴィオーソ!!!」
地面まで数フィートというところで、ハリーの叫び声とともに、ナマエの体は目に見えないクッションに受け止められたようにふわりと宙に浮いた。
「──俺はあんたを信じてた!あははは!」
全身の血が逆流するような快感に、ナマエは荒い息をつきながら笑った。高揚するナマエとは対照的に、ハリーが青ざめた顔をした。
「──正気か!?君ってたまに、わけがわからないよ!バンジージャンプのほうが安全だ……」
「バンジージャンプ?」
ナマエはふわふわと浮かされまま聞き返した。
「マグルの遊びだよ……」
ハリーはまだ動揺しているように答えながら、ナマエの浮遊術を解いた。ナマエは不恰好に着地したまま、ハリーを見上げた。
「ハリーもやれよ、スリリングだぜ。呪文の練習にもなるし。……まあ、でも……無理にとは言わない。──ただ、レイブンクローの方が度胸があるってことになるだけだしな」
ナマエが挑戦的に微笑むと、ハリーの瞳に久しぶりに挑戦的な光が灯った。彼はファイアボルトを呼び寄せると、ナマエを見た。
「僕も──君を信じていいんだね?」
「もちろん」
ナマエがにっこりそう答えると、ハリーはカササギの何倍もの速さで一気に空高く飛び立った。ナマエが飛んだよりも高い場所まで辿り着いたようだった。ナマエがハリーの影を見守っていると、しばらくしてから、箒からダイブした。ぐんぐん近づいてくるハリーに、ナマエは杖を構えた。
「アレスト・モメンタム!」
ナマエが叫ぶと、ハリーは地面スレスレで落下をやめ、そのまま芝生に転がった。二人は顔を見合わせ、声を上げて笑った。ナマエが興奮して言った。
「気が晴れただろ!」
「あはは、狂ってる!」
二人が肩で息をしながら笑い合っていると、拍手の音が聞こえた。
「──今のを見たか、ジョージ?」
「ああ見たとも、フレッド。まさに『彗星』のようだった」
芝生の影から、双子のウィズリーがニヤニヤしながら現れた。どうやらナマエが落下し始めた直後に通りかかったらしい。
「ナマエ、君はどこから降ってきたんだ? 天文台の塔か? それとも透明マントで浮いてたのか?」
「さあ?どうだろう」
ナマエがハリーにだけ目配せをすると、ハリーも口角を上げて沈黙を守った。双子はそんな二人の様子に、ますます興味をそそられたようだ。
「いいぞ、その『謎の落下者』という演出! まさに彗星だ。なあジョージ、これを『レヴィオ・自由落下』と名付けて競技にしないか?」
双子はますます目を輝かせた。
「よし、決まりだ! 明日から大々的に宣伝しよう。ルールは簡単、『一番地面の近くで呪文を唱えた奴が勝ち』だ!」
盛り上がる双子を見て、ナマエとハリーは愉快な気持ちになった。
午後は冷たく風も出てきていた。禁じられた森の端にあるハグリッドの小屋まで、下り坂の芝生を歩いていると、ときどき雨がパラパラと顔に当たった。グラブリー=プランク先生はハグリッドの小屋の戸口から十メートル足らずのところで生徒を待っていた。先生の前には小枝がたくさん載った長い架台が置かれている。
後ろの方で、ナマエを見ながら何人かが話しているのが聞こえた。ニヤニヤした女の子たちでなければ、やはりだいたいは、気が狂ったハリーと仲良くしているナマエも、気が狂っているかどうかの議論だった。
ナマエがため息をついて先生の方を向くと、ハッフルパフのアーネスト・マクミランがナマエの肩を叩いた。
「ナマエ、僕もハリーを信じてる。少なくとも誰が書いたか知れない記事よりは──両親もダンブルドアを信頼している」
アーニーは威厳たっぷりに言った。彼はこういったときに大げさに振る舞う節があるが、今は逆に心強かった。
「アーニー、できたら……ハリーにもそう伝えてやってくれないかな。多分、気が滅入ってると思うから」
ナマエはにっこりした。
「ナマエ」
アーニーが去ると、またナマエを呼ぶ遠慮がちな声が聞こえた。振り返ると、ハッフルパフのスーザン・ボーンズと、ハンナ・アボットだった。ハンナに押されるように前に出たスーザンは、俯きがちで言った。
「あの……髪型、とてもいいわ」
「ありがとう、あんたも似合ってるよ」
ナマエはスーザンの目線に合わせて顔を覗き込むようにして答えると、スーザンはいっそう俯いて、自分のお下げをぎゅっと握った。
アーニーの宣言の後だったので、何か同じような励ましをくれるのかと思って、少しの間その姿を見つめていたが、テリーが「行こう」とナマエの肩を叩いた。
「グレンジャー以外にああいうことするのやめろよな」
その場を去りながら、テリーがナマエを非難した。
「ああいうことってなんだよ」
「思わせぶりなんだよ、いまのはやりすぎ。だよな?」
「まったくだ」
マイケルが神妙に頷いた。ナマエはにたっとしてマイケルに言った。
「心配しなくても、ジニーの髪型を褒めたことはないぜ」
「ナマエ、何」
いつも澄ました顔のマイケルが焦るのがおかしくて、ナマエたちは笑った。テリーが言った。
「いつから付き合ってるんだい?」
「さあ、どうだろうね?……あっ、ウィーズリー家の連中には言うなよ!妹と僕が付き合ってるなんて」
「言わない、言わない」
マイケルは特にナマエを見ながら釘を指した。
「ねえ、あたしは、ハリー・ポッターの言ってることを信じてるよ。あんたが死喰い人に襲われて、『名前を言ってはいけないあの人』が帰ってきて、セドリックは例のあの人に殺されたって。あたしのパパもそう言ってるモン」
「──けど、しわしわ角スノーカックも信じてるだろう?」
テリーがニタニタして言ったが、ルーナは動じなかった。
「うん、昔はみんな信じてなかったけどね」
ルーナは大きな目をナマエから背けずに答えた。テリーが呆れたような笑い方をした。
ナマエも曖昧に笑い、ルーナの脇をすり抜けて男子寮の四人部屋に戻った。服を脱ぎ捨てて雑にパジャマに着替えると、ベッドに飛び込んだ。横になってゆっくり考えたいことが山ほどあった。
「──なあ、君。家が燃えちゃって、どこで暮らしてたんだ?」
ナマエがベッドに潜り込むと、暗がりからテリーが出し抜けに聞いた。
「あー、……ウィーズリー家だよ。何回か泊まらせてもらってるし、親父も知り合いだから」
実際はブラック邸だが、半分本当だった。
すると、突然興味を持ったマイケルが言った。
「ジニー・ウィーズリーもいた?」
「そりゃそうだろ──え?あは、何だよ」
ナマエはニヤッとしたが、マイケルは曖昧な声を出した。
「──君、少し気をつけた方がいいよ」
アンソニーが遠慮がちに言った。ナマエは少ししてから自分に言われているのだと気がついて、首を声の方に向けた。
「何が?」
「僕らは君と仲が良いから、君が言うならハリーも──全くの嘘っぱちを言ってるとは思わないよ。けど──」
ナマエは困ったように前髪を吹き飛ばした。腹立たしいような、ありがたいような、よくわからない気持ちを飲み込んだ。
「……うん、わかった。ありがとう。けど、本当に──例のあの人は帰ってきたんだぜ」
「君は、大怪我をして帰ってきた。それも関係あるの?」
反対側のベッドからテリーが言った。マイケルもベッドに腰掛けながらナマエの答えを待っているようだった。ナマエは眠るのを諦め、起き上がった。毛布から這い出て、蝋燭台を片手に持ち、もう片方の手でパジャマを捲り上げて見せた。
「そうだ──この傷が、その時の怪我だ。ここの骨を取られた」
歪に凸凹したケロイドが蝋燭の火に照らされると、三人が息を呑んだ。ナマエは続けた。
「マッド-アイに化けていた死喰い人にやられたんだ。血縁者の骨が、例のあの人の復活に必要だったんだと。例のあの人はゴーント家の血筋で、俺の母上もそうみたいなんだ」
「だから君は蛇語がわかるんだ!」
テリーが思い出したように叫んだ。ナマエは小さく頷いた。
「俺は見てないけど、この骨を使って例の──ヴォルデモートが復活するのを、ハリーが見た。俺は医務室で、コーネリウス・ファッジがダンブルドアと口論しているのを見た。ファッジは、『ハリーの言うことを信じない、嘘だから魔法省は何にも対策なんかしない』って言い張った」
ナマエがヴォルデモートの名を口にすると、三人はぎくりと固まった。
「じゃあ……校長がウィゼンガモットを解任されたのも、国際魔法使い連盟から除名されたことも──そのせいなの?」
テリーが聞くと、ナマエの代わりにマイケルが頷いた。
「そうなんじゃないか。他に理由がないだろう──うん、筋が通る」
「賢いやつ」
ナマエは救われる思いで言った。テリーがまた尋ねた。
「じゃあ、君んちが襲われたのは何でなの?」
「それは、……俺にもわからない。校医にでも聞いてみようかな」
ナマエは眉を顰めて言った。
そうだ、あの父親に、今夜のことだけでなく、何もかも問いたださなければならない。──生きていたのだから。
「言っても無駄だろうけど、無茶しないでね、ナマエ」
アンソニーが言った。ナマエは眉を緩めて笑った。
「うん。そういうところが、俺より監督生向きだと思う」
大広間でのチチオヤの衝撃的な登場から一夜明け、ナマエは一睡もできないまま朝を迎えた。ナマエは疲れた足を引きずってうとうとしながら廊下を歩くアンソニーたちに合流した。
「ナマエ、どこに行ってたの?」
いつもの四人で初めの授業に向かっていると、アンソニーがナマエに尋ねた。
「……医務室に行ってたんだ、親父がいると思って……でも、マダム・ポンフリーしかいなかった。なんなんだ、特任校医ってのは」
「よりによってふくろうの年に親が学校にいるなんて、災難なやつだなあ」
マイケルが哀れそうに言った。
五年生になって初めての授業は、闇の魔術に対する防衛術の授業だった。レイブンクローの五年生がぞろぞろと教室に入っていくと、アンブリッジ先生はもう教壇に座っていた。ふわふわのピンクのカーディガンを着て、頭のてっぺんに黒いビロードのリボンを結んでいる。まるで少女のような服装だ。
「さあ、こんにちは!」
クラス全員が座ると、先生が挨拶した。何人かが「こんにちは」とボソボソ挨拶を返した。アンブリッジ先生が舌を鳴らした。
「チッチッチ……それではいけませんねえ。みなさん、どうぞ、こんなふうに。『こんにちは、アンブリッジ先生』。もう一度いきますよ、はい、こんにちは、みなさん!」
「こんにちは、アンブリッジ先生」
みんな一斉に挨拶を唱えた。ナマエの視界の端で、マイケルが心底面倒くさそうに天井を仰いでいた。
「そう、そう」
アンブリッジ先生がやさしく言った。
「難しくないでしょう?杖をしまって、教科書を出してくださいね」
アンブリッジ先生はハンドバッグを開け、自分の杖を取り出した。ナマエが見た中で一番短い杖だった。先生が杖で黒板を強く叩くと、たちまち文字が現れた。
闇の魔術に対する防衛術 基本に返れ
「さて、みなさん、この学科のこれまでの授業は、かなり乱れてバラバラでしたね。そうでしょう?」
アンブリッジ先生は両手を体の前できちんと組み、正面を向いた。
「先生がしょっちゅう変わって、しかも、その先生方の多くが魔法省指導要領に従っていなかったようです。しかし今年は、慎重に構築された理論中心の魔法省指導要領どおりの防衛術を学んでまいります──では、五ページを開いてください。『第一章、初心者の基礎』。おしゃべりはしないこと」
アンブリッジ先生は黒板を離れ、教壇の先生用の机の椅子に陣取り、クラスを観察した。ナマエは教科書を開いたまま、アンブリッジと教科書を交互に見つめた。アンブリッジは静かな教室でじっと座っていた。これを読めというだけのことが「授業」だとは、甚だ信じられなかった。
「あの、先生……」
「わたくしのクラスで発言したい生徒は、手を挙げること。ミスター──?」
「ミョウジです」
ナマエは手を高く挙げた。アンブリッジ先生は一瞬目を細めてから、ますますにっこり微笑んだ。
「よろしい、ミスター・ミョウジ。この章について質問がありますか?」
「いえ、防衛術の基礎理論は予習したので理解しているつもりです」
「良い心がけです、ミスター・ミョウジ。しかし、授業に関係ない質問はいただけません。クラスが終わってから──」
「この教科書には呪文が一つも載っていませんでした。実技の練習はしないんですか?」
アンブリッジは、わざとらしい咳払いをしてから、心底不快そうに言った。
「私の話を遮ることは許されません。レイブンクロー、五点減点!」
ナマエの減点を受けてクラスがざわついた。が、果敢にもアンソニーが挙手をした。
「──あなた、お名前は?」
「アンソニー・ゴールドスタインです。今年は
「試験に合格するためには、理論的な知識で十分足りるというのが魔法省の見解です。結局学校というものは、試験に合格するためにあるのですから。それで、あなたのお名前は?」
アンブリッジは生徒の言葉を遮って答え、いま手を挙げたばかりのパドマを見て聞いた。
「パドマ・パチルです。それじゃ、『闇の魔術に対する防衛術』のOWLには、実技はないんですか?実際に反対呪文とかやって見せなくてもいいんですか?」
「理論を十分に勉強すれば、試験という慎重に整えられた条件の下で、呪文がかけられないということはありえません」
アンブリッジが、素っ気なく言った。
「それまで一度も練習しなくても?」
パドマが信じられないという顔をした。
「初めて呪文を使うのが試験場だとおっしゃるんですか?」
「繰り返します。理論を十分に勉強すれば──」
「嫌なばばあ」
テリーがアンブリッジには聞こえないように小さく言った。マイケルも不服そうに羽ペンを回していた。レイブンクロー生がざわめいた。
「静かになさい!同じ質問を繰り返さない!」
アンブリッジは甲高い声で言い放ち、足を組み替えて座り直した。生徒は絶望の沈黙に包まれた。
「……うあーぁ、スネイプ以外から授業中に減点されたのは初めてだ」
二限続きの地獄のようにつまらない授業が終わり、廊下に出た途端にナマエは大欠伸をした。アンソニーが不安そうに言った。
「本気であの人、呪文を教えないつもりかな?」
「二時間ぶっ通しで教科書を読むだけ?あんなの授業とは言えない、ほぼ独学で試験に臨まなきゃ」
マイケルが鼻を鳴らして言った。ナマエもウンウン頷いた。
「来週には読むモン無くなってるぜ。待ってるのが試験だけならいいけどさ──」
「ハアイ、ナマエ」
ぶつくさ文句を言っていると、グリフィンドールの上級生の女子がすれ違い様にナマエに手を振った。教室を出て渡り廊下を歩く間、何人かの話したことがない女の子たちがナマエに挨拶をしてきた。
この頃ナマエは、今までよりも自分が女の子の視線を集めている自覚があった。モリーさんのいう通り、髪が短い方がハンサムに見えるのかもしれないと思った。
しかし、ナマエに降りかかる視線は好意だけではなかった。
「……またハリーの話か」
耳を澄まさずとも、肘を突きあって低い声で話すときは、大抵はナマエが『狂言癖』のハリー・ポッターと付き合いがあることについてのヒソヒソ話だった。ハリー・ポッターと親しくして、死喰い人に襲われたとのたまうナマエも虚言癖があるという噂だ。
昼食のために大広間に向かうと、ハリーが一人で大広間から出てくるところだった。
ハリーを見つけると、レイブンクローの何人かは群れを固めた。群れを離れるとハリーに襲われるのを恐れているかのようだった。
腹立たしい気持ちを抑えて、あえてナマエは明るく声を上げた。
「ハリー!」
当のハリーは不機嫌さを隠さずに顔を上げた。ナマエは、去年の
「一人?」
「ハーマイオニーなら、ロンと一緒だよ」
固まってヒソヒソしている生徒を睨みつけながら、ハリーは言った。ナマエは眉を下げた。
「別に、彼女に用があるわけじゃない。──なあ、こいつらはあんたのこと信じてるよ」
ナマエがアンソニー、テリー、マイケルに目配せすると、テリーが言った。
「まあ、ナマエが言うならね」
ハリーは不服そうに鼻を鳴らした。
「誰が言っても言わなくても事実だ、セドリックは勝手に死んだんじゃない」
「味方に噛み付くなよ、ハリー」
ナマエは呆れたように言ったが、ハリーは見るからに参っているようだった。アンソニーが補うように穏やかに言った。
「グリフィンドールは、防衛術の授業はまだこれからだろう?アンブリッジの授業は酷いよ、質問しただけで減点だ」
「気をつけろよ、ハリー。あの女、僕はスネイプより嫌いだ」
マイケルも親しげに言った。臨戦態勢だったハリーは、はじめよりも幾分か表情が和らいだ。ハリーが行ってしまうと、テリーがぼそっと呟いた。
「ありゃ相当参ってるな」
「無理ないよ──日刊預言者新聞はだいたいの魔法使いが読んでるし……みんながみんな君みたいな態度じゃいられない──あれ、マイケルは?」
アンソニーがキョロキョロした。ナマエもマイケルの姿を探すと、大広間の端っこで、マイケルはジニーと楽しげに話していた。テリーが目を丸くした。
「できてるのか?あの二人」
「さあ……」
ナマエはマイケルたちから目を離し、グリフィンドールのテーブルでロンとハーマイオニーを見つけた。二人は一言も交わさず黙々と昼食を食べていた。テリーはナマエの視線に気がついてニヤニヤして言った。
「あの二人は?」
「できてちゃ困る……ごめん、俺やっぱりハリーと話してくる!」
ナマエはアンソニーたちに手を振ると、大広間のテーブルからパンプキン・パスティを一つ掴んで走り出した。
「ハリー!」
玄関ホールを歩いていたハリーが、怪訝そうに足を止め、顔を上げてナマエを真っ直ぐに見た。
「……ナマエ、君のパパって──魔法省の手先じゃないよね?」
「多分な。仲良しの役人は多いらしいけど、ダンブルドアは親父がここに来るのを承知してたみたいだ。それ以外は……何も教えてくれない」
ナマエは苦い顔で答え、パスティを乱暴に頬張ると、そのまま歩き出した。
「今朝も医務室に行ったけど、特任校医様は不在だ。親父には、騎士団とは別の目的がある気がする」
二人が中庭に出ると、ナマエはハリーの首に腕を回して肩を組んで、片方の口角を上げた。
「気晴らししようぜ、箒を呼べよ。外に出よう」
「箒?ナマエ、乗れるようになったの?」
「スカッとしたい気分なんだ」
ナマエはパスティを平らげ、周囲に誰もいないことを確認すると、地面にバッグを放り出した。
「──杖を構えてろ、ハリー」
ナマエは植え込みの影に屈み込み、次の瞬間には一羽のカササギになって勢いよく飛び出した。ハリーの目の前を掠め、一気に高度を上げる。ハリーが豆粒に見えるほどの高さまで登り詰めた。
そして、──空中で変化を解いた。
ハリーの悲鳴が聞こえた。
ナマエは体の重みに身を任せ、ハリーに向かって真っ逆さまに落ちていく。風が真正面からぶつかってきて、ローブも、髪も、思考も、全部まとめて後ろへ吹き飛ばしていく。風が鼓膜を叩き、景色が猛スピードで流れた。そして、地面が迫った。
「レヴィオーソ!!!」
地面まで数フィートというところで、ハリーの叫び声とともに、ナマエの体は目に見えないクッションに受け止められたようにふわりと宙に浮いた。
「──俺はあんたを信じてた!あははは!」
全身の血が逆流するような快感に、ナマエは荒い息をつきながら笑った。高揚するナマエとは対照的に、ハリーが青ざめた顔をした。
「──正気か!?君ってたまに、わけがわからないよ!バンジージャンプのほうが安全だ……」
「バンジージャンプ?」
ナマエはふわふわと浮かされまま聞き返した。
「マグルの遊びだよ……」
ハリーはまだ動揺しているように答えながら、ナマエの浮遊術を解いた。ナマエは不恰好に着地したまま、ハリーを見上げた。
「ハリーもやれよ、スリリングだぜ。呪文の練習にもなるし。……まあ、でも……無理にとは言わない。──ただ、レイブンクローの方が度胸があるってことになるだけだしな」
ナマエが挑戦的に微笑むと、ハリーの瞳に久しぶりに挑戦的な光が灯った。彼はファイアボルトを呼び寄せると、ナマエを見た。
「僕も──君を信じていいんだね?」
「もちろん」
ナマエがにっこりそう答えると、ハリーはカササギの何倍もの速さで一気に空高く飛び立った。ナマエが飛んだよりも高い場所まで辿り着いたようだった。ナマエがハリーの影を見守っていると、しばらくしてから、箒からダイブした。ぐんぐん近づいてくるハリーに、ナマエは杖を構えた。
「アレスト・モメンタム!」
ナマエが叫ぶと、ハリーは地面スレスレで落下をやめ、そのまま芝生に転がった。二人は顔を見合わせ、声を上げて笑った。ナマエが興奮して言った。
「気が晴れただろ!」
「あはは、狂ってる!」
二人が肩で息をしながら笑い合っていると、拍手の音が聞こえた。
「──今のを見たか、ジョージ?」
「ああ見たとも、フレッド。まさに『彗星』のようだった」
芝生の影から、双子のウィズリーがニヤニヤしながら現れた。どうやらナマエが落下し始めた直後に通りかかったらしい。
「ナマエ、君はどこから降ってきたんだ? 天文台の塔か? それとも透明マントで浮いてたのか?」
「さあ?どうだろう」
ナマエがハリーにだけ目配せをすると、ハリーも口角を上げて沈黙を守った。双子はそんな二人の様子に、ますます興味をそそられたようだ。
「いいぞ、その『謎の落下者』という演出! まさに彗星だ。なあジョージ、これを『レヴィオ・自由落下』と名付けて競技にしないか?」
双子はますます目を輝かせた。
「よし、決まりだ! 明日から大々的に宣伝しよう。ルールは簡単、『一番地面の近くで呪文を唱えた奴が勝ち』だ!」
盛り上がる双子を見て、ナマエとハリーは愉快な気持ちになった。
午後は冷たく風も出てきていた。禁じられた森の端にあるハグリッドの小屋まで、下り坂の芝生を歩いていると、ときどき雨がパラパラと顔に当たった。グラブリー=プランク先生はハグリッドの小屋の戸口から十メートル足らずのところで生徒を待っていた。先生の前には小枝がたくさん載った長い架台が置かれている。
後ろの方で、ナマエを見ながら何人かが話しているのが聞こえた。ニヤニヤした女の子たちでなければ、やはりだいたいは、気が狂ったハリーと仲良くしているナマエも、気が狂っているかどうかの議論だった。
ナマエがため息をついて先生の方を向くと、ハッフルパフのアーネスト・マクミランがナマエの肩を叩いた。
「ナマエ、僕もハリーを信じてる。少なくとも誰が書いたか知れない記事よりは──両親もダンブルドアを信頼している」
アーニーは威厳たっぷりに言った。彼はこういったときに大げさに振る舞う節があるが、今は逆に心強かった。
「アーニー、できたら……ハリーにもそう伝えてやってくれないかな。多分、気が滅入ってると思うから」
ナマエはにっこりした。
「ナマエ」
アーニーが去ると、またナマエを呼ぶ遠慮がちな声が聞こえた。振り返ると、ハッフルパフのスーザン・ボーンズと、ハンナ・アボットだった。ハンナに押されるように前に出たスーザンは、俯きがちで言った。
「あの……髪型、とてもいいわ」
「ありがとう、あんたも似合ってるよ」
ナマエはスーザンの目線に合わせて顔を覗き込むようにして答えると、スーザンはいっそう俯いて、自分のお下げをぎゅっと握った。
アーニーの宣言の後だったので、何か同じような励ましをくれるのかと思って、少しの間その姿を見つめていたが、テリーが「行こう」とナマエの肩を叩いた。
「グレンジャー以外にああいうことするのやめろよな」
その場を去りながら、テリーがナマエを非難した。
「ああいうことってなんだよ」
「思わせぶりなんだよ、いまのはやりすぎ。だよな?」
「まったくだ」
マイケルが神妙に頷いた。ナマエはにたっとしてマイケルに言った。
「心配しなくても、ジニーの髪型を褒めたことはないぜ」
「ナマエ、何」
いつも澄ました顔のマイケルが焦るのがおかしくて、ナマエたちは笑った。テリーが言った。
「いつから付き合ってるんだい?」
「さあ、どうだろうね?……あっ、ウィーズリー家の連中には言うなよ!妹と僕が付き合ってるなんて」
「言わない、言わない」
マイケルは特にナマエを見ながら釘を指した。
