不死鳥の騎士団
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
⚡️────
それから数日が過ぎ、ついに夏休み最後の日が訪れた。
地下には、夕食のご馳走がぎっしりのテーブルの上に、ウィーズリーおばさんが掲げた真紅の横断幕があった。
──おめでとう ハーマイオニー、ロン 新しい監督生──
おばさんは、ハリーの見るかぎり、この夏休み一番の上機嫌だった。
「テーブルに着いて食べるのじゃなくて、立食パーティはどうかと思って」
ハリー、ロン、ハーマイオニー、ナマエ、フレッド、ジョージ、ジニーが厨房に入ると、おばさんが言った。
「お父さまもビルも来ますよ、ロン。二人にふくろうを送ったら、それはそれは大喜びだったわ」
おばさんはにっこりしたが、ナマエは目を伏せた。父親が来ることをほんの少しでも期待していたのかもしれないと、ハリーは思った。
シリウス、ルーピン、トンクス、キングズリー・シャックルボルトはもう来ていたし、マッド‐アイ・ムーディも、ハリーがバタービールを手に取って間もなく、コツッコツッと現れた。──しかし、やはりダンブルドアの姿はなかった。
「さて、そろそろ乾杯しようか」
みんなが飲み物を取ったところで、ウィーズリーおじさんが言った。おじさんはゴブレットを掲げて言った。
「新しいグリフィンドール監督生、ロンとハーマイオニーに」
ロンとハーマイオニーがにっこりした。みんなが二人のために杯を上げ、拍手した。
「兄弟で四番目の監督生よ!」
おばさんは、ロンの髪をくしゃくしゃっと撫でながら、うれしそうに言った。フレッドとジョージはうんざりした顔をしていた。
「わたしは監督生になったことなかったな」
みんなが食べ物を取りにテーブルのほうに動き出したとき、ハリーの背後でトンクスの明るい声がした。今日の髪は、真っ赤なトマト色で、腰まで届く長さだ。
「リーマスは監督生だったよね?」
ルーピンはそう言われて苦笑いをした。
「ダンブルドアは、私が親友たちをおとなしくさせられるかもしれないと、希望的に考えたのだろうな。言うまでもなく、私は見事に失敗したがね」
「リーマスが監督生に選ばれたときは、私とジェームズは、悪事が見逃される通行証を手に入れたと思ったものだ」
シリウスがいつもの吠えるような笑い方をしていた。ハリーは急に気分が晴れ晴れした。
──父さんも監督生じゃなかったんだ。
急に、パーティが楽しく感じられて、ハリーは自分の皿を山盛りにした。
「見てよ、この尾羽の揃い方! 加速性能もバージョンアップしてるんだ」
主役の一人であるロンは、誰彼構わず最新型のクリーンスイープの自慢をして回っていた。
「ロニー坊やが監督生とは」
「世も末だぜ、我が校則破りの日々ももう終わりだ」
フレッドとジョージが、そんなロンを交互に馬鹿にして回った。二人は散々弟をからかったあと、隅でマンダンガスと合流し、何やら怪しげなヒソヒソ話をはじめた。
暖炉のそばには、三人の男が並んで立っている。牙のピアスとポニーテールを垂らしたビル、やつれてはいてもハンサムな顔に伸びかけた黒髪を垂らしたシリウス、そしてその二人に挟まれるようにして、ナマエがいた。
そこへ、ウィーズリーおばさんがいつもの髪型論争を持ち込んでいた。
「ビル、あなたはとってもハンサムなのよ。短い髪のほうがずっと素敵に見えるわ。──シリウス、ナマエ、あなたたちも!」
シリウスは軽く肩をすくめて、ナマエは困ったように眉を下げた。
「あんまり短くしたことなくて……うーん」
彷徨ったナマエの視線は、ハーマイオニーへと向けられてから、何か思いついたようにニッと笑った。
「ハーマイオニー。どう思う? 短い方がいい?
「……えっ!?」
ルーピンに屋敷しもべの権利についてとうとうと述べていたハーマイオニーは、不意を突かれて顔を真っ赤にした。それを見たジニーが歓声を上げてトンクスに抱きついた。
「そ、そうね……。今のままでも素敵だと思うけれど、少しだけ整えても、もっと……その、邪魔にならないんじゃないかしら」
ハーマイオニーがしどろもどろに答えると、ナマエは満足げに頷いた。
「あんたがそう言うなら、少しだけ考えよう」
シリウスが可笑しそうに笑った。ハリーは横目で、ロンが箒に夢中なことを確認してほっと安堵した。
部屋の隅に目を向けると、いつもは魔法の義眼を絶え間なく回転させているムーディーが、微動だにせず一点を見ていた。その視線の先にあるのは、ナマエのようだった。
しかし、ハリーと目が合うと、ムーディーは両方の目をハリーに向けた。
「こっちへ来い。おまえが興味を持ちそうなものがある」
ムーディが言った。ローブの内ポケットから、ムーディは古いボロボロの写真を一枚引っ張り出した。
「不死鳥の騎士団の、創立メンバーだ──」
ハリーは写真を手に取った。小さな集団がハリーを見つめ返していた。何人かがハリーに手を振り、何人かは乾杯した。
「わしだ」
ムーディが自分を指した。そんな必要はなかった。写真のムーディは見間違えようがない。ただし、いまほど白髪ではなく、鼻はちゃんとついている。
「ほれ、わしの隣がダンブルドア、反対隣がディーダラス・ディグルだ……これは魔女のマーリン・マッキノン。この写真の二週間後に殺された。家族全員殺られた。こっちがフランク・ロングボトムと妻のアリス──」
写真を見始めたときからむかむかしていたハリーの胃が、アリス・ロングボトムを見てぎゅっと捻れた。一度も会ったことがないのに、この丸い、人懐っこそうな顔は知っている。息子のネビルそっくりだ。
「──気の毒な二人だ」
ムーディが唸った。
「あんなことになるなら、死んだほうがましだ……こっちはエメリーン・バンス。もう会ってるな?こっちは、言わずもがなのルーピンだ……ベンジー・フェンウィック。こいつも殺られた。死体のかけらしか見つからんかった……ちょっと退いてくれ」
ムーディは写真を突ついた。写真サイズの小さな姿たちが脇に避け、それまで半分陰になっていた姿が前に移動した。
「エドガー・ボーンズ……アメリア・ボーンズの弟だ。こいつも、こいつの家族も殺られた。すばらしい魔法使いだったが……スタージス・ポドモア。なんと、若いな……キャラドック・ディアボーン。この写真から六ヵ月後に消えた。遺体は見つからなんだ……」
ムーディはその調子で出てくる人物の名前と、その人の非業の死を話し続けた。ハリーは、そんな話はちっとも聞きたくなかった。最後に、一番後ろに隠れていた姿が一番前に現れた。
「これはダンブルドアの弟でアバーフォース。このとき一度しか会ってない。奇妙なやつだったな……シリウス。まだ髪が短かったな……それと……ほうれ、これがおまえの気に入ると思ったわ!」
ハリーは心臓がひっくり返った。父親と母親がハリーににっこり笑いかけていた。二人の真ん中に、しょぼくれた目をした小男が座っている。ワームテールだとすぐにわかった。ハリーの両親を裏切ってヴォルデモートにその居所を教え、両親の死をもたらす手引きをした男だ。
「む?」
ムーディが言った。ハリーはムーディの傷だらけ、穴だらけの顔を見つめた。明らかにムーディは、ハリーに思いがけないご馳走を持ってきたつもりなのだ。
「うん」
ハリーはまたしてもにっこり作り笑いをして、話を変えようと試みた。
「えっと、……そうだ、ナマエのパパはいないの?」
「ミョウジ──チチオヤは、正式にはメンバーではなかった」
適当に話題を見つけたつもりが、思いがけない回答にハリーは目を瞬いた。
「えっ──えっ、でも、どうして?味方だったんでしょう?」
「ああ。もちろん。わしを含め、奴がいなければ命を落としていた者たちも大勢いる。しかし……奴は、自分とその家族を守ることだけが目的だった。奴は、命をかけて闇の帝王と闘うつもりはなかったからな。ほかのマグル生まれがどうなろうとな……。だから、息子を取り戻すために我々に協力した。チチオヤにとってそれが本意だったかはわからん。──なにせ、おまえがヴォルデモートを倒した後、チチオヤは結局、ルシウス・マルフォイと取引をしてナマエを取り戻したからな」
「えっ?」
ハリーはまたしても驚いた。ムーディは衝撃を受けているハリーを見ながら、魔法の眼をギョロギョロ動かしていた。目玉は、再びナマエを見ているような気がした。
「そうだ。ルシウス・マルフォイはチチオヤに頭が上がらんし、チチオヤもマルフォイを邪険にはできん──だが、ヴォルデモートが帰ってきた今となっては──」
「マッド‐アイ、そこに何を持ってるんだ?」
いつのまにか近づいていたのはシリウスだった。そしてマッド‐アイがシリウスのほうを見た。ハリーはその隙に誰にも呼び止められずに厨房を横切り、そろりと扉を抜けて階段を上がった。
何にショックを受けたのか、ハリーは自分でもわからなかった。考えてみれば、両親の写真は前にも見たことがあるし、ワームテールにだって会ったことがある……しかし、まったく予期していないときに、あんなふうに突然目の前に両親の姿を突きつけられるなんて……誰だってそんなのはいやだ。ハリーは腹が立った……。両親を囲む楽しそうな顔、顔、顔……かけらしか見つからなかったベンジー・フェンウィック、気が狂うまで拷問されたロングボトム夫妻……みんな幸せそうに写真から手を振っている。永久に振り続ける。待ち受ける暗い運命も知らず……まあ、ムーディにとっては興味のあることかもしれない。
──それに、ナマエのこと。
ハリーは部屋に戻ってベッドに腰を下ろして、空のベッドを眺めた。ナマエのベッドサイドには本がいくつか積んであったが、鳥籠も箒も持っていないせいか、ハリーやロンのベッドに比べてこざっぱりしていた。
ナマエがマルフォイと話している姿を見かけるたびに、ハリーにはもやもやした気持ちがあった。しかし、ナマエ自体が──少なくともハリーやロンよりは、寛容で気さくな人間だから……ただそれだけだと納得していた。どちらにもいい顔をするナマエを心から歓迎できなくとも、ナマエがハリーを慕っていることも、信頼していることも理解しているつもりだった。それなのに、ナマエとチチオヤはハリーたちの預かり知らぬところで、宿敵とも言えるマルフォイと繋がっていた。しかも、ムーディは当然ハリーも知っているように思っていた──ように聞こえた。ハリーにはやり切れない思いだった。
🐦⬛──────
皿がだいたい空になると、モリーさんは大欠伸をして言った。
「さて、みんなあまり夜更かししてはいけませんよ。明日は絶対に絶対に寝坊はできませんからね」
ナマエが流し台に食器を運ぶと、モリーさんがナマエを見た。
「そうだわ、ナマエ。忘れないうちに髪を切ってしまいましょう。明日の朝は忙しいですからね」
「……本当に切った方がいいですか?」
ナマエは少し不安になって髪をなでつけた。
「ええ、よく似合うと思いますよ」
喧騒が落ち着いた厨房で、ナマエは用意された四つ脚の椅子に腰を下ろした。モリーさんがナマエの肩に手を置いて、宥めるように言った。
「大丈夫よ、子供たちの髪はみんな私が切っていますから」
モリーさんがナマエの髪を解き、櫛を通した。こうしてモリーさんに髪を触られるのは、二年生になる前の夏休み以来だった。ふと、櫛がナマエの耳飾りに当たってカチリと音を立てた。
「あら──ごめんなさい。外しておく?」
「いえ……このままで」
ナマエはマッド-アイの「外すな」という忠告を思い出しながら言った。
「父がくれたんです。何でかわからないけど……」
「まあ、そうだったのね」
モリーさんが手際よくハサミを動かすたびに、耳元でシャリ、シャリと硬い音が響く。鏡はないが、床に落ちていく髪の重みで、自分の頭が軽くなっていくのがわかった。ずっと長く、自分の後ろ姿を隠すようにまとまっていた髪が、容赦なく切り落とされていった。
「アーサーは、あなたのお父さまをよく気にかけていたわ」
モリーさんが、ナマエの襟足を整えながら穏やかに言った。
「チチオヤは、あなたと──あなたのお母さまをマグルの街に住まわせていたから。不自由がないようにしたいと、アーサーに相談していたのよ」
「……俺には、父があんまりいい人だとは思えません」
ナマエは、互いの顔が見えないのを盾にして、思っていることをそのまま口に出した。
モリーさんは、チチオヤの良いところだけを教えてくれる。それが自分を気遣ってのことだとはわかっている。みんなそうだった。アーサーさんも、キングズリー、ルーピン、マッド-アイ──シリウスでさえ、ナマエがけしかけなければ悪態をつかない。ナマエを傷つけないための、大人たちの優しさ。
──本当はそんなものは欲しくない。
「……キングズリーが、家を爆破した犯人を探してくれていて──俺の家に出入りしていた人はいないかと聞かれました。……俺の記憶の限り、父は誰も家に招いたことはなかった。アーサーさんもそうでしょう?」
モリーさんの返事を待たずに、ナマエは続けた。
「父はいつもどこかに出かけていたし、家にいるときはほとんど書斎に閉じこもって、俺のことは入れてくれなかった。そのくせ、俺が家を出ると癇癪を起こして──特に、マグルに関わることは徹底的に禁止されたし、ホグワーツからの入学証が届いたときも、『自分と同じダームストラングに通うべきだ』ってほうぼうに手紙を送っていたし──それで喧嘩してぶたれたし──」
ナマエは、どんどん心配が苛立ちに変わっていくのを肌の熱さで感じた。モリーさんのハサミを入れる手が止まっていることにも気が付かなかった。
「父上はいつも威張り散らしてるし、八方美人だった。俺の話なんか聞かないくせに、大人には愛想がいいし、俺よりもよその純血の子供にやさしい。腕のいい癒者だってみんなはいうけど、敵だらけで嫌われ者だって言われても納得できる」
「最近になって、ようやく母上のことをほんの少し教えてくれた。でも、きっとまだ何か──俺に言っていない後ろめたいことがあるんだ。あの、くそ偏屈親父──」
ナマエははっと口に手を当てた。ナマエがいま文句を言っている相手はドラコでもルームメイトでも、ハリーたちでもないことを思い出したのだ。
恐る恐る振り向いたナマエは、モリーさんの瞳に、うっすらと涙が浮かんでいることにぎょっとした。
「すみません──」
「そんな顔をしないで。ちっとも迷惑なんかじゃないわ」
ナマエの申し訳なさそうな言葉を遮るように、モリーさんは力強く、けれど穏やかに首を振った。
「あなたがずっと、文句一つ言わずにいい子でいた理由が、今ようやくわかった気がするわ……甘える場所がなかったのね。お母さまが早くに亡くなって、お父さまもそばにいなくて。そうやって自分を律して、強くあろうとするしかなかった。ああ、なんて健気なことかしら」
モリーさんはハサミを机に置いてナマエをぎゅっと力強く抱きしめた。
「私はね、アーサーほどあなたのお父さまのことは知らないわ。お母さまのこともね。でも、あなたがこうして愚痴をこぼしてくれるようになったことが、私は何よりも嬉しいわ。だって、それはあなたがここを、自分の家だと思ってくれている証拠なんですもの……あの子たちと同じように、あなたには帰る場所がある。私という母親がいる。あなたがどんなに父親の愚痴をこぼしても、私はあなたを嫌いになったりしないわ」
モリーさんはナマエの頭をそっと自分の肩に寄せ、慈しむように髪を撫でた。耳飾りの冷たさが、モリーさんの手の温もりとは対照的にナマエの肌を刺激した。床に落ちた髪を見つめながら、ナマエは言葉にできない寂しさと暖かさをいっしょくたにして、噛み締めていた。
翌朝、ナマエはまた早くに目が覚めた。髪をなでつけると、いつもの重みがないことに違和感を覚えた。
ロンとハリーはまだ夢の中だった。ハリーはぎゅっと眉を顰めて歯を食いしばっていた。……また悪夢を見ているのだろうか。
ナマエはハリーの眉間を人差し指で優しく突いてみた。起きる気配はなかったが、少し皺が薄くなった。
ナマエはほかの子供たちのようにペットがおらず、箒もなければ悪戯道具も、私服も少なかった。荷造りはすぐに終わり、トランクにはまだ余裕があるほどだった。みんなのように汽車で着替えるのが面倒なので、最初から制服のシャツに袖を通し、鏡を見た。見慣れない髪型の自分は、知らない誰かのようだった。
まだ目を覚さない二人を置いて、ナマエは厨房へと降りた。今日はモリーさんたちの方が早かったようだ。
「おはようございます」
「おはよう。早いわね、ナマエ。食べられるうちにお食べなさい」
モリーさんはそう言ってせかせかと朝食の準備をした。
厨房にはアーサーさん、シリウス、トンクス、ルーピンがいた。アーサーさんは日刊預言者新聞を読み、トンクスとルーピンはなにやら話し込んでいた。
「スタージス・ポモドアが来ないなら護衛が一人足らん!」
マッド-アイがそう言いながら厨房に入ってきた。アーサーさんが新聞を置いて言った。
「私が車を手配できればよかったんだが──今のファッジは私に空のインク瓶すら貸してはくれないからね……どうしたものか」
「護衛?ハリーの?」
ナマエがトーストにジャムを塗りつけながら尋ねた。
「貴様もだ、ミョウジ」
マッド-アイがぴしゃりと言った。ナマエは怪訝な顔をした。
「俺も?」
マッド-アイはそれには答えず、ぎょろぎょろ目を動かして出て行った。他の人員を探しているらしい。
それを見ていたシリウスは、おもむろに立ち上がったかと思うと、熊のような大きな黒い犬に変身して、ナマエのそばに座り込んだ。
シリウスは、ナマエがこの黒い犬の姿を気に入っていることを知っていた。シリウスはナマエの太ももに顎を乗せた。
「シリウス、ついてくる気?」
ナマエは小声で尋ねた。黒い犬はブルッと鼻を鳴らした。普段のシリウスになら、駄目だと強く諭すことができるが、毛むくじゃらの姿を見るとナマエは何も言う気になれなくなるのだった。
「俺を絆せても、モリーさんが許さないと思うけど」
ナマエは言いながら黒い犬の頭をそーっと撫でた。もしも飼うなら、ハグリッドのファングや、シリウスのような大きな犬がいいなと思った。が、そんな大きなペットを連れてホグワーツに帰ることはできない。やはり、在学中にペットを飼うのはよそう……。その代わり、抵抗しないシリウスの頭をいまのうちにたくさん撫でた。しつこいと言いたげな犬の鼻息は、聞こえないふりをした。
子供達が起きてくると、いよいよ屋敷は騒がしくなった。今しがた聞こえてきた物音から察すると、フレッドとジョージが階段で運ぶ手間を省こうと、トランクに魔法をかけ下まで飛ばせた結果、トランクに激突してなぎ倒されたジニーが、踊り場を二つ転がり落ちてホールまで転落したようだった。ナマエが現場に駆け寄ると、モリーさんが、声のかぎりに叫んでいた。
「──大怪我をさせたかもしれないのよ。このバカ息子──」
ナマエは異様に重いトランクの下からジニーを助け出して、杖を取り出した。
「俺、治すよ──」
ジニーは痛みに顔を顰めてナマエを見上げた。すると、一瞬目を丸くしてからにっこりした。
「髪、似合ってるわ」
ナマエは眉を下げた。
「ああ、嬉しい。誰も気づかないかと思った」
みんな、荷造りと移動の準備でてんやわんやで、ナマエの頭が軽くなったことに気がつく余裕などなさそうだった。ハーマイオニーの気を引くことが叶わず、ナマエは少しがっかりした。
キングスクロス駅には、二手に分かれて向かうらしかった。ナマエとハリーは、マッド-アイ、トンクス、モリーさん、そして犬の姿のシリウスと共に歩いて向かった。
慌ただしい屋敷を離れて少し経ってから、ハリーがナマエの頭を見て目をぱちぱちさせた。
「まだ見慣れないけど、かっこいいよ」
「ありがと。ハリーは長い方が好きだと思ってた」
「そうかもね、でも……ハーマイオニーは短い方が好きなんじゃない」
「……そう?」
ナマエは少し期待を持って前髪を整えた。本当にそうなら、早く気がついてくれたらいいのに。
キングスクロスまで、二十分ほど歩いた。その間、ナマエがマグルの街を興味津々に見たり、シリウスが鳩の群れに吠えてハリーを楽しませようとするたびに、モリーさんが小声で叱った。
「ナマエ、あまりジロジロ見ないで!──シリウス!もっと犬らしくして頂戴!まったくもう──」
シリウスは久しぶりの空の下でいきいきいしているように見えた。ナマエは最初こそはらはらしていたが、黒犬があまりに嬉しそうなので、シリウスがついてきてよかったとまで思った。
ナマエがシリウスを眺めていると、ハリーが声を低くした。
「あのさ、ナマエ。ムーディから聞いたんだけど……君の家とマルフォイのこと──」
ハリーの探るような視線に、ナマエは足を止めかけた。しかし、それを遮るように後方から杖が地面を叩く鋭い音が響いた。
「全員、周囲に集中しろ。油断大敵!」
マッド-アイの警告に、ハリーはすぐに引き下がった。
さっきまでは気が付かなかったが、その横顔はやけに強張っているようにも見えた。
