不死鳥の騎士団
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二人が一階の厨房に戻ると、そこにはハリーの不在に耐えきれなくなった者たちが、所在なげに集まっていた。
モリーさんは、気を紛らわせるためか、狂ったように銀食器を磨いている。ハーマイオニーは分厚い『法的な苦境を乗り切るための手引き』を膝に広げ、ロンはその横で夏休みの宿題を開いたり閉じたりしていた。シリウスは、バックビークに餌をやりに行くのだろう、食糧庫からずた袋を持って出ていった。
ロンがナマエに声をかけた。
「シリウスと二人でなんの相談をしてたの?」
「俺の親父のこと……」
ナマエは耳飾りの感触を指先で確かめながら、短く答えた。
🐺──────
屋根裏に入り、鍵をかけると、シリウスはポケットから小さな手鏡を取り出した。鏡の縁をなぞる指先には、苛立ちが滲んでいる。
「チチオヤ、聞こえるか」
鏡面に浮かんだ男の顔は、ひどく惨めなものだった。若かりし頃の彼を知るシリウスにとって、ふとした瞬間にナマエが見せる横顔や、意志の強そうな瞳の輝きに、チチオヤの面影を重ねることは容易なはずだった。しかし今、チチオヤの目の周りには深い隈が広がり、頬の骨が鋭く浮き出ている。今の鏡に映る男に息子の面影を求めるのは、もはや酷な話だった。シリウスは皮肉っぽく笑った。
「死人に鏡を貸した覚えはないんだが」
「……シリウスか。ナマエは、無事か」
チチオヤの声は、ひどく掠れていた。まるで何日も言葉を発していなかったかのように重く、湿り気を帯びている。
「ああ……ナマエはピアスの魔法に勘付いているぞ──あと、アラスターもだ」
鏡の向こうから諦めたようなため息が聞こえた。
「アラスターには見抜かれるだろうな……しかし、なぜナマエが気づいた?自覚があったのか?」
「味覚に異変が起きているそうだ。耳飾りをしている間は味がおかしくなるんだとさ……どう考える?」
鏡の向こうで沈黙するチチオヤに、シリウスは鼻を鳴らした。
「答えろよ。お前の自慢の魔法が、どこかでヘマをしでかしたんじゃないのか。……それとも、あの子の呪いが、お前の細工じゃ抑えきれないほどに煮え繰り返っているのか?」
シリウスの毒づきに、チチオヤは感情の読めない、虚ろな眼差しを向けた。
「……ナマエの周りはどうだ?何か変わったことは?」
「──ないね、毎日屋敷しもべにも無視されているよ」
「なら、耳飾りに問題はないだろう」
淡々とした口調のチチオヤにシリウスは苛立った。
「お前を見ているとどうも、バーティ・クラウチを思い出す……チチオヤ。お前が言わないなら、私が話すぞ。もう見ていられるか」
「シリウス……今は、話せない。余計なことは言うな」
「相変わらずの秘密主義だな、お前は。息子が自分の感覚を疑って怯えているのを知って、よくそんなことが言える。……今のあの子に必要なのは、得体の知れない重石じゃなく、真実だろうよ」
鏡の中で、チチオヤはゆっくりと、壊れ物を扱うように自分のこめかみを押さえた。
「……私が話す。帰ったらな」
「なら、さっさとその鏡の片割れを返しに来い。そいつは……ハリーに渡してやりたいんだ」
シリウスは鏡の中のチチオヤを射抜くように睨みつけた。
鏡の向こうで、チチオヤがわずかに顔をしかめた。
「お前のこそこそした報告を聞くためにこの鏡を独占するのは、もう御免だ」
「シリウス……」
「あの子達や私を、いつまでも陰気な屋敷に閉じ込めておけやしないぞ」
チチオヤは、鏡越しにシリウスを……あるいはその向こう側にいるはずの息子を見つめるように、長い沈黙を置いた。
「…………努力はする。ナマエを頼む、シリウス」
「言われなくてもそうしてる。……切るぞ」
シリウスはチチオヤが反論する間を与えず、鏡を裏返した。
バックビークがネズミの骨を噛み砕く鈍い音が、静かな屋根裏に響いた。
シリウスは手の中の鏡を見つめ、親指でその縁をなぞった。
「……どいつもこいつも、隠し事ばかりだ」
彼は誰に言うでもなく呟くと、鏡をポケットの奥深くにしまい込み、暗い階段を下りていった。
🐦⬛─────
時計の針が、残酷なほどゆっくりと進む。一時間、二時間……。
「──誰か帰ってきた!」
ジニーが叫んだ。
表玄関で、何重にもかけられた鍵が外される重厚な音が響いた。全員が弾かれたように立ち上がり、廊下へと雪崩れ込んだ。
そこに立っていたのは、縞模様のズボンを履いたアーサーさんと、その影に隠れるように立つハリーだった。
数日が経った。シリウスは、最初にこの知らせを聞いたとき、ハリーの手を握り、みんなと同じようににっこりして、うれしそうな様子を見事に演じて見せた。しかし、まもなくシリウスは、以前よりも塞ぎ込み、不機嫌になり、ナマエどころかハリーとさえも、あまり話さなくなった。そして、母親が昔使っていた部屋に、ますます長い時間バックビークと一緒に閉じこもるようになった。
心配しているのはナマエだけではないようだった。数日後、ハリーがシリウスの様子についてついに口を出した。
「自分を責めることはないわ!」
ハーマイオニーが厳しく言った。
「あなたはホグワーツに帰るべきだし、シリウスはそれを知ってるわ。個人的に言わせてもらうと、シリウスはわがままよ」
「それはちょっときついぜ、ハーマイオニー」
ロンが言ったので、ナマエもシリウスに同情して小さく頷いた。ロンは続けた。
「君だって、この屋敷に独りぼっちで、釘づけになってたくないだろう」
「独りぼっちじゃないわ!」
ハーマイオニーが言った。
「ここは『不死鳥の騎士団』の本部じゃない? シリウスは高望みして、ハリーがここに来て一緒に住めばいいと思ったのよ」
「そうじゃないと思うよ」
ハリーが言った。
「僕がそうしてもいいかって聞いたとき、シリウスははっきり答えなかったんだ」
「自分であんまり期待しちゃいけないと思ったんだわ」
ハーマイオニーは明晰ぶりを遺憾なく発揮していた。ナマエはシリウスの痛々しい感情を思うと、聞いていられなくて窓の方を眺めているふりをしていた。すると、ちょうど茶色いふくろうが手紙を運んでくるところだった。
「ホグワーツのふくろうだ!」
ナマエは窓を開けて手紙を受け取り、みんなに渡した。
「新しい教科書は二冊だけだ」
ナマエは読み上げた。
「ミランダ・ゴズホーク著『基本呪文集・五学年用』とウィルバート・スリンクハード著『防衛術の理論』だ。ウィルバート・スリング……ハーマイオニー、読んだことある?──え、どうした?」
ナマエはハーマイオニーに聞いた。が、ハーマイオニーはなぜか顔を紅潮させていたので、ナマエもつられて少し顔を赤らめた。
「監督生だわ!──私、監督生に選ばれたのよ!」
ハーマイオニーの手元には、いつものS.P.E.W.のバッジではなく、赤と金のグリフィンドールの監督生バッジが輝いていた。
「ナマエ、あなたは?ハリーは?」
ハーマイオニーは興奮して封筒をひらひら振った。ハリーは封筒を調べ始めた。ナマエは軽い封筒を逆さにして、肩をすくめた。
「俺は違うな。レイブンクローは……多分、アンソニーじゃないかな。あいつの方が面倒見がいいし──ロン、どうかした?」
ナマエが聞いた。ロンは答えなかった。ロンは口を少し開けて、ホグワーツからの手紙をじっと見つめ、身動きせずに突っ立っていた。
「──マジ ?」
ナマエが言った。ハリーがロンの後ろに回り込み、肩越しから羊皮紙を読んだ。
「監督生──ロンが監督生だ」
ハーマイオニーは当惑し切った顔をした。
「私……えーと……わーっ!ロン、おめでとう!ほんとに──」
誤魔化したハーマイオニーに、ナマエは思わず笑った。ハーマイオニーはますます赤くなった。
後ろのドアが開き、モリーさんが洗濯したてのローブを山のように抱えて後ろ向きに入ってきた。
「ジニーが、教科書リストがやっと届いたって言ってたわ」
モリーさんはベッドのほうに洗濯物を運び、ローブを二つの山に選り分けながら、みんなの封筒にぐるりと目を走らせた。
「みんな、封筒を私にちょうだい。午後からダイアゴン横丁に行って、みんなが荷造りしている間に教科書を買ってきてあげましょう。ロン、あなたのパジャマも買わなきゃ。全部二十センチ近く短くなっちゃって。おまえったら、なんて背が伸びるのが早いの……」
「ママ、僕、監督生だよ」
モリーさんは洗濯物に気を取られて、数秒遅れてからロンを振り返った。ロンの手元には金と赤のバッジが輝いていた。
「──信じられないわ! これで家族全員だわ! ……でもロンが! うちのロンが監督生なんて!」
モリーさんは洗濯物の山を放り出したまま、ロンを窒息せんばかりの勢いで抱きしめた。
「ご褒美は何がいいかしら? 新しい正装用ローブ? それとも……とにかく、お父さまに知らせなきゃ! ロン、何が欲しいか考えておいてね!」
モリーさんが歓喜の声を上げながら一階へ駆け下りていくと、残されたロンは呆然とした顔で自分の手の中のバッジを見つめた。数秒後、何かに弾かれたように顔を上げた。
「──箒だ! ニンバスは無理でも……クリーンスイープの最新型がいいって伝えなきゃ!」
ロンはハリーたちの返事も待たず、母のあとを追って猛烈な勢いで部屋を飛び出していった。嵐が去ったような静寂が、部屋に残された。
ハリーはベッドの端に腰を下ろし、ナマエもその隣に座った。ハリーは項垂れているように見えた。
「……がっかりするなよ、ハリー。監督生ってしちめんどうだぜ。一年坊主の面倒みたりさ──」
「別に、気にしてないよ」
「俺は正直、ハリーが監督生のほうが嬉しかったけど──」
「ナマエ!」
ハーマイオニーが窘めるように声を上げた。ナマエは隠そうともせず、言葉を続けた。
「だって、あんたとロンが二人きりで夜回りするのは、面白くない」
「……えっ?」
ハーマイオニーの顔が、一瞬で耳の先まで真っ赤に染まった。
「ナマエ! ──監督生は学校の義務で、夜回りは、二人きりとかじゃなくて──とにかく、仕事なのよ」
「理屈はいいよ。俺にとっては大問題なんだ」
ナマエは狼狽えるハーマイオニーを面白そうに眺めながら、にっこりと笑った。
平然と振る舞っているものの、彼女が自分やハリーのいない場所で、ロンと「公認の相棒」として時間を過ごす。その事実が、ナマエにはどうしても容認しがたいものだった。ハーマイオニーはまだ「ローブを片付けなくちゃ」と何やらごにょごにょ言いながら、顔を真っ赤にして部屋を出ていった。
ナマエは、ハーマイオニーが去ったドアを見つめ、それからハリーに視線を戻した。
「相変わらずきざだね」
ハリーが少し迷惑そうに言った。
「ふん、これくらいはさせてもらう。敵はワールドカップのシーカーと、監督生なんだからな」
ナマエが肩をすくめて言い放った。ハリーは、苦い顔をしていた。ナマエは、ハリーがそんなに監督生になりたがっていたとは思えなくて、なんと声をかけるべきか迷っていると、ハリーが口を開いた。
「──監督生は、きっとダンブルドアが選ぶんだよね?」
ナマエはきょとんとしてから答えた。
「そうだろうけど──それか、寮監かも。なんで?」
「……いや……なんとなく」
ナマエはハリーが苛立っているのがわかった。ここにハリーがやってきた初日と同じようなヒリヒリした空気を感じた。
そして、ナマエは──ダンブルドアだろうがフリットウィックであろうが──レイブンクローの監督生に、ナマエを選ばないでいてくれたことを感謝した。
「ダンブルドアは、ここにきてから一度も僕と会っていない」
ハリーはイライラした口調で言った。
「でも、裁判では味方してくれたんだろ?」
「ああ──した、したけど──僕に一言も、一瞥もくれなかった」
ナマエはハリーの考えていることを読み取ろうと、顔を覗き込んだ。途端、ハリーが急にふっとナマエの顔に息をかけた。
「うわ、何!」
「──君、たまに近いよ。ため息くらいつかせてよ……。額が痛んだんだ。でも、最近はしょっちゅうだ。ヴォルデモートが復活したから……」
ハリーが吐き出したその言葉は、重く湿った空気となって部屋に沈殿した。
ダンブルドアは、なぜハリーを避けるのか。その疑問は、「ハリーに何も知らせるな」と誓わされた時からあった。ハリーは、最も頼りにしたい大人から拒絶されているのだ。ナマエはそれを、チチオヤへの不信感と重ね、暗い共感を覚えずにはいられなかった。
モリーさんは、気を紛らわせるためか、狂ったように銀食器を磨いている。ハーマイオニーは分厚い『法的な苦境を乗り切るための手引き』を膝に広げ、ロンはその横で夏休みの宿題を開いたり閉じたりしていた。シリウスは、バックビークに餌をやりに行くのだろう、食糧庫からずた袋を持って出ていった。
ロンがナマエに声をかけた。
「シリウスと二人でなんの相談をしてたの?」
「俺の親父のこと……」
ナマエは耳飾りの感触を指先で確かめながら、短く答えた。
🐺──────
屋根裏に入り、鍵をかけると、シリウスはポケットから小さな手鏡を取り出した。鏡の縁をなぞる指先には、苛立ちが滲んでいる。
「チチオヤ、聞こえるか」
鏡面に浮かんだ男の顔は、ひどく惨めなものだった。若かりし頃の彼を知るシリウスにとって、ふとした瞬間にナマエが見せる横顔や、意志の強そうな瞳の輝きに、チチオヤの面影を重ねることは容易なはずだった。しかし今、チチオヤの目の周りには深い隈が広がり、頬の骨が鋭く浮き出ている。今の鏡に映る男に息子の面影を求めるのは、もはや酷な話だった。シリウスは皮肉っぽく笑った。
「死人に鏡を貸した覚えはないんだが」
「……シリウスか。ナマエは、無事か」
チチオヤの声は、ひどく掠れていた。まるで何日も言葉を発していなかったかのように重く、湿り気を帯びている。
「ああ……ナマエはピアスの魔法に勘付いているぞ──あと、アラスターもだ」
鏡の向こうから諦めたようなため息が聞こえた。
「アラスターには見抜かれるだろうな……しかし、なぜナマエが気づいた?自覚があったのか?」
「味覚に異変が起きているそうだ。耳飾りをしている間は味がおかしくなるんだとさ……どう考える?」
鏡の向こうで沈黙するチチオヤに、シリウスは鼻を鳴らした。
「答えろよ。お前の自慢の魔法が、どこかでヘマをしでかしたんじゃないのか。……それとも、あの子の呪いが、お前の細工じゃ抑えきれないほどに煮え繰り返っているのか?」
シリウスの毒づきに、チチオヤは感情の読めない、虚ろな眼差しを向けた。
「……ナマエの周りはどうだ?何か変わったことは?」
「──ないね、毎日屋敷しもべにも無視されているよ」
「なら、耳飾りに問題はないだろう」
淡々とした口調のチチオヤにシリウスは苛立った。
「お前を見ているとどうも、バーティ・クラウチを思い出す……チチオヤ。お前が言わないなら、私が話すぞ。もう見ていられるか」
「シリウス……今は、話せない。余計なことは言うな」
「相変わらずの秘密主義だな、お前は。息子が自分の感覚を疑って怯えているのを知って、よくそんなことが言える。……今のあの子に必要なのは、得体の知れない重石じゃなく、真実だろうよ」
鏡の中で、チチオヤはゆっくりと、壊れ物を扱うように自分のこめかみを押さえた。
「……私が話す。帰ったらな」
「なら、さっさとその鏡の片割れを返しに来い。そいつは……ハリーに渡してやりたいんだ」
シリウスは鏡の中のチチオヤを射抜くように睨みつけた。
鏡の向こうで、チチオヤがわずかに顔をしかめた。
「お前のこそこそした報告を聞くためにこの鏡を独占するのは、もう御免だ」
「シリウス……」
「あの子達や私を、いつまでも陰気な屋敷に閉じ込めておけやしないぞ」
チチオヤは、鏡越しにシリウスを……あるいはその向こう側にいるはずの息子を見つめるように、長い沈黙を置いた。
「…………努力はする。ナマエを頼む、シリウス」
「言われなくてもそうしてる。……切るぞ」
シリウスはチチオヤが反論する間を与えず、鏡を裏返した。
バックビークがネズミの骨を噛み砕く鈍い音が、静かな屋根裏に響いた。
シリウスは手の中の鏡を見つめ、親指でその縁をなぞった。
「……どいつもこいつも、隠し事ばかりだ」
彼は誰に言うでもなく呟くと、鏡をポケットの奥深くにしまい込み、暗い階段を下りていった。
🐦⬛─────
時計の針が、残酷なほどゆっくりと進む。一時間、二時間……。
「──誰か帰ってきた!」
ジニーが叫んだ。
表玄関で、何重にもかけられた鍵が外される重厚な音が響いた。全員が弾かれたように立ち上がり、廊下へと雪崩れ込んだ。
そこに立っていたのは、縞模様のズボンを履いたアーサーさんと、その影に隠れるように立つハリーだった。
数日が経った。シリウスは、最初にこの知らせを聞いたとき、ハリーの手を握り、みんなと同じようににっこりして、うれしそうな様子を見事に演じて見せた。しかし、まもなくシリウスは、以前よりも塞ぎ込み、不機嫌になり、ナマエどころかハリーとさえも、あまり話さなくなった。そして、母親が昔使っていた部屋に、ますます長い時間バックビークと一緒に閉じこもるようになった。
心配しているのはナマエだけではないようだった。数日後、ハリーがシリウスの様子についてついに口を出した。
「自分を責めることはないわ!」
ハーマイオニーが厳しく言った。
「あなたはホグワーツに帰るべきだし、シリウスはそれを知ってるわ。個人的に言わせてもらうと、シリウスはわがままよ」
「それはちょっときついぜ、ハーマイオニー」
ロンが言ったので、ナマエもシリウスに同情して小さく頷いた。ロンは続けた。
「君だって、この屋敷に独りぼっちで、釘づけになってたくないだろう」
「独りぼっちじゃないわ!」
ハーマイオニーが言った。
「ここは『不死鳥の騎士団』の本部じゃない? シリウスは高望みして、ハリーがここに来て一緒に住めばいいと思ったのよ」
「そうじゃないと思うよ」
ハリーが言った。
「僕がそうしてもいいかって聞いたとき、シリウスははっきり答えなかったんだ」
「自分であんまり期待しちゃいけないと思ったんだわ」
ハーマイオニーは明晰ぶりを遺憾なく発揮していた。ナマエはシリウスの痛々しい感情を思うと、聞いていられなくて窓の方を眺めているふりをしていた。すると、ちょうど茶色いふくろうが手紙を運んでくるところだった。
「ホグワーツのふくろうだ!」
ナマエは窓を開けて手紙を受け取り、みんなに渡した。
「新しい教科書は二冊だけだ」
ナマエは読み上げた。
「ミランダ・ゴズホーク著『基本呪文集・五学年用』とウィルバート・スリンクハード著『防衛術の理論』だ。ウィルバート・スリング……ハーマイオニー、読んだことある?──え、どうした?」
ナマエはハーマイオニーに聞いた。が、ハーマイオニーはなぜか顔を紅潮させていたので、ナマエもつられて少し顔を赤らめた。
「監督生だわ!──私、監督生に選ばれたのよ!」
ハーマイオニーの手元には、いつものS.P.E.W.のバッジではなく、赤と金のグリフィンドールの監督生バッジが輝いていた。
「ナマエ、あなたは?ハリーは?」
ハーマイオニーは興奮して封筒をひらひら振った。ハリーは封筒を調べ始めた。ナマエは軽い封筒を逆さにして、肩をすくめた。
「俺は違うな。レイブンクローは……多分、アンソニーじゃないかな。あいつの方が面倒見がいいし──ロン、どうかした?」
ナマエが聞いた。ロンは答えなかった。ロンは口を少し開けて、ホグワーツからの手紙をじっと見つめ、身動きせずに突っ立っていた。
「──
ナマエが言った。ハリーがロンの後ろに回り込み、肩越しから羊皮紙を読んだ。
「監督生──ロンが監督生だ」
ハーマイオニーは当惑し切った顔をした。
「私……えーと……わーっ!ロン、おめでとう!ほんとに──」
誤魔化したハーマイオニーに、ナマエは思わず笑った。ハーマイオニーはますます赤くなった。
後ろのドアが開き、モリーさんが洗濯したてのローブを山のように抱えて後ろ向きに入ってきた。
「ジニーが、教科書リストがやっと届いたって言ってたわ」
モリーさんはベッドのほうに洗濯物を運び、ローブを二つの山に選り分けながら、みんなの封筒にぐるりと目を走らせた。
「みんな、封筒を私にちょうだい。午後からダイアゴン横丁に行って、みんなが荷造りしている間に教科書を買ってきてあげましょう。ロン、あなたのパジャマも買わなきゃ。全部二十センチ近く短くなっちゃって。おまえったら、なんて背が伸びるのが早いの……」
「ママ、僕、監督生だよ」
モリーさんは洗濯物に気を取られて、数秒遅れてからロンを振り返った。ロンの手元には金と赤のバッジが輝いていた。
「──信じられないわ! これで家族全員だわ! ……でもロンが! うちのロンが監督生なんて!」
モリーさんは洗濯物の山を放り出したまま、ロンを窒息せんばかりの勢いで抱きしめた。
「ご褒美は何がいいかしら? 新しい正装用ローブ? それとも……とにかく、お父さまに知らせなきゃ! ロン、何が欲しいか考えておいてね!」
モリーさんが歓喜の声を上げながら一階へ駆け下りていくと、残されたロンは呆然とした顔で自分の手の中のバッジを見つめた。数秒後、何かに弾かれたように顔を上げた。
「──箒だ! ニンバスは無理でも……クリーンスイープの最新型がいいって伝えなきゃ!」
ロンはハリーたちの返事も待たず、母のあとを追って猛烈な勢いで部屋を飛び出していった。嵐が去ったような静寂が、部屋に残された。
ハリーはベッドの端に腰を下ろし、ナマエもその隣に座った。ハリーは項垂れているように見えた。
「……がっかりするなよ、ハリー。監督生ってしちめんどうだぜ。一年坊主の面倒みたりさ──」
「別に、気にしてないよ」
「俺は正直、ハリーが監督生のほうが嬉しかったけど──」
「ナマエ!」
ハーマイオニーが窘めるように声を上げた。ナマエは隠そうともせず、言葉を続けた。
「だって、あんたとロンが二人きりで夜回りするのは、面白くない」
「……えっ?」
ハーマイオニーの顔が、一瞬で耳の先まで真っ赤に染まった。
「ナマエ! ──監督生は学校の義務で、夜回りは、二人きりとかじゃなくて──とにかく、仕事なのよ」
「理屈はいいよ。俺にとっては大問題なんだ」
ナマエは狼狽えるハーマイオニーを面白そうに眺めながら、にっこりと笑った。
平然と振る舞っているものの、彼女が自分やハリーのいない場所で、ロンと「公認の相棒」として時間を過ごす。その事実が、ナマエにはどうしても容認しがたいものだった。ハーマイオニーはまだ「ローブを片付けなくちゃ」と何やらごにょごにょ言いながら、顔を真っ赤にして部屋を出ていった。
ナマエは、ハーマイオニーが去ったドアを見つめ、それからハリーに視線を戻した。
「相変わらずきざだね」
ハリーが少し迷惑そうに言った。
「ふん、これくらいはさせてもらう。敵はワールドカップのシーカーと、監督生なんだからな」
ナマエが肩をすくめて言い放った。ハリーは、苦い顔をしていた。ナマエは、ハリーがそんなに監督生になりたがっていたとは思えなくて、なんと声をかけるべきか迷っていると、ハリーが口を開いた。
「──監督生は、きっとダンブルドアが選ぶんだよね?」
ナマエはきょとんとしてから答えた。
「そうだろうけど──それか、寮監かも。なんで?」
「……いや……なんとなく」
ナマエはハリーが苛立っているのがわかった。ここにハリーがやってきた初日と同じようなヒリヒリした空気を感じた。
そして、ナマエは──ダンブルドアだろうがフリットウィックであろうが──レイブンクローの監督生に、ナマエを選ばないでいてくれたことを感謝した。
「ダンブルドアは、ここにきてから一度も僕と会っていない」
ハリーはイライラした口調で言った。
「でも、裁判では味方してくれたんだろ?」
「ああ──した、したけど──僕に一言も、一瞥もくれなかった」
ナマエはハリーの考えていることを読み取ろうと、顔を覗き込んだ。途端、ハリーが急にふっとナマエの顔に息をかけた。
「うわ、何!」
「──君、たまに近いよ。ため息くらいつかせてよ……。額が痛んだんだ。でも、最近はしょっちゅうだ。ヴォルデモートが復活したから……」
ハリーが吐き出したその言葉は、重く湿った空気となって部屋に沈殿した。
ダンブルドアは、なぜハリーを避けるのか。その疑問は、「ハリーに何も知らせるな」と誓わされた時からあった。ハリーは、最も頼りにしたい大人から拒絶されているのだ。ナマエはそれを、チチオヤへの不信感と重ね、暗い共感を覚えずにはいられなかった。
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