第五学年 不死鳥の騎士団
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「審議を開きたい」
その日の夕食の大広間で、ナマエが低く言うと、マイケルがフォークを止めた。アンソニーはかぼちゃジュースの杯を口元で止め、テリーはローストポテトを皿に取ろうとした姿勢のまま固まった。
ナマエたちの席の向こうでは、試合に勝ったはずのグリフィンドールの長机が沈みきった空気で食事を続けていた。数人分の席が空いていて、その前にだけ、誰にも手をつけられていない料理が残っていた。
「何について?まさか君が試合に興味があったとは思わないけど」
マイケルが訊いた。ナマエは帽子を脱ぎ、真顔で言った。
「……頬へのキスについて」
沈黙が落ちた。マイケルが、笑うか迷う顔をし、テリーがゆっくりゴブレットを置いた。
「それは、一般論として?」
「具体例がある……」
「誰が誰に?」
アンソニーが訊いた。
ナマエは少しだけ目を逸らした。
「ハーマイオニーが……ロン・ウィーズリーに」
三人の顔に、同時に理解が広がった。マイケルが咳払いをした。
「なるほど。審議だ」
「審議だな」
テリーも頷いた。
アンソニーはまじめくさった顔で姿勢を正した。しかし、三人とも面白がっているのは分かった。
「状況を説明してくれる?」
ナマエは、できるだけ公平に説明した。ロンが試合前で、明らかに正気ではなかったこと。ハーマイオニーが頬にキスをしたこと。ロンは呆然としていたこと。ハーマイオニーは特に照れていなかったこと。
話し終えると、三人はしばらく考え込んだ。
「まず、ロン・ウィーズリーの反応だけど」
テリーが言った。
「彼は普段からグレンジャーに過剰反応してるよね」
「それはそうかもしれない」
ナマエは渋々認めると、マイケルが片手を上げた。
「グレンジャー側の態度は?」
「普通だった」
「なら、励ましだろうね。彼女は試合に勝ってほしかっただけだ」
「ハーマイオニーはそんなにクィデッチに興味はないんだ」
「でも、負けを望んでるわけじゃないだろう?友達の活躍を祈っただけじゃ?」
「うん、そう思う……」
ナマエはすぐに言った。
「──思うけど、普通するか?」
三人は黙った。
ナマエは苛立ったようにローストポテトにフォークを突き立てた。
「俺はしない。他の女の子がどれだけ緊張してても、頬にキスなんかしない」
マイケルが「どうだか」と呟き、アンソニーが少し首を傾げた。
「でも、ナマエが気にしているのは、彼女の意図より、自分が見てしまったことの方じゃないか?」
ナマエはアンソニーきょとんと見つめた。マイケルが笑いをこらえている。
「まあ、ボーイフレンドとしては複雑だよな。わかるよ」
「わかるのか」
「いや、半分くらい。残り半分は面白い」
ナマエはナプキンを丸めて投げた。マイケルは慣れた様子で受け止めた。
「前から思ってたんだ」
ナマエは声を落とした。
「……ハーマイオニーとロンは、お互いに──気づいてないだけなんじゃないかって」
三人は、今度は笑わなかった。
テリーが、いかにも結論を出す係のように指を組んだ。
「審議結果。試合前の緊張状態にある選手を励ます行為として、頬へのキスはただちに恋愛的意図を示すものとは限らない」
「つまり?」
「無罪」
テリーが言った。
「ただし、ナマエの心情には情状酌量の余地あり」
「異議あり」
ナマエは低く言った。
「何に?」
「……俺がここでこんな話をしてることに」
三人はとうとう笑った。
ナマエは卓に肘をつき、片手で顔を覆った。自分でも馬鹿げていると思う。胸の奥がむずむずして、どうにも落ち着かなかった。
「まあ」
マイケルが少し声をやわらげた。
「そんなに嫌だったなら、本人に言えばいいんじゃないか」
「こんなこと言えるか」
ナマエは指の隙間からマイケルを見た。 そのまましばらく黙っていると、大広間ではスリザリンの長机からまた笑い声が上がった。グリフィンドールの方では、ハリーも、フレッドも、ジョージも見当たらなかった。ロンの席も空いたままで、ハーマイオニーだけが険しい顔で、皿の上を見つめていた。
「まあ、でも、あのバッジと歌は……あれは気の毒だった」
「だから余計に嫌なんだ……」
ナマエはまた頭を抱えた。
「俺が今これで悩んでると、すごく器の小さい男みたいじゃないか」
「今のところ、『みたい』じゃないけど」
テリーがぼそりと言った。
煽るようにスリザリンの長机からまたあの歌の一節が聞こえてきて、ナマエの気分はますます悪くなった。
「それにしても、スリザリンは性根が腐ってる」
ナマエが顔を上げると、マイケルはスリザリンの長机を睨んでいた。
「どうせマルフォイが考えたんだ。あいつは救いようがないクズだって、最初っから僕はそう言ってる──」
その日の夕食の大広間で、ナマエが低く言うと、マイケルがフォークを止めた。アンソニーはかぼちゃジュースの杯を口元で止め、テリーはローストポテトを皿に取ろうとした姿勢のまま固まった。
ナマエたちの席の向こうでは、試合に勝ったはずのグリフィンドールの長机が沈みきった空気で食事を続けていた。数人分の席が空いていて、その前にだけ、誰にも手をつけられていない料理が残っていた。
「何について?まさか君が試合に興味があったとは思わないけど」
マイケルが訊いた。ナマエは帽子を脱ぎ、真顔で言った。
「……頬へのキスについて」
沈黙が落ちた。マイケルが、笑うか迷う顔をし、テリーがゆっくりゴブレットを置いた。
「それは、一般論として?」
「具体例がある……」
「誰が誰に?」
アンソニーが訊いた。
ナマエは少しだけ目を逸らした。
「ハーマイオニーが……ロン・ウィーズリーに」
三人の顔に、同時に理解が広がった。マイケルが咳払いをした。
「なるほど。審議だ」
「審議だな」
テリーも頷いた。
アンソニーはまじめくさった顔で姿勢を正した。しかし、三人とも面白がっているのは分かった。
「状況を説明してくれる?」
ナマエは、できるだけ公平に説明した。ロンが試合前で、明らかに正気ではなかったこと。ハーマイオニーが頬にキスをしたこと。ロンは呆然としていたこと。ハーマイオニーは特に照れていなかったこと。
話し終えると、三人はしばらく考え込んだ。
「まず、ロン・ウィーズリーの反応だけど」
テリーが言った。
「彼は普段からグレンジャーに過剰反応してるよね」
「それはそうかもしれない」
ナマエは渋々認めると、マイケルが片手を上げた。
「グレンジャー側の態度は?」
「普通だった」
「なら、励ましだろうね。彼女は試合に勝ってほしかっただけだ」
「ハーマイオニーはそんなにクィデッチに興味はないんだ」
「でも、負けを望んでるわけじゃないだろう?友達の活躍を祈っただけじゃ?」
「うん、そう思う……」
ナマエはすぐに言った。
「──思うけど、普通するか?」
三人は黙った。
ナマエは苛立ったようにローストポテトにフォークを突き立てた。
「俺はしない。他の女の子がどれだけ緊張してても、頬にキスなんかしない」
マイケルが「どうだか」と呟き、アンソニーが少し首を傾げた。
「でも、ナマエが気にしているのは、彼女の意図より、自分が見てしまったことの方じゃないか?」
ナマエはアンソニーきょとんと見つめた。マイケルが笑いをこらえている。
「まあ、ボーイフレンドとしては複雑だよな。わかるよ」
「わかるのか」
「いや、半分くらい。残り半分は面白い」
ナマエはナプキンを丸めて投げた。マイケルは慣れた様子で受け止めた。
「前から思ってたんだ」
ナマエは声を落とした。
「……ハーマイオニーとロンは、お互いに──気づいてないだけなんじゃないかって」
三人は、今度は笑わなかった。
テリーが、いかにも結論を出す係のように指を組んだ。
「審議結果。試合前の緊張状態にある選手を励ます行為として、頬へのキスはただちに恋愛的意図を示すものとは限らない」
「つまり?」
「無罪」
テリーが言った。
「ただし、ナマエの心情には情状酌量の余地あり」
「異議あり」
ナマエは低く言った。
「何に?」
「……俺がここでこんな話をしてることに」
三人はとうとう笑った。
ナマエは卓に肘をつき、片手で顔を覆った。自分でも馬鹿げていると思う。胸の奥がむずむずして、どうにも落ち着かなかった。
「まあ」
マイケルが少し声をやわらげた。
「そんなに嫌だったなら、本人に言えばいいんじゃないか」
「こんなこと言えるか」
ナマエは指の隙間からマイケルを見た。 そのまましばらく黙っていると、大広間ではスリザリンの長机からまた笑い声が上がった。グリフィンドールの方では、ハリーも、フレッドも、ジョージも見当たらなかった。ロンの席も空いたままで、ハーマイオニーだけが険しい顔で、皿の上を見つめていた。
「まあ、でも、あのバッジと歌は……あれは気の毒だった」
「だから余計に嫌なんだ……」
ナマエはまた頭を抱えた。
「俺が今これで悩んでると、すごく器の小さい男みたいじゃないか」
「今のところ、『みたい』じゃないけど」
テリーがぼそりと言った。
煽るようにスリザリンの長机からまたあの歌の一節が聞こえてきて、ナマエの気分はますます悪くなった。
「それにしても、スリザリンは性根が腐ってる」
ナマエが顔を上げると、マイケルはスリザリンの長机を睨んでいた。
「どうせマルフォイが考えたんだ。あいつは救いようがないクズだって、最初っから僕はそう言ってる──」
