第五学年 不死鳥の騎士団
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ナマエとハリーが少し遅れて大広間に現れると、数秒間の沈黙が流れた。
そして次の瞬間、まるで蜂の巣をつついたような騒ぎがぶわりと広がった。
噂の的はハリーと──髪を切っただけのナマエだった。
「……信じられない。何なの、あの一年生たちの目は。まるで獲物を狙うニフラーじゃない」
ハーマイオニーはグリフィンドールのテーブルで、フォークを握りしめたまま低く唸った。
「ハーマイオニー、落ち着いて。ナマエがモテるのは今に始まったことじゃないわ」
ジニーが隣でニヤニヤしながらチキンソテーを口に運んだ。
「でも、今日のは異常よ! 見なさいよ、ミリセント・ブルストロードまで、あんなに露骨に視線を送って……ナマエは、もっと自分の外見が与える社会的影響を考慮すべきだわ」
ハーマイオニーは、自分を襲っているこの唐突な苛立ちを説明するために、ありったけの論理を総動員していた。たかが髪型ひとつに大勢の女子が溜息をつくのはあまりに浅はかだ、とか、自分自身を納得させる理由はいくらでも捏造できた。
しかし、そうしたもっともらしい理屈のさらに下で、火にかけすぎた薬鍋が煮えくり返っているかのようだった。
図書室の隅、ハーマイオニーは山積みにした教科書の後ろで、小さくうめいた。目の前には、いつもと変わらぬ顔で、羊皮紙に羽根ペンを走らせるナマエがいる。
変わったのは、彼の「髪」だ。 雑に束ねられていた長い黒髪が、今は襟足まで短く切り揃えられ、すっきりとした印象に変わっている。それだけで、彼が単にきれいで気さくな同級生というだけでなく、さらには一人の「男の子」であるということが以前の数倍は強調されていた。
「……何か言った?ハーマイオニー」
「いいえ。……ただ、あなたの集中力が削がれないか心配しているだけよ。ほら、あそこを見て」
ハーマイオニーが指差した先──書棚の陰から、ハッフルパフの三年生たちが、頬を赤らめてこちらを窺っている。それだけではない。さっきから、ナマエの向かいに座っているハーマイオニーに対して、女子生徒たちから射抜くような視線が突き刺さっているのだ。
「ああ、うん」
「うん、じゃないわ! 今朝だけで、あなたは六人の一年生から名前を聞かれ、三人から『ルーン文字の翻訳を教えてほしい』と頼まれ、さらに──」
「けど、ビクトール・クラムほど声を掛けられちゃいない」
ナマエは少しだけぶっきらぼうに言った。
「……とにかく、ナマエ。あなたはもう少し、自分の影響力というものを自覚すべきよ」
「俺はただ、あんたが短い方がいいって言うから。……正解だったみたいだな?」
ナマエはふふんと、むしろ得意げに笑って答えると、手元のインクを吸わせるために顔を上げた。
その瞬間、図書室の入り口にいた上級生たちが、息を潜めて立ち止まるのが見えた。
「そんなに私を針のむしろにしたいの?」
ハーマイオニーは、半ば強引にナマエの教科書を閉じると、彼の腕を掴んだ。 その時、近くのテーブルに座っていたラベンダーとパーバディが、にやにやしながら目を見合わせた。
ハーマイオニーはナマエを引きずるようにして図書室を飛び出した。 廊下を早歩きで進む彼女の背中を、ナマエは少し不思議そうな、けれどどこか楽しそうな目で見つめていた。
「……ハーマイオニー。もしかして、怒ってる?」
「怒ってなんていないわ。私はただ、今の状況が学習効率を著しく下げていると判断したまでよ」
ハーマイオニーは立ち止まり、誰もいない角でナマエに向き直った。短くなった彼の髪。露わになった耳。そこに黒い宝石が収まりよく載っていた。
「もちろん、似合っていると思ってるわよ……ただ、別に髪型を変えなくたって、私は……」
ハーマイオニーの声は尻すぼみに消えた。それだけ言うのが精一杯だった。ナマエは一瞬だけ驚いたように目を瞬き、それから少しだけ口角を上げた。
グリフィンドール塔の女子寝室では、窓の外で唸る北風が、古い石造りの壁を冷たく叩いていた。
ハーマイオニーはベッドの上にあぐらをかき、膝の上に書きかけの羊皮紙を広げて羽根ペンを見つめていた。ナマエにもらった誕生日プレゼントの羽根ペンは、インクいらずでベッドの上の作業にぴったりだった。しかし、その手元はいつになくおぼつかない。隣のベッドからはコソコソ囁く声がひっきりなしに聞こえていたが、ついに声をひそめるのをやめたようだった。
「ハーマイオニー。あなた、ナマエ・ミョウジと付き合ってるのよね?」
隣のベッドから、ラベンダー・ブラウンが顔を出してクスクスと笑った。パーバディ・パチルも銀の髪飾りを外し、鏡越しにニヤニヤと視線を送っている。
ハーマイオニーが答えずにいると、ラベンダーが言った。
「じゃあやっぱり、ハリーかロン?」
「二人は友達よ!」
ハーマイオニーの答えに、なぜかラベンダーは満足そうにパーバティに視線を送った。
夏休みが始まる日、ナマエはハーマイオニーにハグをした。そのくらいなら、今までもあった。それに、ハグならナマエにもハリーにもする。なんてことのないことだ。
……ユールボールにも誘われた。二人で踊ることは叶わなかったが、ナマエだってフラーと踊っていた。
──男の子として見てほしい
そう言ったナマエを思い出した。わざわざそんなことを言われなくても、今は多くの女子生徒がナマエをボーイフレンドにしたがっている。それの何がこんなに不愉快なんだろう。
パーバティが身を乗り出した。
「パドマから聞いてるわよ。ナマエはあなたにダンスを申し込んだって」
「ちょっと、待って……そういえば、ビクトール・クラムはどうなったの?」
「彼とは何にもないのよ!ただのペンフレンド」
ハーマイオニーは慌てて言った。
ビクトールは、本当に優しかった。それでもなんとなく、彼はハーマイオニーに夢を見ているというか──落ち着かないのも事実だった。 彼が彼女の横で、難解な魔法理論や、屋敷しもべ妖精の権利について延々と続く話を聞くとき、その瞳には常に穏やかな光が宿っていた。彼はまるで心地よい音楽を聴くように彼女の言葉を受け止めてくれた。けれど、ハーマイオニーは知っている。ビクトールが頷くのは、彼女の話に感銘を受けているからではない。ただ、好きな女の子が一生懸命に話している姿を、愛おしく眺めているだけなのだ。
ラベンダーがじれったそうに話を戻した。
「でも、ナマエみたいにさらっとアピールするのはちょっと女の子慣れしてると思わない?あの顔だもの」
「確かに。ほら、コーマック・マクラーゲンもちょっとハンサムだけど、誰彼構わず口説いてるわよね……」
「あのねえ、ナマエはそんな人じゃないわ!」
ハーマイオニーはたまらず二人に向き直った。
「彼は──誠実な人よ! 他の男の子より勤勉で賢いし、偏見よりも論理性を重視する人よ。バカな悪戯道具でふざけたりもしないわ、それに──」
ナマエは、たとえ同意できない話でもハーマイオニーの考えを理解しようと、脳をフル回転させて努力してくれる。けれどナマエは、彼自身の思考を恋心で曇らせたりはしなかった。
まくしたてるように語ってからハーマイオニーがはっとして顔を上げると、二人の黄色い悲鳴が、厚いカーテンを突き抜けて響いた。
「ちょっと! 静かにしてよ……!」
ハーマイオニーが顔を真っ赤にして制したその時、カーテンが勢いよく引き開けられた。
「何よ、ピーブズでも出たの?」
ジニー・ウィーズリーが、パジャマのポケットに手を突っ込みながら、呆れた顔で立っていた。
「いいえ、ジニー! もっと重大な事件よ。ハーマイオニーがナマエを──」
「ああ、ついに受け入れたのね?」
ジニーはニヤリと笑うと、ハーマイオニーの足元にどかっと座り込んだ。
「どういう心境の変化なの?」
「……心境の変化なんて、そんな大げさなものじゃないわよ」
ハーマイオニーは、手元の美しいカササギの羽根ペンをぎゅっと握りしめた。くっきりとした白と黒の羽根は、蝋燭の光を浴びて青や緑の光沢がつやつやと光った。
髪が長かろうが、短かろうが。 ナマエは変わっていない。
周囲のキャアキャアという浮ついた声が、彼の本質を何も理解していない安っぽいノイズのように感じられた。みんな、髪を切り落としたという表面的な変化で、ようやく彼を見つけたつもりになっているのだ。
──彼に、もしナマエに自分以外のガールフレンドができたら。それが、彼の本質を知ろうともせず、ただの「流行」のように彼を眺める誰かだったとしたら。 想像しただけで胸がむかむかした。
けれど、自分が惹かれたのは、もっと深い場所にあるものだ。
「私ってなんて傲慢なのかしら……」
自分だけが理解し、自分だけがその隣に座っていいのだと思い込んでいた。そんな自分の身勝手さに、深く溜息をついた。
そして次の瞬間、まるで蜂の巣をつついたような騒ぎがぶわりと広がった。
噂の的はハリーと──髪を切っただけのナマエだった。
「……信じられない。何なの、あの一年生たちの目は。まるで獲物を狙うニフラーじゃない」
ハーマイオニーはグリフィンドールのテーブルで、フォークを握りしめたまま低く唸った。
「ハーマイオニー、落ち着いて。ナマエがモテるのは今に始まったことじゃないわ」
ジニーが隣でニヤニヤしながらチキンソテーを口に運んだ。
「でも、今日のは異常よ! 見なさいよ、ミリセント・ブルストロードまで、あんなに露骨に視線を送って……ナマエは、もっと自分の外見が与える社会的影響を考慮すべきだわ」
ハーマイオニーは、自分を襲っているこの唐突な苛立ちを説明するために、ありったけの論理を総動員していた。たかが髪型ひとつに大勢の女子が溜息をつくのはあまりに浅はかだ、とか、自分自身を納得させる理由はいくらでも捏造できた。
しかし、そうしたもっともらしい理屈のさらに下で、火にかけすぎた薬鍋が煮えくり返っているかのようだった。
図書室の隅、ハーマイオニーは山積みにした教科書の後ろで、小さくうめいた。目の前には、いつもと変わらぬ顔で、羊皮紙に羽根ペンを走らせるナマエがいる。
変わったのは、彼の「髪」だ。 雑に束ねられていた長い黒髪が、今は襟足まで短く切り揃えられ、すっきりとした印象に変わっている。それだけで、彼が単にきれいで気さくな同級生というだけでなく、さらには一人の「男の子」であるということが以前の数倍は強調されていた。
「……何か言った?ハーマイオニー」
「いいえ。……ただ、あなたの集中力が削がれないか心配しているだけよ。ほら、あそこを見て」
ハーマイオニーが指差した先──書棚の陰から、ハッフルパフの三年生たちが、頬を赤らめてこちらを窺っている。それだけではない。さっきから、ナマエの向かいに座っているハーマイオニーに対して、女子生徒たちから射抜くような視線が突き刺さっているのだ。
「ああ、うん」
「うん、じゃないわ! 今朝だけで、あなたは六人の一年生から名前を聞かれ、三人から『ルーン文字の翻訳を教えてほしい』と頼まれ、さらに──」
「けど、ビクトール・クラムほど声を掛けられちゃいない」
ナマエは少しだけぶっきらぼうに言った。
「……とにかく、ナマエ。あなたはもう少し、自分の影響力というものを自覚すべきよ」
「俺はただ、あんたが短い方がいいって言うから。……正解だったみたいだな?」
ナマエはふふんと、むしろ得意げに笑って答えると、手元のインクを吸わせるために顔を上げた。
その瞬間、図書室の入り口にいた上級生たちが、息を潜めて立ち止まるのが見えた。
「そんなに私を針のむしろにしたいの?」
ハーマイオニーは、半ば強引にナマエの教科書を閉じると、彼の腕を掴んだ。 その時、近くのテーブルに座っていたラベンダーとパーバディが、にやにやしながら目を見合わせた。
ハーマイオニーはナマエを引きずるようにして図書室を飛び出した。 廊下を早歩きで進む彼女の背中を、ナマエは少し不思議そうな、けれどどこか楽しそうな目で見つめていた。
「……ハーマイオニー。もしかして、怒ってる?」
「怒ってなんていないわ。私はただ、今の状況が学習効率を著しく下げていると判断したまでよ」
ハーマイオニーは立ち止まり、誰もいない角でナマエに向き直った。短くなった彼の髪。露わになった耳。そこに黒い宝石が収まりよく載っていた。
「もちろん、似合っていると思ってるわよ……ただ、別に髪型を変えなくたって、私は……」
ハーマイオニーの声は尻すぼみに消えた。それだけ言うのが精一杯だった。ナマエは一瞬だけ驚いたように目を瞬き、それから少しだけ口角を上げた。
グリフィンドール塔の女子寝室では、窓の外で唸る北風が、古い石造りの壁を冷たく叩いていた。
ハーマイオニーはベッドの上にあぐらをかき、膝の上に書きかけの羊皮紙を広げて羽根ペンを見つめていた。ナマエにもらった誕生日プレゼントの羽根ペンは、インクいらずでベッドの上の作業にぴったりだった。しかし、その手元はいつになくおぼつかない。隣のベッドからはコソコソ囁く声がひっきりなしに聞こえていたが、ついに声をひそめるのをやめたようだった。
「ハーマイオニー。あなた、ナマエ・ミョウジと付き合ってるのよね?」
隣のベッドから、ラベンダー・ブラウンが顔を出してクスクスと笑った。パーバディ・パチルも銀の髪飾りを外し、鏡越しにニヤニヤと視線を送っている。
ハーマイオニーが答えずにいると、ラベンダーが言った。
「じゃあやっぱり、ハリーかロン?」
「二人は友達よ!」
ハーマイオニーの答えに、なぜかラベンダーは満足そうにパーバティに視線を送った。
夏休みが始まる日、ナマエはハーマイオニーにハグをした。そのくらいなら、今までもあった。それに、ハグならナマエにもハリーにもする。なんてことのないことだ。
……ユールボールにも誘われた。二人で踊ることは叶わなかったが、ナマエだってフラーと踊っていた。
──男の子として見てほしい
そう言ったナマエを思い出した。わざわざそんなことを言われなくても、今は多くの女子生徒がナマエをボーイフレンドにしたがっている。それの何がこんなに不愉快なんだろう。
パーバティが身を乗り出した。
「パドマから聞いてるわよ。ナマエはあなたにダンスを申し込んだって」
「ちょっと、待って……そういえば、ビクトール・クラムはどうなったの?」
「彼とは何にもないのよ!ただのペンフレンド」
ハーマイオニーは慌てて言った。
ビクトールは、本当に優しかった。それでもなんとなく、彼はハーマイオニーに夢を見ているというか──落ち着かないのも事実だった。 彼が彼女の横で、難解な魔法理論や、屋敷しもべ妖精の権利について延々と続く話を聞くとき、その瞳には常に穏やかな光が宿っていた。彼はまるで心地よい音楽を聴くように彼女の言葉を受け止めてくれた。けれど、ハーマイオニーは知っている。ビクトールが頷くのは、彼女の話に感銘を受けているからではない。ただ、好きな女の子が一生懸命に話している姿を、愛おしく眺めているだけなのだ。
ラベンダーがじれったそうに話を戻した。
「でも、ナマエみたいにさらっとアピールするのはちょっと女の子慣れしてると思わない?あの顔だもの」
「確かに。ほら、コーマック・マクラーゲンもちょっとハンサムだけど、誰彼構わず口説いてるわよね……」
「あのねえ、ナマエはそんな人じゃないわ!」
ハーマイオニーはたまらず二人に向き直った。
「彼は──誠実な人よ! 他の男の子より勤勉で賢いし、偏見よりも論理性を重視する人よ。バカな悪戯道具でふざけたりもしないわ、それに──」
ナマエは、たとえ同意できない話でもハーマイオニーの考えを理解しようと、脳をフル回転させて努力してくれる。けれどナマエは、彼自身の思考を恋心で曇らせたりはしなかった。
まくしたてるように語ってからハーマイオニーがはっとして顔を上げると、二人の黄色い悲鳴が、厚いカーテンを突き抜けて響いた。
「ちょっと! 静かにしてよ……!」
ハーマイオニーが顔を真っ赤にして制したその時、カーテンが勢いよく引き開けられた。
「何よ、ピーブズでも出たの?」
ジニー・ウィーズリーが、パジャマのポケットに手を突っ込みながら、呆れた顔で立っていた。
「いいえ、ジニー! もっと重大な事件よ。ハーマイオニーがナマエを──」
「ああ、ついに受け入れたのね?」
ジニーはニヤリと笑うと、ハーマイオニーの足元にどかっと座り込んだ。
「どういう心境の変化なの?」
「……心境の変化なんて、そんな大げさなものじゃないわよ」
ハーマイオニーは、手元の美しいカササギの羽根ペンをぎゅっと握りしめた。くっきりとした白と黒の羽根は、蝋燭の光を浴びて青や緑の光沢がつやつやと光った。
髪が長かろうが、短かろうが。 ナマエは変わっていない。
周囲のキャアキャアという浮ついた声が、彼の本質を何も理解していない安っぽいノイズのように感じられた。みんな、髪を切り落としたという表面的な変化で、ようやく彼を見つけたつもりになっているのだ。
──彼に、もしナマエに自分以外のガールフレンドができたら。それが、彼の本質を知ろうともせず、ただの「流行」のように彼を眺める誰かだったとしたら。 想像しただけで胸がむかむかした。
けれど、自分が惹かれたのは、もっと深い場所にあるものだ。
「私ってなんて傲慢なのかしら……」
自分だけが理解し、自分だけがその隣に座っていいのだと思い込んでいた。そんな自分の身勝手さに、深く溜息をついた。
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