炎のゴブレット
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ナマエとドラコは揃ってスタジアムに戻り、試合を観戦した。実際に観戦できたのは、ブルガリアチームのシーカーがスニッチを取った局面だけだった。試合が終わると、ナマエとドラコは、魔法省の役人たちに挨拶をしていたマルフォイ夫妻とはぐれ、キャンプ場に向かう群衆に巻き込まれてしまった。ランタンに照らされた小道を引き返す道すがら、夜気が騒々しい歌声を運んできた。ナマエにとっては、ドラコと過ごしている時間が──とても信じられないことだが、居心地の良い時間だった。しかし、クィデッチが好きなドラコにとってはどうだろうか。そんなことを考えていると、ドラコがナマエの肩を小突いた。
「お前のせいでほとんど見逃したじゃないか!」
ドラコが恨みがましい顔で言った。ナマエは思わず笑ってから、眉を下げてポケットに手を突っ込んだ。
「だから『戻れ』って俺は言ったぜ──あっ……なあ、これ、食べてみるか?」
ナマエはポケットの底に丸い飴玉を見つけて取り出した。今朝、フレッドとジョージがウィーズリー夫人に没収されていた「ベロベロ飴」だった。ナマエはこっそり飛び交う飴の一つをポケットに忍ばせていたのだ。ナマエがニヤッと笑いながらドラコに差し出すと、ドラコはナマエを睨んだ。
「……要らない。ただのキャンディじゃないんだろう」
「ふぅん、クラッブかゴイルなら断らなかっただろうな」
ナマエはつまらなそうに言うと、飴玉をヒョイっと自分の口に放り込んだ。パチパチと弾けるような不思議な飴を舌の上で転がしてから、べえっと舌を出してみた。
「──んん?何も起こらないな」
「どうなるつもりだったんだ」
ドラコが怪訝な顔をした。
「これ、『ベロベロ飴』だって──フレッドとジョージが作った悪戯グッズさ。ベロが伸びるって聞いたんだけど」
「そんなものを僕に食べさせようとしてたのか?」
ドラコは眉を上げてナマエを睨んだ。
「食べなかったじゃないか、不発だったし……」
ドラコはぶつぶつ文句を言いながらも、ナマエの隣を歩いた。せかせかとチチオヤと歩きまわっていた時よりもずっと楽しかった。どのテントもお祭り騒ぎで、歌ったり試合の感想で盛り上がったり、動く選手のフィギュアが地面を低空飛行したりしていた。
森のはずれまでやってくると喧騒は遠くなり、夜気が心地よくナマエの頬を撫でた。
ナマエとドラコは木の上に座って、キャンプ場に立ち並ぶテントの明かりを眺めた。ナマエがぽつりと言った。
「──なあ。あんたがバックビークの処刑を止めるように言ってくれたんだろう、ドラコ」
「…………」
ドラコは答えなかった。ナマエは肯定と受け取った。
「それも貸しか?」
「知らないね」
「あ、そう……」
頑ななドラコにナマエは苦笑を漏らした。
「あんたのパパとママ、大事な息子が俺にたぶらかされてるとでも思って、今頃大騒ぎしてるかもな」
「その通りじゃないか。でも、まあ──そろそろ戻るか──」
ドラコが木から飛び降りようと身を屈めたが、ナマエがその肩を掴んで止めた。
「待て、ドラコ──この音はなんだ?」
キャンプ場の向こうから、何かが、奇妙な光を発射しながら、大砲のような音を立ててこちらに向かってくる。大声で野次り、笑い、酔って喚き散らす声がだんだん近づいてくる。魔法使いたちが一塊になって、杖をいっせいに真上に向け、キャンプ場を横切り、ゆっくりと行進してくる。魔法使いたちはフードをかぶり、仮面をつけている。
そのはるか頭上に、宙に浮かんだ四つの影が、グロテスクな形に歪められ、もがいている。仮面の一団が人形使いのように、杖から宙に伸びた見えない糸で人形を浮かせて、地上から操っているかのようだった。四つの影のうち二つはとても小さかった。
多くの魔法使いが、浮かぶ影を指差し、笑いながら、次々と行進に加わった。行進する群れが膨れ上がると、テントはつぶされ、倒された。火がついたテントもあった。叫び声がますます大きくなった。燃えるテントの上を通過するとき、宙に浮いた姿が急に照らし出された。
ナマエはその一人に見覚えがあった──キャンプ場管理人のロバーツだ。あとの三人は、妻と子供たちだろう。行進中の一人が、杖で女性を逆さまにひっくり返した。ネグリジェがめくれて、だぶだぶしたズロースがむき出しになった。女性は隠そうともがいたが、下の群衆は大喜びでギャーギャー、ピーピー囃し立てた。ドラコは群衆と一緒になって笑った。
「ああ──ごらん、穢れた血どもが踊ってるよ。初めて空を飛んだんだろうね──」
ナマエはドラコの肩を掴む力を強めた。
「……ルシウス・マルフォイもあの中にいるのか?」
「さあ、どうだろうね。──君の父君もいるかもしれないよ」
ナマエは即座に否定できなかった。父親が何を考えているか、何をしていそうかだなんて見当もつかなかった。
騒ぎに追い立てられ、森の中にたくさんの人が逃げ込んできた。暗闇に目を凝らすと、見知った顔が走っているのが見えた。──ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人だ。ドラコもハリーたちに気がついて意地悪く笑った。
「ああ、奴らは逃げたほうがいい。あの女は狙われるだろうからね──」
ナマエはドラコを力任せに木の幹に押し付けた。ナマエはドラコを睨みつけ、奥歯を噛み締めて絞り出すように言った。
「──俺は!あんたが、そういう態度をやめるなら……仲良くしたいと思ってた」
「……………」
ドラコは顔をしかめ、黙ってナマエを見ていたが、不意に目を逸らした。
「ドラ──」
ナマエが怪訝に思って名前を呼ぶと、ドラコが手でナマエの口を塞いだ。
「──今、僕たち以外に誰かいた」
ドラコは声を低めて、辺りを慎重に見渡した。ナマエは杖をしっかり握り直して、ドラコの手を振り払って木から滑り降りた。ドラコも飛び降りてナマエの行く手に着地した。
「おい、どこへ行く」
「お前が言ったんだろ、俺たちの中でハーマイオニーが一番危険かもしれない──」
すると、何の前触れもなく、聞き覚えのない声がした。その声は恐怖に駆られた叫びではなく、呪文のような音を発した。
「モースモードル!」
すると、巨大な、緑色に輝く何かが、ナマエが必死に見透そうとしていたあたりの暗闇から立ち上った。それは木々の梢を突き抜け、空へと舞い上がった。
巨大な髑髏だった。エメラルド色の星のようなものが集まって描く髑髏の口から、舌のように蛇が這い出していた。見る間に、それは高く高く上り、緑がかった靄を背負って、あたかも新星座のように輝き、真っ黒な空にギラギラと刻印された。 途端に、周囲の森から爆発的な悲鳴が上がった。
「『闇の印』だ……おい、ドラコ──」
ナマエが弾けるように振り返ってドラコを振り返ると、ドラコの済ました顔に動揺の色が見えた。──この「闇の印」は、ドラコにとっても予想外の出来事なのか?ナマエが口を開こうとすると、ドラコがぐいっとナマエの頭を掴んで下げた。
「──ステューピファイ!麻痺せよ!」
数十人の声が轟き、閃光が走った。呪文がバチバチ音を立てて、ナマエの頭があった辺りの木々に跳ね返った。そっと頭を上げると、大勢の大人たちが数メートル先に集まっていた。
アーサーさん、バーティ・クラウチにエイモス・ディゴリー──チチオヤが紹介してくれた魔法省の面々が誰かを取り囲んでいるようだった。そして──チチオヤ本人の姿もあった。
「父上がいる……」
ナマエは、チチオヤが仮面の一味ではなかったことにほっとして息をついたが、バーティ氏の荒々しい声が聞こえてきた。
「誰がやった?おまえたちの誰が『闇の印』を出したのだ?」
「──僕たちがやったんじゃない!」
抗議しているのは、誰あろうハリーの声だった。
ナマエとドラコは一瞬顔を見合わせ、次の瞬間、飛び出そうとするナマエの腕をドラコが掴んでいた。ナマエはじれったそうに言った。
「行かないと!ハリーが『闇の印』を打ち上げたんだと思われてる」
「お前は、どうしてそうポッターにこだわる?ハリーハリー、愛しのポッティ──」
「やめろ、マルフォイ。俺に言わせれば、ハリーにこだわってるのはあんたのほうだ」
ドラコの手の力が緩んだ。ナマエはそのままドラコを振り解き、ハリーのもとへ走り出した。
⚡️─────
「やったのはハリーたちじゃない!」
役人を割って誰かがハリーの前に飛び出してきた。ナマエだ。息を切らせている。魔法省の魔女が「また子供よ」とため息をついた。
「ナマエ、」
チチオヤが驚いて名前を呼んだ。ナマエはその声に一瞬肩を跳ねさせたが、果敢にクラウチ氏に訴えた。
「俺、呪文を聞きました。ハリーじゃない、知らない男の声だった」
「呪文!──チチオヤ、君の息子は随分闇の魔術にお詳しいですな」
クラウチ氏の顔中にありありと「誰が信じるものか」と書いてあった。ナマエは苛立ったように眉根を上げた。
「──お言葉ですが、読書をすれば一年生にでもわかることですよ」
クラウチ氏とナマエはギロリと睨み合った。
チチオヤが咳払いをした。ナマエはびくりとチチオヤを見た。冷たい目がナマエを射抜いていた。ナマエが目立つことを快く思っていないようだった。
「あ──俺は、ハリーたちを見つけたから後を追おうとしました。でも、だれか他の人の気配がして、それで呪文が聞こえて、空にあれ が浮かび上がったんです」
クラウチ氏がじっとナマエを見つめてから、コートを翻した。
「捜索する、ついて来い!」
魔法省の魔法使いたちがクラウチ氏に続いた。チチオヤがウィーズリーおじさんに目配せした。
「ああ、チチオヤ。子供達をテントに頼む」
ウィーズリーおじさんはそう言い残すと、捜索に加わった。チチオヤは頷いて、ハリーたちを見た。
「おいで、みんな。私がテントまで送ろう──お前もだ、ナマエ」
ナマエは黙って従った。ハリーはナマエに声をかけた。
「ナマエ、ありがとう」
「ああ──」
ハリーは、ナマエがいつものように「あんたは命の恩人だからな」と笑って返すだろうと思っていたのだが、ナマエは顔を強張らせていた。
ずっとハリーが聞きたかったことを、ロンが口に出した。
「──どうして、みんなあんなにピリピリしてるの?」
ハーマイオニーがすかさず答えた。
「『闇の印』は、例のあの人に仕えている証よ。あの印を作り出したというだけで、アズカバンで終身刑に値するわ」
つらつらと答えるハーマイオニーを、チチオヤが一瞬ちらりと見た。ハリーはその目線から、なんとなくスネイプを思い出して嫌な感じがした。チチオヤは付け加えた。
「死喰い人は──誰かを殺すとあの印を打ち上げる。威圧と力の誇示のために」
チチオヤはキャンプ場を歩く道すがら、壊されたテントに修復呪文を唱えていった。テントが組み直されていく様子を、ハリーたちは黙って見つめながら歩いた。ウィーズリー家のテントは幸い無事で、壊れた様子はなかった。
「アーサーが明日、君たちを連れて帰る。それまで休んでいなさい」
チチオヤは穏やかに言った。
ハリー達がテントに入ると、入り口でチチオヤがナマエを引き止めた。ハリーはテントの内側に立ち止まって聞き耳を立てた。ロンとハーマイオニーも同じように息をひそめた。チチオヤの声が聞こえた。
「お前は、誰がやったと思っている?」
チチオヤはハリーたちに話しかける時よりも、威圧感のある声だった。
「……なんで俺に聞くんだ?」
「お前は犯人の声を聞いた、証人だ」
ナマエはため息をついた。
「……わからない。最初は、もしかしてペテグリューじゃないかと思った。でも声が違った。騒いでた仮面の魔法使いたちも、たぶん違う。あの印が出た途端、奴らは消え失せた」
「──そうか」
「他に言うことないわけ?」
ナマエが冷たく返した。そのあとからはテントの周りが騒がしくなってきて、聞き取れなくなった。ロンが囁いた。
「なんて言ってる?」
「わからない」
ハリーがさらに耳をテントに押し付けていると、さっと布が引かれた。
「──うわっ、びっくりした」
ナマエだ。テントに入ってきたのだ。ナマエは驚いたような疲れたような表情を浮かべた。聞き耳を立てていた三人はぎこちなく笑った。
「エート、──なんの話をしてたの?」
ロンがとぼけると、ナマエはいつものようにいたずらっぽく片方の口角を上げた。
「聞いてたくせに」
「お前のせいでほとんど見逃したじゃないか!」
ドラコが恨みがましい顔で言った。ナマエは思わず笑ってから、眉を下げてポケットに手を突っ込んだ。
「だから『戻れ』って俺は言ったぜ──あっ……なあ、これ、食べてみるか?」
ナマエはポケットの底に丸い飴玉を見つけて取り出した。今朝、フレッドとジョージがウィーズリー夫人に没収されていた「ベロベロ飴」だった。ナマエはこっそり飛び交う飴の一つをポケットに忍ばせていたのだ。ナマエがニヤッと笑いながらドラコに差し出すと、ドラコはナマエを睨んだ。
「……要らない。ただのキャンディじゃないんだろう」
「ふぅん、クラッブかゴイルなら断らなかっただろうな」
ナマエはつまらなそうに言うと、飴玉をヒョイっと自分の口に放り込んだ。パチパチと弾けるような不思議な飴を舌の上で転がしてから、べえっと舌を出してみた。
「──んん?何も起こらないな」
「どうなるつもりだったんだ」
ドラコが怪訝な顔をした。
「これ、『ベロベロ飴』だって──フレッドとジョージが作った悪戯グッズさ。ベロが伸びるって聞いたんだけど」
「そんなものを僕に食べさせようとしてたのか?」
ドラコは眉を上げてナマエを睨んだ。
「食べなかったじゃないか、不発だったし……」
ドラコはぶつぶつ文句を言いながらも、ナマエの隣を歩いた。せかせかとチチオヤと歩きまわっていた時よりもずっと楽しかった。どのテントもお祭り騒ぎで、歌ったり試合の感想で盛り上がったり、動く選手のフィギュアが地面を低空飛行したりしていた。
森のはずれまでやってくると喧騒は遠くなり、夜気が心地よくナマエの頬を撫でた。
ナマエとドラコは木の上に座って、キャンプ場に立ち並ぶテントの明かりを眺めた。ナマエがぽつりと言った。
「──なあ。あんたがバックビークの処刑を止めるように言ってくれたんだろう、ドラコ」
「…………」
ドラコは答えなかった。ナマエは肯定と受け取った。
「それも貸しか?」
「知らないね」
「あ、そう……」
頑ななドラコにナマエは苦笑を漏らした。
「あんたのパパとママ、大事な息子が俺にたぶらかされてるとでも思って、今頃大騒ぎしてるかもな」
「その通りじゃないか。でも、まあ──そろそろ戻るか──」
ドラコが木から飛び降りようと身を屈めたが、ナマエがその肩を掴んで止めた。
「待て、ドラコ──この音はなんだ?」
キャンプ場の向こうから、何かが、奇妙な光を発射しながら、大砲のような音を立ててこちらに向かってくる。大声で野次り、笑い、酔って喚き散らす声がだんだん近づいてくる。魔法使いたちが一塊になって、杖をいっせいに真上に向け、キャンプ場を横切り、ゆっくりと行進してくる。魔法使いたちはフードをかぶり、仮面をつけている。
そのはるか頭上に、宙に浮かんだ四つの影が、グロテスクな形に歪められ、もがいている。仮面の一団が人形使いのように、杖から宙に伸びた見えない糸で人形を浮かせて、地上から操っているかのようだった。四つの影のうち二つはとても小さかった。
多くの魔法使いが、浮かぶ影を指差し、笑いながら、次々と行進に加わった。行進する群れが膨れ上がると、テントはつぶされ、倒された。火がついたテントもあった。叫び声がますます大きくなった。燃えるテントの上を通過するとき、宙に浮いた姿が急に照らし出された。
ナマエはその一人に見覚えがあった──キャンプ場管理人のロバーツだ。あとの三人は、妻と子供たちだろう。行進中の一人が、杖で女性を逆さまにひっくり返した。ネグリジェがめくれて、だぶだぶしたズロースがむき出しになった。女性は隠そうともがいたが、下の群衆は大喜びでギャーギャー、ピーピー囃し立てた。ドラコは群衆と一緒になって笑った。
「ああ──ごらん、穢れた血どもが踊ってるよ。初めて空を飛んだんだろうね──」
ナマエはドラコの肩を掴む力を強めた。
「……ルシウス・マルフォイもあの中にいるのか?」
「さあ、どうだろうね。──君の父君もいるかもしれないよ」
ナマエは即座に否定できなかった。父親が何を考えているか、何をしていそうかだなんて見当もつかなかった。
騒ぎに追い立てられ、森の中にたくさんの人が逃げ込んできた。暗闇に目を凝らすと、見知った顔が走っているのが見えた。──ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人だ。ドラコもハリーたちに気がついて意地悪く笑った。
「ああ、奴らは逃げたほうがいい。あの女は狙われるだろうからね──」
ナマエはドラコを力任せに木の幹に押し付けた。ナマエはドラコを睨みつけ、奥歯を噛み締めて絞り出すように言った。
「──俺は!あんたが、そういう態度をやめるなら……仲良くしたいと思ってた」
「……………」
ドラコは顔をしかめ、黙ってナマエを見ていたが、不意に目を逸らした。
「ドラ──」
ナマエが怪訝に思って名前を呼ぶと、ドラコが手でナマエの口を塞いだ。
「──今、僕たち以外に誰かいた」
ドラコは声を低めて、辺りを慎重に見渡した。ナマエは杖をしっかり握り直して、ドラコの手を振り払って木から滑り降りた。ドラコも飛び降りてナマエの行く手に着地した。
「おい、どこへ行く」
「お前が言ったんだろ、俺たちの中でハーマイオニーが一番危険かもしれない──」
すると、何の前触れもなく、聞き覚えのない声がした。その声は恐怖に駆られた叫びではなく、呪文のような音を発した。
「モースモードル!」
すると、巨大な、緑色に輝く何かが、ナマエが必死に見透そうとしていたあたりの暗闇から立ち上った。それは木々の梢を突き抜け、空へと舞い上がった。
巨大な髑髏だった。エメラルド色の星のようなものが集まって描く髑髏の口から、舌のように蛇が這い出していた。見る間に、それは高く高く上り、緑がかった靄を背負って、あたかも新星座のように輝き、真っ黒な空にギラギラと刻印された。 途端に、周囲の森から爆発的な悲鳴が上がった。
「『闇の印』だ……おい、ドラコ──」
ナマエが弾けるように振り返ってドラコを振り返ると、ドラコの済ました顔に動揺の色が見えた。──この「闇の印」は、ドラコにとっても予想外の出来事なのか?ナマエが口を開こうとすると、ドラコがぐいっとナマエの頭を掴んで下げた。
「──ステューピファイ!麻痺せよ!」
数十人の声が轟き、閃光が走った。呪文がバチバチ音を立てて、ナマエの頭があった辺りの木々に跳ね返った。そっと頭を上げると、大勢の大人たちが数メートル先に集まっていた。
アーサーさん、バーティ・クラウチにエイモス・ディゴリー──チチオヤが紹介してくれた魔法省の面々が誰かを取り囲んでいるようだった。そして──チチオヤ本人の姿もあった。
「父上がいる……」
ナマエは、チチオヤが仮面の一味ではなかったことにほっとして息をついたが、バーティ氏の荒々しい声が聞こえてきた。
「誰がやった?おまえたちの誰が『闇の印』を出したのだ?」
「──僕たちがやったんじゃない!」
抗議しているのは、誰あろうハリーの声だった。
ナマエとドラコは一瞬顔を見合わせ、次の瞬間、飛び出そうとするナマエの腕をドラコが掴んでいた。ナマエはじれったそうに言った。
「行かないと!ハリーが『闇の印』を打ち上げたんだと思われてる」
「お前は、どうしてそうポッターにこだわる?ハリーハリー、愛しのポッティ──」
「やめろ、マルフォイ。俺に言わせれば、ハリーにこだわってるのはあんたのほうだ」
ドラコの手の力が緩んだ。ナマエはそのままドラコを振り解き、ハリーのもとへ走り出した。
⚡️─────
「やったのはハリーたちじゃない!」
役人を割って誰かがハリーの前に飛び出してきた。ナマエだ。息を切らせている。魔法省の魔女が「また子供よ」とため息をついた。
「ナマエ、」
チチオヤが驚いて名前を呼んだ。ナマエはその声に一瞬肩を跳ねさせたが、果敢にクラウチ氏に訴えた。
「俺、呪文を聞きました。ハリーじゃない、知らない男の声だった」
「呪文!──チチオヤ、君の息子は随分闇の魔術にお詳しいですな」
クラウチ氏の顔中にありありと「誰が信じるものか」と書いてあった。ナマエは苛立ったように眉根を上げた。
「──お言葉ですが、読書をすれば一年生にでもわかることですよ」
クラウチ氏とナマエはギロリと睨み合った。
チチオヤが咳払いをした。ナマエはびくりとチチオヤを見た。冷たい目がナマエを射抜いていた。ナマエが目立つことを快く思っていないようだった。
「あ──俺は、ハリーたちを見つけたから後を追おうとしました。でも、だれか他の人の気配がして、それで呪文が聞こえて、空に
クラウチ氏がじっとナマエを見つめてから、コートを翻した。
「捜索する、ついて来い!」
魔法省の魔法使いたちがクラウチ氏に続いた。チチオヤがウィーズリーおじさんに目配せした。
「ああ、チチオヤ。子供達をテントに頼む」
ウィーズリーおじさんはそう言い残すと、捜索に加わった。チチオヤは頷いて、ハリーたちを見た。
「おいで、みんな。私がテントまで送ろう──お前もだ、ナマエ」
ナマエは黙って従った。ハリーはナマエに声をかけた。
「ナマエ、ありがとう」
「ああ──」
ハリーは、ナマエがいつものように「あんたは命の恩人だからな」と笑って返すだろうと思っていたのだが、ナマエは顔を強張らせていた。
ずっとハリーが聞きたかったことを、ロンが口に出した。
「──どうして、みんなあんなにピリピリしてるの?」
ハーマイオニーがすかさず答えた。
「『闇の印』は、例のあの人に仕えている証よ。あの印を作り出したというだけで、アズカバンで終身刑に値するわ」
つらつらと答えるハーマイオニーを、チチオヤが一瞬ちらりと見た。ハリーはその目線から、なんとなくスネイプを思い出して嫌な感じがした。チチオヤは付け加えた。
「死喰い人は──誰かを殺すとあの印を打ち上げる。威圧と力の誇示のために」
チチオヤはキャンプ場を歩く道すがら、壊されたテントに修復呪文を唱えていった。テントが組み直されていく様子を、ハリーたちは黙って見つめながら歩いた。ウィーズリー家のテントは幸い無事で、壊れた様子はなかった。
「アーサーが明日、君たちを連れて帰る。それまで休んでいなさい」
チチオヤは穏やかに言った。
ハリー達がテントに入ると、入り口でチチオヤがナマエを引き止めた。ハリーはテントの内側に立ち止まって聞き耳を立てた。ロンとハーマイオニーも同じように息をひそめた。チチオヤの声が聞こえた。
「お前は、誰がやったと思っている?」
チチオヤはハリーたちに話しかける時よりも、威圧感のある声だった。
「……なんで俺に聞くんだ?」
「お前は犯人の声を聞いた、証人だ」
ナマエはため息をついた。
「……わからない。最初は、もしかしてペテグリューじゃないかと思った。でも声が違った。騒いでた仮面の魔法使いたちも、たぶん違う。あの印が出た途端、奴らは消え失せた」
「──そうか」
「他に言うことないわけ?」
ナマエが冷たく返した。そのあとからはテントの周りが騒がしくなってきて、聞き取れなくなった。ロンが囁いた。
「なんて言ってる?」
「わからない」
ハリーがさらに耳をテントに押し付けていると、さっと布が引かれた。
「──うわっ、びっくりした」
ナマエだ。テントに入ってきたのだ。ナマエは驚いたような疲れたような表情を浮かべた。聞き耳を立てていた三人はぎこちなく笑った。
「エート、──なんの話をしてたの?」
ロンがとぼけると、ナマエはいつものようにいたずらっぽく片方の口角を上げた。
「聞いてたくせに」