炎のゴブレット
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⚡️──────
ハリーが辺りを見渡すと、男が一人、テントのほうを眺めて立っていた。足音を聞きつけて男が振り返り、こっちを見た。ハリーは一目見てこの男はマグルだろうということがわかった。
「ロバーツさんですね?ウィーズリーです──予約してありますよね?」
ウィーズリーおじさんが明るく言った。
ロバーツはドアに貼りつけたリストを見ながら答えた。
「おめえさんの場所はあそこの森の端だ。前払いだよ」
「ああ──お待ちを」
ウィーズリーおじさんは小屋からちょっと離れ、ハリーを手招きした。おじさんはポケットから丸めたマグルの札束を引っ張り出し、一枚一枚はがしはじめた。マグルの紙幣に興味を惹かれたナマエも覗き込んできた。
「これは──っと、十かね? あ、なるほど、数字が小さく書いてあるようだ──すると、これは五かな?」
「二十ですよ」
ハリーは声を低めて訂正した。ロバーツが聞き耳を立てていたので、気が気ではなかった。
ちゃんとした金額を揃えて、おじさんはロバーツの元へ戻って行った。ナマエが不思議そうにハリーに尋ねた。
「──あんな紙で、濡れたり破れたりしたらどうするんだ?レパロは使えないだろう?」
ハリーはきょとんとしたが、たしかに魔法界には大きめのコインが三種類しか通貨がないのだ。
「えーと、たぶん、銀行に切れはしを持って行ったら新しいのに替えてもらえると思うよ」
「ふうん……でも、偽物を作りやすくないか?あれは羊皮紙じゃないだろう?それに──」
ナマエはハリーに矢継ぎ早に疑問を口にした。ナマエはいつもマグルに興味津々で、たびたびハリーを質問攻めにするのだった。ハリーはハーマイオニーに助けを求めようと振り返ったが、突然、呪文を叫ぶ声が聞こえた。
「オブリビエイト!忘れよ!」
ニッカーズを履いた魔法使いが杖をロバーツに向け、鋭い呪文が飛んだ。とたんにロバーツの目が虚ろになり、 夢見るようなとろんとした表情になった。
何事かとナマエに尋ねようとすると、ナマエはその様子を顔をしかめて見ていた。ハリーの視線に気がつくと、ナマエはハリーに囁いた。
「ああ──あのマグル、きっと俺たちがマグルじゃないって勘付いたんだよ。あれはきっと『忘却術士』だな」
ナマエはハリーに身を寄せて小さな声で続けた。
「……ああやって記憶を消さなきゃならないのはわかってるけど、でも──」
ナマエがふいに話をやめた。ハリーがナマエの目線を追うと、その先にいたのはナマエの父親、チチオヤだった。
「おはよう、アーサー」
「チチオヤ!早いね」
チチオヤは濃いグレーのフロックコートを完璧に着こなしていて、マグルの政治家だと言われても納得するような出立ちだった。ウィーズリーおじさんと挨拶を交わすと、チチオヤはちらりとこちらに目を向けた。ハリーはナマエの喉が鳴るのを聞いた。チチオヤはウィーズリーおじさんに顔を戻してにっこりした。
「息子が世話になった、礼を言う」
「なに、一人増えたくらい変わらんよ。──みんな、こちらがチチオヤ・ミョウジだ」
ウィーズリーおじさんが紹介すると、チチオヤは穏やかな表情で微笑んで一行を見た。ハリーはその柔和な表情に驚いた。思い切り笑えば、少しナマエと似ているかもしれない思った。ハリーがチチオヤを見たのは、二年生のころに秘密の部屋からナマエを連れ戻した時と、去年のシリウスの一件ですれ違っただけだった。どちらも優しさとは程遠い、冷たくて厳しい男だという印象だった。ハリーがナマエを見ると、見るからにぶすっとした顔をしていた。
チチオヤは構わずに言った。
「では、我々はここで失礼する。息子を送ってくれてありがとう」
ナマエは驚いたようにチチオヤを見て、そのあと縋るようにウィーズリーおじさんを見た。
「待って──俺もウィーズリー家のテントに行くんじゃないの?」
「お前はこっちだ」
チチオヤがぴしゃりと言うと、ナマエはしぶしぶチチオヤの後に続いた。ナマエは名残惜しそうに何度も何度も振り返りながら、父親と二人で喧騒の中に姿を消した。
🐦⬛─────────
「いいか?今からお前を私の知人に紹介して回る。会う人間は全員覚えろ」
チチオヤはキャンプ場を大股で横切りながら言った。ナマエはきょろきょろと並び立つテントを見回した。外国の子供達や、役人、ホグワーツの生徒とその家族もいた。競技場に向かう大通りに出ると、魔法省の役人が気ぜわしく行き交っていた。通りがかりに、みんながチチオヤに丁寧に挨拶した。チチオヤは一人一人にナマエを紹介し、ひっきりなしに解説した。
「カスバート・モックリッジ。小鬼連絡室の室長だ……いまやってくるのがギルバート・ウィンプル。実験呪文委員会のメンバーだ。やあ、アーニー……アーノルド・ピーズグッド。『忘却術士』だ……」
ナマエは目まぐるしく様々な魔法使いに挨拶を繰り返した。ナマエはこのとき初めて、チチオヤはずいぶん魔法界で顔が広いらしいことを知った。ウィーズリー氏の言う通り、チチオヤは本当に魔法省への入省を薦められたことがあるのかもしれないと思った。
今度は魔法使いが一人「姿現わし」でやってきた。
「チチオヤ」
「バーティ、どうなさった?」
バーティと呼ばれた男は、しゃきっと背筋を伸ばし、非の打ちどころのない背広にネクタイ姿の初老の魔法使いだった。短い銀髪の分け目は不自然なまでにまっすぐで、歯ブラシ状の口髭は、まるで定規を当てて刈り込んだようだった。
バーティが厳格な目をナマエに向けた。ナマエは小さく会釈をして、「ナマエです」と挨拶した。
「どうも……ルードを探しているのだが、見ないかね?ブルガリア側が、貴賓席をあと十二席設けろと強く要求している──ああ、いた!あそこだ。全く……悪いね、これで」
ルードを見つけたらしいバーティは、すぐにキビキビと歩いて立ち去った。チチオヤがナマエに耳打ちした。
「彼はバーテミウス・クラウチ。第一次魔法戦争でかなりの死喰い人を裁判無しにアズカバン送りにした。──ああ、イゴール!」
ナマエはパーシーがバーティ・クラウチを崇拝することに納得した。厳格さが服を着て歩いているような男だった。
次にチチオヤが声をかけたのは痩せた長身の男だった。ヤギのような銀の顎鬚を生やし、同じく銀色の毛皮のコートを翻してこちらに近づいてきた。イゴールはいやに愛想良く笑った。歯が黄ばんでいて、目は笑っていなかった。イゴールはブルガリア語で話し始めた。ナマエは断片的に会話を聞き取った。
「チチオヤ! ズドラヴェイ・カクスィ 」
「 ドブレ 、イゴール。──これは私の倅のナマエだ」
チチオヤはナマエの肩をギュッと掴んでイゴールに紹介した。ナマエは一瞬顔をしかめたが、すぐにイゴールに向けて笑顔をつくった。
イゴールはナマエを見て目を細め、曖昧に笑って立ち去った。
「──あれ、ダームストラングの人?」
ナマエが尋ねると、チチオヤは笑顔を引っ込めて、声を低めた。
「ああ、校長だが、イゴールは元死喰い人だ」
「そんなやつ、アズカバンにいるはずじゃないのか?」
「奴は仲間を魔法省に売って助かったんだ。臆病で卑怯な男だ。関わるんじゃないぞ」
ナマエは苛立ちと疑問を覚えた。ダームストラング出身のチチオヤはまだしも、ナマエはチチオヤに紹介されなければダームストラングの人間と関わる機会など到底ないのだ。ナマエの考えを見透かすように、チチオヤが言った。
「今年に限っては、会う機会が多いだろう。いいか──ああ、あの派手な男が──ルドビッチ・バクマン」
チチオヤは言いかけて、次の役人紹介に移った。ナマエはため息をついた。
「よう!よう!チチオヤ!」
バグマンがうれしそうに呼びかけた。まるで踵にバネがついているように弾んで、完全に興奮しまくっている。鮮やかな黄色と黒の太い横縞が入ったクィディッチ用の長いローブを着ている。育ち過ぎた少年のようだった。
「──おお、かわいらしいお嬢さんだ、はじめまして!」
「どうも」
ナマエは控えめに答えた。
「おっと、ご子息だったかな?はは!」
「バーティが探していたよ、ルード」
上機嫌なバクマンとは裏腹に、チチオヤはそっけなく言った。
「ああ、さっき会ったよ。──それより、まだ買ってないならパンフレットは買った方がいいぞ!」
バクマンはまた跳ねるように去って行った。チチオヤは眉間に皺を寄せた。
「調子のいい男だ……あの男は死喰い人に情報を流したことがある」
ナマエはアーサー氏とパーシーがルード・バクマンについて話していたことを思い出した。
「アーサーさんは、『ルードが好きだ』って言ってたよ」
「そうかもしれんな」
チチオヤは気のない返事をしながら、人混みを見渡していた。
「──そろそろ私は救護テントに戻らなければならん。席に行っておきなさい」
「そう。てっきり、選手の解説もしてくれるのかと思ってた」
ナマエは皮肉っぽく言った。チチオヤは答えずに辺りを見回しながら歩き出した。誰かを探しているようだった。ナマエは不満げに鼻を鳴らした。
「──俺は今日一瞬会っただけのお偉いさまじゃなくて、父上のことを教えて欲しいんだけど」
チチオヤは一瞬立ち止まったが、すぐにコートを翻して、手を上げた。
「ルシウス!」
「──やあ、チチオヤ。ご招待感謝する」
「お久しぶり、ナルシッサ。ドラコ君」
チチオヤが声をかけたのは、誰あろうマルフォイ一家だった。ドラコ・マルフォイに瓜二つのルシウスはチチオヤとがっしり握手をした。ほっそりしたブロンドの女性がおそらく母親だろう。ドラコはチチオヤに向かって愛想良く会釈し、ナマエのことは目に入っていないように振る舞った。
「じゃあ、倅を頼む。助かるよ」
チチオヤはルシウスにそういうと、「姿くらまし」で消えてしまった。ナマエは耳を疑った。この浮かれた競技場でひとりぼっちで観戦するよりもひどい仕打ちがあっただなんて、思いもしなかった。
「──では、行こうか。ナマエ」
ルシウスの冷たい灰色の目が、ナマエを見た。
ハリーが辺りを見渡すと、男が一人、テントのほうを眺めて立っていた。足音を聞きつけて男が振り返り、こっちを見た。ハリーは一目見てこの男はマグルだろうということがわかった。
「ロバーツさんですね?ウィーズリーです──予約してありますよね?」
ウィーズリーおじさんが明るく言った。
ロバーツはドアに貼りつけたリストを見ながら答えた。
「おめえさんの場所はあそこの森の端だ。前払いだよ」
「ああ──お待ちを」
ウィーズリーおじさんは小屋からちょっと離れ、ハリーを手招きした。おじさんはポケットから丸めたマグルの札束を引っ張り出し、一枚一枚はがしはじめた。マグルの紙幣に興味を惹かれたナマエも覗き込んできた。
「これは──っと、十かね? あ、なるほど、数字が小さく書いてあるようだ──すると、これは五かな?」
「二十ですよ」
ハリーは声を低めて訂正した。ロバーツが聞き耳を立てていたので、気が気ではなかった。
ちゃんとした金額を揃えて、おじさんはロバーツの元へ戻って行った。ナマエが不思議そうにハリーに尋ねた。
「──あんな紙で、濡れたり破れたりしたらどうするんだ?レパロは使えないだろう?」
ハリーはきょとんとしたが、たしかに魔法界には大きめのコインが三種類しか通貨がないのだ。
「えーと、たぶん、銀行に切れはしを持って行ったら新しいのに替えてもらえると思うよ」
「ふうん……でも、偽物を作りやすくないか?あれは羊皮紙じゃないだろう?それに──」
ナマエはハリーに矢継ぎ早に疑問を口にした。ナマエはいつもマグルに興味津々で、たびたびハリーを質問攻めにするのだった。ハリーはハーマイオニーに助けを求めようと振り返ったが、突然、呪文を叫ぶ声が聞こえた。
「オブリビエイト!忘れよ!」
ニッカーズを履いた魔法使いが杖をロバーツに向け、鋭い呪文が飛んだ。とたんにロバーツの目が虚ろになり、 夢見るようなとろんとした表情になった。
何事かとナマエに尋ねようとすると、ナマエはその様子を顔をしかめて見ていた。ハリーの視線に気がつくと、ナマエはハリーに囁いた。
「ああ──あのマグル、きっと俺たちがマグルじゃないって勘付いたんだよ。あれはきっと『忘却術士』だな」
ナマエはハリーに身を寄せて小さな声で続けた。
「……ああやって記憶を消さなきゃならないのはわかってるけど、でも──」
ナマエがふいに話をやめた。ハリーがナマエの目線を追うと、その先にいたのはナマエの父親、チチオヤだった。
「おはよう、アーサー」
「チチオヤ!早いね」
チチオヤは濃いグレーのフロックコートを完璧に着こなしていて、マグルの政治家だと言われても納得するような出立ちだった。ウィーズリーおじさんと挨拶を交わすと、チチオヤはちらりとこちらに目を向けた。ハリーはナマエの喉が鳴るのを聞いた。チチオヤはウィーズリーおじさんに顔を戻してにっこりした。
「息子が世話になった、礼を言う」
「なに、一人増えたくらい変わらんよ。──みんな、こちらがチチオヤ・ミョウジだ」
ウィーズリーおじさんが紹介すると、チチオヤは穏やかな表情で微笑んで一行を見た。ハリーはその柔和な表情に驚いた。思い切り笑えば、少しナマエと似ているかもしれない思った。ハリーがチチオヤを見たのは、二年生のころに秘密の部屋からナマエを連れ戻した時と、去年のシリウスの一件ですれ違っただけだった。どちらも優しさとは程遠い、冷たくて厳しい男だという印象だった。ハリーがナマエを見ると、見るからにぶすっとした顔をしていた。
チチオヤは構わずに言った。
「では、我々はここで失礼する。息子を送ってくれてありがとう」
ナマエは驚いたようにチチオヤを見て、そのあと縋るようにウィーズリーおじさんを見た。
「待って──俺もウィーズリー家のテントに行くんじゃないの?」
「お前はこっちだ」
チチオヤがぴしゃりと言うと、ナマエはしぶしぶチチオヤの後に続いた。ナマエは名残惜しそうに何度も何度も振り返りながら、父親と二人で喧騒の中に姿を消した。
🐦⬛─────────
「いいか?今からお前を私の知人に紹介して回る。会う人間は全員覚えろ」
チチオヤはキャンプ場を大股で横切りながら言った。ナマエはきょろきょろと並び立つテントを見回した。外国の子供達や、役人、ホグワーツの生徒とその家族もいた。競技場に向かう大通りに出ると、魔法省の役人が気ぜわしく行き交っていた。通りがかりに、みんながチチオヤに丁寧に挨拶した。チチオヤは一人一人にナマエを紹介し、ひっきりなしに解説した。
「カスバート・モックリッジ。小鬼連絡室の室長だ……いまやってくるのがギルバート・ウィンプル。実験呪文委員会のメンバーだ。やあ、アーニー……アーノルド・ピーズグッド。『忘却術士』だ……」
ナマエは目まぐるしく様々な魔法使いに挨拶を繰り返した。ナマエはこのとき初めて、チチオヤはずいぶん魔法界で顔が広いらしいことを知った。ウィーズリー氏の言う通り、チチオヤは本当に魔法省への入省を薦められたことがあるのかもしれないと思った。
今度は魔法使いが一人「姿現わし」でやってきた。
「チチオヤ」
「バーティ、どうなさった?」
バーティと呼ばれた男は、しゃきっと背筋を伸ばし、非の打ちどころのない背広にネクタイ姿の初老の魔法使いだった。短い銀髪の分け目は不自然なまでにまっすぐで、歯ブラシ状の口髭は、まるで定規を当てて刈り込んだようだった。
バーティが厳格な目をナマエに向けた。ナマエは小さく会釈をして、「ナマエです」と挨拶した。
「どうも……ルードを探しているのだが、見ないかね?ブルガリア側が、貴賓席をあと十二席設けろと強く要求している──ああ、いた!あそこだ。全く……悪いね、これで」
ルードを見つけたらしいバーティは、すぐにキビキビと歩いて立ち去った。チチオヤがナマエに耳打ちした。
「彼はバーテミウス・クラウチ。第一次魔法戦争でかなりの死喰い人を裁判無しにアズカバン送りにした。──ああ、イゴール!」
ナマエはパーシーがバーティ・クラウチを崇拝することに納得した。厳格さが服を着て歩いているような男だった。
次にチチオヤが声をかけたのは痩せた長身の男だった。ヤギのような銀の顎鬚を生やし、同じく銀色の毛皮のコートを翻してこちらに近づいてきた。イゴールはいやに愛想良く笑った。歯が黄ばんでいて、目は笑っていなかった。イゴールはブルガリア語で話し始めた。ナマエは断片的に会話を聞き取った。
「チチオヤ!
「
チチオヤはナマエの肩をギュッと掴んでイゴールに紹介した。ナマエは一瞬顔をしかめたが、すぐにイゴールに向けて笑顔をつくった。
イゴールはナマエを見て目を細め、曖昧に笑って立ち去った。
「──あれ、ダームストラングの人?」
ナマエが尋ねると、チチオヤは笑顔を引っ込めて、声を低めた。
「ああ、校長だが、イゴールは元死喰い人だ」
「そんなやつ、アズカバンにいるはずじゃないのか?」
「奴は仲間を魔法省に売って助かったんだ。臆病で卑怯な男だ。関わるんじゃないぞ」
ナマエは苛立ちと疑問を覚えた。ダームストラング出身のチチオヤはまだしも、ナマエはチチオヤに紹介されなければダームストラングの人間と関わる機会など到底ないのだ。ナマエの考えを見透かすように、チチオヤが言った。
「今年に限っては、会う機会が多いだろう。いいか──ああ、あの派手な男が──ルドビッチ・バクマン」
チチオヤは言いかけて、次の役人紹介に移った。ナマエはため息をついた。
「よう!よう!チチオヤ!」
バグマンがうれしそうに呼びかけた。まるで踵にバネがついているように弾んで、完全に興奮しまくっている。鮮やかな黄色と黒の太い横縞が入ったクィディッチ用の長いローブを着ている。育ち過ぎた少年のようだった。
「──おお、かわいらしいお嬢さんだ、はじめまして!」
「どうも」
ナマエは控えめに答えた。
「おっと、ご子息だったかな?はは!」
「バーティが探していたよ、ルード」
上機嫌なバクマンとは裏腹に、チチオヤはそっけなく言った。
「ああ、さっき会ったよ。──それより、まだ買ってないならパンフレットは買った方がいいぞ!」
バクマンはまた跳ねるように去って行った。チチオヤは眉間に皺を寄せた。
「調子のいい男だ……あの男は死喰い人に情報を流したことがある」
ナマエはアーサー氏とパーシーがルード・バクマンについて話していたことを思い出した。
「アーサーさんは、『ルードが好きだ』って言ってたよ」
「そうかもしれんな」
チチオヤは気のない返事をしながら、人混みを見渡していた。
「──そろそろ私は救護テントに戻らなければならん。席に行っておきなさい」
「そう。てっきり、選手の解説もしてくれるのかと思ってた」
ナマエは皮肉っぽく言った。チチオヤは答えずに辺りを見回しながら歩き出した。誰かを探しているようだった。ナマエは不満げに鼻を鳴らした。
「──俺は今日一瞬会っただけのお偉いさまじゃなくて、父上のことを教えて欲しいんだけど」
チチオヤは一瞬立ち止まったが、すぐにコートを翻して、手を上げた。
「ルシウス!」
「──やあ、チチオヤ。ご招待感謝する」
「お久しぶり、ナルシッサ。ドラコ君」
チチオヤが声をかけたのは、誰あろうマルフォイ一家だった。ドラコ・マルフォイに瓜二つのルシウスはチチオヤとがっしり握手をした。ほっそりしたブロンドの女性がおそらく母親だろう。ドラコはチチオヤに向かって愛想良く会釈し、ナマエのことは目に入っていないように振る舞った。
「じゃあ、倅を頼む。助かるよ」
チチオヤはルシウスにそういうと、「姿くらまし」で消えてしまった。ナマエは耳を疑った。この浮かれた競技場でひとりぼっちで観戦するよりもひどい仕打ちがあっただなんて、思いもしなかった。
「──では、行こうか。ナマエ」
ルシウスの冷たい灰色の目が、ナマエを見た。