炎のゴブレット
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キッチンに戻ると、ウィーズリー夫人が杖で鍋をかき混ぜていた。疲れた様子だが、思ったよりも機嫌が直っているようでナマエはほっとした。夫人はナマエに気がついてにっこり笑った。
「ナマエ!屋敷しもべのお陰で大助かりだわ。みんな庭に出てるわよ。──シノビー、これも運んでちょうだい」
「承知しました、奥さま」
ナマエの目には心なしかシノビーがいきいきしているように見えた。
庭に出ると、二卓のテーブルにウィーズリー夫人の腕を振るったご馳走がいく皿もいく皿も並べられ、重みで唸っていた。紺碧に澄み渡った空の下で、ウィーズリー家の九人と、ナマエ、ハリー、ハーマイオニーとが食卓についた。みんな、明日のワールドカップの話題で盛り上がりながら夕食を楽しんだ。
ひととおり腹が満たされたころ、ナマエは気になっていたことを尋ねた。
「──あの、アーサーさん。聞いてもいいですか?」
「なんだい、ナマエ」
「アーサーさんは、その──俺の父と親しいんでしょうか?」
ナマエがチチオヤの話題を出した時、ウィーズリー夫人の眉がぴくっと動いた気がした。ナマエは言葉を選んだ。
「あまり父と話さないので、知らなくて……」
「ああ、いや、無理もない。チチオヤは昔から秘密主義の節がある──」
ウィーズリー氏は優しく笑って、自分とナマエの皿にポテトをよそった。
「たしかに我々は十年以上の付き合いだ。彼はかなり優秀な魔法使いでね、魔法省からも何度も入省の誘いがあったほどだ──アー、聖マンゴが気に入っていると断っていたが」
ウィーズリー氏は途中で言葉を切って曖昧に笑った。何かナマエに言い難いことがあるのだろうか。ナマエが口を開こうとすると、パーシーが割って入った。
「お父さん、ミョウジ氏は魔法省に非常に協力的ですよ。今回のワールドカップについても、救護班の編成はほとんどミョウジ氏が行っていますし……本来魔法スポーツ部が率先して行うべきことなんですが、ルード・バクマンはまったく──」
「私はルードが好きだよ。ワールドカップのあんなにいい切符を取ってくれたのもあの男だ」
ウィーズリー氏がやんわりと言った。
「まあ、バグマンは好かれるくらいが関の山ですよ。クラウチさんなら部下が行方不明なのに探さないなんてありえないですし──」
パーシーが続けていると、ロンはまたかという顔で囁いた。
「出たよ。クラウチさんクラウチさん、……パーシーのやつ、仕事に就いてからずっとあの調子なんだ」
庭が暗くなってきたので、シノビーが蝋燭を作り出し、灯りを点けた。夏の蛾がテーブルの上を低く舞い、芝草とスイカズラの香りが暖かい空気を満たしていた。
ウィーズリー夫人が腕時計を見ながら言った。
「みんなもう寝なくちゃ。全員よ。ワールドカップに行くのに、夜明け前に起きるんですからね。ハリー、ナマエ、ハーマイオニー、学用品のリストを置いていってね。明日、ダイアゴン横丁で買ってきてあげますよ。ワールドカップのあとは時間がないかもしれないわ。前回の試合なんか、五日間も続いたんだから」
「五日も?!」
ナマエは驚いて思わず立ち上がった。
「ワーッ!こんどもそうなるといいな!」
ハリーは熱くなった。
ナマエは盛り上がるハリーとは対照的にへなりと座り直して、ウィーズリー夫人に言った。
「えっと、モリーさん、俺の分は──いや、みんなの分もシノビーに頼んでおいてください」
「まあ!いいのかしら。とっても助かるわ」
夫人はそう言うと、家の中に戻っていった。
「……じゃあ、今年はロンドンで遊べないか」
ナマエはしょんぼりした声で言うと、ハーマイオニーが励ました。
「仕方ないわ。次の夏休みの楽しみにしましょう」
「そうだよ。ロンドンはいつでもあるけど、クィディッチのワールドカップに行けることなんて、もうないかもしれない」
ロンが興奮気味に言った。
みんなが寝入ったあとも、ナマエはあまり眠れなかった。夜明け前にウィーズリー夫人がみんなを起こしにやってきた。ナマエは夫人の代わりにみんなを揺り起こして、キッチンに追い立てた。
キッチンではウィーズリー夫人は竈にかけた大きな鍋を掻き回していた。ウィーズリー氏はテーブルに座って、大きな羊皮紙の切符の束を検めていた。
「ビルとチャーリーと、パぁ―パぁ―パぁーシーは?」
ジョージが大欠伸を噛み殺し損ないながら言った。
「ああ、あの子たちは『姿現わし』で行くんですよ」
夫人はきびきびとみんなの皿にオートミールを分けた。その様子を見て、ナマエは尋ねた。
「──あれ、シノビーは?」
「チチオヤに呼び出されて行ったよ。ナマエ、君の切符はチチオヤが持っているそうだよ──我々の席とは少し離れているみたいだ」
切符をポケットにしっかりとしまい込みながら、ウィーズリー氏が答えた。ナマエはすっかりみんなと一緒に観戦する気でいたので、急に楽しめる自信がなくなってきた。
廊下に足音がして、ハーマイオニーとジニーがキッチンに入ってきた。二人とも眠そうで、血の気のない顔をしていた。
「どうしてこんなに早起きしなきゃいけないの?」
ジニーが目を擦りながらテーブルについた。
「結構歩かなくちゃならないんだ」
ウィーズリー氏が言った。
「歩く?」
ハリーが言った。
「え?僕たちワールドカップ会場まで、歩いていくんですか?」
「少し歩くだけだよ。マグルの注意を引かないようにしながら、大勢の魔法使いが集まるのは非常に難しい──」
「ジョージ!」
ウィーズリー夫人の鋭い声が飛んだ。全員が飛び上がった。
夫人は杖をジョージのポケットに向けて唱えた。
「アクシオ!出てこい!」
鮮やかな色の小さな物が数個、ジョージのポケットから飛び出した。ジョージが捕まえようとしたが、その手をかすめ、小さな物はウィーズリー夫人が伸ばした手にまっすぐ飛び込んだ。
「全部捨てなさいって言ったでしょう!ポケットの中身を全部お出し。さあ、二人とも!」
きょとんとしているナマエに、ハリーが耳打ちした。
「あれが『ベロベロ飴』だよ」
そんなこんなで、出発のときはとても和やかとは言えない雰囲気だった。双子はリュックサックを背負い、母親に口もきかずに歩き出した。
「それじゃ、楽しんでらっしゃい」
夫人が言った。
離れていく双子の背中に向って夫人が声をかけたが、二人は振り向きもせず、返事もしなかった。ナマエはなんとなくいたたまれなくなって、双子の代わりに夫人に手を振った。
外は肌寒く、まだ月が出ていた。みんな一言も話さず、暗闇の中を黙々と歩いた。草の塊やウサギの穴ででこぼこした道につまづきながら進んだ。ハーマイオニーの息切れが聞こえはじめたとき、やっとナマエは平らな地面を踏みしめた。
「フーッ」
ウィーズリー氏は喘ぎながらメガネをはずし、セーターで拭いた。
「やれやれ、ちょうどいい時間だ──あと十分ある……」
突然、大きな声が響いた。
「ここだ、アーサー!」
丘の頂の向こう側に、星空を背に長身の影が二つ立っていた。
「エイモス!」
ウィーズリー氏が、大声の主のほうにニコニコと大股で近づいていった。みんなもアーサーさんのあとに従った。アーサーさんは褐色のゴワゴワした顎鬚の、血色のよい顔の魔法使いと握手した。男は左手に黴だらけの古いブーツをぶら下げていた。おそらく、「移動キー」だ。
「みんな、エイモス・ディゴリーさんだよ。『魔法生物規制管理部』にお勤めだ。みんな、息子さんのセドリックは知ってるね?」
セドリック・ディゴリーは、十七歳くらいの青年だった。ホグワーツでは、ハッフルパフ寮のクィディッチ・チームのキャプテンで、シーカーでもあった。
「やあ」
セドリックがみんなを見回した。
みんなも「やあ」と挨拶を返したが、フレッドとジョージは黙って頭をコックリしただけだった。セドリックはナマエに目を止めてにこりと笑った。
「──ナマエだね。僕はセドリック。チョウから君の話を聞いたことがあるよ」
「俺も少しチョウから聞いた」
初めて話したセドリックは、ハンサムで感じが良かった。おまけにクィデッチのキャプテンときた。──ナマエはなんとなくハーマイオニーを盗み見たが、ハーマイオニーはそれどころではなく、すっかり疲労困憊していた。
「ああ、君がチチオヤの息子か」
ウィーズリー氏と話していたエイモス・ディゴリーがナマエを見て言った。おそるおそるナマエは頷いた。「チチオヤの息子」であることが、エイモスにとってどういった評価なのか測りかねたのだ。しかし、エイモスの目はすでにハリーに移っていた。
「おっと、どっこい──ハリー・ポッターかい?」
「あ──ええ」
ハリーが落ち着かない様子で答えた。
「セドが、もちろん、君のことを話してくれたよ」エイモス・ディゴリーが言葉を続けた。
「去年、君とクィディッチで対戦したことも詳しく話してくれた……わたしは息子に言ったね、こう言った──セド、そりゃ、孫子にまで語り伝えることだ。そうだとも……おまえはハリー・ポッターに勝ったんだ!」
ハリーは気まずそうにただ黙っていた。フレッドとジョージの二人が、揃ってまたしかめっ面になった。セドリックはちょっと困ったような顔をした。
「父さん、言ったでしょう……事故だったって……」
「ああ。でもおまえは箒から落ちなかったろ。そうだろうが?」
エイモスは息子の背中をバシンと叩き、快活に大声で言った。ナマエは話題を変えようと、エイモスの手にある古いブーツを指差した。
「エイモスさん、それが『移動キー』ですか?」
「おお、そうだとも。おっと、そろそろ時間かな」
エイモスが思い出したようにブーツを掲げた。
「さあ、あと一分だ……準備しないと……」
ウィーズリー氏が懐中時計をしまいながらハリーとハーマイオニーのほうを見た。
「『移動キー』に触っていればいい。それだけだよ。指一本でいい──」
エイモス・ディゴリーの掲げた古ブーツの周りに十人がぎゅうぎゅうと詰め合って、待った。しばらくすると、始まった。両足が地面を離れた。ロンとハリーがナマエの両脇にいて、互いの肩と肩がぶつかり合うのを感じた。そして──両足が再び地面に触れた。ナマエが着地して隣を見ると、ロンが折り重なってハリーの上に倒れ込んでいた。それを眺めていると、「移動キー」がナマエの頭上にドスンと重々しい音を立てて落ちてきた。
「いったあ──!」
「大丈夫かい」
ナマエは頭をさすりながら顔を上げると、セドリックがブーツを拾い上げていた。ウィーズリー氏とディゴリー親子以外は、みんな地面に転がっていた。
「五じ七ふーん。ストーツヘッド・ヒルからとうちゃーく」
アナウンスの声が聞こえた。
「ナマエ!屋敷しもべのお陰で大助かりだわ。みんな庭に出てるわよ。──シノビー、これも運んでちょうだい」
「承知しました、奥さま」
ナマエの目には心なしかシノビーがいきいきしているように見えた。
庭に出ると、二卓のテーブルにウィーズリー夫人の腕を振るったご馳走がいく皿もいく皿も並べられ、重みで唸っていた。紺碧に澄み渡った空の下で、ウィーズリー家の九人と、ナマエ、ハリー、ハーマイオニーとが食卓についた。みんな、明日のワールドカップの話題で盛り上がりながら夕食を楽しんだ。
ひととおり腹が満たされたころ、ナマエは気になっていたことを尋ねた。
「──あの、アーサーさん。聞いてもいいですか?」
「なんだい、ナマエ」
「アーサーさんは、その──俺の父と親しいんでしょうか?」
ナマエがチチオヤの話題を出した時、ウィーズリー夫人の眉がぴくっと動いた気がした。ナマエは言葉を選んだ。
「あまり父と話さないので、知らなくて……」
「ああ、いや、無理もない。チチオヤは昔から秘密主義の節がある──」
ウィーズリー氏は優しく笑って、自分とナマエの皿にポテトをよそった。
「たしかに我々は十年以上の付き合いだ。彼はかなり優秀な魔法使いでね、魔法省からも何度も入省の誘いがあったほどだ──アー、聖マンゴが気に入っていると断っていたが」
ウィーズリー氏は途中で言葉を切って曖昧に笑った。何かナマエに言い難いことがあるのだろうか。ナマエが口を開こうとすると、パーシーが割って入った。
「お父さん、ミョウジ氏は魔法省に非常に協力的ですよ。今回のワールドカップについても、救護班の編成はほとんどミョウジ氏が行っていますし……本来魔法スポーツ部が率先して行うべきことなんですが、ルード・バクマンはまったく──」
「私はルードが好きだよ。ワールドカップのあんなにいい切符を取ってくれたのもあの男だ」
ウィーズリー氏がやんわりと言った。
「まあ、バグマンは好かれるくらいが関の山ですよ。クラウチさんなら部下が行方不明なのに探さないなんてありえないですし──」
パーシーが続けていると、ロンはまたかという顔で囁いた。
「出たよ。クラウチさんクラウチさん、……パーシーのやつ、仕事に就いてからずっとあの調子なんだ」
庭が暗くなってきたので、シノビーが蝋燭を作り出し、灯りを点けた。夏の蛾がテーブルの上を低く舞い、芝草とスイカズラの香りが暖かい空気を満たしていた。
ウィーズリー夫人が腕時計を見ながら言った。
「みんなもう寝なくちゃ。全員よ。ワールドカップに行くのに、夜明け前に起きるんですからね。ハリー、ナマエ、ハーマイオニー、学用品のリストを置いていってね。明日、ダイアゴン横丁で買ってきてあげますよ。ワールドカップのあとは時間がないかもしれないわ。前回の試合なんか、五日間も続いたんだから」
「五日も?!」
ナマエは驚いて思わず立ち上がった。
「ワーッ!こんどもそうなるといいな!」
ハリーは熱くなった。
ナマエは盛り上がるハリーとは対照的にへなりと座り直して、ウィーズリー夫人に言った。
「えっと、モリーさん、俺の分は──いや、みんなの分もシノビーに頼んでおいてください」
「まあ!いいのかしら。とっても助かるわ」
夫人はそう言うと、家の中に戻っていった。
「……じゃあ、今年はロンドンで遊べないか」
ナマエはしょんぼりした声で言うと、ハーマイオニーが励ました。
「仕方ないわ。次の夏休みの楽しみにしましょう」
「そうだよ。ロンドンはいつでもあるけど、クィディッチのワールドカップに行けることなんて、もうないかもしれない」
ロンが興奮気味に言った。
みんなが寝入ったあとも、ナマエはあまり眠れなかった。夜明け前にウィーズリー夫人がみんなを起こしにやってきた。ナマエは夫人の代わりにみんなを揺り起こして、キッチンに追い立てた。
キッチンではウィーズリー夫人は竈にかけた大きな鍋を掻き回していた。ウィーズリー氏はテーブルに座って、大きな羊皮紙の切符の束を検めていた。
「ビルとチャーリーと、パぁ―パぁ―パぁーシーは?」
ジョージが大欠伸を噛み殺し損ないながら言った。
「ああ、あの子たちは『姿現わし』で行くんですよ」
夫人はきびきびとみんなの皿にオートミールを分けた。その様子を見て、ナマエは尋ねた。
「──あれ、シノビーは?」
「チチオヤに呼び出されて行ったよ。ナマエ、君の切符はチチオヤが持っているそうだよ──我々の席とは少し離れているみたいだ」
切符をポケットにしっかりとしまい込みながら、ウィーズリー氏が答えた。ナマエはすっかりみんなと一緒に観戦する気でいたので、急に楽しめる自信がなくなってきた。
廊下に足音がして、ハーマイオニーとジニーがキッチンに入ってきた。二人とも眠そうで、血の気のない顔をしていた。
「どうしてこんなに早起きしなきゃいけないの?」
ジニーが目を擦りながらテーブルについた。
「結構歩かなくちゃならないんだ」
ウィーズリー氏が言った。
「歩く?」
ハリーが言った。
「え?僕たちワールドカップ会場まで、歩いていくんですか?」
「少し歩くだけだよ。マグルの注意を引かないようにしながら、大勢の魔法使いが集まるのは非常に難しい──」
「ジョージ!」
ウィーズリー夫人の鋭い声が飛んだ。全員が飛び上がった。
夫人は杖をジョージのポケットに向けて唱えた。
「アクシオ!出てこい!」
鮮やかな色の小さな物が数個、ジョージのポケットから飛び出した。ジョージが捕まえようとしたが、その手をかすめ、小さな物はウィーズリー夫人が伸ばした手にまっすぐ飛び込んだ。
「全部捨てなさいって言ったでしょう!ポケットの中身を全部お出し。さあ、二人とも!」
きょとんとしているナマエに、ハリーが耳打ちした。
「あれが『ベロベロ飴』だよ」
そんなこんなで、出発のときはとても和やかとは言えない雰囲気だった。双子はリュックサックを背負い、母親に口もきかずに歩き出した。
「それじゃ、楽しんでらっしゃい」
夫人が言った。
離れていく双子の背中に向って夫人が声をかけたが、二人は振り向きもせず、返事もしなかった。ナマエはなんとなくいたたまれなくなって、双子の代わりに夫人に手を振った。
外は肌寒く、まだ月が出ていた。みんな一言も話さず、暗闇の中を黙々と歩いた。草の塊やウサギの穴ででこぼこした道につまづきながら進んだ。ハーマイオニーの息切れが聞こえはじめたとき、やっとナマエは平らな地面を踏みしめた。
「フーッ」
ウィーズリー氏は喘ぎながらメガネをはずし、セーターで拭いた。
「やれやれ、ちょうどいい時間だ──あと十分ある……」
突然、大きな声が響いた。
「ここだ、アーサー!」
丘の頂の向こう側に、星空を背に長身の影が二つ立っていた。
「エイモス!」
ウィーズリー氏が、大声の主のほうにニコニコと大股で近づいていった。みんなもアーサーさんのあとに従った。アーサーさんは褐色のゴワゴワした顎鬚の、血色のよい顔の魔法使いと握手した。男は左手に黴だらけの古いブーツをぶら下げていた。おそらく、「移動キー」だ。
「みんな、エイモス・ディゴリーさんだよ。『魔法生物規制管理部』にお勤めだ。みんな、息子さんのセドリックは知ってるね?」
セドリック・ディゴリーは、十七歳くらいの青年だった。ホグワーツでは、ハッフルパフ寮のクィディッチ・チームのキャプテンで、シーカーでもあった。
「やあ」
セドリックがみんなを見回した。
みんなも「やあ」と挨拶を返したが、フレッドとジョージは黙って頭をコックリしただけだった。セドリックはナマエに目を止めてにこりと笑った。
「──ナマエだね。僕はセドリック。チョウから君の話を聞いたことがあるよ」
「俺も少しチョウから聞いた」
初めて話したセドリックは、ハンサムで感じが良かった。おまけにクィデッチのキャプテンときた。──ナマエはなんとなくハーマイオニーを盗み見たが、ハーマイオニーはそれどころではなく、すっかり疲労困憊していた。
「ああ、君がチチオヤの息子か」
ウィーズリー氏と話していたエイモス・ディゴリーがナマエを見て言った。おそるおそるナマエは頷いた。「チチオヤの息子」であることが、エイモスにとってどういった評価なのか測りかねたのだ。しかし、エイモスの目はすでにハリーに移っていた。
「おっと、どっこい──ハリー・ポッターかい?」
「あ──ええ」
ハリーが落ち着かない様子で答えた。
「セドが、もちろん、君のことを話してくれたよ」エイモス・ディゴリーが言葉を続けた。
「去年、君とクィディッチで対戦したことも詳しく話してくれた……わたしは息子に言ったね、こう言った──セド、そりゃ、孫子にまで語り伝えることだ。そうだとも……おまえはハリー・ポッターに勝ったんだ!」
ハリーは気まずそうにただ黙っていた。フレッドとジョージの二人が、揃ってまたしかめっ面になった。セドリックはちょっと困ったような顔をした。
「父さん、言ったでしょう……事故だったって……」
「ああ。でもおまえは箒から落ちなかったろ。そうだろうが?」
エイモスは息子の背中をバシンと叩き、快活に大声で言った。ナマエは話題を変えようと、エイモスの手にある古いブーツを指差した。
「エイモスさん、それが『移動キー』ですか?」
「おお、そうだとも。おっと、そろそろ時間かな」
エイモスが思い出したようにブーツを掲げた。
「さあ、あと一分だ……準備しないと……」
ウィーズリー氏が懐中時計をしまいながらハリーとハーマイオニーのほうを見た。
「『移動キー』に触っていればいい。それだけだよ。指一本でいい──」
エイモス・ディゴリーの掲げた古ブーツの周りに十人がぎゅうぎゅうと詰め合って、待った。しばらくすると、始まった。両足が地面を離れた。ロンとハリーがナマエの両脇にいて、互いの肩と肩がぶつかり合うのを感じた。そして──両足が再び地面に触れた。ナマエが着地して隣を見ると、ロンが折り重なってハリーの上に倒れ込んでいた。それを眺めていると、「移動キー」がナマエの頭上にドスンと重々しい音を立てて落ちてきた。
「いったあ──!」
「大丈夫かい」
ナマエは頭をさすりながら顔を上げると、セドリックがブーツを拾い上げていた。ウィーズリー氏とディゴリー親子以外は、みんな地面に転がっていた。
「五じ七ふーん。ストーツヘッド・ヒルからとうちゃーく」
アナウンスの声が聞こえた。