炎のゴブレット
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「おかえり、ナマエ!」
翌日、ナマエはレイブンクロー塔に戻った。談話室はどんより暗い雰囲気だった。寝室に入ると、アンソニー、テリー、マイケルがナマエを迎え入れ、医務室にいた間のことを話してくれた。
「僕たち、君がまた課題の人質になったとかで呼ばれてるのかと思ってたんだよ」
マイケルたちの話によれば、ダンブルドアが、先週の朝食の席で学校のみんなに話をしたそうだ。ハリーとナマエをそっとしておくよう、何が起こったかと質問したり話をせがんだりしないようにと諭しただけだったと言う。
レイブンクローの仲のいい生徒以外の大多数が、ナマエに廊下で出会うと、目を合わせないようにして避けて通ることに気づいた。ナマエが通ったあとで、手で口を覆いながらひそひそ話をする者もいた。
ハリーたちと話す時も、四人で他愛のないことをしゃべった。四人とも、言葉に出さなくても一つの了解に達していると感じていた。つまり、何か確かなことがわかるまでは、あれこれ詮索しても仕方がないということだ。一度だけ四人がこの話題に触れたのは、ウィーズリー夫人が家に帰る前にダンブルドアと会ったことを、ロンが話したときだった。
「ママは、ダンブルドアに聞きにいったんだ。君たち二人が夏休みに、まっすぐ僕んちに来ていいかって。だけど、ダンブルドアは、ハリーは少なくとも最初だけはダーズリーのところに帰ってほしいんだって」
「どうして?」
ハリーが聞いた。
「ママは、ダンブルドアにはダンブルドアなりの考え方があるって言うんだ」
「……じゃあ、俺を『保護』するってのも、ロンの家かな」
ナマエが聞いた。
「そうだと思うな」
「ずるいよ。ねえ、ナマエ。プリペット通りに来ない?君はマグルの暮らしを見たいだろう?」
ハリーがむくれて言った。
「歓迎してくれるなら、喜んで」
ナマエはそう言って、わざとらしく胸に手を当ててお辞儀した。みんながクスクス笑った。
ナマエはふとハリーの傷跡が目に入った。ヴォルデモートから赤ん坊のハリーを守った稲妻型の傷は、ナマエが触れると、ナマエの体に流れるヴォルデモートと同じ血がかすかに拒絶されたように痛むのだった。
しかし、いまやヴォルデモートはハリーの血を使って復活し、ハリーに触れることができる。ナマエの視線に気がついたのか、ハリーが目を細めた。傷跡を不躾に見つめられることには慣れても、不快には違いないだろうとナマエはぱっと目を逸らした。
「ナマエ。触ってみる?」
ハリーが唐突に言った。ナマエも、ロンもハーマイオニーもきょとんとした。
「え……」
「傷。たぶん、触れると思うよ」
ハリーが両手で前髪を分けて、額を突き出した。ナマエはおずおずと手を差し出して、指先でそっとハリーの傷をなぞった。滑らかな肌と硬くなった傷の感触があるだけだった。
「……本当だ」
本当にヴォルデモートが復活したのだと、ナマエは今まで以上にはっきりと理解した。
夏休みの前夜、例年なら学期末のパーティは寮対抗の優勝が発表される祝いの宴だったが、大広間に入ると、すぐに、いつもの飾りつけがないことに気づいた。今夜は、教職員テーブルの後ろの壁に黒の垂れ幕がかかっている。ナマエはすぐに、それがセドリックの喪に服している印だと気づいた。本物のマッド‐アイ・ムーディが教職員テーブルに着いていた。ナマエはどきりとして目を逸らした。しかし、ナマエ以上にムーディーは神経過敏になっていて、物音がするたびに飛び上がっていた。カルカロフは席におらず、マダム・マクシームはハグリッドの隣で静かに話を交わしていた。
ダンブルドアが立ち上がると、大広間は水を打ったように静かになった。ダンブルドアはみんなを見回し、ハッフルパフのテーブルに目をとめた。みんな打ち沈んで青い顔でダンブルドアを見上げていた。
「今年も終わりがやってきた。本来なら、皆と一緒にこの宴を楽しんでいるはずじゃった、一人の立派な生徒を失った。──セドリック・ディゴリーに」
ダンブルドアが盃をかかげた。全員が同じように盃をかかげた。
「セドリック・ディゴリー」
ナマエは、そばで聞こえた声が涙に震えていることに気がついた。チョウだ。
「セドリックはハッフルパフ寮の特性を備えた、誠実な良き友じゃった。勤勉で、フェアプレーを尊んだ。セドリックをよく知るものにも、そうでない者にも、セドリックの死はそれぞれに影響をもたらした……」
ダンブルドアが目を閉じて、そしてもう一度開いて生徒たちを見つめた。
「──セドリック・ディゴリーはヴォルデモート卿に殺された」
大広間に、恐怖に駆られたざわめきが走った。みんないっせいに、まさかという面持ちで、恐ろしそうにダンブルドアを見つめていた。
「魔法省は」
ダンブルドアが続けた。
「わしがこのことを皆に話すことを望んでおらぬ。皆のご両親の中には、わしが話したということで驚愕なさる方もおられるじゃろう──その理由は、ヴォルデモート卿の復活を信じられぬから、または皆のようにまだ年端もゆかぬ者に話すべきではないと考えるからじゃ。しかし、わしは、たいていの場合、真実は嘘に勝ると信じておる。さらに、セドリックが事故や、自らの失敗で死んだと取り繕うことは、セドリックの名誉を汚すものだと信ずる」
「ナマエ……」
テリーが、本当にそうなのか、と言いたげな顔でナマエを見た。マイケルやアンソニーもナマエを見た。ナマエは黙って頷いて、またダンブルドアに目線を戻した。
「セドリックの死に関連して、もう一人、名前を挙げねばなるまい」
ダンブルドアの話は続いた。
「自分の命を賭して、ハリー・ポッターは、セドリックの亡骸をホグワーツに連れ帰った。ヴォルデモート卿に対峙した魔法使いの中で、あらゆる意味でこれほどの勇気を示した者は、そう多くはない。そういう勇気を、ハリー・ポッターは見せてくれた。それが故に、わしはハリー・ポッターを讃えたい」
セドリックのときと同じく、みんながハリーの名を唱和し、盃を上げた。しかし、起立した生徒たちの間から、ナマエはマルフォイ、クラッブ、ゴイル、それにスリザリンのほかの多くの生徒が、頑なに席に着いたまま、ゴブレットに手も触れずにいるのを見た。
「ヴォルデモート卿は、不和と敵対感情を蔓延させる能力に長けておる。それと戦うには、同じくらい強い友情と信頼の絆を示すしかない。われわれは暗く困難なときを迎えようとしている。この大広間にいる者の中にも、すでに直接ヴォルデモート卿の手にかかって苦しんだ者もおる。皆の中にも、家族を引き裂かれた者も多くいる。一週間前、一人の生徒がわれわれのただ中から奪い去られた」
「セドリックを忘れるでないぞ。正しきことと易きことのどちらかの選択を迫られたときは、思い出すのじゃ。一人の善良な、親切で勇敢な少年の身に何が起こったかを。たまたまヴォルデモート卿の通り道に迷い出たばかりに。セドリック・ディゴリーを忘れるでないぞ」
いよいよホグワーツを去る朝、ナマエは混み合った玄関ホールでほかの四年生と一緒に馬車を待った。馬車はホグズミード駅までみんなを運んでくれる。
「ナマエ!」
名前を呼ばれたナマエはあたりを見回した。
ガブリエル・デラクールが石段の上でぴょんぴょん飛び跳ねて手を振っていた。その後ろでは、フラー、ハリー、ロンが別れの挨拶をしていて、その隣に膨れっ面のハーマイオニーがいた。
ナマエが駆け寄ると、ガブリエルはにっこり笑顔になった。
「まーた、会いましょー、ね!」
ガブリエルがナマエに両手を差し出しながら言った。ナマエもつられてにっこりして、握手を交わした。
「さようなら、アリー。ナマエ」
フラーは帰りかけながら言った。見事な髪を波打たせながら急いで芝生を横切り、マダム・マクシームのところへ戻っていった。
「ダームストラングの生徒はどうやって帰るんだろ?」
ロンが言った。
「カルカロフがいなくても、あの船の舵取りができると思うか?」
「カルカロフヴぁ、舵を取っていなかった」
ぶっきらぼうな声がした。
「あの人ヴぁ、自分がキャビンにいて、ヴぉくたちに仕事をさせた」
クラムだ。きっとハーマイオニーに別れを言いに来たのだ。
「ちょっと、いいかな?」
クラムが頼んだ。
「え……ええ……いいわよ」
ハーマイオニーは少しうろたえた様子で、クラムについて人混みの中に姿を消した。
「急げよ!」
ロンが大声でその後ろ姿に呼びかけた。
「もうすぐ馬車が来るぞ!」
ナマエは態度にこそ出さなかったものの、ロンの言葉に同意した。ロンはただでさえ背が高いのに背伸びをして、ハーマイオニーとクラムの様子を伺っていた。二人はすぐに戻ってきた。ロンはハーマイオニーをじろじろ見たが、ハーマイオニーは平然としていた。
「ヴぉく、ディゴリーが好きだった」
突然クラムがハリーに言った。
「ヴぉくに対して、いつも礼儀正しかった。いつも。ヴぉくがダームストラングから来ているのに──カルカロフと一緒に」
クラムもフラーと同じように手を差し出して、ハリーと握手し、それからナマエと握手した。ナマエは複雑な心境でクラムを見ていると、ロンが突然叫んだ。
「あの!サイン、もらえないかな?」
ハーマイオニーが横を向き、ちょうど馬車道を近づいてきた馬なしの馬車のほうを見て微笑んだ。クラムは驚いたような顔をしたが、うれしそうに羊皮紙の切れ端にサインした。
四人で馬車に乗り込むとき、ハーマイオニーのカバンから日刊予言者新聞がはみ出ていることに気がついた。ナマエは読みたいような読みたくないような気持ちで顔を顰めていると、ハーマイオニーがあっけらかんと言った。
「読んでみなさいよ、なーんにも書いてないわ」
ハリーが手を伸ばさなかったので、ナマエが新聞に目を通した。ハーマイオニーの言う通り、セドリックのことすら書いていない。ハリーが優勝したことが小さく、短く書かれてあるだけだった。ナマエは新聞の隅々まで目を走らせたが、チチオヤのことはどこにも書かれていなかった。
「ファッジはリータを黙らせられないよ」
ハリーが言った。
「実はね」
ハーマイオニーの声が、こんどは少し震えていた。
「リータ・スキーターはしばらくの間、何も書かないわ。私に自分の秘密をばらされたくないならね」
「どういうことだい?」
ロンが聞いた。
「学校の敷地に入っちゃいけないはずなのに、どうしてあの女が個人的な会話を盗み聞きしたのか、私、突き止めたの」
ハーマイオニーが一気に言った。ハーマイオニーは、ここ数日、これが言いたくてうずうずしていたのだろう。しかしほかの来事の重大さから判断して、ずっと我慢してきたのだろう、とナマエは思った。
「どうやって聞いてたの?」
ハリーがすぐさま聞いた。
「あのね……リータ・スキーターは」
ハーマイオニーは、静かな勝利の喜びに声を震わせていた。
「無登録の『動物もどき』なの。あの女は変身して」
ハーマイオニーはカバンから密封した小さなガラスの広口瓶を取り出した。
「コガネムシになるの」
「嘘だろう」
ハーマイオニーが、ガラス瓶を三人の前で見せびらかしながら、うれしそうに言った。中には小枝や木の葉と一緒に、大きな太ったコガネムシが一匹入っていた。
「まさかこいつが──君、冗談だろ──」
ロンが小声でそう言いながら、瓶を目の高さに持ち上げた。
「いいえ、本気よ」
ハーマイオニーがニッコリした。
「病室の窓枠のところで捕まえたの。よく見て。触角の周りの模様が、あの女がかけていた嫌らしいメガネにそっくりだから」
ナマエが覗くと、たしかにハーマイオニーの言うとおりだった。それに、思い出したことがあった。
「俺がドラコを見かけたとき……」
ナマエが考えながら言った。
「マルフォイは手の中のリータに話していたのよ」
ハーマイオニーはロンから広口瓶を取り戻し、コガネムシに向かってニッコリした。コガネムシは怒ったように、ブンブン言いながらガラスにぶつかった。
「私、ロンドンに着いたら出してあげるって、リータに言ったの」
ハーマイオニーが言った。
「ガラス瓶に『割れない呪文』をかけたの。ね、だから、リータは変身できないの。それから、私、これから一年間、ペンは持たないようにって、言ったの。他人のことで嘘八百を書く癖が治るかどうか見るのよ」
落ち着き払って微笑みながら、ハーマイオニーはコガネムシをカバンに戻した。
キングスクロス行きの汽車では、マイケルたちと一緒に過ごすことにしていた。三人と別れて賑やかな通路を歩いていると、不意に伸びてきた腕に肩を掴まれた。
「うわっ、何だよ──ああ?……ドラコ」
コンパートメントから肩を掴んだのはドラコだった。中にはクラッブもゴイルもおらず、ドラコ一人だけだった。ナマエは眉を下げてへらっと笑った。
「何か用?」
「お前──何で医務室にいた」
ドラコはいつもの嘲るような表情とは違い、暗い真顔で、ナマエには感情が読めなかった。ナマエは居心地が悪く、目を逸らした。
「説明があったんじゃないのか?ムーディ……じゃなかった、クラウチ・ジュニアに襲われたんだ」
「なぜ襲われたんだ?それに、それが本当なら生きてるはずがないだろう」
「生きてて悪かったな」
ナマエは肩に乗せられたままの腕を振り払った。ハリーが死喰い人の名前を挙げたとき、真っ先にルシウス・マルフォイの名を口にしていた。ナマエは、ドラコにどこまで話していいのか、話すべきではないのかがわからなかった。
「……あんたのパパに聞きゃいいだろ。死喰い人なんだろう?今も昔も」
「僕はお前に聞いてるんだ」
ドラコは引かなかった。ナマエはフーッと息を吐いて、後ろ手でコンパートメントの扉を閉めた。
「……何でそんなに知りたいんだ。また悪趣味なインタビューで話すタネを探してるのか?」
普段なら飲み込む皮肉や悪態も、なぜかドラコの前では滑るように口からこぼれ落ちるのだった。いつもならそれが親しさを表しているようで心地よかったが、今は、それが裏目に出ていることをナマエは自覚していた。
ドラコが言い返さないのでナマエは気まずさを誤魔化すように頭を掻いた。
「──ポッターに関わるのはやめろ。命をドブに捨てることになるぞ」
ドラコは低い声で言った。ナマエは目を細めてドラコを見た。
「……俺が命をドブに捨てることになっても、それはハリーのせいじゃなくて、──ヴォルデモートのせいだ」
「僕はお前のために言っているんだぞ、ミョウジ。付き合う相手は慎重に選んだほうがいいと、僕が言ったはずだ、憶えてるか?間違ったのとは付き合わないほうがいいって、そう言ったはずだ」
「俺じゃなくて、ハリーに言ってた」
ナマエがふん、と鼻を鳴らした。
「あいつはもう手遅れだ、闇の帝王が戻ってきたからには、あいつらが最初にやられる」
しばらく二人とも何も言わなかった。沈黙を破ったのはナマエだった。
「あんたは──ヴォルデモートにつくのか?」
今度はドラコが口籠った。ナマエは、ドラコに「違う」と言って欲しかった。ドラコが頷くのを見たくなかった。答えを聞く前にナマエは扉に手をかけた。
「──俺だって、あんたのために言ってやるよ。闇の帝王様が仲間想いなのか、あんたの親父に聞いてみればいい」
ナマエはガラリと扉を開けてその場を去った。
キングスクロス駅に着くと、出迎えたウィーズリー夫人がハリーとナマエをしっかり抱き締めた。
「じゃあな」
ロンがハリーとナマエの背中を叩いて、家族と共に去っていった。
「さよなら、ハリー!」
ハーマイオニーは、これまで一度もしたことのないことをした。ハリーの頬にキスしたのだ。
「ハーマイオニー、」
ナマエは思わず、止めるように声をあげてしまった。ハーマイオニーが振り返ると、ナマエは思い切ってハーマイオニーの頬に顔を近づけた。
「さよなら、ハーマイオニー」
頬と頬が触れ合うほど顔を近づけて、耳元で言った。キスはしなかった。シノビーにするキスとは全く違うということがわかったのだ。
「さ、さよなら、ナマエ」
ハーマイオニーが頬を少し紅潮させた。ナマエはにっこりした。
みんな行ってしまったあと、ナマエは駅のホームをきょろきょろ見渡しながら、キングスクロス駅を出た。もちろん、去年のような父親の姿はどこにもなかった。
翌日、ナマエはレイブンクロー塔に戻った。談話室はどんより暗い雰囲気だった。寝室に入ると、アンソニー、テリー、マイケルがナマエを迎え入れ、医務室にいた間のことを話してくれた。
「僕たち、君がまた課題の人質になったとかで呼ばれてるのかと思ってたんだよ」
マイケルたちの話によれば、ダンブルドアが、先週の朝食の席で学校のみんなに話をしたそうだ。ハリーとナマエをそっとしておくよう、何が起こったかと質問したり話をせがんだりしないようにと諭しただけだったと言う。
レイブンクローの仲のいい生徒以外の大多数が、ナマエに廊下で出会うと、目を合わせないようにして避けて通ることに気づいた。ナマエが通ったあとで、手で口を覆いながらひそひそ話をする者もいた。
ハリーたちと話す時も、四人で他愛のないことをしゃべった。四人とも、言葉に出さなくても一つの了解に達していると感じていた。つまり、何か確かなことがわかるまでは、あれこれ詮索しても仕方がないということだ。一度だけ四人がこの話題に触れたのは、ウィーズリー夫人が家に帰る前にダンブルドアと会ったことを、ロンが話したときだった。
「ママは、ダンブルドアに聞きにいったんだ。君たち二人が夏休みに、まっすぐ僕んちに来ていいかって。だけど、ダンブルドアは、ハリーは少なくとも最初だけはダーズリーのところに帰ってほしいんだって」
「どうして?」
ハリーが聞いた。
「ママは、ダンブルドアにはダンブルドアなりの考え方があるって言うんだ」
「……じゃあ、俺を『保護』するってのも、ロンの家かな」
ナマエが聞いた。
「そうだと思うな」
「ずるいよ。ねえ、ナマエ。プリペット通りに来ない?君はマグルの暮らしを見たいだろう?」
ハリーがむくれて言った。
「歓迎してくれるなら、喜んで」
ナマエはそう言って、わざとらしく胸に手を当ててお辞儀した。みんながクスクス笑った。
ナマエはふとハリーの傷跡が目に入った。ヴォルデモートから赤ん坊のハリーを守った稲妻型の傷は、ナマエが触れると、ナマエの体に流れるヴォルデモートと同じ血がかすかに拒絶されたように痛むのだった。
しかし、いまやヴォルデモートはハリーの血を使って復活し、ハリーに触れることができる。ナマエの視線に気がついたのか、ハリーが目を細めた。傷跡を不躾に見つめられることには慣れても、不快には違いないだろうとナマエはぱっと目を逸らした。
「ナマエ。触ってみる?」
ハリーが唐突に言った。ナマエも、ロンもハーマイオニーもきょとんとした。
「え……」
「傷。たぶん、触れると思うよ」
ハリーが両手で前髪を分けて、額を突き出した。ナマエはおずおずと手を差し出して、指先でそっとハリーの傷をなぞった。滑らかな肌と硬くなった傷の感触があるだけだった。
「……本当だ」
本当にヴォルデモートが復活したのだと、ナマエは今まで以上にはっきりと理解した。
夏休みの前夜、例年なら学期末のパーティは寮対抗の優勝が発表される祝いの宴だったが、大広間に入ると、すぐに、いつもの飾りつけがないことに気づいた。今夜は、教職員テーブルの後ろの壁に黒の垂れ幕がかかっている。ナマエはすぐに、それがセドリックの喪に服している印だと気づいた。本物のマッド‐アイ・ムーディが教職員テーブルに着いていた。ナマエはどきりとして目を逸らした。しかし、ナマエ以上にムーディーは神経過敏になっていて、物音がするたびに飛び上がっていた。カルカロフは席におらず、マダム・マクシームはハグリッドの隣で静かに話を交わしていた。
ダンブルドアが立ち上がると、大広間は水を打ったように静かになった。ダンブルドアはみんなを見回し、ハッフルパフのテーブルに目をとめた。みんな打ち沈んで青い顔でダンブルドアを見上げていた。
「今年も終わりがやってきた。本来なら、皆と一緒にこの宴を楽しんでいるはずじゃった、一人の立派な生徒を失った。──セドリック・ディゴリーに」
ダンブルドアが盃をかかげた。全員が同じように盃をかかげた。
「セドリック・ディゴリー」
ナマエは、そばで聞こえた声が涙に震えていることに気がついた。チョウだ。
「セドリックはハッフルパフ寮の特性を備えた、誠実な良き友じゃった。勤勉で、フェアプレーを尊んだ。セドリックをよく知るものにも、そうでない者にも、セドリックの死はそれぞれに影響をもたらした……」
ダンブルドアが目を閉じて、そしてもう一度開いて生徒たちを見つめた。
「──セドリック・ディゴリーはヴォルデモート卿に殺された」
大広間に、恐怖に駆られたざわめきが走った。みんないっせいに、まさかという面持ちで、恐ろしそうにダンブルドアを見つめていた。
「魔法省は」
ダンブルドアが続けた。
「わしがこのことを皆に話すことを望んでおらぬ。皆のご両親の中には、わしが話したということで驚愕なさる方もおられるじゃろう──その理由は、ヴォルデモート卿の復活を信じられぬから、または皆のようにまだ年端もゆかぬ者に話すべきではないと考えるからじゃ。しかし、わしは、たいていの場合、真実は嘘に勝ると信じておる。さらに、セドリックが事故や、自らの失敗で死んだと取り繕うことは、セドリックの名誉を汚すものだと信ずる」
「ナマエ……」
テリーが、本当にそうなのか、と言いたげな顔でナマエを見た。マイケルやアンソニーもナマエを見た。ナマエは黙って頷いて、またダンブルドアに目線を戻した。
「セドリックの死に関連して、もう一人、名前を挙げねばなるまい」
ダンブルドアの話は続いた。
「自分の命を賭して、ハリー・ポッターは、セドリックの亡骸をホグワーツに連れ帰った。ヴォルデモート卿に対峙した魔法使いの中で、あらゆる意味でこれほどの勇気を示した者は、そう多くはない。そういう勇気を、ハリー・ポッターは見せてくれた。それが故に、わしはハリー・ポッターを讃えたい」
セドリックのときと同じく、みんながハリーの名を唱和し、盃を上げた。しかし、起立した生徒たちの間から、ナマエはマルフォイ、クラッブ、ゴイル、それにスリザリンのほかの多くの生徒が、頑なに席に着いたまま、ゴブレットに手も触れずにいるのを見た。
「ヴォルデモート卿は、不和と敵対感情を蔓延させる能力に長けておる。それと戦うには、同じくらい強い友情と信頼の絆を示すしかない。われわれは暗く困難なときを迎えようとしている。この大広間にいる者の中にも、すでに直接ヴォルデモート卿の手にかかって苦しんだ者もおる。皆の中にも、家族を引き裂かれた者も多くいる。一週間前、一人の生徒がわれわれのただ中から奪い去られた」
「セドリックを忘れるでないぞ。正しきことと易きことのどちらかの選択を迫られたときは、思い出すのじゃ。一人の善良な、親切で勇敢な少年の身に何が起こったかを。たまたまヴォルデモート卿の通り道に迷い出たばかりに。セドリック・ディゴリーを忘れるでないぞ」
いよいよホグワーツを去る朝、ナマエは混み合った玄関ホールでほかの四年生と一緒に馬車を待った。馬車はホグズミード駅までみんなを運んでくれる。
「ナマエ!」
名前を呼ばれたナマエはあたりを見回した。
ガブリエル・デラクールが石段の上でぴょんぴょん飛び跳ねて手を振っていた。その後ろでは、フラー、ハリー、ロンが別れの挨拶をしていて、その隣に膨れっ面のハーマイオニーがいた。
ナマエが駆け寄ると、ガブリエルはにっこり笑顔になった。
「まーた、会いましょー、ね!」
ガブリエルがナマエに両手を差し出しながら言った。ナマエもつられてにっこりして、握手を交わした。
「さようなら、アリー。ナマエ」
フラーは帰りかけながら言った。見事な髪を波打たせながら急いで芝生を横切り、マダム・マクシームのところへ戻っていった。
「ダームストラングの生徒はどうやって帰るんだろ?」
ロンが言った。
「カルカロフがいなくても、あの船の舵取りができると思うか?」
「カルカロフヴぁ、舵を取っていなかった」
ぶっきらぼうな声がした。
「あの人ヴぁ、自分がキャビンにいて、ヴぉくたちに仕事をさせた」
クラムだ。きっとハーマイオニーに別れを言いに来たのだ。
「ちょっと、いいかな?」
クラムが頼んだ。
「え……ええ……いいわよ」
ハーマイオニーは少しうろたえた様子で、クラムについて人混みの中に姿を消した。
「急げよ!」
ロンが大声でその後ろ姿に呼びかけた。
「もうすぐ馬車が来るぞ!」
ナマエは態度にこそ出さなかったものの、ロンの言葉に同意した。ロンはただでさえ背が高いのに背伸びをして、ハーマイオニーとクラムの様子を伺っていた。二人はすぐに戻ってきた。ロンはハーマイオニーをじろじろ見たが、ハーマイオニーは平然としていた。
「ヴぉく、ディゴリーが好きだった」
突然クラムがハリーに言った。
「ヴぉくに対して、いつも礼儀正しかった。いつも。ヴぉくがダームストラングから来ているのに──カルカロフと一緒に」
クラムもフラーと同じように手を差し出して、ハリーと握手し、それからナマエと握手した。ナマエは複雑な心境でクラムを見ていると、ロンが突然叫んだ。
「あの!サイン、もらえないかな?」
ハーマイオニーが横を向き、ちょうど馬車道を近づいてきた馬なしの馬車のほうを見て微笑んだ。クラムは驚いたような顔をしたが、うれしそうに羊皮紙の切れ端にサインした。
四人で馬車に乗り込むとき、ハーマイオニーのカバンから日刊予言者新聞がはみ出ていることに気がついた。ナマエは読みたいような読みたくないような気持ちで顔を顰めていると、ハーマイオニーがあっけらかんと言った。
「読んでみなさいよ、なーんにも書いてないわ」
ハリーが手を伸ばさなかったので、ナマエが新聞に目を通した。ハーマイオニーの言う通り、セドリックのことすら書いていない。ハリーが優勝したことが小さく、短く書かれてあるだけだった。ナマエは新聞の隅々まで目を走らせたが、チチオヤのことはどこにも書かれていなかった。
「ファッジはリータを黙らせられないよ」
ハリーが言った。
「実はね」
ハーマイオニーの声が、こんどは少し震えていた。
「リータ・スキーターはしばらくの間、何も書かないわ。私に自分の秘密をばらされたくないならね」
「どういうことだい?」
ロンが聞いた。
「学校の敷地に入っちゃいけないはずなのに、どうしてあの女が個人的な会話を盗み聞きしたのか、私、突き止めたの」
ハーマイオニーが一気に言った。ハーマイオニーは、ここ数日、これが言いたくてうずうずしていたのだろう。しかしほかの来事の重大さから判断して、ずっと我慢してきたのだろう、とナマエは思った。
「どうやって聞いてたの?」
ハリーがすぐさま聞いた。
「あのね……リータ・スキーターは」
ハーマイオニーは、静かな勝利の喜びに声を震わせていた。
「無登録の『動物もどき』なの。あの女は変身して」
ハーマイオニーはカバンから密封した小さなガラスの広口瓶を取り出した。
「コガネムシになるの」
「嘘だろう」
ハーマイオニーが、ガラス瓶を三人の前で見せびらかしながら、うれしそうに言った。中には小枝や木の葉と一緒に、大きな太ったコガネムシが一匹入っていた。
「まさかこいつが──君、冗談だろ──」
ロンが小声でそう言いながら、瓶を目の高さに持ち上げた。
「いいえ、本気よ」
ハーマイオニーがニッコリした。
「病室の窓枠のところで捕まえたの。よく見て。触角の周りの模様が、あの女がかけていた嫌らしいメガネにそっくりだから」
ナマエが覗くと、たしかにハーマイオニーの言うとおりだった。それに、思い出したことがあった。
「俺がドラコを見かけたとき……」
ナマエが考えながら言った。
「マルフォイは手の中のリータに話していたのよ」
ハーマイオニーはロンから広口瓶を取り戻し、コガネムシに向かってニッコリした。コガネムシは怒ったように、ブンブン言いながらガラスにぶつかった。
「私、ロンドンに着いたら出してあげるって、リータに言ったの」
ハーマイオニーが言った。
「ガラス瓶に『割れない呪文』をかけたの。ね、だから、リータは変身できないの。それから、私、これから一年間、ペンは持たないようにって、言ったの。他人のことで嘘八百を書く癖が治るかどうか見るのよ」
落ち着き払って微笑みながら、ハーマイオニーはコガネムシをカバンに戻した。
キングスクロス行きの汽車では、マイケルたちと一緒に過ごすことにしていた。三人と別れて賑やかな通路を歩いていると、不意に伸びてきた腕に肩を掴まれた。
「うわっ、何だよ──ああ?……ドラコ」
コンパートメントから肩を掴んだのはドラコだった。中にはクラッブもゴイルもおらず、ドラコ一人だけだった。ナマエは眉を下げてへらっと笑った。
「何か用?」
「お前──何で医務室にいた」
ドラコはいつもの嘲るような表情とは違い、暗い真顔で、ナマエには感情が読めなかった。ナマエは居心地が悪く、目を逸らした。
「説明があったんじゃないのか?ムーディ……じゃなかった、クラウチ・ジュニアに襲われたんだ」
「なぜ襲われたんだ?それに、それが本当なら生きてるはずがないだろう」
「生きてて悪かったな」
ナマエは肩に乗せられたままの腕を振り払った。ハリーが死喰い人の名前を挙げたとき、真っ先にルシウス・マルフォイの名を口にしていた。ナマエは、ドラコにどこまで話していいのか、話すべきではないのかがわからなかった。
「……あんたのパパに聞きゃいいだろ。死喰い人なんだろう?今も昔も」
「僕はお前に聞いてるんだ」
ドラコは引かなかった。ナマエはフーッと息を吐いて、後ろ手でコンパートメントの扉を閉めた。
「……何でそんなに知りたいんだ。また悪趣味なインタビューで話すタネを探してるのか?」
普段なら飲み込む皮肉や悪態も、なぜかドラコの前では滑るように口からこぼれ落ちるのだった。いつもならそれが親しさを表しているようで心地よかったが、今は、それが裏目に出ていることをナマエは自覚していた。
ドラコが言い返さないのでナマエは気まずさを誤魔化すように頭を掻いた。
「──ポッターに関わるのはやめろ。命をドブに捨てることになるぞ」
ドラコは低い声で言った。ナマエは目を細めてドラコを見た。
「……俺が命をドブに捨てることになっても、それはハリーのせいじゃなくて、──ヴォルデモートのせいだ」
「僕はお前のために言っているんだぞ、ミョウジ。付き合う相手は慎重に選んだほうがいいと、僕が言ったはずだ、憶えてるか?間違ったのとは付き合わないほうがいいって、そう言ったはずだ」
「俺じゃなくて、ハリーに言ってた」
ナマエがふん、と鼻を鳴らした。
「あいつはもう手遅れだ、闇の帝王が戻ってきたからには、あいつらが最初にやられる」
しばらく二人とも何も言わなかった。沈黙を破ったのはナマエだった。
「あんたは──ヴォルデモートにつくのか?」
今度はドラコが口籠った。ナマエは、ドラコに「違う」と言って欲しかった。ドラコが頷くのを見たくなかった。答えを聞く前にナマエは扉に手をかけた。
「──俺だって、あんたのために言ってやるよ。闇の帝王様が仲間想いなのか、あんたの親父に聞いてみればいい」
ナマエはガラリと扉を開けてその場を去った。
キングスクロス駅に着くと、出迎えたウィーズリー夫人がハリーとナマエをしっかり抱き締めた。
「じゃあな」
ロンがハリーとナマエの背中を叩いて、家族と共に去っていった。
「さよなら、ハリー!」
ハーマイオニーは、これまで一度もしたことのないことをした。ハリーの頬にキスしたのだ。
「ハーマイオニー、」
ナマエは思わず、止めるように声をあげてしまった。ハーマイオニーが振り返ると、ナマエは思い切ってハーマイオニーの頬に顔を近づけた。
「さよなら、ハーマイオニー」
頬と頬が触れ合うほど顔を近づけて、耳元で言った。キスはしなかった。シノビーにするキスとは全く違うということがわかったのだ。
「さ、さよなら、ナマエ」
ハーマイオニーが頬を少し紅潮させた。ナマエはにっこりした。
みんな行ってしまったあと、ナマエは駅のホームをきょろきょろ見渡しながら、キングスクロス駅を出た。もちろん、去年のような父親の姿はどこにもなかった。
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