炎のゴブレット
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この頃、自分の意識を呼び覚ますのは決まって話し声だ。例に漏れず、この日のナマエの目を覚ましたのも誰かが話す声だった。ただ今回は、狂気を帯びた声でも怒鳴りあう声でもなく、嘆き合うような悲痛な会話と啜り泣く音だった。ナマエは目を開けず、ぼんやりと耳を澄ました。
「──僕とセドリックは、優勝杯を同時に手に取りました。優勝杯はポートキーになっていました。迷路の外に出るはずだった──」
背中越しに聞こえたのはハリーの声だった。隣のベッドにいるハリーが、誰かに第三の課題の話をしている。ナマエはまだ自分が気を失っている間、何が起こったのかを聞いていなかったので、起き上がらずにじっと聞いた。
「……僕とセドリックは墓場に連れて行かれました。そこに……ヴォルデモートがいた。僕たちがついた瞬間に、ヴォルデモートは──ワームテールという男に命じて──セドリックを──それで、セドリックは──」
「それでは、あの子はほとんど苦しまなかったのですね」
ハリーが言葉に詰まると、悲痛な女性の声が遮った。
「セドを連れ帰ってくれてありがとう」
今度は、男の震える声がした。聞き覚えのある声──エイモス・デイゴリーだ。
「ねえ、あなた……結局あの子は、試合に勝ったそのときに死んだのですもの。きっと幸せだったに違いありませんわ」
ハリーは、ディゴリー夫妻と話していた。セドリックが死んだ時の様子を話し終えると、二人はやはり涙で震えながら、「お大事にね」と行って病室を後にした。その後、ハリーからも鼻を啜る音が響いてきた。ナマエは起き上がることができずにいると、不意に名前を呼ばれた。
「……ナマエ」
ナマエはどきっとしたが、寝返りを打ち、ハリーの方を向いて目を開けた。
「……気づいてたのか」
「だって君、泣いてた」
「それはあんただろう」と言いかけたが、言われてみれば、急に鼻がツンと痛くなって、目が熱く、頬が濡れていることに気がついた。ナマエは自分が泣いていることに気が付かなかった。二人とも、傷つき疲れ果てていた。二人でベッドに横たわったまま、天井を見上げた。
ハリーがぽつりぽつりと、絞り出すように何があったかを話し出した。
「優勝杯の中に、多分──君の骨が入ってたんだ」
ワームテールが、ナマエの骨と、ハリーの血、そして自らの肉を使ってヴォルデモートを復活させたこと。ヴォルデモートがハリーに触れられるようになったこと。それから、死喰い人が集まって、ハリーとヴォルデモートが決闘をしたことを、淡々と小さな声で話した。ナマエは、ハリーは本当は、この出来事を思い出したくも考えたくもないだろうと思った。それでも、ハリーは話してくれた。
「決闘で、ヴォルデモートの杖と僕の杖が繋がったんだ。『兄弟杖』だって、同じ芯を使った杖をそう言うんだって、ダンブルドアが言ってた。ヴォルデモートが殺した人たちのこだま が、僕を助けてくれた」
ナマエは何と言って良いやらわからなかった。いつものように、ひとつひとつの言葉を問いただして理解しようという気も湧かなかった。ハリーの杖の不思議な話もそうだが、死喰い人が集まった中で、ヴォルデモートと決闘して生きて帰るなんて、なんて奇跡だろう。
「…………あんたが生きててよかった」
「君もね」
ハリーはふっと息を吐くように弱々しく笑った。天井を見つめていたので、ハリーが本当に笑っていたのか、ただ、自分が笑って欲しいと思ったのかはわからなかった。
翌日、ハリーは退院してグリフィンドール寮に戻って行ったが、ナマエはまだ医務室にいた。
ナマエの傷は完全には元に戻すことができないらしかった。マダム・ポンフリーによると、ナマエの受けた傷は複雑な呪いで、骨生え薬 でも奪われた骨を生やすことは出来ないそうだった。
見舞いに来たレイブンクローの友人たちが、ドアのところでマダム・ポンフリーに追い返されているのが見えた。マダム・ポンフリーは受け取ったたくさんの見舞いの菓子や本を両腕に抱えてナマエのベッドにやってきた。ナマエは、ずっと気になっていたことをおずおずと尋ねた。
「──マダム・ポンフリー、あの」
「何です?」
「……シノビーはどこにいますか」
マダム・ポンフリーははっとナマエを振り返ってから、顔を顰めた。
「ダンブルドア先生に頼まれていましたよね……あのしもべは、うちの屋敷しもべなんです」
マダム・ポンフリーは杖を振ってナマエのベッド周りを清め、(ナマエにはあえてせかせかと仕事をし始めたように見えた)ぽつぽつと答えた。
「あなたの──そうでしょうとも。私が校庭に行くと、そのしもべは私に、あなたの無事を尋ねてきました」
ナマエにはマダム・ポンフリーの表情の意味がよくわからなかったが、彼女と父親が知り合いだということを急に思い出した。
「私が、あなたが無事だと答えると、しもべはすぐに姿を消しました──だから、どこにいるのかはわからないのです。さあ、着替えておやすみなさい」
マダム・ポンフリーは湯気のたった薬をテーブルに置いて、さっさと話題を切り上げた。
流石に眠りすぎたのか、ナマエの目は夜になっても冴えていた。起きていると、否が応でも第三の課題について考えてしまう。ナマエは逃げるように、見舞いの品に紛れていた本を読み耽っていた。
「こんばんは、ナマエ。勉強熱心じゃの」
すぐそばで声がして、驚いて飛び上がった。ダンブルドアだった。声をかけられるまで、全く気が付かなかった。ダンブルドアはベッドの傍に腰掛けてにっこり笑った。
「具合はどうかね」
「は、はい……良くなってきました」
「それはよかった」
ダンブルドアはにこりと目を細めると、長いローブの袖を探り、何かを取り出した。
──杖だ。紛れもなく、ナマエの杖だった。ナマエは目を見開いた。
「これは君のものじゃろう?」
「はい、どうして……折れてたのに……」
ナマエは驚きつつも手を伸ばし、受け取った。軽く杖を振って、明かりを灯してみた。柔らかさ、熱の通い方──全てがいつもと寸分変わらぬ手応えだった。
「ありがとうございます……どうやって直したんですか?」
「わしは、ほかの魔法使いにはできないと思われることが、可能なことが稀にあるのじゃ」
ダンブルドアはいたずらっぽくフォッフォッと笑った。それから、ナマエの体を観察しながらゆっくり口を開いた。
「きみが生きていたのが不思議だと、マダム・ポンフリーが話してくれた。きみの傷は、すでに一度、塞ぎかけているようだったと──」
ナマエはダンブルドアに言われてパジャマの前を広げ、自分の傷跡を初めてまじまじと見つめた。肋のあたりに薬が塗りたくられた上に、きっちりと包帯が巻かれている。そっと手を這わせると、歪に凹んだ感触が伝わった。ナマエはふと思い出したように首元に手をやった。ナマエは今の今まで自分が身につけているものを気にかける余裕がなかった。鎖骨あたりをまさぐると、ハーマイオニーにもらったメダイの感触がした。ただ、今までと違うのは──メダイが、真っ二つに割れていたのだ。
「割れてる……」
ハーマイオニーがこのメダイをくれた時の手紙の内容を思い出した。「このメダイを身に着けていると、その人の窮地の時に奇跡が起きると言われているそうよ」と──本当に、奇跡が起きたのだろうか。
ダンブルドアは何も言わずににこにことナマエを見ていた。
ナマエはパジャマのボタンを止め直した。そして、もう一つの装飾品のことを思い出し、その所在を自分の耳たぶを触って確かめた。父親にもらったピアスは、まだナマエの耳にくっついているようだった。そして、ナマエは何度目かの質問を口にした。
「──父は、無事ですか」
ダンブルドアの柔和な笑みが消えた。
「……わしにもわからぬ。シノビーの口ぶりじゃと、どこかに身を隠しているのやもしれぬ」
ナマエは、かすかな希望を持ってダンブルドアを見た。ダンブルドアは神妙な面持ちでナマエを見つめ返し、長い指を膝の上で組んだ。
「チチオヤはヴォルデモートの復活の儀にいち早く行動を起こした。彼の父母、そして彼と親族関係にあるものの墓を全て回り、儀式に必要な骨を消し去ったのじゃ──きみの母親のものを含めての」
ナマエは傷の痛みを再び感じるほど、クラウチ・ジュニアと対峙した夜のことをはっきりと思い起こした。鼓動が激しくなるにつれ、じくじくと傷跡の痛みが増すような気がした。
「…………でも、俺の骨が抜かれた。……俺は、父上のやったことを無駄にした──!」
「ナマエよ」
ナマエは泣き出すまいとシーツを固く握りしめた。ダンブルドアは淡々と、しかし穏やかに続けた。
「きみがハリーと校長室の前で出会ったとき、ハリーは頭の中にチチオヤの姿を見たと言っておった。しかし、第三の課題で、チチオヤは墓場にはいなかったそうじゃ」
「そして、ハリーの杖がヴォルデモートの杖と繋がった時、ヴォルデモートの杖によって殺められた者たちのこだま が現れた。ポッター夫妻、マグルの老人、セドリック──しかし、チチオヤはここにも現れなかった」
ナマエは答えを促すように、縋るようにダンブルドアの顔を見た。ダンブルドアはうなずいた。
「つまり、チチオヤはまだ殺されてはおらぬと考えられる。少なくとも、ヴォルデモートには」
ナマエはふっと息を吐いた。そのときはじめて、自分が息を止めていたことに気がついた。事実だけを告げるダンブルドアの言葉選びは、今にも取り乱しそうなナマエの気持ちを落ち着かせた。堂々巡りの不安が止み、頭が少し整理されたような気がした。ナマエは唾を呑み込んで、頷いた。ダンブルドアも頷き返した。
「ただ、危険な状況にあるのは違いあるまい。我々はチチオヤの捜索も継続して行う。ただ──夏休みにきみを一人でうちに帰すのは少々気がかりじゃ」
ナマエはきょとんとした。こんなことになる前からナマエはずっと、うちでは父親と過ごす時間よりも一人でいる時間の方が長かったのだ。
「夏休みの間、きみを保護してくれる場所を──」
「待ってください、あの……一度家に帰りたいです。その後でもいいですか」
ダンブルドアは眼鏡の奥の瞳を揺らめかせ、ゆっくり頷いた。
「よかろう。ただし、初日の夜には迎えをやらねばならん。よいな?」
ナマエは了承した。家を調べれば、何か、父親に関することがわかるかもしれない。シノビーが戻っているかもしれない。それに、ナマエはいままで一度も父親の書斎に入ったことがなかった。
ダンブルドアの捜索よりも役に立つことがあるかはわからないが、夏休み中、じっと保護されているのはごめんだった。
「──僕とセドリックは、優勝杯を同時に手に取りました。優勝杯はポートキーになっていました。迷路の外に出るはずだった──」
背中越しに聞こえたのはハリーの声だった。隣のベッドにいるハリーが、誰かに第三の課題の話をしている。ナマエはまだ自分が気を失っている間、何が起こったのかを聞いていなかったので、起き上がらずにじっと聞いた。
「……僕とセドリックは墓場に連れて行かれました。そこに……ヴォルデモートがいた。僕たちがついた瞬間に、ヴォルデモートは──ワームテールという男に命じて──セドリックを──それで、セドリックは──」
「それでは、あの子はほとんど苦しまなかったのですね」
ハリーが言葉に詰まると、悲痛な女性の声が遮った。
「セドを連れ帰ってくれてありがとう」
今度は、男の震える声がした。聞き覚えのある声──エイモス・デイゴリーだ。
「ねえ、あなた……結局あの子は、試合に勝ったそのときに死んだのですもの。きっと幸せだったに違いありませんわ」
ハリーは、ディゴリー夫妻と話していた。セドリックが死んだ時の様子を話し終えると、二人はやはり涙で震えながら、「お大事にね」と行って病室を後にした。その後、ハリーからも鼻を啜る音が響いてきた。ナマエは起き上がることができずにいると、不意に名前を呼ばれた。
「……ナマエ」
ナマエはどきっとしたが、寝返りを打ち、ハリーの方を向いて目を開けた。
「……気づいてたのか」
「だって君、泣いてた」
「それはあんただろう」と言いかけたが、言われてみれば、急に鼻がツンと痛くなって、目が熱く、頬が濡れていることに気がついた。ナマエは自分が泣いていることに気が付かなかった。二人とも、傷つき疲れ果てていた。二人でベッドに横たわったまま、天井を見上げた。
ハリーがぽつりぽつりと、絞り出すように何があったかを話し出した。
「優勝杯の中に、多分──君の骨が入ってたんだ」
ワームテールが、ナマエの骨と、ハリーの血、そして自らの肉を使ってヴォルデモートを復活させたこと。ヴォルデモートがハリーに触れられるようになったこと。それから、死喰い人が集まって、ハリーとヴォルデモートが決闘をしたことを、淡々と小さな声で話した。ナマエは、ハリーは本当は、この出来事を思い出したくも考えたくもないだろうと思った。それでも、ハリーは話してくれた。
「決闘で、ヴォルデモートの杖と僕の杖が繋がったんだ。『兄弟杖』だって、同じ芯を使った杖をそう言うんだって、ダンブルドアが言ってた。ヴォルデモートが殺した人たちの
ナマエは何と言って良いやらわからなかった。いつものように、ひとつひとつの言葉を問いただして理解しようという気も湧かなかった。ハリーの杖の不思議な話もそうだが、死喰い人が集まった中で、ヴォルデモートと決闘して生きて帰るなんて、なんて奇跡だろう。
「…………あんたが生きててよかった」
「君もね」
ハリーはふっと息を吐くように弱々しく笑った。天井を見つめていたので、ハリーが本当に笑っていたのか、ただ、自分が笑って欲しいと思ったのかはわからなかった。
翌日、ハリーは退院してグリフィンドール寮に戻って行ったが、ナマエはまだ医務室にいた。
ナマエの傷は完全には元に戻すことができないらしかった。マダム・ポンフリーによると、ナマエの受けた傷は複雑な呪いで、
見舞いに来たレイブンクローの友人たちが、ドアのところでマダム・ポンフリーに追い返されているのが見えた。マダム・ポンフリーは受け取ったたくさんの見舞いの菓子や本を両腕に抱えてナマエのベッドにやってきた。ナマエは、ずっと気になっていたことをおずおずと尋ねた。
「──マダム・ポンフリー、あの」
「何です?」
「……シノビーはどこにいますか」
マダム・ポンフリーははっとナマエを振り返ってから、顔を顰めた。
「ダンブルドア先生に頼まれていましたよね……あのしもべは、うちの屋敷しもべなんです」
マダム・ポンフリーは杖を振ってナマエのベッド周りを清め、(ナマエにはあえてせかせかと仕事をし始めたように見えた)ぽつぽつと答えた。
「あなたの──そうでしょうとも。私が校庭に行くと、そのしもべは私に、あなたの無事を尋ねてきました」
ナマエにはマダム・ポンフリーの表情の意味がよくわからなかったが、彼女と父親が知り合いだということを急に思い出した。
「私が、あなたが無事だと答えると、しもべはすぐに姿を消しました──だから、どこにいるのかはわからないのです。さあ、着替えておやすみなさい」
マダム・ポンフリーは湯気のたった薬をテーブルに置いて、さっさと話題を切り上げた。
流石に眠りすぎたのか、ナマエの目は夜になっても冴えていた。起きていると、否が応でも第三の課題について考えてしまう。ナマエは逃げるように、見舞いの品に紛れていた本を読み耽っていた。
「こんばんは、ナマエ。勉強熱心じゃの」
すぐそばで声がして、驚いて飛び上がった。ダンブルドアだった。声をかけられるまで、全く気が付かなかった。ダンブルドアはベッドの傍に腰掛けてにっこり笑った。
「具合はどうかね」
「は、はい……良くなってきました」
「それはよかった」
ダンブルドアはにこりと目を細めると、長いローブの袖を探り、何かを取り出した。
──杖だ。紛れもなく、ナマエの杖だった。ナマエは目を見開いた。
「これは君のものじゃろう?」
「はい、どうして……折れてたのに……」
ナマエは驚きつつも手を伸ばし、受け取った。軽く杖を振って、明かりを灯してみた。柔らかさ、熱の通い方──全てがいつもと寸分変わらぬ手応えだった。
「ありがとうございます……どうやって直したんですか?」
「わしは、ほかの魔法使いにはできないと思われることが、可能なことが稀にあるのじゃ」
ダンブルドアはいたずらっぽくフォッフォッと笑った。それから、ナマエの体を観察しながらゆっくり口を開いた。
「きみが生きていたのが不思議だと、マダム・ポンフリーが話してくれた。きみの傷は、すでに一度、塞ぎかけているようだったと──」
ナマエはダンブルドアに言われてパジャマの前を広げ、自分の傷跡を初めてまじまじと見つめた。肋のあたりに薬が塗りたくられた上に、きっちりと包帯が巻かれている。そっと手を這わせると、歪に凹んだ感触が伝わった。ナマエはふと思い出したように首元に手をやった。ナマエは今の今まで自分が身につけているものを気にかける余裕がなかった。鎖骨あたりをまさぐると、ハーマイオニーにもらったメダイの感触がした。ただ、今までと違うのは──メダイが、真っ二つに割れていたのだ。
「割れてる……」
ハーマイオニーがこのメダイをくれた時の手紙の内容を思い出した。「このメダイを身に着けていると、その人の窮地の時に奇跡が起きると言われているそうよ」と──本当に、奇跡が起きたのだろうか。
ダンブルドアは何も言わずににこにことナマエを見ていた。
ナマエはパジャマのボタンを止め直した。そして、もう一つの装飾品のことを思い出し、その所在を自分の耳たぶを触って確かめた。父親にもらったピアスは、まだナマエの耳にくっついているようだった。そして、ナマエは何度目かの質問を口にした。
「──父は、無事ですか」
ダンブルドアの柔和な笑みが消えた。
「……わしにもわからぬ。シノビーの口ぶりじゃと、どこかに身を隠しているのやもしれぬ」
ナマエは、かすかな希望を持ってダンブルドアを見た。ダンブルドアは神妙な面持ちでナマエを見つめ返し、長い指を膝の上で組んだ。
「チチオヤはヴォルデモートの復活の儀にいち早く行動を起こした。彼の父母、そして彼と親族関係にあるものの墓を全て回り、儀式に必要な骨を消し去ったのじゃ──きみの母親のものを含めての」
ナマエは傷の痛みを再び感じるほど、クラウチ・ジュニアと対峙した夜のことをはっきりと思い起こした。鼓動が激しくなるにつれ、じくじくと傷跡の痛みが増すような気がした。
「…………でも、俺の骨が抜かれた。……俺は、父上のやったことを無駄にした──!」
「ナマエよ」
ナマエは泣き出すまいとシーツを固く握りしめた。ダンブルドアは淡々と、しかし穏やかに続けた。
「きみがハリーと校長室の前で出会ったとき、ハリーは頭の中にチチオヤの姿を見たと言っておった。しかし、第三の課題で、チチオヤは墓場にはいなかったそうじゃ」
「そして、ハリーの杖がヴォルデモートの杖と繋がった時、ヴォルデモートの杖によって殺められた者たちの
ナマエは答えを促すように、縋るようにダンブルドアの顔を見た。ダンブルドアはうなずいた。
「つまり、チチオヤはまだ殺されてはおらぬと考えられる。少なくとも、ヴォルデモートには」
ナマエはふっと息を吐いた。そのときはじめて、自分が息を止めていたことに気がついた。事実だけを告げるダンブルドアの言葉選びは、今にも取り乱しそうなナマエの気持ちを落ち着かせた。堂々巡りの不安が止み、頭が少し整理されたような気がした。ナマエは唾を呑み込んで、頷いた。ダンブルドアも頷き返した。
「ただ、危険な状況にあるのは違いあるまい。我々はチチオヤの捜索も継続して行う。ただ──夏休みにきみを一人でうちに帰すのは少々気がかりじゃ」
ナマエはきょとんとした。こんなことになる前からナマエはずっと、うちでは父親と過ごす時間よりも一人でいる時間の方が長かったのだ。
「夏休みの間、きみを保護してくれる場所を──」
「待ってください、あの……一度家に帰りたいです。その後でもいいですか」
ダンブルドアは眼鏡の奥の瞳を揺らめかせ、ゆっくり頷いた。
「よかろう。ただし、初日の夜には迎えをやらねばならん。よいな?」
ナマエは了承した。家を調べれば、何か、父親に関することがわかるかもしれない。シノビーが戻っているかもしれない。それに、ナマエはいままで一度も父親の書斎に入ったことがなかった。
ダンブルドアの捜索よりも役に立つことがあるかはわからないが、夏休み中、じっと保護されているのはごめんだった。