炎のゴブレット
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怒鳴りあうような会話が聞こえた。何人もの声がする。ナマエは身じろぐことも、目を開けることすらしなかった。身体中に力が入らず、瞼を上げることすら億劫で、まだ眠っていたかった。しかし、言い争う叫び声はナマエの耳を騒がせた。うるさい、静かにしてくれ──。
「──まさか、おいおい、ダンブルドア!この件に関して、ハリーの言うことを信じるというのかね?──」
「──もちろんじゃ。わしはハリーを信じる。ヴォルデモートは肉体を取り戻した。ハリーは、ヴォルデモートが蘇るのを目撃した。わしの部屋に来てくだされば、一部始終をお話しいたしますぞ」
聞こえてきた言葉に、ガツンと頭を内側から殴られるような衝撃を受けた。ナマエは飛び起きた。途端、こんどは胸元の傷の痛みで顔を顰めた。そばにいたウィーズリー夫人が驚いたように振り返った。
「ナマエ!ああ!──ああ、目が覚めたのね──」
夫人は真っ青な顔で涙ぐんでナマエを抱きしめた。ナマエは医務室のベッドの上にいた。すぐ隣のベッドでハリーが上半身だけ起こして、ナマエを見て力無く笑った。ハリーのベッドのそばにはハーマイオニーが夫人と同じように涙ぐんで、ロンが驚いたようにナマエを見ていた。足元には、犬の姿のシリウスまでいた。病室のみんなが一斉にナマエを振り返った。ドアの近くにマクゴナガル先生、スネイプ、ダンブルドア──そして、魔法大臣のコーネリウス・ファッジが立っていた。ナマエはあたりを見渡しながら、先ほど聞こえた会話の出所を探し、目を止めた。
「復活、した……?」
ナマエは、縋るようにダンブルドアを見つめながら呟いた。声はほとんど掠れて音にならなかったが、それを聞き取ったハリーがゆっくり頷き、言った。
「僕はヴォルデモートが復活するのを見た」
「バカなことを!それにこの子は──蛇語使いだって、え?それに、いつもいたるところでおかしな発作を起こすそうじゃないか。幻覚か、悪夢でも見ているんだろう」
ファッジは妙な笑みを浮かべながら言い切った。
「あなたは、リータ・スキーターの記事を読んでいらっしゃるのですね」
ハリーが静かに言った。ほとんど全員が凍りついた。ファッジは少し顔を赤らめたが、すぐに意固地な顔になった。
「この子は去年の学年末にも、さんざんわけのわからん話をしていた、だんだん話が大袈裟になっている──」
「愚か者!セドリック・ディゴリーの死が何を意味するか、考えることもやめたのですか!」
今度はマクゴナガル先生が叫んだ。ナマエは反射的にハリーを見た。──セドリック・ディゴリーが死んだ?
「反証はない!」
ファッジはマクゴナガル先生に負けず劣らず、顔を真っ赤に怒らせていた。ナマエは、ただでさえ血の減った体から、さらに生気が引いていくような気がした。少なくとも、この怒れる小柄な魔法使いは、いまの今まで、ナマエにとって善良な男だった。しかし、今、ファッジは、心地よい自分の秩序が崩壊するのを、頭から拒否し、受け入れるまいとしていた。落胆に沈んだナマエのなかに、今度はふつふつと怒りが湧いた。──ナマエはファッジを睨みつけて声を絞り出した。
「なら、俺のあばらはどこに行ったと言うんですか」
ファッジは虚をつかれたようにナマエを見た。
「俺の骨と、ハリーの血が──!例の──、ヴォルデモートのためじゃなければ、何に使われたって思ってるんですか。そんなに信じられないなら、真実薬 を飲ませろ。ハリーにでも、俺にでも!」
ファッジは顔をさらに赤くした。
「──君たちが自分の大きな誤解を狂信しているうちは、真実薬は無意味だろう!嘘をついているという自覚がないのだから!」
「僕は、この目で見たんだ!セドリックが殺されるところも、ヴォルデモートが蘇るところも!」
ハリーが怒ったように叫び返した。ウィーズリー夫人がハリーに覆い被さるようにして、ハリーの肩を押さえ、立ち上がらないようにしていた。
「僕は、死喰い人を見たんだ!名前をみんな挙げることだってできる!ルシウス・マルフォイ──」
ナマエは思わずピクリと動いた。ハリーが一瞬ナマエを見たが、すぐにファッジに目線を戻し、続けた。
「エイブリー、ノット──クラッブ、ゴイル──」
「君は十三年前に死喰い人の汚名を濯いだ者の名前を繰り返しているだけだ!古い裁判記録ででも見つけたのだろう!戯けたことを!」
ファッジはあからさまに感情を害していた。わざとらしいため息をついて、荒々しく言った。
「どうやら諸君は、この十三年間、我々が営々として築いてきたものを、すべて覆すような大混乱を引き起こそうという所存だな!」
ナマエは耳を疑った。まるで聞く耳を持たず、自分の地位に恋々としている男が魔法界を率いていることに、ショックを受けた。
「ヴォルデモートは帰ってきた」
ダンブルドアが繰り返した。
「ファッジ、あなたがその事実をすぐさま認め、必要な措置を講じれば、われわれはまだこの状況を救えるかもしれぬ。まず最初に取るべき重要な措置は──」
「正気の沙汰ではない」
退きながらファッジが小声で言った。
「狂っている……」
「目をつぶろうという決意がそれほど固いなら、コーネリウス」
ダンブルドアが言った。
「袂を分かつときが来た。あなたはあなたの考えどおりにするがよい。そして、わしは──わしの考えどおりに行動する」
ダンブルドアの声には威嚇の響きは微塵もなかった。淡々とした言葉だった。しかし、ファッジは、ダンブルドアが杖を持って迫ってきたかのように、毛を逆立てた。
「もう何も言うことはない。この学校の経営について話があるので、ダンブルドア、明日連絡する。私は役所に戻らねばならん」
ファッジは山高帽をぐいとかぶり、ドアをバタンと閉めて部屋から出ていった。その姿が消えるや否や、ダンブルドアがハリーのベッドの周りにいる人々のほうに向き直った。
「やるべきことがある。モリー」
ダンブルドアが言うと、夫人は決然とした面持ちで頷いた。
「アーサーに、何が起こったかを伝えてほしい」
「もちろんですわ」
夫人はもう一度、ナマエとハリーを順番にギュッと抱きしめてから、マントを着て足早に部屋を出ていった。
「ミネルバ」
ダンブルドアがマクゴナガル先生のほうを見た。
「わしの部屋で、できるだけ早くハグリッドに会いたい。それから、もし、来ていただけるようなら──マダム・マクシームも」
マクゴナガル先生は頷いて、黙って部屋を出ていった。
「ポピー」
ダンブルドアがマダム・ポンフリーに言った。
「校庭の、迷路のそばにシノビーというしもべ妖精がいる。負傷しておるのじゃ、できるだけの手を尽くしてほしい」
驚いたような顔をして、マダム・ポンフリーも出ていった。ナマエも、マダム・ポンフリー以上に驚いた。
「シノビー……」
なぜシノビーがホグワーツにいるのだろう。無事なのだろうか。やはり、チチオヤに何があったのだろうか。ナマエが不安を隠せぬままでいると、ダンブルドアはちらりとナマエを見てから、シリウスに目を向けた。
「さて、そこでじゃ。ここにいる者の中で二名の者が、互いに真の姿で認め合うべきときが来た。シリウス……普通の姿に戻ってくれぬか」
大きな黒い犬がダンブルドアを見上げ、一瞬で男の姿に戻った。スネイプは怒りと恐怖の入り交じった表情で叫んだ。
「こやつ!」
スネイプに負けず劣らず嫌悪の表情を見せているシリウスを見つめながら、スネイプが唸った。
「なぜここにいるのだ?」
「わしが招待したのじゃ」
ダンブルドアが二人を交互に見ながら言った。
「セブルス、きみもわしの招待じゃ。わしは二人とも信頼しておる」
二人は互いの不幸を願っているかのようにギラギラと睨み合っていた。そして、ゆっくりとシリウスとスネイプが歩み寄り、握手し、あっという間に手を離した。
「妥協しよう」
ダンブルドアが苛立ったように言った。
「さて、シリウス。すぐに昔の仲間に警戒体制を取るように伝えてくれ。予想していなかったわけではないが、ファッジがあのような態度を取るのであれば、すべてが変わってくる」
「シリウス──」
ハリーが引き留めたそうにシリウスを見つめていた。シリウスは優しく笑った。
「またすぐ会えるよ、ハリー。約束する。しかし、わたしは自分にできることをしなければならない。わかるね?」
「うん……」
ハリーが答えた。シリウスはハリーの手をぎゅっと握った。ダンブルドアのほうに頷くと、再び黒い犬に変身して、ひと跳びにドアに駆け寄り、前脚で取っ手を回した。そしてシリウスもいなくなった。ナマエは、シリウスが自分を見るときにぎこちなく笑っていたような気がして、なぜだか胸がざわついた。
「セブルス」
ダンブルドアがスネイプのほうを向いた。
「きみに何を頼まねばならぬのか、もうわかっておろう。もし、準備ができているなら……もし、やってくれるなら……」
「大丈夫です」
スネイプはいつもより青ざめて見えた。冷たい暗い目が、不思議な光を放っていた。
「それでは、幸運を祈る」
ダンブルドアはそう言うと、スネイプの後ろ姿を、微かに心配そうな色を浮かべて見送った。スネイプはシリウスのあとから、無言でさっと立ち去った。ナマエはついに我慢できなくなって、疑問が口をついた。
「先生、父は──チチオヤは無事なんですか」
ダンブルドアが再び口を聞いたのは、それから数分たってからだった。
「ナマエ……きみにも何があったか話さねばならぬ──しかし、チチオヤについて今、わしが知るところは少ない──きみも、ハリーも、今は休まねばならぬ。残っている薬を飲むのじゃ。わしも、下に行ってディゴリー夫妻と話さなければ」
ダンブルドアの明るいブルーの瞳がナマエを見た。ナマエはぎゅっと唇を噛んで頷いた。ナマエはただ、無事だという一言が欲しいだけだった。それが叶わないことが、こんなにも自分の心を曇らせるのかと動揺していた。
「マダム・ポンフリーの薬を飲むのじゃ。夢も見ずに眠れる」
ダンブルドアがいなくなる前に、ハリーたちと言葉を交わす前に、ナマエは薬に口をつけ、一気に飲み干した。何も考えられなくなっていた。考えたくなかった。わからないことが多いはずなのに、最悪の予想だけが薄い線のように繋がっていた。全てわかってしまうのが怖かった。傷ついたシノビーのことも、セドリックが死んだということも、その理由も、チチオヤの行方も、何もかもを眠りに沈めた。ナマエは枕に倒れ込み、もう何も考えなかった。
「──まさか、おいおい、ダンブルドア!この件に関して、ハリーの言うことを信じるというのかね?──」
「──もちろんじゃ。わしはハリーを信じる。ヴォルデモートは肉体を取り戻した。ハリーは、ヴォルデモートが蘇るのを目撃した。わしの部屋に来てくだされば、一部始終をお話しいたしますぞ」
聞こえてきた言葉に、ガツンと頭を内側から殴られるような衝撃を受けた。ナマエは飛び起きた。途端、こんどは胸元の傷の痛みで顔を顰めた。そばにいたウィーズリー夫人が驚いたように振り返った。
「ナマエ!ああ!──ああ、目が覚めたのね──」
夫人は真っ青な顔で涙ぐんでナマエを抱きしめた。ナマエは医務室のベッドの上にいた。すぐ隣のベッドでハリーが上半身だけ起こして、ナマエを見て力無く笑った。ハリーのベッドのそばにはハーマイオニーが夫人と同じように涙ぐんで、ロンが驚いたようにナマエを見ていた。足元には、犬の姿のシリウスまでいた。病室のみんなが一斉にナマエを振り返った。ドアの近くにマクゴナガル先生、スネイプ、ダンブルドア──そして、魔法大臣のコーネリウス・ファッジが立っていた。ナマエはあたりを見渡しながら、先ほど聞こえた会話の出所を探し、目を止めた。
「復活、した……?」
ナマエは、縋るようにダンブルドアを見つめながら呟いた。声はほとんど掠れて音にならなかったが、それを聞き取ったハリーがゆっくり頷き、言った。
「僕はヴォルデモートが復活するのを見た」
「バカなことを!それにこの子は──蛇語使いだって、え?それに、いつもいたるところでおかしな発作を起こすそうじゃないか。幻覚か、悪夢でも見ているんだろう」
ファッジは妙な笑みを浮かべながら言い切った。
「あなたは、リータ・スキーターの記事を読んでいらっしゃるのですね」
ハリーが静かに言った。ほとんど全員が凍りついた。ファッジは少し顔を赤らめたが、すぐに意固地な顔になった。
「この子は去年の学年末にも、さんざんわけのわからん話をしていた、だんだん話が大袈裟になっている──」
「愚か者!セドリック・ディゴリーの死が何を意味するか、考えることもやめたのですか!」
今度はマクゴナガル先生が叫んだ。ナマエは反射的にハリーを見た。──セドリック・ディゴリーが死んだ?
「反証はない!」
ファッジはマクゴナガル先生に負けず劣らず、顔を真っ赤に怒らせていた。ナマエは、ただでさえ血の減った体から、さらに生気が引いていくような気がした。少なくとも、この怒れる小柄な魔法使いは、いまの今まで、ナマエにとって善良な男だった。しかし、今、ファッジは、心地よい自分の秩序が崩壊するのを、頭から拒否し、受け入れるまいとしていた。落胆に沈んだナマエのなかに、今度はふつふつと怒りが湧いた。──ナマエはファッジを睨みつけて声を絞り出した。
「なら、俺のあばらはどこに行ったと言うんですか」
ファッジは虚をつかれたようにナマエを見た。
「俺の骨と、ハリーの血が──!例の──、ヴォルデモートのためじゃなければ、何に使われたって思ってるんですか。そんなに信じられないなら、
ファッジは顔をさらに赤くした。
「──君たちが自分の大きな誤解を狂信しているうちは、真実薬は無意味だろう!嘘をついているという自覚がないのだから!」
「僕は、この目で見たんだ!セドリックが殺されるところも、ヴォルデモートが蘇るところも!」
ハリーが怒ったように叫び返した。ウィーズリー夫人がハリーに覆い被さるようにして、ハリーの肩を押さえ、立ち上がらないようにしていた。
「僕は、死喰い人を見たんだ!名前をみんな挙げることだってできる!ルシウス・マルフォイ──」
ナマエは思わずピクリと動いた。ハリーが一瞬ナマエを見たが、すぐにファッジに目線を戻し、続けた。
「エイブリー、ノット──クラッブ、ゴイル──」
「君は十三年前に死喰い人の汚名を濯いだ者の名前を繰り返しているだけだ!古い裁判記録ででも見つけたのだろう!戯けたことを!」
ファッジはあからさまに感情を害していた。わざとらしいため息をついて、荒々しく言った。
「どうやら諸君は、この十三年間、我々が営々として築いてきたものを、すべて覆すような大混乱を引き起こそうという所存だな!」
ナマエは耳を疑った。まるで聞く耳を持たず、自分の地位に恋々としている男が魔法界を率いていることに、ショックを受けた。
「ヴォルデモートは帰ってきた」
ダンブルドアが繰り返した。
「ファッジ、あなたがその事実をすぐさま認め、必要な措置を講じれば、われわれはまだこの状況を救えるかもしれぬ。まず最初に取るべき重要な措置は──」
「正気の沙汰ではない」
退きながらファッジが小声で言った。
「狂っている……」
「目をつぶろうという決意がそれほど固いなら、コーネリウス」
ダンブルドアが言った。
「袂を分かつときが来た。あなたはあなたの考えどおりにするがよい。そして、わしは──わしの考えどおりに行動する」
ダンブルドアの声には威嚇の響きは微塵もなかった。淡々とした言葉だった。しかし、ファッジは、ダンブルドアが杖を持って迫ってきたかのように、毛を逆立てた。
「もう何も言うことはない。この学校の経営について話があるので、ダンブルドア、明日連絡する。私は役所に戻らねばならん」
ファッジは山高帽をぐいとかぶり、ドアをバタンと閉めて部屋から出ていった。その姿が消えるや否や、ダンブルドアがハリーのベッドの周りにいる人々のほうに向き直った。
「やるべきことがある。モリー」
ダンブルドアが言うと、夫人は決然とした面持ちで頷いた。
「アーサーに、何が起こったかを伝えてほしい」
「もちろんですわ」
夫人はもう一度、ナマエとハリーを順番にギュッと抱きしめてから、マントを着て足早に部屋を出ていった。
「ミネルバ」
ダンブルドアがマクゴナガル先生のほうを見た。
「わしの部屋で、できるだけ早くハグリッドに会いたい。それから、もし、来ていただけるようなら──マダム・マクシームも」
マクゴナガル先生は頷いて、黙って部屋を出ていった。
「ポピー」
ダンブルドアがマダム・ポンフリーに言った。
「校庭の、迷路のそばにシノビーというしもべ妖精がいる。負傷しておるのじゃ、できるだけの手を尽くしてほしい」
驚いたような顔をして、マダム・ポンフリーも出ていった。ナマエも、マダム・ポンフリー以上に驚いた。
「シノビー……」
なぜシノビーがホグワーツにいるのだろう。無事なのだろうか。やはり、チチオヤに何があったのだろうか。ナマエが不安を隠せぬままでいると、ダンブルドアはちらりとナマエを見てから、シリウスに目を向けた。
「さて、そこでじゃ。ここにいる者の中で二名の者が、互いに真の姿で認め合うべきときが来た。シリウス……普通の姿に戻ってくれぬか」
大きな黒い犬がダンブルドアを見上げ、一瞬で男の姿に戻った。スネイプは怒りと恐怖の入り交じった表情で叫んだ。
「こやつ!」
スネイプに負けず劣らず嫌悪の表情を見せているシリウスを見つめながら、スネイプが唸った。
「なぜここにいるのだ?」
「わしが招待したのじゃ」
ダンブルドアが二人を交互に見ながら言った。
「セブルス、きみもわしの招待じゃ。わしは二人とも信頼しておる」
二人は互いの不幸を願っているかのようにギラギラと睨み合っていた。そして、ゆっくりとシリウスとスネイプが歩み寄り、握手し、あっという間に手を離した。
「妥協しよう」
ダンブルドアが苛立ったように言った。
「さて、シリウス。すぐに昔の仲間に警戒体制を取るように伝えてくれ。予想していなかったわけではないが、ファッジがあのような態度を取るのであれば、すべてが変わってくる」
「シリウス──」
ハリーが引き留めたそうにシリウスを見つめていた。シリウスは優しく笑った。
「またすぐ会えるよ、ハリー。約束する。しかし、わたしは自分にできることをしなければならない。わかるね?」
「うん……」
ハリーが答えた。シリウスはハリーの手をぎゅっと握った。ダンブルドアのほうに頷くと、再び黒い犬に変身して、ひと跳びにドアに駆け寄り、前脚で取っ手を回した。そしてシリウスもいなくなった。ナマエは、シリウスが自分を見るときにぎこちなく笑っていたような気がして、なぜだか胸がざわついた。
「セブルス」
ダンブルドアがスネイプのほうを向いた。
「きみに何を頼まねばならぬのか、もうわかっておろう。もし、準備ができているなら……もし、やってくれるなら……」
「大丈夫です」
スネイプはいつもより青ざめて見えた。冷たい暗い目が、不思議な光を放っていた。
「それでは、幸運を祈る」
ダンブルドアはそう言うと、スネイプの後ろ姿を、微かに心配そうな色を浮かべて見送った。スネイプはシリウスのあとから、無言でさっと立ち去った。ナマエはついに我慢できなくなって、疑問が口をついた。
「先生、父は──チチオヤは無事なんですか」
ダンブルドアが再び口を聞いたのは、それから数分たってからだった。
「ナマエ……きみにも何があったか話さねばならぬ──しかし、チチオヤについて今、わしが知るところは少ない──きみも、ハリーも、今は休まねばならぬ。残っている薬を飲むのじゃ。わしも、下に行ってディゴリー夫妻と話さなければ」
ダンブルドアの明るいブルーの瞳がナマエを見た。ナマエはぎゅっと唇を噛んで頷いた。ナマエはただ、無事だという一言が欲しいだけだった。それが叶わないことが、こんなにも自分の心を曇らせるのかと動揺していた。
「マダム・ポンフリーの薬を飲むのじゃ。夢も見ずに眠れる」
ダンブルドアがいなくなる前に、ハリーたちと言葉を交わす前に、ナマエは薬に口をつけ、一気に飲み干した。何も考えられなくなっていた。考えたくなかった。わからないことが多いはずなのに、最悪の予想だけが薄い線のように繋がっていた。全てわかってしまうのが怖かった。傷ついたシノビーのことも、セドリックが死んだということも、その理由も、チチオヤの行方も、何もかもを眠りに沈めた。ナマエは枕に倒れ込み、もう何も考えなかった。