炎のゴブレット
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バーティ・クラウチの一件について、ナマエがチチオヤに手紙を書くまでもなく、ダンブルドアに聞いたのか、チチオヤの方から手紙を寄越した。
手紙には、今後は一人で外に出歩くなとか、危険なことをするなとか、シリウスがハリーに言いそうなことが並べ立ててあった。
チチオヤはまだ家には帰っていないのだろうか。走り書いたような荒れた筆跡を見て、ナマエは思った。
月曜日の昼間、ナマエはハリーたちに呼び出された。
「──迷路?」
「ああ、第三の課題は、迷路の中心に三校対抗優勝杯が置かれて──最初にその優勝杯に触れたら優勝。今の点数が高い人からスタート出来るみたいだ」
呪文学の教室でハリーが言った。ハーマイオニーとロンは、図書館で見つけてきた呪いの本をどさりと机に置いた。
ナマエはサンドイッチを食べながら言った。
「そのために──今から、呪文をなるだけたくさん覚えるってこと?」
「そうよ。リストを作ったわ──『失神術』、『妨害の呪い』──あと、『盾の呪文』は必須ね」
ハーマイオニーが羊皮紙を広げて言った。ハリーはちらとナマエを伺うように見た。
「君、『盾の呪文』が得意だろう?もちろん、他のもさ」
ナマエはにっこり笑った。
それから、期末試験が始まるまで毎日四人で呪文の練習をした。第三の課題が近づくにつれ、ホグワーツ城にまたしても興奮と緊張がみなぎっていた。期末試験が終わるとすぐに第三の課題が行われるのだが、ナマエたちはほとんど毎日ハリーに付き合って呪いの練習をしていた。
「──少なくとも、『呪文学』と『闇の魔術に対する防衛術』の点数は心配いらないな」
ハリーが三人の成績を気にしていたので、ナマエは笑って言った。ハリーたち代表選手は、期末試験が免除されていた。
ナマエは授業が終わると、ハリーたちのいる空き教室に行くのが日課になっていた。いつものように教室に向かって中庭を横切って歩いていると、ドラコが木陰に立っていた。ナマエは手を振ったが、ドラコは口に手をかざして、その手に向かって何か話していた。ナマエは怪訝に思って近寄った。
「──ドラコ?」
「うわっ!」
ドラコは不自然に慌てふためき、ナマエに背を向けた。
「……誰と話してたんだ?」
「お前には関係ないだろう!──さっさとポッターのところへ戻ったらどうだ?親衛隊さん」
「なんであんたは、なんでもすぐにハリーに結びつけるんだ……」
ドラコは悪態をついた。ナマエはため息を飲み込んで踵を返した。
ナマエはその出来事をハリーたちに話すと、ハリーが言った。
「トランシーバーで誰かと話してたとか?」
「そんなものはホグワーツで使えないのよ、ハリー。ここではマグルの機械は使えない。電磁波がめちゃめちゃに狂うの」
ナマエが「トランシーバーとは何か」を聞く前に、ハーマイオニーが立ち上がってきびきび言った。
「ロン、そこに立って。ハリー、ナマエ、もう一度『盾の呪文』の練習をしなきゃ」
いよいよ第三の課題が明日に迫っていた。ハリーは第一、第二の課題よりもいくらか気が楽そうに見えた。ナマエが夕食のために廊下を歩いていると、突然頭にふわふわした何かがぶつかった。──ふくろうだ。
ナマエが頭を振って目を開くと、もうすでにふくろうは飛び去った後だった。ナマエは鼻をさすりながら床に落ちた手紙を拾い上げた。
自分に手紙を送る人物など、チチオヤくらいしか思い当たらなかった。
────────
対抗試合が終わるまで、
身を隠していろ
────────
短い走り書きに目を走らせると、手紙はすぐに塵になって消えてしまった。ナマエは思わず声を上げた。
「──父上っ?」
困惑しながら、よろりと歩き出した。
あんな短い文章で、何に気をつけろと言うのだろう?ナマエは訝しんだ。何から身を隠せと言われているのか、皆目見当がつかなかった。いや、見当はついていたが、理屈が合わなかった。
(──ヴォルデモートから隠れろっていうのか?)
ナマエは頭を振った。訳がわからなかった。
気をつけろと言うならハリーに言うべきだ。それに、ヴォルデモートから身を隠すなら、ホグワーツが一番安全だ。いったい、息子がどこに隠れることを期待して、そして、チチオヤ本人はどこで何をしているというのだろう。
何はともあれ、ナマエはダンブルドアのもとへ向かっていた。チチオヤが信頼しているのは、ダンブルドアとムーディだろうと考えたのだ。
校長室に続くガーゴイル像の前までいくと、人の気配がした。目を凝らすと、誰あろう、ハリーが立っていた。合言葉がわからないようで、苛立ったように次々に菓子の名前を当てずっぽうに叫んでいた。ナマエは早足で近づいた。
「レモンキャンデー──フィフィフィズビー!えーと、──蛙チョコレート!」
「──ゴキブリゴソゴソ豆板!」
ナマエが横から言うと、ガーゴイル像が飛び退いた。ハリーが弾かれたようにナマエを振り返った。
「えっ──ナマエ?どうして……いっ──!」
ハリーとナマエの目が合った途端、ハリーが頭を抑えて膝から崩れ落ちた。
「ハリー!?」
ナマエはハリーに駆け寄り、肩を掴んだ。ハリーは額を抑えて目をギュッと閉じて痛みに耐えているように見えた。
「大丈夫か?俺、ダンブルドアを呼んでくる──」
ナマエが立ち上がろうとすると、ハリーがナマエの腕を掴んだ。
「待って!僕、傷が痛んで、ヴォルデモートが見えたんだ……だからダンブルドアに会いにきた……でも、今は君が──」
ハリーが険しい顔でナマエの顔をじっと見つめた。
「君が一瞬、君のパパに見えた──」
ナマエは狼狽えながらハリーの見開かれた明るい緑の瞳を見つめ返した。すると、螺旋階段の上からコツッコツッという音と唸り声が聞こえた。
「ポッター、ミョウジ」
ムーディだ。校長室から降りてきたようだ。ムーディは魔法の目をぐるぐる回しながら、もう片方の目で二人を見た。
「──校長に用か、ポッター?」
「あ、はい」
「ダンブルドアは上にいる。──ミョウジ、おまえはチチオヤのことだろう。わしについて来い」
ナマエは驚いたが、頷いた。ハリーと目線を交わすと、ハリーも頷いて階段を登って行った。ムーディはハリーの姿が見えなくなると、ナマエに顎をしゃくって見せて、歩き出した。ナマエは後に続いた。
「先生、父が今何をしているのかご存知なんですか」
「ああ、知っている。だから、おまえの助けを借りたい」
ムーディは足を引きずって、「闇の魔術に対する防衛術」の教室の奥にある、ムーディの部屋まで向かった。
ナマエが部屋に入ると、ムーディは扉を閉めた。部屋に置かれた敵鏡にはぼんやりとした影がちらついており、トランクはときおりガタガタと音を立てて揺れた。
「そこに座れ」
ムーディに言われた通り、ナマエは椅子に座った。
「あの、父は今どこにいるんでしょう?何をしているんですか?」
「ああ──」
ムーディはナマエの前に紅茶の入ったマグカップを置いて、深い息をついた。
「……おまえの父親 は、闇の帝王が復活すると考えた。以前も話したが、チチオヤは闇の魔術に長けておる……闇の帝王がどうやって復活するつもりなのか、チチオヤはある程度推量を立てていた」
ムーディは腰掛けず、杖に縋って立ったまま話した。
「チチオヤは、闇の帝王は復活のための材料を集めていると考えた。そのうちのひとつが、『父親の骨』だった」
「父親──例のあの人の?」
「そうだ。チチオヤは復活を阻止するため、まず闇の帝王が骨を手に入れる前に、墓を荒らし、骨を消し去った──それだけでない。父親の骨がなければ、闇の帝王は他の血縁者の骨を使うだろうとチチオヤは考えた」
「他の──血縁者」
ナマエはカップを両手で握りしめてムーディの言葉を繰り返した。魔法の目はもう動かずにナマエを見つめていた。
「チチオヤはリドルの家系の墓を暴き、骨を消し去り、今度はゴーントの墓を暴いた。おまえの祖母も、母親も、いわば血縁者だ。それらの眠りも妨げ、骨を消し去って回っていた。──あっぱれな執念だ」
ナマエはショックを受けたが、今までのチチオヤの行動に合点がいった。ムーディはナマエの様子を見て不敵にくくっと笑って、ゆらりと杖を振った。
「ああ──そこで、おまえに頼もう。あの男の尻拭いをしてもらわねばならん。息子であるおまえにな」
ナマエはムーディの言葉の意味がわからなかった。
「何を──」
ポキン!
突然、小気味の良い音が響いた。なんの音かと考える前に、鈍い痛みが鳩尾の下あたりから主張し始めた。マグカップを握る手がゆるみ、紅茶が溢れ、床に転がり落ちた。そして次の瞬間、体の中から刃を突き立てられているかのような激しい痛みが走った。
「痛っ!?──ああっ!」
「おまえの父親 はまっこと賢い男だ──ミョウジよ。だが、それが仇となったな」
ナマエは椅子ごと床にくずおれた。呻き声だけが口から漏れ出した。なんとかムーディの方に顔を向けると、ムーディはナマエに杖を向け、勝ち誇ったような歪んだ笑みを浮かべていた。
「ぐっ──」
「おまえもそうだ──よく働いてくれた。わしが手出しせずとも、ポッターの課題を助けてくれた──」
ムーディが杖を捻ると、一際痛みが激しくなった。ナマエの服には赤いしみが広がっていた。出血している。体の内側から肉が引き裂かれているような気がした。
「やることなすこと、全てが裏目に出る男だ──どこかの糞親父に似てな……。チチオヤは闇の帝王のお考えに誰よりも早く気がついた──そのせいでおまえは今、こんな目に遭っている」
ムーディはせせら笑った。ナマエは痛みで声をあげることができず、奥歯を割れんばかりに食いしばり、体を貫く痛みに耐えた。そうしなければ、意識を手放しそうだった。
「一族の骨、しもべの肉、宿敵の血──」
恍惚状態のムーディの声が微かに聞こえると、ナマエの身体は仰け反るような体勢になった。次の瞬間、ナマエの皮膚を、シャツを、内側から何かが突き破った。──骨だ。体の中で折られた肋骨が一本、ナマエの体から突き出していた。
「あああああああっ!!」
「卑しくも、おまえは我が君の母と同じ、ゴーント家の血を継いでいる──チチオヤが墓から骨を消し去ったりしなければ、おまえが骨を抜かれる必要はなかったんだがな」
ナマエは絶叫した。ナマエの体を貫くように抜かれた肋骨は、ムーディの手に収まった。ナマエからムーディまで、床には血痕が道筋を残していた。ナマエは喘ぎながら頭を巡らせた。誰かに、ハリーに知らせなければ──。ムーディだ。ハリーを試合に出したのは、スネイプでもカルカロフでもない、この男だ──!
肋骨が奪われた傷から、血が溢れ続けた。ナマエの体を暖かく湿らせると同時に、意識を霞ませた。
「な……んで──あんたが──」
「はははは!おまえは聡い子だ、とっくに察しがついているだろうが、え?」
ムーディは杖で骨を清め、ポケットにしまった。
「この第三の課題が終わる前に、闇の帝王は復活する」
コツッコツッというムーディの足音が小さくなると同時に、指先の感覚が無くなっていった。
「父上──」
ナマエはうわ言のように呟いて、意識を手放した。
手紙には、今後は一人で外に出歩くなとか、危険なことをするなとか、シリウスがハリーに言いそうなことが並べ立ててあった。
チチオヤはまだ家には帰っていないのだろうか。走り書いたような荒れた筆跡を見て、ナマエは思った。
月曜日の昼間、ナマエはハリーたちに呼び出された。
「──迷路?」
「ああ、第三の課題は、迷路の中心に三校対抗優勝杯が置かれて──最初にその優勝杯に触れたら優勝。今の点数が高い人からスタート出来るみたいだ」
呪文学の教室でハリーが言った。ハーマイオニーとロンは、図書館で見つけてきた呪いの本をどさりと机に置いた。
ナマエはサンドイッチを食べながら言った。
「そのために──今から、呪文をなるだけたくさん覚えるってこと?」
「そうよ。リストを作ったわ──『失神術』、『妨害の呪い』──あと、『盾の呪文』は必須ね」
ハーマイオニーが羊皮紙を広げて言った。ハリーはちらとナマエを伺うように見た。
「君、『盾の呪文』が得意だろう?もちろん、他のもさ」
ナマエはにっこり笑った。
それから、期末試験が始まるまで毎日四人で呪文の練習をした。第三の課題が近づくにつれ、ホグワーツ城にまたしても興奮と緊張がみなぎっていた。期末試験が終わるとすぐに第三の課題が行われるのだが、ナマエたちはほとんど毎日ハリーに付き合って呪いの練習をしていた。
「──少なくとも、『呪文学』と『闇の魔術に対する防衛術』の点数は心配いらないな」
ハリーが三人の成績を気にしていたので、ナマエは笑って言った。ハリーたち代表選手は、期末試験が免除されていた。
ナマエは授業が終わると、ハリーたちのいる空き教室に行くのが日課になっていた。いつものように教室に向かって中庭を横切って歩いていると、ドラコが木陰に立っていた。ナマエは手を振ったが、ドラコは口に手をかざして、その手に向かって何か話していた。ナマエは怪訝に思って近寄った。
「──ドラコ?」
「うわっ!」
ドラコは不自然に慌てふためき、ナマエに背を向けた。
「……誰と話してたんだ?」
「お前には関係ないだろう!──さっさとポッターのところへ戻ったらどうだ?親衛隊さん」
「なんであんたは、なんでもすぐにハリーに結びつけるんだ……」
ドラコは悪態をついた。ナマエはため息を飲み込んで踵を返した。
ナマエはその出来事をハリーたちに話すと、ハリーが言った。
「トランシーバーで誰かと話してたとか?」
「そんなものはホグワーツで使えないのよ、ハリー。ここではマグルの機械は使えない。電磁波がめちゃめちゃに狂うの」
ナマエが「トランシーバーとは何か」を聞く前に、ハーマイオニーが立ち上がってきびきび言った。
「ロン、そこに立って。ハリー、ナマエ、もう一度『盾の呪文』の練習をしなきゃ」
いよいよ第三の課題が明日に迫っていた。ハリーは第一、第二の課題よりもいくらか気が楽そうに見えた。ナマエが夕食のために廊下を歩いていると、突然頭にふわふわした何かがぶつかった。──ふくろうだ。
ナマエが頭を振って目を開くと、もうすでにふくろうは飛び去った後だった。ナマエは鼻をさすりながら床に落ちた手紙を拾い上げた。
自分に手紙を送る人物など、チチオヤくらいしか思い当たらなかった。
────────
対抗試合が終わるまで、
身を隠していろ
────────
短い走り書きに目を走らせると、手紙はすぐに塵になって消えてしまった。ナマエは思わず声を上げた。
「──父上っ?」
困惑しながら、よろりと歩き出した。
あんな短い文章で、何に気をつけろと言うのだろう?ナマエは訝しんだ。何から身を隠せと言われているのか、皆目見当がつかなかった。いや、見当はついていたが、理屈が合わなかった。
(──ヴォルデモートから隠れろっていうのか?)
ナマエは頭を振った。訳がわからなかった。
気をつけろと言うならハリーに言うべきだ。それに、ヴォルデモートから身を隠すなら、ホグワーツが一番安全だ。いったい、息子がどこに隠れることを期待して、そして、チチオヤ本人はどこで何をしているというのだろう。
何はともあれ、ナマエはダンブルドアのもとへ向かっていた。チチオヤが信頼しているのは、ダンブルドアとムーディだろうと考えたのだ。
校長室に続くガーゴイル像の前までいくと、人の気配がした。目を凝らすと、誰あろう、ハリーが立っていた。合言葉がわからないようで、苛立ったように次々に菓子の名前を当てずっぽうに叫んでいた。ナマエは早足で近づいた。
「レモンキャンデー──フィフィフィズビー!えーと、──蛙チョコレート!」
「──ゴキブリゴソゴソ豆板!」
ナマエが横から言うと、ガーゴイル像が飛び退いた。ハリーが弾かれたようにナマエを振り返った。
「えっ──ナマエ?どうして……いっ──!」
ハリーとナマエの目が合った途端、ハリーが頭を抑えて膝から崩れ落ちた。
「ハリー!?」
ナマエはハリーに駆け寄り、肩を掴んだ。ハリーは額を抑えて目をギュッと閉じて痛みに耐えているように見えた。
「大丈夫か?俺、ダンブルドアを呼んでくる──」
ナマエが立ち上がろうとすると、ハリーがナマエの腕を掴んだ。
「待って!僕、傷が痛んで、ヴォルデモートが見えたんだ……だからダンブルドアに会いにきた……でも、今は君が──」
ハリーが険しい顔でナマエの顔をじっと見つめた。
「君が一瞬、君のパパに見えた──」
ナマエは狼狽えながらハリーの見開かれた明るい緑の瞳を見つめ返した。すると、螺旋階段の上からコツッコツッという音と唸り声が聞こえた。
「ポッター、ミョウジ」
ムーディだ。校長室から降りてきたようだ。ムーディは魔法の目をぐるぐる回しながら、もう片方の目で二人を見た。
「──校長に用か、ポッター?」
「あ、はい」
「ダンブルドアは上にいる。──ミョウジ、おまえはチチオヤのことだろう。わしについて来い」
ナマエは驚いたが、頷いた。ハリーと目線を交わすと、ハリーも頷いて階段を登って行った。ムーディはハリーの姿が見えなくなると、ナマエに顎をしゃくって見せて、歩き出した。ナマエは後に続いた。
「先生、父が今何をしているのかご存知なんですか」
「ああ、知っている。だから、おまえの助けを借りたい」
ムーディは足を引きずって、「闇の魔術に対する防衛術」の教室の奥にある、ムーディの部屋まで向かった。
ナマエが部屋に入ると、ムーディは扉を閉めた。部屋に置かれた敵鏡にはぼんやりとした影がちらついており、トランクはときおりガタガタと音を立てて揺れた。
「そこに座れ」
ムーディに言われた通り、ナマエは椅子に座った。
「あの、父は今どこにいるんでしょう?何をしているんですか?」
「ああ──」
ムーディはナマエの前に紅茶の入ったマグカップを置いて、深い息をついた。
「……おまえの
ムーディは腰掛けず、杖に縋って立ったまま話した。
「チチオヤは、闇の帝王は復活のための材料を集めていると考えた。そのうちのひとつが、『父親の骨』だった」
「父親──例のあの人の?」
「そうだ。チチオヤは復活を阻止するため、まず闇の帝王が骨を手に入れる前に、墓を荒らし、骨を消し去った──それだけでない。父親の骨がなければ、闇の帝王は他の血縁者の骨を使うだろうとチチオヤは考えた」
「他の──血縁者」
ナマエはカップを両手で握りしめてムーディの言葉を繰り返した。魔法の目はもう動かずにナマエを見つめていた。
「チチオヤはリドルの家系の墓を暴き、骨を消し去り、今度はゴーントの墓を暴いた。おまえの祖母も、母親も、いわば血縁者だ。それらの眠りも妨げ、骨を消し去って回っていた。──あっぱれな執念だ」
ナマエはショックを受けたが、今までのチチオヤの行動に合点がいった。ムーディはナマエの様子を見て不敵にくくっと笑って、ゆらりと杖を振った。
「ああ──そこで、おまえに頼もう。あの男の尻拭いをしてもらわねばならん。息子であるおまえにな」
ナマエはムーディの言葉の意味がわからなかった。
「何を──」
ポキン!
突然、小気味の良い音が響いた。なんの音かと考える前に、鈍い痛みが鳩尾の下あたりから主張し始めた。マグカップを握る手がゆるみ、紅茶が溢れ、床に転がり落ちた。そして次の瞬間、体の中から刃を突き立てられているかのような激しい痛みが走った。
「痛っ!?──ああっ!」
「おまえの
ナマエは椅子ごと床にくずおれた。呻き声だけが口から漏れ出した。なんとかムーディの方に顔を向けると、ムーディはナマエに杖を向け、勝ち誇ったような歪んだ笑みを浮かべていた。
「ぐっ──」
「おまえもそうだ──よく働いてくれた。わしが手出しせずとも、ポッターの課題を助けてくれた──」
ムーディが杖を捻ると、一際痛みが激しくなった。ナマエの服には赤いしみが広がっていた。出血している。体の内側から肉が引き裂かれているような気がした。
「やることなすこと、全てが裏目に出る男だ──どこかの糞親父に似てな……。チチオヤは闇の帝王のお考えに誰よりも早く気がついた──そのせいでおまえは今、こんな目に遭っている」
ムーディはせせら笑った。ナマエは痛みで声をあげることができず、奥歯を割れんばかりに食いしばり、体を貫く痛みに耐えた。そうしなければ、意識を手放しそうだった。
「一族の骨、しもべの肉、宿敵の血──」
恍惚状態のムーディの声が微かに聞こえると、ナマエの身体は仰け反るような体勢になった。次の瞬間、ナマエの皮膚を、シャツを、内側から何かが突き破った。──骨だ。体の中で折られた肋骨が一本、ナマエの体から突き出していた。
「あああああああっ!!」
「卑しくも、おまえは我が君の母と同じ、ゴーント家の血を継いでいる──チチオヤが墓から骨を消し去ったりしなければ、おまえが骨を抜かれる必要はなかったんだがな」
ナマエは絶叫した。ナマエの体を貫くように抜かれた肋骨は、ムーディの手に収まった。ナマエからムーディまで、床には血痕が道筋を残していた。ナマエは喘ぎながら頭を巡らせた。誰かに、ハリーに知らせなければ──。ムーディだ。ハリーを試合に出したのは、スネイプでもカルカロフでもない、この男だ──!
肋骨が奪われた傷から、血が溢れ続けた。ナマエの体を暖かく湿らせると同時に、意識を霞ませた。
「な……んで──あんたが──」
「はははは!おまえは聡い子だ、とっくに察しがついているだろうが、え?」
ムーディは杖で骨を清め、ポケットにしまった。
「この第三の課題が終わる前に、闇の帝王は復活する」
コツッコツッというムーディの足音が小さくなると同時に、指先の感覚が無くなっていった。
「父上──」
ナマエはうわ言のように呟いて、意識を手放した。