炎のゴブレット
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「汚い女、ハーマイオニー・グレンジャー!狡猾なマグルめ!ハリー・ポッターと関わるな!でないと、お前を呪ってやりますよ!」
吠えメールの悪意に満ちた叫び声が大広間に響き渡った。「週刊魔女」の読者からのハーマイオニーへの嫌がらせメールは一週間近く続いていた。ナマエの手元にも、全く知らない魔女から「お父さんが悲しむから緋色のおべべとは縁を切りなさい」といったよくわからない手紙が数通届いた。
いまや生徒はみな、ハーマイオニーとナマエ、ハリー、クラムの噂を知っていた。ナマエはがたんと席を立って、ハーマイオニーの元へ向かおうとしたが、マイケルが止めた。
「君は構わない方がいいよ」
「どうして」
ナマエはマイケルを見もせずに聞いた。
「火に油だ、わからない?グレンジャーがまた男に魔法をかけてるって言われるだけだ」
マイケルの言葉は理性的だった。しかし、ナマエは素直に聞き入れられなかった。
ナマエはハーマイオニーがハリー、ロンと共に大広間を出ていくのを追った。
「そのうち収まるよ」
ハリーがハーマイオニーに言った。ナマエはハリーが慣れたようにこともなく言うので面食らった。
「僕たちが無視してさえいればね……前にあの女が僕のことを書いた記事だって、みんな飽きてしまったし──」
「学校に出入り禁止になってるのに、どうして個人的な会話を立ち聞きできるのか、私、それが知りたいわ!」
ハーマイオニーは腹を立てた様子で、大理石の階段を振り返りもせずどんどん上っていった。図書室に行くに違いないと思った。ナマエはハーマイオニーを追うか躊躇ってから、ハッと思い出してハリーに言った。
「ハリー、あんたの『忍びの地図』にスキーターはいないのか?」
「アー……それは今、マッド-アイが持ってる」
「はあ?!なんで?」
ナマエが驚いてハリーを見ると、ハリーがばつの悪そうな顔でもごもご答えた。
「いろいろあって、マッド-アイが借りたいって言ったんだ」
ナマエが言い返す前に、ロンがナマエに手紙を見せて遮った。
「マッド-アイは用心するのが趣味だもの──ねえ、パーシーから返事が来たけど、新聞に載ってるようなことしか書いてなかったよ」
ロンの言うとおり、パーシーからの手紙は短くイライラした調子で、「クラウチ氏は手紙で仕事の連絡をよこす、取るべき休暇を取っているだけだ」と言ったようなことが書いてあった。ナマエがロンに手紙を返すと、ロンが言った。
「君のパパから連絡はないの?」
「ない」
ナマエはため息を飲み込んだ。
「──でも、クラウチと違って、ダンブルドアとやりとりしてるから──親父に何かあったらダンブルドアが気づくと思う」
三人が話していると、階段の下からマクゴナガル先生がハリーを呼び止めた。
「ポッター、次の土曜日の九時にクィディッチ競技場に行きなさい。そこで、バグマンさんが第三の課題を代表選手に説明します」
「あ……わかりました」
ハリーが頷いた。マクゴナガルが行ってしまうと、ナマエはハリーの背中を叩いた。
「いよいよ優勝だな、ハリー」
「生きて帰ってこられればなんだっていいよ」
ハリーは不安そうに呟いた。
夏が近づくにつれ、勉強の量は増える一方だった。レイブンクロー生は夜遅くまで談話室のあちこちで本を開いたり羽根ペンをカリカリ動かしていた。ナマエも、談話室の丸テーブルで「魔法生物飼育学」でハグリッドが連れてきたニフラーという魔法生物についてまとめていると、リサ・ターピンが声をかけた。
「ナマエ。あの、あなたにふくろうが来たわよ」
リサはそう言ってナマエに一巻きの新聞を寄越した。
「え?あー、ありがとう」
ナマエが顔をあげて礼を言うと、リサは口をもごもごさせてパドマたちの元へ小走りで戻って行った。テリーがそれをからかいたそうに近づいてきたので、ナマエは受け取った新聞でテリーの頭をはたいた。
「イテッ──なにそれ?」
ナマエは新聞を広げて、首を傾げた。
「『日刊預言者新聞』じゃあないな。なんだこれ?」
「もしかして──マグルの新聞?ほら、写真が全然動いてない」
テリーが奇妙な表情で静止している中年の写真を指差した。たしかに、マグルの格好をしている。
ナマエがざっと記事に目を通すと、一つの記事にインクで丸が付けられていて、そのすぐそばに「ダンブルドアに知らせよ」と見覚えのある、几帳面な筆跡で書かれていた。──リトル・ハングルトンでフランク・ブライスという男が行方不明……八月より後に姿を見た者はない──といった内容の小さな記事だった。ナマエは弾かれたように立ち上がった。
「ナマエ?」
テリーが驚いて言った。
「ちょっと、校長室に行ってくる」
ナマエはそう言い残して談話室を飛び出した。
──これは、きっとチチオヤが送ってきたものだ。リトル・ハングルトンという地名にも聞き覚えがあった。憂いの篩でハハオヤがチチオヤに話していた、ハハオヤの母が昔働いていた場所だ。
窓の外は真っ暗で、月明かりが頼りなく雲の間から校庭を照らしていた。もうすっかり夜更けだった。ナマエは塔の階段を駆け降りて、廊下を早足で歩いた。
この新聞で父親が何を伝えようとしているのか、ナマエにはわからなかったが、とにかく、ダンブルドアに伝えられれば何か答えを得られるかもしれないと思った。
ナマエが校長室の前まで来ると、なにやら騒がしい怒鳴り声が聞こえた。
「──寝ぼけたことを!校長は忙しいのだ、ポッター!」
スネイプの声だった。そして、スネイプの言葉通り、目の前にはハリーがいて、果敢に叫び返していた。
「クラウチさんです!魔法省のクラウチさん!」
ナマエが何事かと近づいていくと、ハリーがナマエに気がついて、今度はナマエに向かって叫んだ。
「ナマエっ──!クラウチが!森のそばにいるんだ!馬車の近く──ダンブルドアに会いたいって!今、クラムが見てる!」
ナマエは、ハリーの言葉を最後まで聞く前に走り出した。背後でスネイプの怒鳴り声が聞こえた。ナマエはハリーの意図を察した。スネイプに足止めを食らっているハリーの代わりに、ナマエがクラウチを連れて戻るのだ。ハリーの切羽詰まった様子がナマエの足を急きたて、大理石の階段を一段飛ばして走った。校庭に出た頃には息が切れて、ボーバトンの馬車がぼんやり暗闇に浮かび上がって見えた。ナマエは森に目を凝らしながら叫んだ。
「──クラム!いるのか?俺、ナマエだ!ハリーに聞いたんだ、クラウチさんのこと!」
すると、森の太い木の根元から返事が聞こえた。
「──こっちだ!」
ナマエは、聞き覚えのあるクラムの声に少し安堵し、声のする方に杖灯りを向けた。
「ああ、よかった。あの男ゔぁ、狂ってる。気味が悪い」
クラムがげんなりした様子で言って、視線を森の奥へ向けた。
しかし、何故か突然ぶわりと背筋に鳥肌が立った。瞬間、杖腕を上げて叫んだ。
「──っプロテゴ!」
激しい爆発音が三度鳴り響いた。一度目と二度目は、ナマエの作った盾の呪文に弾かれるようなバーンという大きな音だった。最後の音が鳴る前にナマエとクラムのそばで緑色の閃光が迸り、雷鳴のような音が続いて聞こえた。クラムは驚いて杖をナマエに向けたが、すぐに音の方に構えた。
「今、光ったところ──あっちに、クラウチという人が、いた!」
ナマエとクラムは一瞬顔を見合わせてから、すぐに音の元へ駆け寄った。ナマエが杖灯りで足元を照らすと、木々の根の上に、男が横たわっていた。顔が傷だらけで、ローブのいたるところが破れ、血がこびりつき、髭も伸び放題になっていたが──まぎれもなく、クラウチだった。
「死んでいるのか、まさか──」
クラムが怯えたように呟いた瞬間、ナマエの頭がぐらりと揺れて視界がチカチカと点滅した。意識を手放す直前に、クラムも同じように膝をついて倒れるのを視界の端にとらえた。
ナマエは、冷水を浴びせられたように目を開けた。いきなり、ダンブルドアの三角メガネの奥の水色の瞳と目が合った。体を起こそうとすると、頭がガンガンと内側から叩きつけられるように痛んだ。ダンブルドアは優しく肩を抑えてナマエを寝かせた。辺りを見ると、クラムが同じように地面に横たわり、ダンブルドアの後ろにはハリーがいた。ハリーを見た途端、ナマエはここで何をしていたのか思い出して跳ね起きた。
「──クラウチは!?」
「ナマエ、バーティ・クラウチを見たのかね?」
ダンブルドアが優しく聞いた。
「見──見た、と思います」
ナマエは頭がうまく回らなかった。何が起きていたか思い出そうとすると、ズキズキ頭が痛んでそれを妨げた。
「クラムと、クラウチさんを見つけて──そしたら、ええと──」
「──あの狂った男がゔぉくたちを襲った!クラウチ氏とか言う名前の!」
今度はクラムも起き上がって訴えた。そうだったろうか。確かに、クラムを見つけた後、クラウチを探して、それから失神させられたような気がする──。
雷のような足音が近づいてきた。ハグリッドがファングを従え、大きな石弓を背負って走ってきた。ハグリッドはナマエたちの様子を見て、黒い目をぱちくりさせた。
「ダンブルドア先生様!──いってぇ、これは──?」
「ハグリッド、カルカロフ校長とムーディ先生を呼んできてはくれぬか。ダームストラングの生徒と、我が校の生徒が襲われたのじゃ」
「──それには及ばん。カルカロフだけでよい」
ハグリッドの後ろから、ゼイゼイと唸り声がした。ムーディがステッキに縋り、杖灯りを灯してやってきた。ハグリッドは頷いて木立に消えて行った。
「何事だ?スネイプがクラウチがどうのと言っておったが──」
「彼がどこに行ったのかわからんのじゃが──何としても、探し出すことが大事じゃ」
「承知した」
ムーディは杖を構え直し、足を引きずりながら禁じられた森の奥へと去った。ナマエは、ダンブルドアの指示でキビキビと動く先生たちをぼんやりと眺めながら、はっとポケットに手を突っ込んだ。
「ダンブルドア先生、あの」
ナマエはダンブルドアにおずおず話しかけた。
「──父から、これを預かっています。今晩届きました」
ナマエはチチオヤから届いたマグルの新聞をダンブルドアに手渡した。ダンブルドアは目を細めてそれを確認して、言った。
「──うむ、確かに受け取った。ありがとう」
ナマエはマグルの新聞の意味するところを聞きたかったが、口を開く前にダンブルドアが立ち上がった。
「ハリー、ナマエ。先に城に戻りなさい。ナマエ、必要であれば医務室に行くように。しかし、それ以外の寄り道は許されぬ。真っ直ぐ寮に戻るのじゃ。よいかな?わしはカルカロフと話をするのでの」
ハリーとナマエは頷いた。ファングが二人を城の玄関まで見送った。ナマエはズキズキ痛む頭をさすりながら歩いた。
「大丈夫かい?」
ハリーが尋ねた。
「ああ──それより、なんでクラムとクラウチと一緒にいたんだ?」
「エー……最後の課題の内容を聞いたあとで、クラムに話があるって言われて──ハーマイオニーと僕がどうこうなってるんじゃないかって聞かれてたんだ」
「……はは!」
ナマエは急に気が抜けたような笑い声を上げた。
「クラムは俺を気にするべきなのに、馬鹿なことしたな」
ハリーは気まずそうに笑ってから、話を続けた。
「それで、クラムと話してる時に、森でクラウチを見つけたんだ。……どう見ても普通じゃなかったよ、自分がどこにいるのかもわかってなさそうだった。でも──ダンブルドアに警告しないとって言ってた。酷いことをしてきたとも……ヴォルデモートのことも……」
ナマエはハリーの話を聞くとますます頭が痛くなるような気がした。自分もクラウチを見たはずなのに、どうしてもその様子を詳しく思い出せなかった。
ハリーは教員塔へ、ナマエは西塔へとそれぞれの寮に戻った。
ナマエはベッドに潜り込んでしばらくたってからようやく頭痛が治まり、ハリーに第三の課題の内容を聞き忘れていたことを思い出した。
(ハリーには明日聞こう。それから──チチオヤに今日のことを手紙で知らせないと──)
しかし、やはりクラウチに関する記憶はおぼろげにしか思い出せなかった。
吠えメールの悪意に満ちた叫び声が大広間に響き渡った。「週刊魔女」の読者からのハーマイオニーへの嫌がらせメールは一週間近く続いていた。ナマエの手元にも、全く知らない魔女から「お父さんが悲しむから緋色のおべべとは縁を切りなさい」といったよくわからない手紙が数通届いた。
いまや生徒はみな、ハーマイオニーとナマエ、ハリー、クラムの噂を知っていた。ナマエはがたんと席を立って、ハーマイオニーの元へ向かおうとしたが、マイケルが止めた。
「君は構わない方がいいよ」
「どうして」
ナマエはマイケルを見もせずに聞いた。
「火に油だ、わからない?グレンジャーがまた男に魔法をかけてるって言われるだけだ」
マイケルの言葉は理性的だった。しかし、ナマエは素直に聞き入れられなかった。
ナマエはハーマイオニーがハリー、ロンと共に大広間を出ていくのを追った。
「そのうち収まるよ」
ハリーがハーマイオニーに言った。ナマエはハリーが慣れたようにこともなく言うので面食らった。
「僕たちが無視してさえいればね……前にあの女が僕のことを書いた記事だって、みんな飽きてしまったし──」
「学校に出入り禁止になってるのに、どうして個人的な会話を立ち聞きできるのか、私、それが知りたいわ!」
ハーマイオニーは腹を立てた様子で、大理石の階段を振り返りもせずどんどん上っていった。図書室に行くに違いないと思った。ナマエはハーマイオニーを追うか躊躇ってから、ハッと思い出してハリーに言った。
「ハリー、あんたの『忍びの地図』にスキーターはいないのか?」
「アー……それは今、マッド-アイが持ってる」
「はあ?!なんで?」
ナマエが驚いてハリーを見ると、ハリーがばつの悪そうな顔でもごもご答えた。
「いろいろあって、マッド-アイが借りたいって言ったんだ」
ナマエが言い返す前に、ロンがナマエに手紙を見せて遮った。
「マッド-アイは用心するのが趣味だもの──ねえ、パーシーから返事が来たけど、新聞に載ってるようなことしか書いてなかったよ」
ロンの言うとおり、パーシーからの手紙は短くイライラした調子で、「クラウチ氏は手紙で仕事の連絡をよこす、取るべき休暇を取っているだけだ」と言ったようなことが書いてあった。ナマエがロンに手紙を返すと、ロンが言った。
「君のパパから連絡はないの?」
「ない」
ナマエはため息を飲み込んだ。
「──でも、クラウチと違って、ダンブルドアとやりとりしてるから──親父に何かあったらダンブルドアが気づくと思う」
三人が話していると、階段の下からマクゴナガル先生がハリーを呼び止めた。
「ポッター、次の土曜日の九時にクィディッチ競技場に行きなさい。そこで、バグマンさんが第三の課題を代表選手に説明します」
「あ……わかりました」
ハリーが頷いた。マクゴナガルが行ってしまうと、ナマエはハリーの背中を叩いた。
「いよいよ優勝だな、ハリー」
「生きて帰ってこられればなんだっていいよ」
ハリーは不安そうに呟いた。
夏が近づくにつれ、勉強の量は増える一方だった。レイブンクロー生は夜遅くまで談話室のあちこちで本を開いたり羽根ペンをカリカリ動かしていた。ナマエも、談話室の丸テーブルで「魔法生物飼育学」でハグリッドが連れてきたニフラーという魔法生物についてまとめていると、リサ・ターピンが声をかけた。
「ナマエ。あの、あなたにふくろうが来たわよ」
リサはそう言ってナマエに一巻きの新聞を寄越した。
「え?あー、ありがとう」
ナマエが顔をあげて礼を言うと、リサは口をもごもごさせてパドマたちの元へ小走りで戻って行った。テリーがそれをからかいたそうに近づいてきたので、ナマエは受け取った新聞でテリーの頭をはたいた。
「イテッ──なにそれ?」
ナマエは新聞を広げて、首を傾げた。
「『日刊預言者新聞』じゃあないな。なんだこれ?」
「もしかして──マグルの新聞?ほら、写真が全然動いてない」
テリーが奇妙な表情で静止している中年の写真を指差した。たしかに、マグルの格好をしている。
ナマエがざっと記事に目を通すと、一つの記事にインクで丸が付けられていて、そのすぐそばに「ダンブルドアに知らせよ」と見覚えのある、几帳面な筆跡で書かれていた。──リトル・ハングルトンでフランク・ブライスという男が行方不明……八月より後に姿を見た者はない──といった内容の小さな記事だった。ナマエは弾かれたように立ち上がった。
「ナマエ?」
テリーが驚いて言った。
「ちょっと、校長室に行ってくる」
ナマエはそう言い残して談話室を飛び出した。
──これは、きっとチチオヤが送ってきたものだ。リトル・ハングルトンという地名にも聞き覚えがあった。憂いの篩でハハオヤがチチオヤに話していた、ハハオヤの母が昔働いていた場所だ。
窓の外は真っ暗で、月明かりが頼りなく雲の間から校庭を照らしていた。もうすっかり夜更けだった。ナマエは塔の階段を駆け降りて、廊下を早足で歩いた。
この新聞で父親が何を伝えようとしているのか、ナマエにはわからなかったが、とにかく、ダンブルドアに伝えられれば何か答えを得られるかもしれないと思った。
ナマエが校長室の前まで来ると、なにやら騒がしい怒鳴り声が聞こえた。
「──寝ぼけたことを!校長は忙しいのだ、ポッター!」
スネイプの声だった。そして、スネイプの言葉通り、目の前にはハリーがいて、果敢に叫び返していた。
「クラウチさんです!魔法省のクラウチさん!」
ナマエが何事かと近づいていくと、ハリーがナマエに気がついて、今度はナマエに向かって叫んだ。
「ナマエっ──!クラウチが!森のそばにいるんだ!馬車の近く──ダンブルドアに会いたいって!今、クラムが見てる!」
ナマエは、ハリーの言葉を最後まで聞く前に走り出した。背後でスネイプの怒鳴り声が聞こえた。ナマエはハリーの意図を察した。スネイプに足止めを食らっているハリーの代わりに、ナマエがクラウチを連れて戻るのだ。ハリーの切羽詰まった様子がナマエの足を急きたて、大理石の階段を一段飛ばして走った。校庭に出た頃には息が切れて、ボーバトンの馬車がぼんやり暗闇に浮かび上がって見えた。ナマエは森に目を凝らしながら叫んだ。
「──クラム!いるのか?俺、ナマエだ!ハリーに聞いたんだ、クラウチさんのこと!」
すると、森の太い木の根元から返事が聞こえた。
「──こっちだ!」
ナマエは、聞き覚えのあるクラムの声に少し安堵し、声のする方に杖灯りを向けた。
「ああ、よかった。あの男ゔぁ、狂ってる。気味が悪い」
クラムがげんなりした様子で言って、視線を森の奥へ向けた。
しかし、何故か突然ぶわりと背筋に鳥肌が立った。瞬間、杖腕を上げて叫んだ。
「──っプロテゴ!」
激しい爆発音が三度鳴り響いた。一度目と二度目は、ナマエの作った盾の呪文に弾かれるようなバーンという大きな音だった。最後の音が鳴る前にナマエとクラムのそばで緑色の閃光が迸り、雷鳴のような音が続いて聞こえた。クラムは驚いて杖をナマエに向けたが、すぐに音の方に構えた。
「今、光ったところ──あっちに、クラウチという人が、いた!」
ナマエとクラムは一瞬顔を見合わせてから、すぐに音の元へ駆け寄った。ナマエが杖灯りで足元を照らすと、木々の根の上に、男が横たわっていた。顔が傷だらけで、ローブのいたるところが破れ、血がこびりつき、髭も伸び放題になっていたが──まぎれもなく、クラウチだった。
「死んでいるのか、まさか──」
クラムが怯えたように呟いた瞬間、ナマエの頭がぐらりと揺れて視界がチカチカと点滅した。意識を手放す直前に、クラムも同じように膝をついて倒れるのを視界の端にとらえた。
ナマエは、冷水を浴びせられたように目を開けた。いきなり、ダンブルドアの三角メガネの奥の水色の瞳と目が合った。体を起こそうとすると、頭がガンガンと内側から叩きつけられるように痛んだ。ダンブルドアは優しく肩を抑えてナマエを寝かせた。辺りを見ると、クラムが同じように地面に横たわり、ダンブルドアの後ろにはハリーがいた。ハリーを見た途端、ナマエはここで何をしていたのか思い出して跳ね起きた。
「──クラウチは!?」
「ナマエ、バーティ・クラウチを見たのかね?」
ダンブルドアが優しく聞いた。
「見──見た、と思います」
ナマエは頭がうまく回らなかった。何が起きていたか思い出そうとすると、ズキズキ頭が痛んでそれを妨げた。
「クラムと、クラウチさんを見つけて──そしたら、ええと──」
「──あの狂った男がゔぉくたちを襲った!クラウチ氏とか言う名前の!」
今度はクラムも起き上がって訴えた。そうだったろうか。確かに、クラムを見つけた後、クラウチを探して、それから失神させられたような気がする──。
雷のような足音が近づいてきた。ハグリッドがファングを従え、大きな石弓を背負って走ってきた。ハグリッドはナマエたちの様子を見て、黒い目をぱちくりさせた。
「ダンブルドア先生様!──いってぇ、これは──?」
「ハグリッド、カルカロフ校長とムーディ先生を呼んできてはくれぬか。ダームストラングの生徒と、我が校の生徒が襲われたのじゃ」
「──それには及ばん。カルカロフだけでよい」
ハグリッドの後ろから、ゼイゼイと唸り声がした。ムーディがステッキに縋り、杖灯りを灯してやってきた。ハグリッドは頷いて木立に消えて行った。
「何事だ?スネイプがクラウチがどうのと言っておったが──」
「彼がどこに行ったのかわからんのじゃが──何としても、探し出すことが大事じゃ」
「承知した」
ムーディは杖を構え直し、足を引きずりながら禁じられた森の奥へと去った。ナマエは、ダンブルドアの指示でキビキビと動く先生たちをぼんやりと眺めながら、はっとポケットに手を突っ込んだ。
「ダンブルドア先生、あの」
ナマエはダンブルドアにおずおず話しかけた。
「──父から、これを預かっています。今晩届きました」
ナマエはチチオヤから届いたマグルの新聞をダンブルドアに手渡した。ダンブルドアは目を細めてそれを確認して、言った。
「──うむ、確かに受け取った。ありがとう」
ナマエはマグルの新聞の意味するところを聞きたかったが、口を開く前にダンブルドアが立ち上がった。
「ハリー、ナマエ。先に城に戻りなさい。ナマエ、必要であれば医務室に行くように。しかし、それ以外の寄り道は許されぬ。真っ直ぐ寮に戻るのじゃ。よいかな?わしはカルカロフと話をするのでの」
ハリーとナマエは頷いた。ファングが二人を城の玄関まで見送った。ナマエはズキズキ痛む頭をさすりながら歩いた。
「大丈夫かい?」
ハリーが尋ねた。
「ああ──それより、なんでクラムとクラウチと一緒にいたんだ?」
「エー……最後の課題の内容を聞いたあとで、クラムに話があるって言われて──ハーマイオニーと僕がどうこうなってるんじゃないかって聞かれてたんだ」
「……はは!」
ナマエは急に気が抜けたような笑い声を上げた。
「クラムは俺を気にするべきなのに、馬鹿なことしたな」
ハリーは気まずそうに笑ってから、話を続けた。
「それで、クラムと話してる時に、森でクラウチを見つけたんだ。……どう見ても普通じゃなかったよ、自分がどこにいるのかもわかってなさそうだった。でも──ダンブルドアに警告しないとって言ってた。酷いことをしてきたとも……ヴォルデモートのことも……」
ナマエはハリーの話を聞くとますます頭が痛くなるような気がした。自分もクラウチを見たはずなのに、どうしてもその様子を詳しく思い出せなかった。
ハリーは教員塔へ、ナマエは西塔へとそれぞれの寮に戻った。
ナマエはベッドに潜り込んでしばらくたってからようやく頭痛が治まり、ハリーに第三の課題の内容を聞き忘れていたことを思い出した。
(ハリーには明日聞こう。それから──チチオヤに今日のことを手紙で知らせないと──)
しかし、やはりクラウチに関する記憶はおぼろげにしか思い出せなかった。