炎のゴブレット
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第二の課題の余波で、みんなが湖の底で何があったのかを聞きたがった。チョウは楽しげに話していたが、ナマエは、フラーがいちばん失いたくないものがナマエだったことをみんながからかうので、気が立っていた。
「ずいぶん女の趣味が良くなったじゃないか?ミョウジ」
薬草学の授業で、ドラコがにやついて言った。スプラウト先生は嬉々としてハリーの鰓昆布について説明しており、スリザリン生は悪態をついていた。
「ゴシップが好きだな、ドラコ。また インタビューを受ける機会があったら、俺の熱愛報道も話してくれよ」
ナマエは不機嫌に答えた。すると、パンジー・パーキンソンがクスクス笑い出した。待っていましたと言わんばかりにパンジーが持ち上げた雑誌が、ナマエの目に入った──「週刊魔女」だ。表紙の動く写真は巻き毛の魔女で、ニッコリ歯を見せて笑い、杖で大きなスポンジケーキを指している。
「もちろん、そうしてあげたわよ」
パンジーが雑誌を開いてよこした。ナマエは怪訝な顔で受け取った。マイケルとテリーも横から覗き込んだ。ハリーのカラー写真の下に、短い記事が載り、「ハリー・ポッターの密やかな胸の痛み」と題がついている。
「十四歳のハリー・ポッターは、ホグワーツでマグル出身のハーマイオニー・グレンジャーというガールフレンドを得た──」との書き出しだ。
「やっぱり、グレンジャーとハリーは付き合ってたんだ?」
横からテリーが口を挟んだ。
「ない、でっち上げだ」
ナマエは雑誌の続きに目を走らせた。……ハリーだけでなく、ワールドカップ選手のビクトール・クラムまでもが、この擦れっ枯らしのミス・グレンジャーに熱を上げ、すでに夏休みにブルガリアに招待している……。
「ブルガリアに?」
ナマエが驚いて声を上げたが、マイケルが記事の続きを指差した。
──聖マンゴ魔法疾患傷害病院の次期院長と目されているミョウジ氏の一人息子、ナマエ・ミョウジさえも、美人とは言えないミス・グレンジャーに首ったけである……おそらく『愛の妙薬』を三人の少年らに使っているのだろうと、同学年のパンジー・パーキンソンは証言した……。
ナマエが顔を上げると、スリザリンの生徒たちがニヤニヤと様子を伺っていた。ナマエはパンジーに記事を投げて返した。
「ドラコ、あんたのほうこそ女の趣味を見直した方がいい」
ナマエはパンジーを睨みつけて言った。ドラコが何か言おうとする前に、アンソニーがナマエのローブを引っ張って前を向かせた。
「もう、やめなよ。そろそろ減点されるよ」
ナマエが前を向くと、咎めるような目をしたスプラウト先生と目が合った。ナマエは苦笑いを返して目を逸らした。
授業が終わった途端、テリーが神妙な面持ちでナマエに問いかけた。
「君、本当に『愛の妙薬』を盛られてたりしないよね?」
「ばか!そんなわけないだろ……あの雑誌、有名なのか?初めて読んだ」
「うちのママは読んでる。女性誌だろうね」
マイケルが言った。ナマエは、チチオヤがこの雑誌を読んでいないことを祈った。
古代ルーン文字学のクラスで、ナマエはいつもよりそわそわしながらハーマイオニーの隣の席に座った。ふと見ると、ハーマイオニーの両手にはなぜか包帯が痛々しげに巻かれていた。
「は、ハーマイオニー?手、どうしたんだ」
ハーマイオニーは咄嗟にサッと手を机の下に隠したが、ため息をついて手をぶらりと振った。
「……『週間魔女』を読んだ?読者から届いたのよ、私を攻撃するような手紙がたくさん」
「なんだそれ──」
ナマエが絶句していると、ハーマイオニーは苛立たしげに言った。
「絶対に──あの卑劣な女、スキーターを捕まえてやるわ」
ナマエはハーマイオニーの決意に気圧され、黙って頷いた。授業を終えて教室を出るとき、ナマエはおずおずハーマイオニーに聞いた。
「なあ、ハーマイオニー……夏休み、ブルガリアに行くの?」
ハーマイオニーは驚いたように目を丸くして、それから少し顔を赤らめた。
「えっ?ええと……返事はしてないわ。誘われた時、ハリーが湖から上がってきたところだったもの。それどころじゃなくって」
「第二の課題のとき?スキーターはどうやって知ったんだ?」
「そう!それが全くわからないのよ……ああ腹が立つ!」
今度はナマエが目を丸くすると、ハーマイオニーは憤った。
「……なあ、ハーマイオニー」
「なあに?」
ナマエが話しかけると、幾分か苛立ちを抑えてハーマイオニーが振り返った。
「──夏休み、俺とロンドンに行くって話は、覚えててくれてる?」
ナマエは、意地悪いことを聞いている自覚と、もう半分、よくわからない感情で曖昧に笑いながら問いかけた。
「えっ!──そうだったわね、ええ」
ハーマイオニーは一瞬虚をつかれたような顔をしたが、すぐに頷いた。ナマエの意地悪ではない方の気持ちでなぜか胃がきゅっと締め付けられた。すると、パンジー・パーキンソンの声がした。
「『例の薬』はよく効いているようね、グレンジャー!」
スリザリンの生徒たちがクスクス笑いながら通り過ぎた。ハーマイオニーはパンジーを無視した。
「そうだわ、ナマエ。今度のホグズミードに一緒に来て欲しいの」
「えっ?」
思いがけない言葉に、ナマエは声が上擦った。
「ハリーがね──シリウスから手紙があって……多分、会いに来るんだわ。あなたも来て欲しいって書いてあったの」
ハーマイオニーが声をひそめて言った。シリウスの話に驚くよりも、当然ハリーたちと一緒で、二人で行くわけではないということがナマエの気分を落ち込ませた。
週末、ナマエはハリーたちと城を出た。四人はハイストリート通りを歩き、ダービシュ・アンド・バングズ店を通り過ぎ、村のはずれに向かっていた。三人は山の麓に向かって歩いていた。ホグズミードはその山懐にある。そこで角を曲がると、道のはずれに柵があった。いちばん高い柵に二本の前脚を載せ、待っている大きな毛むくじゃらの黒い犬がいた。
「やあ、シリウスおじさん」
そばまで行って、ハリーが挨拶した。
黒い犬は尻尾を一度だけ振り、向きを変えてトコトコ走り出した。ハリー、ロン、ハーマイオニーは、柵を乗り越えてあとを追った。およそ三十分、三人はシリウスの振る尻尾に従い、太陽に照らされて汗をかきながら、曲りくねった険しい石ころだらけの道を登っていった。そして、最後に、シリウスがするりと視界から消えた。三人がその姿の消えた場所まで行くと、狭い岩の裂け目があった。入ると、中は薄暗い涼しい洞窟だった。
シリウスは人間の姿に戻っていた。以前よりも生気のある顔で、グレーのローブも清潔で新しいものに変わっていた。肘まで伸びっぱなしだった髪は、肩のあたりまで短くさっぱりとして、本来のハンサムな顔立ちがはっきりとわかった。ナマエは言った。
「シリウス、今も俺の家にいるの?」
「ああ、ありがたいことに、快適そのものさ。──もちろん誓って、君の部屋には入っていない」
シリウスはいたずらっぽくニヤリとした。
「べつに、入られて困るものなんて置いてない」
ナマエが口を尖らせると、シリウスは笑った。しかし、ハリーはシリウスをじっと見つめ続けていた。そして、心配そうに、真面目な顔で言った。
「シリウス、捕まったらどうするの?姿を見られたら?」
「わたしが『動物もどき』だと知っているのは、ここでは君たちとダンブルドアだけだ」
シリウスは肩をすくめたが、ナマエはここぞと追撃した。
「でも、シリウス。最近はリータ・スキーターみたいな記者がうろついてるし、あんたたちは自分で『忍びの地図』を作ったのを忘れちゃいないだろう?見破る方法なんていくらでもあるじゃないか」
シリウスは面倒臭そうに笑った。
「まったく、きみはチチオヤに似て慎重だな──まあ、そう。その件についても話さなければと思っていた」
ナマエが怪訝な顔をすると、シリウスはナマエを見つめ返した。
「きみの父上は、今言ったように警戒心が強い。わたしが家を抜け出して、捕まることがないようにと定期的に連絡は来るし、しもべ妖精も寄越す──だが、近ごろ……ここ数日はぱったりなくなった──まあ、だからわたしはここにいられるというわけだが」
「え?何で?えっと、シノビーも?」
ナマエが食い気味に問いかけた。シリウスは頭を振った。
「ああ、わからない。きみも聞いていないのか……チチオヤはヴォルデモートの復活を阻止するためにすべきことがあると言っていた。それと──クラウチの行方を探していた」
「ナマエのパパが?」
ハリーが聞いた。
「……親父はクラウチは聖マンゴには来てないって言ってた」
「ああ、奴の家ももぬけの殻だったそうだ」
シリウスの顔が曇った。突然、ナマエが最初に会ったときのシリウスの顔のように、恐ろしげな顔になった。
「クラウチは、わたしをアズカバンに送れと命令を出したやつだ──裁判もせずに」
シリウスが静かに言った。ナマエは父親からキャンプ場で聞いたクラウチの話を思い出した。
「すばらしい魔法使いだ。バーティ・クラウチは。強力な魔法力──それに、権力欲だ。ああ、ヴォルデモートの支持者だったことはない」
ハリーの顔を読んで、シリウスがつけ加えた。逆に、ナマエの顔はまだ曇ったままだったので、シリウスはさらに付け加えた。
「ナマエ、チチオヤもそうだ。こうして匿ってもらうまでは、わたしが疑っていたのは事実だが──ない。二人とも、闇の陣営にはっきり対抗している。それに──チチオヤが君の耳飾りを作るのを、わたしも手伝った」
シリウスがナマエの耳元を見てにっと笑った。
「え、あ、そう……」
ナマエは照れ臭いような気持ちになって、小さく答えた。シリウスは洞窟の奥まで歩いていき、また戻ってきて話しはじめた。
「話を戻すが……ヴォルデモートが、いま、強大だと考えてごらん。誰が支持者なのかわからない。誰があいつに仕え、誰がそうではないのか、わからない。毎週、毎週、またしても死人や、行方不明や、拷問のニュースが入ってくる……魔法省は大混乱……そういう状態だった」
「クラウチも最初はよかった。あいつは魔法省でたちまち頭角を現し、ヴォルデモートに従うものにきわめて厳しい措置を取りはじめ、『闇祓い』たちに新しい権力が与えられた。たとえば、捕まえるのでなく、殺してもいいという権力だ。裁判なしに『吸魂鬼』の手に渡されたのは、わたしだけではない。たしかに、あいつの支持者はたくさんいたし、多くの魔法使いたちが、あいつを魔法大臣にせよと叫んでいた。ヴォルデモートがいなくなったとき、クラウチがその職に就くのは時間の問題だと思われた。しかし、そのとき不幸な事件があった……」
シリウスがニヤリと笑った。
「クラウチの息子が『死喰い人』の一味と一緒に捕まった。この一味は、ヴォルデモートを探し出して権力の座に復帰させようとしていた」
「クラウチの息子が捕まった?」
ハーマイオニーが息を呑んだ。
「そう。あのバーティにとっては、相当きついショックだっただろうね。もう少し家にいて、家族と一緒に過ごすべきだった。そうだろう?たまには早く仕事を切り上げて帰るべきだった……自分の息子をよく知るべきだったのだ」
ナマエはなんとなく、シリウスはチチオヤにもそんな皮肉を言いそうだと思った。
「自分の息子が本当に『死喰い人』だったの?」
ハリーが聞いた。
「わからない。息子がアズカバンに連れてこられたとき、わたし自身もアズカバンにいた。いま話していることは、大部分が最近知ったことだ。クラウチがせいぜい父親らしい愛情を見せたのは、息子を裁判にかけることだった。それとて、どう考えても、クラウチがどんなにその子を憎んでいるかを公に見せるための口実にすぎなかった……それから息子をまっすぐアズカバン送りにした」
「自分の息子を『吸魂鬼』に?」
ハリーは声を落とした。
「そのとおり」
シリウスはもう笑ってはいなかった。
「『吸魂鬼』が息子を連れてくるのを見たよ。そして、連れて来られてから約一年後に死んだ」
一瞬、シリウスの目に生気がなくなった。まるで目の奥にシャッターが下りたような暗さだ。
「クラウチは、すべてをやり遂げたと思ったときに、すべてを失った。一時は、魔法大臣と目されたヒーローだった……次の瞬間、息子は死に、奥方も亡くなり、家名は汚された。そして、あの子が亡くなると、みんながあの子に少し同情しはじめた。れっきとした家柄の、立派な若者が、なぜそこまで大きく道を誤ったのかと、人々は疑問に思いはじめた。結論は、父親が息子をかまってやらなかったからだ、ということになった。そこで、コーネリウス・ファッジが最高の地位に就き、クラウチは『国際魔法協力部』などという傍流に押しやられた」
「ムーディは、クラウチが闇の魔法使いを捕まえることに取り憑かれているって言ってた」
ハリーがシリウスに話した。
「ああ、ほとんど病的だと聞いた」
シリウスは頷いた。
「それで、学校に忍び込んで、スネイプの研究室を家捜ししたんだ!」
ロンがハーマイオニーを見ながら、勝ち誇ったように言った。
「そうだ。それがまったく理屈に合わない」
シリウスが言った。
「いいかい。クラウチがスネイプを調べたいなら、試合の審査員として来ればいい。しょっちゅうホグワーツに来て、スネイプを見張る格好な口実ができるじゃないか」
「それじゃ、スネイプが何か企んでいるって、そう思うの?」
ハリーが聞いた。が、ハーマイオニーが口を挟んだ。
「いいこと?あなたが何と言おうと、ダンブルドアがスネイプを信用なさっているのよ?」
「……どう思う?シリウス?」
ナマエが三人を諌めるようにシリウスに聞いた。
「それぞれいい点を突いている」
シリウスがロン、ハリーとハーマイオニーを見て、考え深げに言った。
「スネイプがここで教えていると知って以来、わたしは、どうしてダンブルドアがスネイプを雇ったのかと不思議に思っていた。スネイプはいつも闇の魔術に魅せられていて、学校ではそれで有名だった。気味の悪い、べっとりと脂っこい髪をした子供だったよ。あいつは」
シリウスがそう言うと、ハリーとロンは顔を見合わせてニヤッとした。ナマエはシリウスの悪意のある言い方に咎めるような目を向けた。シリウスは気に留めず続けた。
「スネイプは学校に入ったとき、もう七年生の大半の生徒より多くの『呪い』を知っていた。スリザリン生の中で、後にほとんど全員が『死喰い人』になったグループがあり、スネイプはその一員だった。それでも、ダンブルドアがスネイプを信用しているというのは事実だ」
シリウスは洞窟の壁を眺めて考え込んだ。ナマエはゆっくり口を開いた。
「ダンブルドアは──チャンスを与える人だ。……ハグリッドもそう言ってた」
ナマエは チチオヤを思い浮かべていたが、なんとなく伏せた。シリウスは言った。
「ダンブルドアは、他の人が信用しない人でも信じるということもある。たとえ、マッド-アイやクラウチがスネイプを信用していなくても──。しかし、やはり、チチオヤが気にしているようにクラウチの動きはおかしい」
「僕、パーシーに聞いてみる」
ロンが言った。
「僕の兄さんだ──パーシーはクラウチの部下なんだ。手紙で聞いてみるよ」
「ああ、そうしてくれ」
シリウスは大きなため息をつき、目を擦った。
「もう学校に戻ったほうがいい、村境まで送ろう」
シリウスは、特にハリーを見つめて言った。
「いいかい、君たちはわたしに会うためにホグワーツを抜け出したりしないでくれ。そして、何かあったら些細なことでも知らせて欲しい。それと、念のため、わたしのことは今からはスナッフルズと呼ぶように。わかったかい?」
ハリーは不服そうだったが、頷いた。ナマエの頭の中は、今起こっている出来事を結びつけるために熱くなっていた。バーサ・ジョーキンズの失踪……ハリーの名前がゴブレットに入れられた……クラウチが行方知れず……チチオヤの動向……。
チチオヤはヴォルデモートの復活を防ぐために何をしているのだろう?そして、どうして今になって息子に向き合おうと思ったのだろう……。
「ナマエ、行きましょう」
ハーマイオニーに言われて、ナマエははっと顔を上げた。みんなもう洞窟の外に出ていた。
「ずいぶん女の趣味が良くなったじゃないか?ミョウジ」
薬草学の授業で、ドラコがにやついて言った。スプラウト先生は嬉々としてハリーの鰓昆布について説明しており、スリザリン生は悪態をついていた。
「ゴシップが好きだな、ドラコ。
ナマエは不機嫌に答えた。すると、パンジー・パーキンソンがクスクス笑い出した。待っていましたと言わんばかりにパンジーが持ち上げた雑誌が、ナマエの目に入った──「週刊魔女」だ。表紙の動く写真は巻き毛の魔女で、ニッコリ歯を見せて笑い、杖で大きなスポンジケーキを指している。
「もちろん、そうしてあげたわよ」
パンジーが雑誌を開いてよこした。ナマエは怪訝な顔で受け取った。マイケルとテリーも横から覗き込んだ。ハリーのカラー写真の下に、短い記事が載り、「ハリー・ポッターの密やかな胸の痛み」と題がついている。
「十四歳のハリー・ポッターは、ホグワーツでマグル出身のハーマイオニー・グレンジャーというガールフレンドを得た──」との書き出しだ。
「やっぱり、グレンジャーとハリーは付き合ってたんだ?」
横からテリーが口を挟んだ。
「ない、でっち上げだ」
ナマエは雑誌の続きに目を走らせた。……ハリーだけでなく、ワールドカップ選手のビクトール・クラムまでもが、この擦れっ枯らしのミス・グレンジャーに熱を上げ、すでに夏休みにブルガリアに招待している……。
「ブルガリアに?」
ナマエが驚いて声を上げたが、マイケルが記事の続きを指差した。
──聖マンゴ魔法疾患傷害病院の次期院長と目されているミョウジ氏の一人息子、ナマエ・ミョウジさえも、美人とは言えないミス・グレンジャーに首ったけである……おそらく『愛の妙薬』を三人の少年らに使っているのだろうと、同学年のパンジー・パーキンソンは証言した……。
ナマエが顔を上げると、スリザリンの生徒たちがニヤニヤと様子を伺っていた。ナマエはパンジーに記事を投げて返した。
「ドラコ、あんたのほうこそ女の趣味を見直した方がいい」
ナマエはパンジーを睨みつけて言った。ドラコが何か言おうとする前に、アンソニーがナマエのローブを引っ張って前を向かせた。
「もう、やめなよ。そろそろ減点されるよ」
ナマエが前を向くと、咎めるような目をしたスプラウト先生と目が合った。ナマエは苦笑いを返して目を逸らした。
授業が終わった途端、テリーが神妙な面持ちでナマエに問いかけた。
「君、本当に『愛の妙薬』を盛られてたりしないよね?」
「ばか!そんなわけないだろ……あの雑誌、有名なのか?初めて読んだ」
「うちのママは読んでる。女性誌だろうね」
マイケルが言った。ナマエは、チチオヤがこの雑誌を読んでいないことを祈った。
古代ルーン文字学のクラスで、ナマエはいつもよりそわそわしながらハーマイオニーの隣の席に座った。ふと見ると、ハーマイオニーの両手にはなぜか包帯が痛々しげに巻かれていた。
「は、ハーマイオニー?手、どうしたんだ」
ハーマイオニーは咄嗟にサッと手を机の下に隠したが、ため息をついて手をぶらりと振った。
「……『週間魔女』を読んだ?読者から届いたのよ、私を攻撃するような手紙がたくさん」
「なんだそれ──」
ナマエが絶句していると、ハーマイオニーは苛立たしげに言った。
「絶対に──あの卑劣な女、スキーターを捕まえてやるわ」
ナマエはハーマイオニーの決意に気圧され、黙って頷いた。授業を終えて教室を出るとき、ナマエはおずおずハーマイオニーに聞いた。
「なあ、ハーマイオニー……夏休み、ブルガリアに行くの?」
ハーマイオニーは驚いたように目を丸くして、それから少し顔を赤らめた。
「えっ?ええと……返事はしてないわ。誘われた時、ハリーが湖から上がってきたところだったもの。それどころじゃなくって」
「第二の課題のとき?スキーターはどうやって知ったんだ?」
「そう!それが全くわからないのよ……ああ腹が立つ!」
今度はナマエが目を丸くすると、ハーマイオニーは憤った。
「……なあ、ハーマイオニー」
「なあに?」
ナマエが話しかけると、幾分か苛立ちを抑えてハーマイオニーが振り返った。
「──夏休み、俺とロンドンに行くって話は、覚えててくれてる?」
ナマエは、意地悪いことを聞いている自覚と、もう半分、よくわからない感情で曖昧に笑いながら問いかけた。
「えっ!──そうだったわね、ええ」
ハーマイオニーは一瞬虚をつかれたような顔をしたが、すぐに頷いた。ナマエの意地悪ではない方の気持ちでなぜか胃がきゅっと締め付けられた。すると、パンジー・パーキンソンの声がした。
「『例の薬』はよく効いているようね、グレンジャー!」
スリザリンの生徒たちがクスクス笑いながら通り過ぎた。ハーマイオニーはパンジーを無視した。
「そうだわ、ナマエ。今度のホグズミードに一緒に来て欲しいの」
「えっ?」
思いがけない言葉に、ナマエは声が上擦った。
「ハリーがね──シリウスから手紙があって……多分、会いに来るんだわ。あなたも来て欲しいって書いてあったの」
ハーマイオニーが声をひそめて言った。シリウスの話に驚くよりも、当然ハリーたちと一緒で、二人で行くわけではないということがナマエの気分を落ち込ませた。
週末、ナマエはハリーたちと城を出た。四人はハイストリート通りを歩き、ダービシュ・アンド・バングズ店を通り過ぎ、村のはずれに向かっていた。三人は山の麓に向かって歩いていた。ホグズミードはその山懐にある。そこで角を曲がると、道のはずれに柵があった。いちばん高い柵に二本の前脚を載せ、待っている大きな毛むくじゃらの黒い犬がいた。
「やあ、シリウスおじさん」
そばまで行って、ハリーが挨拶した。
黒い犬は尻尾を一度だけ振り、向きを変えてトコトコ走り出した。ハリー、ロン、ハーマイオニーは、柵を乗り越えてあとを追った。およそ三十分、三人はシリウスの振る尻尾に従い、太陽に照らされて汗をかきながら、曲りくねった険しい石ころだらけの道を登っていった。そして、最後に、シリウスがするりと視界から消えた。三人がその姿の消えた場所まで行くと、狭い岩の裂け目があった。入ると、中は薄暗い涼しい洞窟だった。
シリウスは人間の姿に戻っていた。以前よりも生気のある顔で、グレーのローブも清潔で新しいものに変わっていた。肘まで伸びっぱなしだった髪は、肩のあたりまで短くさっぱりとして、本来のハンサムな顔立ちがはっきりとわかった。ナマエは言った。
「シリウス、今も俺の家にいるの?」
「ああ、ありがたいことに、快適そのものさ。──もちろん誓って、君の部屋には入っていない」
シリウスはいたずらっぽくニヤリとした。
「べつに、入られて困るものなんて置いてない」
ナマエが口を尖らせると、シリウスは笑った。しかし、ハリーはシリウスをじっと見つめ続けていた。そして、心配そうに、真面目な顔で言った。
「シリウス、捕まったらどうするの?姿を見られたら?」
「わたしが『動物もどき』だと知っているのは、ここでは君たちとダンブルドアだけだ」
シリウスは肩をすくめたが、ナマエはここぞと追撃した。
「でも、シリウス。最近はリータ・スキーターみたいな記者がうろついてるし、あんたたちは自分で『忍びの地図』を作ったのを忘れちゃいないだろう?見破る方法なんていくらでもあるじゃないか」
シリウスは面倒臭そうに笑った。
「まったく、きみはチチオヤに似て慎重だな──まあ、そう。その件についても話さなければと思っていた」
ナマエが怪訝な顔をすると、シリウスはナマエを見つめ返した。
「きみの父上は、今言ったように警戒心が強い。わたしが家を抜け出して、捕まることがないようにと定期的に連絡は来るし、しもべ妖精も寄越す──だが、近ごろ……ここ数日はぱったりなくなった──まあ、だからわたしはここにいられるというわけだが」
「え?何で?えっと、シノビーも?」
ナマエが食い気味に問いかけた。シリウスは頭を振った。
「ああ、わからない。きみも聞いていないのか……チチオヤはヴォルデモートの復活を阻止するためにすべきことがあると言っていた。それと──クラウチの行方を探していた」
「ナマエのパパが?」
ハリーが聞いた。
「……親父はクラウチは聖マンゴには来てないって言ってた」
「ああ、奴の家ももぬけの殻だったそうだ」
シリウスの顔が曇った。突然、ナマエが最初に会ったときのシリウスの顔のように、恐ろしげな顔になった。
「クラウチは、わたしをアズカバンに送れと命令を出したやつだ──裁判もせずに」
シリウスが静かに言った。ナマエは父親からキャンプ場で聞いたクラウチの話を思い出した。
「すばらしい魔法使いだ。バーティ・クラウチは。強力な魔法力──それに、権力欲だ。ああ、ヴォルデモートの支持者だったことはない」
ハリーの顔を読んで、シリウスがつけ加えた。逆に、ナマエの顔はまだ曇ったままだったので、シリウスはさらに付け加えた。
「ナマエ、チチオヤもそうだ。こうして匿ってもらうまでは、わたしが疑っていたのは事実だが──ない。二人とも、闇の陣営にはっきり対抗している。それに──チチオヤが君の耳飾りを作るのを、わたしも手伝った」
シリウスがナマエの耳元を見てにっと笑った。
「え、あ、そう……」
ナマエは照れ臭いような気持ちになって、小さく答えた。シリウスは洞窟の奥まで歩いていき、また戻ってきて話しはじめた。
「話を戻すが……ヴォルデモートが、いま、強大だと考えてごらん。誰が支持者なのかわからない。誰があいつに仕え、誰がそうではないのか、わからない。毎週、毎週、またしても死人や、行方不明や、拷問のニュースが入ってくる……魔法省は大混乱……そういう状態だった」
「クラウチも最初はよかった。あいつは魔法省でたちまち頭角を現し、ヴォルデモートに従うものにきわめて厳しい措置を取りはじめ、『闇祓い』たちに新しい権力が与えられた。たとえば、捕まえるのでなく、殺してもいいという権力だ。裁判なしに『吸魂鬼』の手に渡されたのは、わたしだけではない。たしかに、あいつの支持者はたくさんいたし、多くの魔法使いたちが、あいつを魔法大臣にせよと叫んでいた。ヴォルデモートがいなくなったとき、クラウチがその職に就くのは時間の問題だと思われた。しかし、そのとき不幸な事件があった……」
シリウスがニヤリと笑った。
「クラウチの息子が『死喰い人』の一味と一緒に捕まった。この一味は、ヴォルデモートを探し出して権力の座に復帰させようとしていた」
「クラウチの息子が捕まった?」
ハーマイオニーが息を呑んだ。
「そう。あのバーティにとっては、相当きついショックだっただろうね。もう少し家にいて、家族と一緒に過ごすべきだった。そうだろう?たまには早く仕事を切り上げて帰るべきだった……自分の息子をよく知るべきだったのだ」
ナマエはなんとなく、シリウスはチチオヤにもそんな皮肉を言いそうだと思った。
「自分の息子が本当に『死喰い人』だったの?」
ハリーが聞いた。
「わからない。息子がアズカバンに連れてこられたとき、わたし自身もアズカバンにいた。いま話していることは、大部分が最近知ったことだ。クラウチがせいぜい父親らしい愛情を見せたのは、息子を裁判にかけることだった。それとて、どう考えても、クラウチがどんなにその子を憎んでいるかを公に見せるための口実にすぎなかった……それから息子をまっすぐアズカバン送りにした」
「自分の息子を『吸魂鬼』に?」
ハリーは声を落とした。
「そのとおり」
シリウスはもう笑ってはいなかった。
「『吸魂鬼』が息子を連れてくるのを見たよ。そして、連れて来られてから約一年後に死んだ」
一瞬、シリウスの目に生気がなくなった。まるで目の奥にシャッターが下りたような暗さだ。
「クラウチは、すべてをやり遂げたと思ったときに、すべてを失った。一時は、魔法大臣と目されたヒーローだった……次の瞬間、息子は死に、奥方も亡くなり、家名は汚された。そして、あの子が亡くなると、みんながあの子に少し同情しはじめた。れっきとした家柄の、立派な若者が、なぜそこまで大きく道を誤ったのかと、人々は疑問に思いはじめた。結論は、父親が息子をかまってやらなかったからだ、ということになった。そこで、コーネリウス・ファッジが最高の地位に就き、クラウチは『国際魔法協力部』などという傍流に押しやられた」
「ムーディは、クラウチが闇の魔法使いを捕まえることに取り憑かれているって言ってた」
ハリーがシリウスに話した。
「ああ、ほとんど病的だと聞いた」
シリウスは頷いた。
「それで、学校に忍び込んで、スネイプの研究室を家捜ししたんだ!」
ロンがハーマイオニーを見ながら、勝ち誇ったように言った。
「そうだ。それがまったく理屈に合わない」
シリウスが言った。
「いいかい。クラウチがスネイプを調べたいなら、試合の審査員として来ればいい。しょっちゅうホグワーツに来て、スネイプを見張る格好な口実ができるじゃないか」
「それじゃ、スネイプが何か企んでいるって、そう思うの?」
ハリーが聞いた。が、ハーマイオニーが口を挟んだ。
「いいこと?あなたが何と言おうと、ダンブルドアがスネイプを信用なさっているのよ?」
「……どう思う?シリウス?」
ナマエが三人を諌めるようにシリウスに聞いた。
「それぞれいい点を突いている」
シリウスがロン、ハリーとハーマイオニーを見て、考え深げに言った。
「スネイプがここで教えていると知って以来、わたしは、どうしてダンブルドアがスネイプを雇ったのかと不思議に思っていた。スネイプはいつも闇の魔術に魅せられていて、学校ではそれで有名だった。気味の悪い、べっとりと脂っこい髪をした子供だったよ。あいつは」
シリウスがそう言うと、ハリーとロンは顔を見合わせてニヤッとした。ナマエはシリウスの悪意のある言い方に咎めるような目を向けた。シリウスは気に留めず続けた。
「スネイプは学校に入ったとき、もう七年生の大半の生徒より多くの『呪い』を知っていた。スリザリン生の中で、後にほとんど全員が『死喰い人』になったグループがあり、スネイプはその一員だった。それでも、ダンブルドアがスネイプを信用しているというのは事実だ」
シリウスは洞窟の壁を眺めて考え込んだ。ナマエはゆっくり口を開いた。
「ダンブルドアは──チャンスを与える人だ。……ハグリッドもそう言ってた」
ナマエは チチオヤを思い浮かべていたが、なんとなく伏せた。シリウスは言った。
「ダンブルドアは、他の人が信用しない人でも信じるということもある。たとえ、マッド-アイやクラウチがスネイプを信用していなくても──。しかし、やはり、チチオヤが気にしているようにクラウチの動きはおかしい」
「僕、パーシーに聞いてみる」
ロンが言った。
「僕の兄さんだ──パーシーはクラウチの部下なんだ。手紙で聞いてみるよ」
「ああ、そうしてくれ」
シリウスは大きなため息をつき、目を擦った。
「もう学校に戻ったほうがいい、村境まで送ろう」
シリウスは、特にハリーを見つめて言った。
「いいかい、君たちはわたしに会うためにホグワーツを抜け出したりしないでくれ。そして、何かあったら些細なことでも知らせて欲しい。それと、念のため、わたしのことは今からはスナッフルズと呼ぶように。わかったかい?」
ハリーは不服そうだったが、頷いた。ナマエの頭の中は、今起こっている出来事を結びつけるために熱くなっていた。バーサ・ジョーキンズの失踪……ハリーの名前がゴブレットに入れられた……クラウチが行方知れず……チチオヤの動向……。
チチオヤはヴォルデモートの復活を防ぐために何をしているのだろう?そして、どうして今になって息子に向き合おうと思ったのだろう……。
「ナマエ、行きましょう」
ハーマイオニーに言われて、ナマエははっと顔を上げた。みんなもう洞窟の外に出ていた。