炎のゴブレット
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「卵の謎はもう解いたって言ったじゃない!」
ハーマイオニーが憤慨した。
「ちょっとその話は置いておいてよ、今からスネイプとムーディのことを話そうとしてるんだから……」
ハリーは不機嫌に言った。朝食前にハリーが、ナマエ、ロン、ハーマイオニーを引っ張って話し出した。昨晩、ハリーは透明マントを使って、ようやくセドリックのアドバイスを試したらしかった。
「昨日、監督生の風呂場に行った帰り──スネイプの部屋に、バーティ・クラウチがいたんだ」
ハリーが言うと、ナマエは目を丸くした。
「バーティ・クラウチ?なんで?」
「わからないよ。でも、『忍びの地図』で見たから、確かだ──それで、そのあとすぐにマッド-アイに会った──」
ハリーは肩をすくめた。ロンが指を鳴らして、ハリーを見た。
「ハリー……もしかしたら、ムーディはスネイプが君の名前を『炎のゴブレット』に入れたと思ってるんだろう!」
「でもねえ、ロン」
ハーマイオニーがそうじゃないでしょうと首を振りながら言った。
「ダンブルドアはばかじゃないもの。ハグリッドやルーピン先生を信用なさったのも正しかった。あの人たちを雇おうとはしない人は山ほどいるけど。だから、ダンブルドアはスネイプについても間違っていないはずだわ。たとえスネイプが少し──」
「──悪でも」
ロンがすぐに言葉を引き取った。
「だけどさあ、それならどうして『闇の魔法使い捕獲人』たちが、そろってあいつの研究室を捜索するんだい?」
ハーマイオニーはロンの意見を無視した。
「クラウチさんはどうして仮病なんか使うのかしら?ユールボールにもいなかったし、ちょっと変よね」
ナマエは顎に手を当てて考えた。
「うん、変だ。親父は、クラウチは聖マンゴにも来てないって言ってた──ハリー、そのこと、シリウスに伝えておいた方がいいんじゃないか?」
シリウスがナマエの家に滞在しているなら、チチオヤにも伝わるはずだと思った。ハリーはこくんと頷いた。
放課後、四人は図書室の一角を陣取って、第二の課題でハリーが生還するための方法を探すことにした。ナマエは実のところ、図書館に行くのは久しぶりだった。
ハリーがチョウとセドリックを見たくないと言っていたように、ナマエもハーマイオニーとクラムが話しているところに遭遇するのを避けていたのだ。ロンが本をめくりながら飽きたような顔で言った。
「ハリー、もう一回歌ってよ」
「えー、『探しにおいで 声を頼りに 地上じゃ歌は歌えない 探す時間は一時間 取り返すべし大切なもの 遅すぎたならそのものは もはや二度とは戻らない』」
ハリーは目を閉じて歌い上げた。
「『地上じゃ歌は歌えない』か──卵の声は水中人のマーミッシュ語だったんだなあ」
ナマエが悔しそうに言った。
「そんなのはもういいんだ。一時間、水の中で生きていられるなら」
「なにか、使えるものを呼び寄せたらいい!マグルの──エート、なんだっけ?」
ロンは第一の課題の呼び寄せ作戦が気に入っていたらしい。しかし、ハーマイオニーがピシャリと言った。
「潜水艦ね。言っておくけど、車より大きいのよ?どこから呼び寄せるつもり?マグルが目撃してしまうわよ」
頭を抱えるハリーに、ナマエが身を乗り出した。
「変身術はどうだ?泳げる生き物に変身すりゃいい」
それにも、ハーマイオニーが即座に「だめよ!」と言った。
「それは六年生まで待たないといけないし。生半可に知らないことをやったら、とんでもないことになりかねないわ……」
ハーマイオニーの言葉を聞いたハリーが、ナマエを意味深に見つめてニヤッとした。ナマエがこっそり舌を出すとハリーが笑ったので、ハーマイオニーがガバッとナマエを振り返った。ナマエは舌を引っ込めた。
「ナマエ──あなた、まさか変身したことがあるの?」
「エート……さあ?内緒」
ハーマイオニーの咎めるような目線に、ナマエはヘラっと笑った。
ナマエはハーマイオニーと今まで通りに会話できるようになっていた。それがいいのか悪いのかナマエにはわからなかったが、気まずい思いをするよりはマシな気がした。
ハグリッドが復帰してから、授業に尻尾爆発スクリュートが登場することは無くなった。かわりに、グラブリー-プランク先生に対抗するかのように、赤ちゃんのユニコーンをどこからか手に入れてみんなに見せてくれた。ハグリッドが、怪物についてと同じくらいユニコーンにも詳しいことがわかった。ただ、ハグリッドが、ユニコーンに毒牙がないのは残念だ、と思っていることは確かだった。みんながユニコーンに夢中になっている時、ハグリッドはナマエにニッコリ笑って見せた。
一方、ハリーの第二の課題を解決する術はなかなか見つからないまま、課題は明日に迫っていた。
「ハリー、やっぱり『泡頭』の呪文しかないぜ」
ナマエがお手上げだと言わんばかりに杖を振って、出来損ないの泡を顔の周りで弾けさせた。ハーマイオニーは本から目を離さずに言った。
「地上で使うのも難しいのに、割らないように水中で泡を作るのはとっても難しいわよ。絶対、なにかもっと簡単な呪文があるはずよ」
毎日のように図書室に入り浸っていたが、それ以上の答えは出なかった。ハリーは見ていられないほど憔悴していた。日がどっぷり暮れて図書館を追い出されると、廊下にぬっとフレッドとジョージが現れた。
「よう、ミスター参謀!」
「よう、ミスター薬草農家」
「な、なに」
ナマエが驚いて言うと、フレッドとジョージはナマエを見てにやりと笑った。フレッドが言った。
「マクゴナガルに、ロンとハーマイオニーを呼んでこいって頼まれたんだ」
「どうして?僕、何にもしてないよ」
ロンが青ざめたように言った。フレッドは興味がなさそうに言った。
「知らん、呼んでこいって言われただけだ」
「わかったわ、行きましょう。──ハリー、談話室に戻ったら一緒に続きを考えるわ」
ハリーはうめくように返事をした。ハーマイオニーとロンは心配そうにハリーを見ながら歩いていったが、ハリーはほとんど聞こえていないかのように、本の山を抱えてとぼとぼ談話室に歩いていった。ナマエも西塔に戻ろうとすると、フレッドとジョージがナマエの両肩を組んだ。
「──で、俺たちの用事はこっちだ」
ジョージが言った。
「ええ?」
「ハナハッカのエキス持ってないか?すこーし足りないんだ」
フレッドが悪そうな顔をしてニッコリ笑った。
「何に使ってるんだよ、もう老け薬はいらないだろ?」
「頼むよ、スネイプからくすねるわけにはいかないだろ?俺たちを盗っ人にしないでくれ」
ジョージが哀れっぽく懇願した。
「あるにはあるけど──ああ!」
ナマエは突然、自分の薬草の中に使える ものがあることを思い出した。
「どうした?」
ジョージが言った。ナマエは独り言をぶつぶつ言いながら二人を振り解いた。
「ああ、なんで忘れてたんだろう──!エー……ハナハッカだっけ?それも今度あげるから、後にしてくれ!」
ナマエはそう叫んで、レイブンクロー寮に駆け戻り、自分の薬草箱から小瓶を引っ掴んだ。アンソニーたちが驚いて「どうしたの?」と声をかけたが、息が切れて手を振るので精一杯だった。すぐにまた来た道を走って、グリフィンドール寮のそばに向かった。ぜいぜいと息を切らしながら走っていると、廊下の曲がり角で危うく女の子にぶつかりかけた。
「あっ、ごめん──!」
ナマエが短く謝ってまた走り出そうとすると、女の子がナマエのローブの裾を掴んで引き止めた。
「はあ、はあっ、ごめ──悪い、後で──え?」
よく見ると、その子はフラーの妹のガブリエルだった。ガブリエルは今にも泣き出しそうな顔でナマエを見上げていた。ナマエは息を整えて、ガブリエルを見た。
「──あんたは、はあっ、ガブリエルだよな?どうしたんだ?」
ナマエが尋ねると、ガブリエルはか細い声で言った。
「マ、マ──マクゴナーガー先生のお部屋に、行きたーい、でーす」
「マクゴナガル先生?──フラーとか、他の人は?」
「マクシーム、先生、いま、忙しーい。──フラーはダメ……でーす」
ナマエは不思議に思ったが、ガブリエルはナマエよりもかなり歳下のように見えたので、あやすように言った。
「ああ、わかった。大丈夫、俺が連れてくよ──けど、ちょっとだけ待っててくれるか?アー!──ネビル!」
ナマエは廊下の先に通りがかりのネビルを見つけて、呼び止めた。ネビルはぽかんとナマエを振り返ってこちらに歩いてきた。
「ナマエ、どうしたの?」
「ネビル、これ、ハリーに渡してくれない?』
ナマエはネビルに瓶詰めにされた鰓昆布を見せた。ナマエが自宅の庭で育てていたものだった。すると、意外にもネビルは興奮したようにまじまじと瓶を見ながら受け取った。
「──ウワー、鰓昆布だ!しかも、すごく状態がいいよ、新鮮だろう?」
ナマエはネビルの反応に驚いた。希少で珍しいものだが、ネビルがひと目で鰓昆布だとわかるほど薬草に詳しいとは思っていなかったのだ。
「わかるのか?──ああ、悪いけどお願い、ハリーには後で説明するって言っておいて」
「うわあ、わかった」
ネビルは鰓昆布に釘付けのまま返事をした。ナマエはネビルの反応に気をよくした。
「……あんたも欲しいなら今度、家から一株送ろうか?」
「エーッ!いいの?」
「俺は夏休みずーっと、暇なんだよ。だから本を読むか、庭いじりしかすることがないのさ」
ナマエはネビルに鰓昆布を託して、ガブリエルを安心させるようににっこり笑った。
「──さ、大丈夫。俺の用は済んだから、一緒に行こう」
ナマエは不安げなガブリエルの手を引いて歩き出した。マクゴナガル先生の部屋に着くと、先生は待ち侘びたように出迎えた。ナマエを見るなり、マクゴナガル先生は「おや、まあ」と言って咳払いをした。
「ミスター・ミョウジ──そうですね。なるほど、あなたでしたか。では、お入りなさい」
「アー、あの、俺はこの子を連れてきただけ──」
ナマエはそう言ってガブリエルを振り返ったが、ガブリエルは萎縮しきっているようだった。慣れない土地で、知らない人間ばかりのホグワーツで心細いのも無理はないだろうと思った。ナマエは自分の頭をガシガシ掻いて、小声でガブリエルに囁いた。
「アー、俺がいったん聞いてくるから、その辺で待っててくれる?」
ガブリエルはおずおずうなずいた。ナマエがマクゴナガル先生に続いて部屋に入ると、すでに先客がいた。
「ナマエじゃないか!」
「うん──?ええ?」
部屋には、ロン、ハーマイオニー、チョウ、そしてダンブルドアがいた。ロンがナマエを見るなり声を上げ、ハーマイオニーとチョウは驚いたようにナマエを見た。ダンブルドアは楽しげに笑っていた。マクゴナガル先生が全員を見渡して話し出した。
「さて、これで全員揃いました。明日の第二の課題、皆さんには代表選手の失い難い者として参加していただきます。──ディゴリーに、チャン。クラムにグレンジャー、デラクールにミョウジ。ポッターにウィーズリーです」
「待って、俺がフラーの人質?荷が重いですよ」
ナマエは、ガブリエルがマクゴナガル先生の部屋に呼び出された理由をようやく理解した。ロンが鼻を鳴らした。
「はん、フラーとお楽しみだったってわけだ」
「違う、とにかく──違う」
ナマエがハーマイオニーを見て言ったので、チョウが手で口元を押さえて笑った。マクゴナガル先生はコホン、と咳払いをした。
「──第二の課題は、湖で行われます。水中人を掻い潜って、一時間以内に人質を取り戻すというものです。あなたがたには、その人質役になってもらいます。もちろん、安全は万全を期しており、一時的に魔法で眠ってもらうだけです」
ナマエはガブリエルのことを話そうかと迷ったが、心細そうにしていたガブリエルに「今から人質として湖の中に沈んでくれ」と説得するのは気が引けた。ダンブルドアが続けた。
「わしがきみたちに魔法をかける。水面に顔を出すと目覚めるようにするので、それまでは眠っているのと同じ状態になるのじゃ」
「──あの、今から?今から眠るんですか?」
ナマエが口を挟んだ。
「はい、今から水中人の皆さんと一緒に最後の打ち合わせをします。安全確認をした上、眠りについてもらいます。何か、問題がおありですか?」
「いえ──あの──」
ハリーに鰓昆布のことを伝える暇はなさそうだった。それに、今こうして第二の課題の内容を聞かされた以上、代表選手に用があるという申し出は聞き入れられないだろうと、ナマエは観念した。
「えっと、……外にいるガブリエルを──馬車まで送ってやってください」
マクゴナガル先生がガブリエルを送り、ナマエたち人質はダンブルドアと湖に向かった。
湖の岸辺でダンブルドアが甲高い叫び声のような声を出すと、真っ黒な水面から水中人 が姿を表した。どうやら、ダンブルドアはマーミッシュ語を話せるらしかった。女長とみられる水中人と話し込んでから、ダンブルドアは人質を振り返った。
「では、準備が整ったようじゃ。諸君には少しの間、眠りについていただきたい」
ナマエたちはおずおず頷くと、ダンブルドアはにっこり笑って杖を上げた。ナマエは、ダンブルドアにどんな魔法をかけられるのだろうと考えているうちに、瞼が重くなり、意識を手放した。
──突然の光に目が眩んだ。ナマエは口から水をピュッと吐き出し、肺いっぱいに冷たい空気を吸い込んだ。スタンドの観衆が大騒ぎしていた。叫んだり、悲鳴を上げたり、総立ちになっているようだ。隣にはロンとハリーがいた。ロンは明るい陽射しに目をパチクリさせ、ハリーのほうを見て言った。
「ビショビショだな、こりゃ──あれ、何のためにナマエを連れてきたんだい?」
「フラーが現れなかったんだ。僕、ナマエを残しておけなかった」
ハリーがゼイゼイ言った。ナマエはぼうっとした頭を働かせた。第二の課題が終わったのだ。そして、ハリーは一人でロンとナマエの二人も救い出したらしい。──つまり、鰓昆布の作戦はうまくいったのだ。ナマエは興奮して水の中でハリーに抱きついた。
「ハリーっ!──すごい、鰓昆布はちゃんと効いたんだな!あはは!よかった!」
「ナマエっ──君、重いよ──!」
ハリーは危うく沈みそうになりながら喘いだ。だぶだぶのローブがハリーにのしかかっていた。
「ハリー、ドジだな」
ロンがハリーからナマエを引き剥がして、呆れたように言った。
「あの歌を真に受けたのか?ダンブルドアが僕たちを溺れさせるわけないだろ!」
「だけど、歌が──」
「制限時間内に君が間違いなく戻れるように歌ってただけなんだ!英雄気取りで、湖の底で時間をむだにしたんじゃないだろうな」
ハリーがむっとした顔をした。ナマエは手足をばたつかせながら口を挟んだ。
「──陸に上がろう、悪いけど俺っ、あんまり泳げないんだ」
ナマエは二人に引っ張ってもらい、岸に向かった。審査員が岸辺に立って眺めている。二十人の水中人が護衛兵のように三人につき添い、恐ろしい悲鳴のような歌を歌っていた。 マダム・ポンフリーが、せかせかと、ハーマイオニー、クラム、セドリック、チョウの世話をしているのが見えた。みんな厚い毛布に包まっている。ダンブルドアとルード・バグマンが岸辺から、近づいてくる三人にニッコリ笑いかけていた。しかし、パーシーは蒼白な顔で、なぜかいつもよりずっと幼く見えた。パーシーが水しぶきを上げてロンに駆け寄った。
「よくやったわ、ハリー!」
ハーマイオニーが叫んでいるのが聞こえた。
ダンブルドアは水際に屈み込んで、水中人と話し込んでいた。やっとダンブルドアが立ち上がり、審査員に向かってこう言った。
「どうやら、点数をつける前に、協議じゃ」
ナマエがもたもた岸に上がると、フラーがマダム・マクシームの制止を振り切って飛び出した。
「ナマエ!ナマエ!あなーた!怪我をしてないの?無事ですか?」
フラーが、ナマエを引っ張り上げ、両手でナマエの頬を包んだ。ガブリエルも泣きそうな顔でナマエに駆け寄った。
「妹の代わりになってくれーたのですね?ガブリエールに聞きました、ごめんなさい……わたし……水魔に襲われて……」
「大丈夫、大丈夫──気にしないで──なんとも──」
突然、視界からフラーの顔が消え、頬に柔らかいものが触れた。頬にキスをされたのだ。ナマエはそれを理解すると、顔が燃えるかと思うほど熱くなった。
よく見ると、フラーは顔や腕が切り傷だらけで、ローブは破れていたが、まったく気にかけない様子で、マダム・ポンフリーがきれいにしようとしても断った。
「このい との面倒を見て」
フラーはそう言うと、今度はハリーのほうを見て、声を詰まらせた。
「あなたのい とじちではなかったのに」
フラーは身を屈めて、ハリーの両頬に二回ずつキスした。それからフラーはロンに言った。
「それに、あなたもです──エ ルプしてくれました──」
「ちょっとだけね」
ロンは何か期待しているように見えた。フラーはロンの上に屈み込んで、ロンにもキスした。ハーマイオニーはプンプン怒っている顔だ。ナマエは、フラーがナマエにキスしたのを、ハーマイオニーは見ていただろうかと思った。しかしそのとき、ルード・バグマンの魔法で拡大された声がすぐそばで轟き、みんなが飛び上がった。スタンドの観衆はしんとなった。
「レディーズ アンド ジェントルメン。審査結果が出ました。水中人の女長、マーカスが、湖底で何があったかを仔細に話してくれました。そこで、50点満点で、各代表選手は次のような得点となりました……」
「ミス・デラクール。すばらしい『泡頭呪文』を使いましたが、水魔に襲われ、ゴールにたどり着けず、人質を取り返すことができませんでした。得点は25点」
スタンドから拍手が湧いた。
「わたーしは零点のいとです」
見事な髪の頭を横に振りながら、フラーが喉を詰まらせた。
「セドリック・ディゴリー君。やはり『泡頭呪文』を使い、最初に人質を連れて帰ってきました。ただし、制限時間の一時間を一分オーバー」
ハッフルパフから大きな声援が湧いた。
「そこで、47点を与えます」
「ビクトール・クラム君は変身術が中途半端でしたが、効果的なことには変わりありません。人質を連れ戻したのは二番目でした。得点は40点」
カルカロフが得意顔で、とびきり大きく拍手した。
「ハリー・ポッター君の『鰓昆布』はとくに効果が大きい」
ナマエは思わずハリーを見てニッコリした。バグマンの解説は続いた。
「戻ってきたのは最後でしたし、一時間の制限時間を大きくオーバーしていました。しかし、水中人の長の報告によれば、ポッター君は最初に人質に到着したとのことです。遅れたのは、自分の人質だけではなく、全部の人質を安全に戻らせようと決意したせいだとのことです。ほとんどの審査員が──」
と、ここでバグマンは、カルカロフをじろりと見た。
「これこそ道徳的な力を示すものであり、50点満点に値するとの意見でした。しかしながら……ポッター君の得点は45点です」
これで、ハリーはセドリックと同点一位になった。ナマエはハリーに笑いかけた。
「やったぜ、ハリー!」
ロンが歓声に負けじと声を張り上げた。
「君は結局まぬけじゃなかったんだ──道徳的な力を見せたんだ!」
フラーも大きな拍手を送っていた。しかし、クラムはまったくうれしそうではなかった。何とかハーマイオニーと話そうとしていた。
ハーマイオニーはハリーに声援を送るのに夢中で、クラムの話など耳に入らないようだったので、ナマエは少し安心した。
「第三の課題、最終課題は、六月二十四日の夕暮れ時に行われます」
引き続きバグマンの声がした。
「代表選手は、そのきっかり一ヵ月前に、課題の内容を知らされることになります。諸君、代表選手の応援をありがとう」
マダム・ポンフリーが濡れたみんなを引率して城へと歩き出した。ハリーはフラフラと疲れた様子でナマエのほうに歩いてきた。
「ナマエ、本当にありがとう……ネビルから聞いたんだ。君がくれた鰓昆布の使い方とか──」
「いや、全部あんたの力さ、ハリー」
二人は笑った。ナマエは、鰓昆布を託したのがネビルでよかったと心底思った。ハリーとナマエもみんなに続いて歩き出そうとすると、何かがナマエのローブを引っ張った。振り返ると、ガブリエルだった。ガブリエルはまだ泣きそうな顔でナマエを見上げていたので、ナマエはしゃがみ込んだ。
「うん、どうした?」
「わ、わ、わたし、ご、ごめんなさーい……ありがとう、ございまーす」
ガブリエルが顔を真っ赤にしながらつたない英語で言って、フラーがキスをした反対側の頬に、唇をちょんとつけた。ナマエは思わず赤くなってからはにかんだ。
「……アー、ぜんぜん。どういたしまして」
ガブリエルは突然恥ずかしくなったのか、フラーのところへ駆け戻っていった。ナマエにはその様子が、昔のジニーのように見えた。
ハーマイオニーが憤慨した。
「ちょっとその話は置いておいてよ、今からスネイプとムーディのことを話そうとしてるんだから……」
ハリーは不機嫌に言った。朝食前にハリーが、ナマエ、ロン、ハーマイオニーを引っ張って話し出した。昨晩、ハリーは透明マントを使って、ようやくセドリックのアドバイスを試したらしかった。
「昨日、監督生の風呂場に行った帰り──スネイプの部屋に、バーティ・クラウチがいたんだ」
ハリーが言うと、ナマエは目を丸くした。
「バーティ・クラウチ?なんで?」
「わからないよ。でも、『忍びの地図』で見たから、確かだ──それで、そのあとすぐにマッド-アイに会った──」
ハリーは肩をすくめた。ロンが指を鳴らして、ハリーを見た。
「ハリー……もしかしたら、ムーディはスネイプが君の名前を『炎のゴブレット』に入れたと思ってるんだろう!」
「でもねえ、ロン」
ハーマイオニーがそうじゃないでしょうと首を振りながら言った。
「ダンブルドアはばかじゃないもの。ハグリッドやルーピン先生を信用なさったのも正しかった。あの人たちを雇おうとはしない人は山ほどいるけど。だから、ダンブルドアはスネイプについても間違っていないはずだわ。たとえスネイプが少し──」
「──悪でも」
ロンがすぐに言葉を引き取った。
「だけどさあ、それならどうして『闇の魔法使い捕獲人』たちが、そろってあいつの研究室を捜索するんだい?」
ハーマイオニーはロンの意見を無視した。
「クラウチさんはどうして仮病なんか使うのかしら?ユールボールにもいなかったし、ちょっと変よね」
ナマエは顎に手を当てて考えた。
「うん、変だ。親父は、クラウチは聖マンゴにも来てないって言ってた──ハリー、そのこと、シリウスに伝えておいた方がいいんじゃないか?」
シリウスがナマエの家に滞在しているなら、チチオヤにも伝わるはずだと思った。ハリーはこくんと頷いた。
放課後、四人は図書室の一角を陣取って、第二の課題でハリーが生還するための方法を探すことにした。ナマエは実のところ、図書館に行くのは久しぶりだった。
ハリーがチョウとセドリックを見たくないと言っていたように、ナマエもハーマイオニーとクラムが話しているところに遭遇するのを避けていたのだ。ロンが本をめくりながら飽きたような顔で言った。
「ハリー、もう一回歌ってよ」
「えー、『探しにおいで 声を頼りに 地上じゃ歌は歌えない 探す時間は一時間 取り返すべし大切なもの 遅すぎたならそのものは もはや二度とは戻らない』」
ハリーは目を閉じて歌い上げた。
「『地上じゃ歌は歌えない』か──卵の声は水中人のマーミッシュ語だったんだなあ」
ナマエが悔しそうに言った。
「そんなのはもういいんだ。一時間、水の中で生きていられるなら」
「なにか、使えるものを呼び寄せたらいい!マグルの──エート、なんだっけ?」
ロンは第一の課題の呼び寄せ作戦が気に入っていたらしい。しかし、ハーマイオニーがピシャリと言った。
「潜水艦ね。言っておくけど、車より大きいのよ?どこから呼び寄せるつもり?マグルが目撃してしまうわよ」
頭を抱えるハリーに、ナマエが身を乗り出した。
「変身術はどうだ?泳げる生き物に変身すりゃいい」
それにも、ハーマイオニーが即座に「だめよ!」と言った。
「それは六年生まで待たないといけないし。生半可に知らないことをやったら、とんでもないことになりかねないわ……」
ハーマイオニーの言葉を聞いたハリーが、ナマエを意味深に見つめてニヤッとした。ナマエがこっそり舌を出すとハリーが笑ったので、ハーマイオニーがガバッとナマエを振り返った。ナマエは舌を引っ込めた。
「ナマエ──あなた、まさか変身したことがあるの?」
「エート……さあ?内緒」
ハーマイオニーの咎めるような目線に、ナマエはヘラっと笑った。
ナマエはハーマイオニーと今まで通りに会話できるようになっていた。それがいいのか悪いのかナマエにはわからなかったが、気まずい思いをするよりはマシな気がした。
ハグリッドが復帰してから、授業に尻尾爆発スクリュートが登場することは無くなった。かわりに、グラブリー-プランク先生に対抗するかのように、赤ちゃんのユニコーンをどこからか手に入れてみんなに見せてくれた。ハグリッドが、怪物についてと同じくらいユニコーンにも詳しいことがわかった。ただ、ハグリッドが、ユニコーンに毒牙がないのは残念だ、と思っていることは確かだった。みんながユニコーンに夢中になっている時、ハグリッドはナマエにニッコリ笑って見せた。
一方、ハリーの第二の課題を解決する術はなかなか見つからないまま、課題は明日に迫っていた。
「ハリー、やっぱり『泡頭』の呪文しかないぜ」
ナマエがお手上げだと言わんばかりに杖を振って、出来損ないの泡を顔の周りで弾けさせた。ハーマイオニーは本から目を離さずに言った。
「地上で使うのも難しいのに、割らないように水中で泡を作るのはとっても難しいわよ。絶対、なにかもっと簡単な呪文があるはずよ」
毎日のように図書室に入り浸っていたが、それ以上の答えは出なかった。ハリーは見ていられないほど憔悴していた。日がどっぷり暮れて図書館を追い出されると、廊下にぬっとフレッドとジョージが現れた。
「よう、ミスター参謀!」
「よう、ミスター薬草農家」
「な、なに」
ナマエが驚いて言うと、フレッドとジョージはナマエを見てにやりと笑った。フレッドが言った。
「マクゴナガルに、ロンとハーマイオニーを呼んでこいって頼まれたんだ」
「どうして?僕、何にもしてないよ」
ロンが青ざめたように言った。フレッドは興味がなさそうに言った。
「知らん、呼んでこいって言われただけだ」
「わかったわ、行きましょう。──ハリー、談話室に戻ったら一緒に続きを考えるわ」
ハリーはうめくように返事をした。ハーマイオニーとロンは心配そうにハリーを見ながら歩いていったが、ハリーはほとんど聞こえていないかのように、本の山を抱えてとぼとぼ談話室に歩いていった。ナマエも西塔に戻ろうとすると、フレッドとジョージがナマエの両肩を組んだ。
「──で、俺たちの用事はこっちだ」
ジョージが言った。
「ええ?」
「ハナハッカのエキス持ってないか?すこーし足りないんだ」
フレッドが悪そうな顔をしてニッコリ笑った。
「何に使ってるんだよ、もう老け薬はいらないだろ?」
「頼むよ、スネイプからくすねるわけにはいかないだろ?俺たちを盗っ人にしないでくれ」
ジョージが哀れっぽく懇願した。
「あるにはあるけど──ああ!」
ナマエは突然、自分の薬草の中に
「どうした?」
ジョージが言った。ナマエは独り言をぶつぶつ言いながら二人を振り解いた。
「ああ、なんで忘れてたんだろう──!エー……ハナハッカだっけ?それも今度あげるから、後にしてくれ!」
ナマエはそう叫んで、レイブンクロー寮に駆け戻り、自分の薬草箱から小瓶を引っ掴んだ。アンソニーたちが驚いて「どうしたの?」と声をかけたが、息が切れて手を振るので精一杯だった。すぐにまた来た道を走って、グリフィンドール寮のそばに向かった。ぜいぜいと息を切らしながら走っていると、廊下の曲がり角で危うく女の子にぶつかりかけた。
「あっ、ごめん──!」
ナマエが短く謝ってまた走り出そうとすると、女の子がナマエのローブの裾を掴んで引き止めた。
「はあ、はあっ、ごめ──悪い、後で──え?」
よく見ると、その子はフラーの妹のガブリエルだった。ガブリエルは今にも泣き出しそうな顔でナマエを見上げていた。ナマエは息を整えて、ガブリエルを見た。
「──あんたは、はあっ、ガブリエルだよな?どうしたんだ?」
ナマエが尋ねると、ガブリエルはか細い声で言った。
「マ、マ──マクゴナーガー先生のお部屋に、行きたーい、でーす」
「マクゴナガル先生?──フラーとか、他の人は?」
「マクシーム、先生、いま、忙しーい。──フラーはダメ……でーす」
ナマエは不思議に思ったが、ガブリエルはナマエよりもかなり歳下のように見えたので、あやすように言った。
「ああ、わかった。大丈夫、俺が連れてくよ──けど、ちょっとだけ待っててくれるか?アー!──ネビル!」
ナマエは廊下の先に通りがかりのネビルを見つけて、呼び止めた。ネビルはぽかんとナマエを振り返ってこちらに歩いてきた。
「ナマエ、どうしたの?」
「ネビル、これ、ハリーに渡してくれない?』
ナマエはネビルに瓶詰めにされた鰓昆布を見せた。ナマエが自宅の庭で育てていたものだった。すると、意外にもネビルは興奮したようにまじまじと瓶を見ながら受け取った。
「──ウワー、鰓昆布だ!しかも、すごく状態がいいよ、新鮮だろう?」
ナマエはネビルの反応に驚いた。希少で珍しいものだが、ネビルがひと目で鰓昆布だとわかるほど薬草に詳しいとは思っていなかったのだ。
「わかるのか?──ああ、悪いけどお願い、ハリーには後で説明するって言っておいて」
「うわあ、わかった」
ネビルは鰓昆布に釘付けのまま返事をした。ナマエはネビルの反応に気をよくした。
「……あんたも欲しいなら今度、家から一株送ろうか?」
「エーッ!いいの?」
「俺は夏休みずーっと、暇なんだよ。だから本を読むか、庭いじりしかすることがないのさ」
ナマエはネビルに鰓昆布を託して、ガブリエルを安心させるようににっこり笑った。
「──さ、大丈夫。俺の用は済んだから、一緒に行こう」
ナマエは不安げなガブリエルの手を引いて歩き出した。マクゴナガル先生の部屋に着くと、先生は待ち侘びたように出迎えた。ナマエを見るなり、マクゴナガル先生は「おや、まあ」と言って咳払いをした。
「ミスター・ミョウジ──そうですね。なるほど、あなたでしたか。では、お入りなさい」
「アー、あの、俺はこの子を連れてきただけ──」
ナマエはそう言ってガブリエルを振り返ったが、ガブリエルは萎縮しきっているようだった。慣れない土地で、知らない人間ばかりのホグワーツで心細いのも無理はないだろうと思った。ナマエは自分の頭をガシガシ掻いて、小声でガブリエルに囁いた。
「アー、俺がいったん聞いてくるから、その辺で待っててくれる?」
ガブリエルはおずおずうなずいた。ナマエがマクゴナガル先生に続いて部屋に入ると、すでに先客がいた。
「ナマエじゃないか!」
「うん──?ええ?」
部屋には、ロン、ハーマイオニー、チョウ、そしてダンブルドアがいた。ロンがナマエを見るなり声を上げ、ハーマイオニーとチョウは驚いたようにナマエを見た。ダンブルドアは楽しげに笑っていた。マクゴナガル先生が全員を見渡して話し出した。
「さて、これで全員揃いました。明日の第二の課題、皆さんには代表選手の失い難い者として参加していただきます。──ディゴリーに、チャン。クラムにグレンジャー、デラクールにミョウジ。ポッターにウィーズリーです」
「待って、俺がフラーの人質?荷が重いですよ」
ナマエは、ガブリエルがマクゴナガル先生の部屋に呼び出された理由をようやく理解した。ロンが鼻を鳴らした。
「はん、フラーとお楽しみだったってわけだ」
「違う、とにかく──違う」
ナマエがハーマイオニーを見て言ったので、チョウが手で口元を押さえて笑った。マクゴナガル先生はコホン、と咳払いをした。
「──第二の課題は、湖で行われます。水中人を掻い潜って、一時間以内に人質を取り戻すというものです。あなたがたには、その人質役になってもらいます。もちろん、安全は万全を期しており、一時的に魔法で眠ってもらうだけです」
ナマエはガブリエルのことを話そうかと迷ったが、心細そうにしていたガブリエルに「今から人質として湖の中に沈んでくれ」と説得するのは気が引けた。ダンブルドアが続けた。
「わしがきみたちに魔法をかける。水面に顔を出すと目覚めるようにするので、それまでは眠っているのと同じ状態になるのじゃ」
「──あの、今から?今から眠るんですか?」
ナマエが口を挟んだ。
「はい、今から水中人の皆さんと一緒に最後の打ち合わせをします。安全確認をした上、眠りについてもらいます。何か、問題がおありですか?」
「いえ──あの──」
ハリーに鰓昆布のことを伝える暇はなさそうだった。それに、今こうして第二の課題の内容を聞かされた以上、代表選手に用があるという申し出は聞き入れられないだろうと、ナマエは観念した。
「えっと、……外にいるガブリエルを──馬車まで送ってやってください」
マクゴナガル先生がガブリエルを送り、ナマエたち人質はダンブルドアと湖に向かった。
湖の岸辺でダンブルドアが甲高い叫び声のような声を出すと、真っ黒な水面から
「では、準備が整ったようじゃ。諸君には少しの間、眠りについていただきたい」
ナマエたちはおずおず頷くと、ダンブルドアはにっこり笑って杖を上げた。ナマエは、ダンブルドアにどんな魔法をかけられるのだろうと考えているうちに、瞼が重くなり、意識を手放した。
──突然の光に目が眩んだ。ナマエは口から水をピュッと吐き出し、肺いっぱいに冷たい空気を吸い込んだ。スタンドの観衆が大騒ぎしていた。叫んだり、悲鳴を上げたり、総立ちになっているようだ。隣にはロンとハリーがいた。ロンは明るい陽射しに目をパチクリさせ、ハリーのほうを見て言った。
「ビショビショだな、こりゃ──あれ、何のためにナマエを連れてきたんだい?」
「フラーが現れなかったんだ。僕、ナマエを残しておけなかった」
ハリーがゼイゼイ言った。ナマエはぼうっとした頭を働かせた。第二の課題が終わったのだ。そして、ハリーは一人でロンとナマエの二人も救い出したらしい。──つまり、鰓昆布の作戦はうまくいったのだ。ナマエは興奮して水の中でハリーに抱きついた。
「ハリーっ!──すごい、鰓昆布はちゃんと効いたんだな!あはは!よかった!」
「ナマエっ──君、重いよ──!」
ハリーは危うく沈みそうになりながら喘いだ。だぶだぶのローブがハリーにのしかかっていた。
「ハリー、ドジだな」
ロンがハリーからナマエを引き剥がして、呆れたように言った。
「あの歌を真に受けたのか?ダンブルドアが僕たちを溺れさせるわけないだろ!」
「だけど、歌が──」
「制限時間内に君が間違いなく戻れるように歌ってただけなんだ!英雄気取りで、湖の底で時間をむだにしたんじゃないだろうな」
ハリーがむっとした顔をした。ナマエは手足をばたつかせながら口を挟んだ。
「──陸に上がろう、悪いけど俺っ、あんまり泳げないんだ」
ナマエは二人に引っ張ってもらい、岸に向かった。審査員が岸辺に立って眺めている。二十人の水中人が護衛兵のように三人につき添い、恐ろしい悲鳴のような歌を歌っていた。 マダム・ポンフリーが、せかせかと、ハーマイオニー、クラム、セドリック、チョウの世話をしているのが見えた。みんな厚い毛布に包まっている。ダンブルドアとルード・バグマンが岸辺から、近づいてくる三人にニッコリ笑いかけていた。しかし、パーシーは蒼白な顔で、なぜかいつもよりずっと幼く見えた。パーシーが水しぶきを上げてロンに駆け寄った。
「よくやったわ、ハリー!」
ハーマイオニーが叫んでいるのが聞こえた。
ダンブルドアは水際に屈み込んで、水中人と話し込んでいた。やっとダンブルドアが立ち上がり、審査員に向かってこう言った。
「どうやら、点数をつける前に、協議じゃ」
ナマエがもたもた岸に上がると、フラーがマダム・マクシームの制止を振り切って飛び出した。
「ナマエ!ナマエ!あなーた!怪我をしてないの?無事ですか?」
フラーが、ナマエを引っ張り上げ、両手でナマエの頬を包んだ。ガブリエルも泣きそうな顔でナマエに駆け寄った。
「妹の代わりになってくれーたのですね?ガブリエールに聞きました、ごめんなさい……わたし……水魔に襲われて……」
「大丈夫、大丈夫──気にしないで──なんとも──」
突然、視界からフラーの顔が消え、頬に柔らかいものが触れた。頬にキスをされたのだ。ナマエはそれを理解すると、顔が燃えるかと思うほど熱くなった。
よく見ると、フラーは顔や腕が切り傷だらけで、ローブは破れていたが、まったく気にかけない様子で、マダム・ポンフリーがきれいにしようとしても断った。
「この
フラーはそう言うと、今度はハリーのほうを見て、声を詰まらせた。
「あなたの
フラーは身を屈めて、ハリーの両頬に二回ずつキスした。それからフラーはロンに言った。
「それに、あなたもです──
「ちょっとだけね」
ロンは何か期待しているように見えた。フラーはロンの上に屈み込んで、ロンにもキスした。ハーマイオニーはプンプン怒っている顔だ。ナマエは、フラーがナマエにキスしたのを、ハーマイオニーは見ていただろうかと思った。しかしそのとき、ルード・バグマンの魔法で拡大された声がすぐそばで轟き、みんなが飛び上がった。スタンドの観衆はしんとなった。
「レディーズ アンド ジェントルメン。審査結果が出ました。水中人の女長、マーカスが、湖底で何があったかを仔細に話してくれました。そこで、50点満点で、各代表選手は次のような得点となりました……」
「ミス・デラクール。すばらしい『泡頭呪文』を使いましたが、水魔に襲われ、ゴールにたどり着けず、人質を取り返すことができませんでした。得点は25点」
スタンドから拍手が湧いた。
「わたーしは零点のいとです」
見事な髪の頭を横に振りながら、フラーが喉を詰まらせた。
「セドリック・ディゴリー君。やはり『泡頭呪文』を使い、最初に人質を連れて帰ってきました。ただし、制限時間の一時間を一分オーバー」
ハッフルパフから大きな声援が湧いた。
「そこで、47点を与えます」
「ビクトール・クラム君は変身術が中途半端でしたが、効果的なことには変わりありません。人質を連れ戻したのは二番目でした。得点は40点」
カルカロフが得意顔で、とびきり大きく拍手した。
「ハリー・ポッター君の『鰓昆布』はとくに効果が大きい」
ナマエは思わずハリーを見てニッコリした。バグマンの解説は続いた。
「戻ってきたのは最後でしたし、一時間の制限時間を大きくオーバーしていました。しかし、水中人の長の報告によれば、ポッター君は最初に人質に到着したとのことです。遅れたのは、自分の人質だけではなく、全部の人質を安全に戻らせようと決意したせいだとのことです。ほとんどの審査員が──」
と、ここでバグマンは、カルカロフをじろりと見た。
「これこそ道徳的な力を示すものであり、50点満点に値するとの意見でした。しかしながら……ポッター君の得点は45点です」
これで、ハリーはセドリックと同点一位になった。ナマエはハリーに笑いかけた。
「やったぜ、ハリー!」
ロンが歓声に負けじと声を張り上げた。
「君は結局まぬけじゃなかったんだ──道徳的な力を見せたんだ!」
フラーも大きな拍手を送っていた。しかし、クラムはまったくうれしそうではなかった。何とかハーマイオニーと話そうとしていた。
ハーマイオニーはハリーに声援を送るのに夢中で、クラムの話など耳に入らないようだったので、ナマエは少し安心した。
「第三の課題、最終課題は、六月二十四日の夕暮れ時に行われます」
引き続きバグマンの声がした。
「代表選手は、そのきっかり一ヵ月前に、課題の内容を知らされることになります。諸君、代表選手の応援をありがとう」
マダム・ポンフリーが濡れたみんなを引率して城へと歩き出した。ハリーはフラフラと疲れた様子でナマエのほうに歩いてきた。
「ナマエ、本当にありがとう……ネビルから聞いたんだ。君がくれた鰓昆布の使い方とか──」
「いや、全部あんたの力さ、ハリー」
二人は笑った。ナマエは、鰓昆布を託したのがネビルでよかったと心底思った。ハリーとナマエもみんなに続いて歩き出そうとすると、何かがナマエのローブを引っ張った。振り返ると、ガブリエルだった。ガブリエルはまだ泣きそうな顔でナマエを見上げていたので、ナマエはしゃがみ込んだ。
「うん、どうした?」
「わ、わ、わたし、ご、ごめんなさーい……ありがとう、ございまーす」
ガブリエルが顔を真っ赤にしながらつたない英語で言って、フラーがキスをした反対側の頬に、唇をちょんとつけた。ナマエは思わず赤くなってからはにかんだ。
「……アー、ぜんぜん。どういたしまして」
ガブリエルは突然恥ずかしくなったのか、フラーのところへ駆け戻っていった。ナマエにはその様子が、昔のジニーのように見えた。