炎のゴブレット
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⚡️──────
クリスマスの日、いよいよダンスパーティが今夜に迫っていた。
「ハーマイオニー──君、誰と一緒にパーティに行くんだい?」
大広間で昼食を終え、ロンが聞いた。ハーマイオニーがまったく予期していないときに聞けば、驚いた拍子に答えるのではないかと、ロンは何度も出し抜けにこの質問を繰り返していた。しかし、ハーマイオニーはただしかめっ面をしてこう答えた。
「教えないわ。どうせあなた、私をからかうだけだもの」
「冗談だろう、ウィーズリー?」
背後でマルフォイの声がした。
「誰かが、あんなモノをダンスパーティに誘った?出っ歯の『穢れた血』を?」
ハリーもロンも、さっと振り返った。ところがハーマイオニーは、マルフォイの背後の誰かに向かって手を振り、大声で言った。
「こんばんは、ナマエ!」
マルフォイが勢いよく振り返った。ナマエは遠くにいたが、ハーマイオニーの声に気がつくとにっこりして歩いてきた。そして、マルフォイの姿に気がつくと、咎めるような目でマルフォイを見た。
「よう──また何かつっかかってたんじゃないだろうな?」
「別に、お前に関係ないだろう」
マルフォイは誰とも目を合わせずに言った。ハーマイオニーはフンと鼻を鳴らした。
「あら、私のこと、なんと言ったかしら──たしか、『出っ歯』で──」
「こいつを誘う男なんかいないって、そう言ったんだ」
マルフォイは、さっきよりもかなり控えめな言い方をした。ナマエはため息をついてから笑った。
「それははずれだな。ここにいるんだし」
マルフォイはあんぐり口を開けた。ナマエは自嘲的に──ハリーにはそう見えた──ケラケラと笑った。
「あはは!でも、パートナーは別だ。俺の相手を聞きたいか、ドラコ──」
二人は話しながら歩いていってしまった。ハリーは、なんとなくナマエがハーマイオニーの前で無理やり明るく振る舞っているような気がした。
「あいつ、またマルフォイのやつと仲良くして、何がしたいんだ?最初は嫌ってたくせに」
ロンが不服そうに言った。
「そうかもしれないけど、逆よ」
ハーマイオニーが冷静に言った。
「マルフォイがナマエを気に入ってるのよ」
ハリーとロンは大広間の階段を踏み外しそうになった。ハーマイオニーは「そんなこともわからないの?」という顔で二人を見た。
「マルフォイはずる賢いじゃない。考えてみなさいよ、先生たちの前では絶対に私たちにあんな口聞かないわ」
「ナマエがマルフォイ坊やの先生だってこと?」
ロンが茶化した。
「違うわよ──マルフォイはナマエに嫌われたくないの」
ハリーは、なぜそこまで分析できるのに、ナマエの好意に気がつかないのだろうと思った。ハリーの目には、やはり明らかに、ナマエはハーマイオニーを意識していた。それとも、気づいた上で、女の子はみんな残酷なんだろうか。チョウはそうではありませんように、と心の奥で願って、胃が重くなった。
「ハーマイオニー」
ロンが横目でハーマイオニーを見ながら、急に顔をしかめた。
「君の歯……うーん、何だか違うぞ……たったいま気がついたけど……」
ハーマイオニーが悪戯っぽく笑った。すると、ハリーも気がついた。
「そう……マルフォイの『歯呪い』で伸びちゃったとき、マダム・ポンフリーのところに歯を縮めてもらったの。ポンフリー先生が鏡を持って、元の長さまで戻ったらストップと言いなさい、とおっしゃったの。そこで、私、ただ……少しだけ余分にやらせてあげたの」
ハリーを呪おうとしたマルフォイの呪文が、ハーマイオニーに当たってしまったことがあったのだった。ハリーは突然思い出した。
「ホグズミードでナマエが言ってたのは、それだったんだ!君がいつもと違うって」
ハリーが言うと、ハーマイオニーはニッコリ笑った。ハリーの覚えているハーマイオニーのニッコリとは全く違っていた。
三人で校庭に出た。まっさらな雪だ。ダームストラングやボーバトンの生徒たちが城に行き帰りする道だけが深い溝になっていた。ハーマイオニーは、ハリーとウィーズリー兄弟の雪合戦には加わらずに眺めていた。五時になると、ハーマイオニーはパーティの支度があるので部屋に戻ると言った。
「エーッ、三時間も要るのかよ?」
ロンが信じられないという顔でハーマイオニーを見た。
「誰と行くんだよー?」
ハーマイオニーの後ろからロンが叫んだが、ハーマイオニーはただ手を振って、石段を上がり城へと消えた。
ハリーはなんとか、グリフィンドールのパーバディ・パチルと、ロンのためにレイブンクローのパドマ・パチルをパートナーにすることに成功していた。ふたりとも同学年ではとびきり可愛い女の子だった。しかし、ロンはずっと上の空でハーマイオニーのことを気にしていた。
マクゴナガル先生に引率され、代表選手がパーティ会場の真ん中に集められた。人垣がさっと割れ、四組の生徒が前に進み出た。
セドリックとチョウもハリーの近くにいたが、ハリーは二人と話をしないですむように目を逸らしていた。その目が、ふとクラムの隣にいる女の子を捕らえた。ハリーの口があんぐり開いた。ハーマイオニーだった。しかし、ハリーの知っているハーマイオニーではなかった。ボサボサの頭は艶やかなシニヨンにまとめられ、薄青色のローブを纏っていた。重たい教科書から解放された姿勢はすっきりとして、そしてやはり前歯が小さくなったのがはっきりわかった。
「こんばんは、ハリー!こんばんは、パーバティ!」
ハーマイオニーが挨拶した。パーバティはあからさまに信じられないという顔で、ハーマイオニーを見つめていた。ハーマイオニーを見つけた全員が、同じ反応だった。
フラー・デラクールはシルバーグレーのサテンのパーティーローブをこの上なく見事に着こなしてた。隣には長い黒髪を三つ編みにして垂らしている男を連れていた。ハリーは再び自分の目を疑った。
「──ナマエ?」
フラーが連れていたのは、まぎれもなくナマエだった。ナマエのいつもの粗野な気さくさはなりをひそめ、きっちりと濃紺のドレスローブを着こなしていた。ほったらかしだった黒髪は綺麗にまとめられ、耳たぶには黒い小粒の宝石が輝いていた。普段のバタバタとした立ち振る舞いではなく、緊張気味にフラーをエスコートしていた。ナマエはハリーに気がつくと安心したように笑いかけ、気が抜けたのかフラーの足を踏みかけていた。
それでも、二人はつやつやと滑らかな髪を輝かせ、周囲の視線を奪っていた。ホグワーツに来てから不平たらたらだったフラーも、ナマエのドレスアップには満足げだった。
ただナマエのほうは、フラーに気づかれないように、ちらちらとハーマイオニーの方を見ていた。
ハリーはパーバディに引きまわされながらダンスを踊り終えると、パーバティとロン、パドマとテーブルについて休憩した。ロンは終始ハーマイオニーとクラムを睨んでいた。二人は夢中で会話をしながら食事を楽しんでいた。パドマは膨れっ面で足組みをして座っていた。
まもなく、パーバティがボーバトンの男の子にダンスを申し込まれて席を立ち、入れ違いにナマエがやってきた。
「よう」
ハリーとパドマはナマエを見上げた。ナマエは憎らしいほどかっこよかった。ロンは無視することに決めたらしく、顔を動かしもしなかった。ハリーはふと気がついた。ナマエがロンほどの背丈になっていた。
「ナマエ、いつもより──背が高くない?」
「フラーに『足伸ばしの呪文』を掛けられたんだ」
ナマエは不服そうに前髪を吹いた。ロンは何も言わずにむくれていた。
ナマエもロンと同じようにハーマイオニーとクラムを眺めた。二人は楽しそうに踊り続けていた。
「──じゃあ、ナマエ。今は一人なのね」
パドマがうずうずして言った。
「ああ、うん。一緒に踊る?……俺は下手みたいだけど……フラーは、俺が足を踏んだから、ロジャーに乗り換えたんだ」
「かまわないわ、教えてあげる」
ナマエはパドマとロンの様子をちらっと見てから、パドマに手を差し出した。パドマはウキウキとナマエの手を取り、ロンとハリーに一瞥もくれずに二人で立ち去っていった。
ロンはナマエの背中に悪態をついた。
「──あいつも結局、男だったってわけだ」
「え?」
ハリーはぽかんと聞き返した。
「ナマエだよ。ああやってスカしてるけど、結局、フラーを選んだんだ。そうだろ?あいつもヴィーラには抗えなかったんだ」
「アー……」
ハリーは否定も肯定もせず、曖昧に濁した。せっかくハリーの元に戻ってきたロンの神経を、これ以上逆撫でしたくはなかった。
ロンの言うように、ナマエに気があるそぶりをしていた女の子たちは、フラーを恨みがましい目で見ながら、ナマエにいかに見る目がないかを囁き合っていた。
曲が終わると、今度はハーマイオニーがやってきた。ダンスのせいで、頬が紅潮していた。
「やあ」
ハリーが言った。ロンは何も言わなかった。
「暑くない?」
ハーマイオニーは手で顔を扇ぎながら言った。
「ビクトールが何か飲み物を取りにいったところよ」
ロンが、じろりとハーマイオニーを睨めつけた。
「敵とベタベタして──ビクトールだって?あいつはカルカロフの生徒じゃないか?君が誰といつも一緒か、知ってる……あいつは君じゃなくて、ハリーに近づこうとしてるだけだ──ハリーの内部情報をつかもうとしてるか、それとも──」
ハーマイオニーはぽかんと口を開けた。
「──バカ言わないで!」
しばらくしてハーマイオニーが言った。
「敵ですって?──あの人が到着したとき、あんなに大騒ぎしてたのはどこのどなたさん?サインをほしがったのは誰なの?」
ロンは無視を決め込んだ。
「そもそも、この試合は、外国の魔法使いと知り合いになって、友達になることが目的のはずよ!」
ハーマイオニーが激しい口調で言った。
「違うね!勝つことが目的さ!」
ロンが叫んだ。周囲の目が集まりはじめた。
「ロン」
ハリーが静かに言った。
「ハーマイオニーがクラムと一緒に来たこと、僕、何とも思っちゃいないよ──」
しかし、ロンはハリーの言うことも無視した。
「行けよ。ビッキーを探しにさ」
ロンが言った。
「あの人をビッキーなんて呼ばないで!」
ハーマイオニーはパッと立ち上がり、憤然とダンスフロアを横切り、人混みの中に消えた。 ロンはハーマイオニーの後ろ姿を、怒りと満足の入り交じった顔で見つめていた。
ハリーは内心ではなんとなく、ハーマイオニーとナマエがパートナーにならなかったことに安心していた。ロン、ナマエ、ハーマイオニーの友情に亀裂が入ることを危惧していたのだ。しかし、今思えば……ロンの激情は、ハーマイオニーが誰と踊っていようと湧き起こっていただろうと、そう思った。
クリスマスの日、いよいよダンスパーティが今夜に迫っていた。
「ハーマイオニー──君、誰と一緒にパーティに行くんだい?」
大広間で昼食を終え、ロンが聞いた。ハーマイオニーがまったく予期していないときに聞けば、驚いた拍子に答えるのではないかと、ロンは何度も出し抜けにこの質問を繰り返していた。しかし、ハーマイオニーはただしかめっ面をしてこう答えた。
「教えないわ。どうせあなた、私をからかうだけだもの」
「冗談だろう、ウィーズリー?」
背後でマルフォイの声がした。
「誰かが、あんなモノをダンスパーティに誘った?出っ歯の『穢れた血』を?」
ハリーもロンも、さっと振り返った。ところがハーマイオニーは、マルフォイの背後の誰かに向かって手を振り、大声で言った。
「こんばんは、ナマエ!」
マルフォイが勢いよく振り返った。ナマエは遠くにいたが、ハーマイオニーの声に気がつくとにっこりして歩いてきた。そして、マルフォイの姿に気がつくと、咎めるような目でマルフォイを見た。
「よう──また何かつっかかってたんじゃないだろうな?」
「別に、お前に関係ないだろう」
マルフォイは誰とも目を合わせずに言った。ハーマイオニーはフンと鼻を鳴らした。
「あら、私のこと、なんと言ったかしら──たしか、『出っ歯』で──」
「こいつを誘う男なんかいないって、そう言ったんだ」
マルフォイは、さっきよりもかなり控えめな言い方をした。ナマエはため息をついてから笑った。
「それははずれだな。ここにいるんだし」
マルフォイはあんぐり口を開けた。ナマエは自嘲的に──ハリーにはそう見えた──ケラケラと笑った。
「あはは!でも、パートナーは別だ。俺の相手を聞きたいか、ドラコ──」
二人は話しながら歩いていってしまった。ハリーは、なんとなくナマエがハーマイオニーの前で無理やり明るく振る舞っているような気がした。
「あいつ、またマルフォイのやつと仲良くして、何がしたいんだ?最初は嫌ってたくせに」
ロンが不服そうに言った。
「そうかもしれないけど、逆よ」
ハーマイオニーが冷静に言った。
「マルフォイがナマエを気に入ってるのよ」
ハリーとロンは大広間の階段を踏み外しそうになった。ハーマイオニーは「そんなこともわからないの?」という顔で二人を見た。
「マルフォイはずる賢いじゃない。考えてみなさいよ、先生たちの前では絶対に私たちにあんな口聞かないわ」
「ナマエがマルフォイ坊やの先生だってこと?」
ロンが茶化した。
「違うわよ──マルフォイはナマエに嫌われたくないの」
ハリーは、なぜそこまで分析できるのに、ナマエの好意に気がつかないのだろうと思った。ハリーの目には、やはり明らかに、ナマエはハーマイオニーを意識していた。それとも、気づいた上で、女の子はみんな残酷なんだろうか。チョウはそうではありませんように、と心の奥で願って、胃が重くなった。
「ハーマイオニー」
ロンが横目でハーマイオニーを見ながら、急に顔をしかめた。
「君の歯……うーん、何だか違うぞ……たったいま気がついたけど……」
ハーマイオニーが悪戯っぽく笑った。すると、ハリーも気がついた。
「そう……マルフォイの『歯呪い』で伸びちゃったとき、マダム・ポンフリーのところに歯を縮めてもらったの。ポンフリー先生が鏡を持って、元の長さまで戻ったらストップと言いなさい、とおっしゃったの。そこで、私、ただ……少しだけ余分にやらせてあげたの」
ハリーを呪おうとしたマルフォイの呪文が、ハーマイオニーに当たってしまったことがあったのだった。ハリーは突然思い出した。
「ホグズミードでナマエが言ってたのは、それだったんだ!君がいつもと違うって」
ハリーが言うと、ハーマイオニーはニッコリ笑った。ハリーの覚えているハーマイオニーのニッコリとは全く違っていた。
三人で校庭に出た。まっさらな雪だ。ダームストラングやボーバトンの生徒たちが城に行き帰りする道だけが深い溝になっていた。ハーマイオニーは、ハリーとウィーズリー兄弟の雪合戦には加わらずに眺めていた。五時になると、ハーマイオニーはパーティの支度があるので部屋に戻ると言った。
「エーッ、三時間も要るのかよ?」
ロンが信じられないという顔でハーマイオニーを見た。
「誰と行くんだよー?」
ハーマイオニーの後ろからロンが叫んだが、ハーマイオニーはただ手を振って、石段を上がり城へと消えた。
ハリーはなんとか、グリフィンドールのパーバディ・パチルと、ロンのためにレイブンクローのパドマ・パチルをパートナーにすることに成功していた。ふたりとも同学年ではとびきり可愛い女の子だった。しかし、ロンはずっと上の空でハーマイオニーのことを気にしていた。
マクゴナガル先生に引率され、代表選手がパーティ会場の真ん中に集められた。人垣がさっと割れ、四組の生徒が前に進み出た。
セドリックとチョウもハリーの近くにいたが、ハリーは二人と話をしないですむように目を逸らしていた。その目が、ふとクラムの隣にいる女の子を捕らえた。ハリーの口があんぐり開いた。ハーマイオニーだった。しかし、ハリーの知っているハーマイオニーではなかった。ボサボサの頭は艶やかなシニヨンにまとめられ、薄青色のローブを纏っていた。重たい教科書から解放された姿勢はすっきりとして、そしてやはり前歯が小さくなったのがはっきりわかった。
「こんばんは、ハリー!こんばんは、パーバティ!」
ハーマイオニーが挨拶した。パーバティはあからさまに信じられないという顔で、ハーマイオニーを見つめていた。ハーマイオニーを見つけた全員が、同じ反応だった。
フラー・デラクールはシルバーグレーのサテンのパーティーローブをこの上なく見事に着こなしてた。隣には長い黒髪を三つ編みにして垂らしている男を連れていた。ハリーは再び自分の目を疑った。
「──ナマエ?」
フラーが連れていたのは、まぎれもなくナマエだった。ナマエのいつもの粗野な気さくさはなりをひそめ、きっちりと濃紺のドレスローブを着こなしていた。ほったらかしだった黒髪は綺麗にまとめられ、耳たぶには黒い小粒の宝石が輝いていた。普段のバタバタとした立ち振る舞いではなく、緊張気味にフラーをエスコートしていた。ナマエはハリーに気がつくと安心したように笑いかけ、気が抜けたのかフラーの足を踏みかけていた。
それでも、二人はつやつやと滑らかな髪を輝かせ、周囲の視線を奪っていた。ホグワーツに来てから不平たらたらだったフラーも、ナマエのドレスアップには満足げだった。
ただナマエのほうは、フラーに気づかれないように、ちらちらとハーマイオニーの方を見ていた。
ハリーはパーバディに引きまわされながらダンスを踊り終えると、パーバティとロン、パドマとテーブルについて休憩した。ロンは終始ハーマイオニーとクラムを睨んでいた。二人は夢中で会話をしながら食事を楽しんでいた。パドマは膨れっ面で足組みをして座っていた。
まもなく、パーバティがボーバトンの男の子にダンスを申し込まれて席を立ち、入れ違いにナマエがやってきた。
「よう」
ハリーとパドマはナマエを見上げた。ナマエは憎らしいほどかっこよかった。ロンは無視することに決めたらしく、顔を動かしもしなかった。ハリーはふと気がついた。ナマエがロンほどの背丈になっていた。
「ナマエ、いつもより──背が高くない?」
「フラーに『足伸ばしの呪文』を掛けられたんだ」
ナマエは不服そうに前髪を吹いた。ロンは何も言わずにむくれていた。
ナマエもロンと同じようにハーマイオニーとクラムを眺めた。二人は楽しそうに踊り続けていた。
「──じゃあ、ナマエ。今は一人なのね」
パドマがうずうずして言った。
「ああ、うん。一緒に踊る?……俺は下手みたいだけど……フラーは、俺が足を踏んだから、ロジャーに乗り換えたんだ」
「かまわないわ、教えてあげる」
ナマエはパドマとロンの様子をちらっと見てから、パドマに手を差し出した。パドマはウキウキとナマエの手を取り、ロンとハリーに一瞥もくれずに二人で立ち去っていった。
ロンはナマエの背中に悪態をついた。
「──あいつも結局、男だったってわけだ」
「え?」
ハリーはぽかんと聞き返した。
「ナマエだよ。ああやってスカしてるけど、結局、フラーを選んだんだ。そうだろ?あいつもヴィーラには抗えなかったんだ」
「アー……」
ハリーは否定も肯定もせず、曖昧に濁した。せっかくハリーの元に戻ってきたロンの神経を、これ以上逆撫でしたくはなかった。
ロンの言うように、ナマエに気があるそぶりをしていた女の子たちは、フラーを恨みがましい目で見ながら、ナマエにいかに見る目がないかを囁き合っていた。
曲が終わると、今度はハーマイオニーがやってきた。ダンスのせいで、頬が紅潮していた。
「やあ」
ハリーが言った。ロンは何も言わなかった。
「暑くない?」
ハーマイオニーは手で顔を扇ぎながら言った。
「ビクトールが何か飲み物を取りにいったところよ」
ロンが、じろりとハーマイオニーを睨めつけた。
「敵とベタベタして──ビクトールだって?あいつはカルカロフの生徒じゃないか?君が誰といつも一緒か、知ってる……あいつは君じゃなくて、ハリーに近づこうとしてるだけだ──ハリーの内部情報をつかもうとしてるか、それとも──」
ハーマイオニーはぽかんと口を開けた。
「──バカ言わないで!」
しばらくしてハーマイオニーが言った。
「敵ですって?──あの人が到着したとき、あんなに大騒ぎしてたのはどこのどなたさん?サインをほしがったのは誰なの?」
ロンは無視を決め込んだ。
「そもそも、この試合は、外国の魔法使いと知り合いになって、友達になることが目的のはずよ!」
ハーマイオニーが激しい口調で言った。
「違うね!勝つことが目的さ!」
ロンが叫んだ。周囲の目が集まりはじめた。
「ロン」
ハリーが静かに言った。
「ハーマイオニーがクラムと一緒に来たこと、僕、何とも思っちゃいないよ──」
しかし、ロンはハリーの言うことも無視した。
「行けよ。ビッキーを探しにさ」
ロンが言った。
「あの人をビッキーなんて呼ばないで!」
ハーマイオニーはパッと立ち上がり、憤然とダンスフロアを横切り、人混みの中に消えた。 ロンはハーマイオニーの後ろ姿を、怒りと満足の入り交じった顔で見つめていた。
ハリーは内心ではなんとなく、ハーマイオニーとナマエがパートナーにならなかったことに安心していた。ロン、ナマエ、ハーマイオニーの友情に亀裂が入ることを危惧していたのだ。しかし、今思えば……ロンの激情は、ハーマイオニーが誰と踊っていようと湧き起こっていただろうと、そう思った。