炎のゴブレット
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌日の日曜日、マイケルたちと朝食をとった後、大広間を出るとハリーが緊迫した雰囲気で待ち構えていた。マイケルたちはハリーに冷たい視線を浴びせたが、ハリーはかまわずナマエとハーマイオニーを引っ張って校庭に出た。
「第一の課題はドラゴンだ」
「ドラゴン?」
「昨日の夜、ハグリッドが見せてくれた。営巣中の、気が立ってるドラゴンが四頭いた」
ハーマイオニーとナマエは息を呑んだ。ハリーは続けた。
「それと──昨日、シリウスと談話室で話したんだ。談話室の暖炉で……それで、ナマエ」
ナマエは唐突に名指しされ、きょとんとハリーを見た。
「シリウスは今、君の家にいるらしい。君のパパがシリウスを匿ってくれているんだって」
「まさか──本当か?」
ナマエもハーマイオニーも目を丸くした。
「ウン。君のパパは、ヴォ──例のあの人が復活しようとしてると思って、それを阻止するためにいろいろ動いてるみたいだって、シリウスは言ってた。それで、家もずっと空けてるって──」
「だから、俺との約束をすっぽかしたことは許してやってくれってことだな。オーケー、了解」
ナマエはできるだけ苛立ちを抑えようと努めたが、乱暴に会話を切り上げることしかできなかった。ハーマイオニーは気遣わしげにナマエを見た。ナマエは無理やり笑った。
「ドラゴンのことを考えよう、ハリーが火曜の夜も生きてることの方が大事だ」
三人はその足で図書館に向かって、ドラゴンに関する本を読み漁った。
「『鉤爪を切る呪文……腐った鱗の治療』……だめだ。こんなのは、ドラゴンの健康管理をしたがるハグリッドみたいな変り者用だ……」
ハリーは「ドラゴンを愛しすぎる男たち」の本をポイッと放った。
「『ドラゴンを殺すのは極めて難しい。古代の魔法が、ドラゴンの分厚い皮に浸透したことにより、最強の呪文以外は、どんな呪文もその皮を貫くことはできない』……」
ハーマイオニーが読み上げると、ハリーはうなだれて投げやりにナマエに言った。
「ねえ、君ならどうする?『来週、ドラゴンと戦え』って言われたらさ」
ナマエはドラゴンと聞いてからずっと考えていたことをゆっくり咀嚼しながら口に出した。
「俺なら──いや、俺があんた なら……」
ナマエは開いていた本を閉じて、顎に手を当てた。
「まず、これはドラゴンを倒す競技じゃないと思う。貴重な魔法生物を四体──しかも営巣中のドラゴンを学生に倒させるなんて、現実的じゃない……」
「どういうことなの?」
ハーマイオニーも顔を上げた。
「きっと、ドラゴンを出し抜きゃいいだけだ。つまり……ドラゴンは営巣中だから──卵とか、そういうものを守ってるんじゃないかって……真正面から戦う必要はない……と、思う」
ナマエはハリーを見た。
「俺ならできないけど、あんたなら──ハリー、あんたにとって、ドラゴンを避けながらじっと地面に置いてある卵を取るのなんて、朝飯前だろ?」
ハリーはナマエの作戦に目を輝かせていたが、気落ちしたように歯を食いしばって言った。
「課題には杖しか持って行けない、箒は持ち込めないんだ」
「だから、杖があれば箒は呼び寄せられるだろう?」
ナマエがじれったそうに言うと、ハリーはさらにがっくりとうなだれた。ハーマイオニーは一瞬はっとしてから、苦い顔でハリーを見た。ナマエは驚いて目を見開いた。
「──まさか、『呼び寄せ呪文』は習っただろう。四年生になって一番最初に──」
「そうだね、本当。君はずいぶん前から使ってたから、四年生の呪文だと知らないのかと思ってた」
ハリーはイライラして言った。ナマエは肩をすくめた。我ながらよい案だと思ったのだ。すると、ハーマイオニーが急にトゲトゲした声を出した。
「ああ!いやだ。またあの人だわ。どうして自分のボロ船で読書しないのかしら?」
見ると、ビクトール・クラムが入ってくるところだった。いつもの前屈みで、むっつりと三人を見て、本の山と一緒に遠くの隅に座った。
「わたし、談話室に戻るわ……。あの人のファンクラブがすぐ来るもの。ピーチクパーチクって……」
そして、そのとおり、三人が図書室を出るとき、女子生徒の一団が、忍び足でクスクス笑いながらやってきた。
それから一週間、ハリーはやはりナマエの作戦通りに「呼び寄せ呪文」を使うことに決め、呪文の練習を始めた。ハーマイオニーとナマエが空き時間の全部を使ってハリーのコーチをした。ハリーは焦りと睡眠不足で見ていられない有様だったが、確実に呪文は上達していた。ハエ一匹動かせなかったハリーだが、試合の前日にはには重たい辞書を引き寄せられるようになっていた。
「集中すれば絶対にファイアボルトを呼び寄せられるわ!」
「大丈夫、できるさ。あんたは睡眠が必要なだけだ」
いよいよ第一の課題当日になった。ナマエとハーマイオニーはハリーを激励した。ハリーは青ざめた顔でこっくり頷いて、マクゴナガル先生に連れられて行った。
禁じられた森のそばに囲い地が建てられ、試合のための競技場が生まれていた。ナマエはハーマイオニーと一緒に競技場に向かった。ハーマイオニーも恐怖で顔が引き攣っていた。
「ナマエ!」
ざわめきの中から名前を呼ぶ声がした。ナマエは思わず振り返ったが、すぐに前を向き直した──声の主は、父親のチチオヤだった。
「ナマエ、いいの?」
「いい」
ハーマイオニーは一瞬、ロンとハリーを見るときの顔をしてから、ちらりと後ろを振り返って「あっ」と声を上げた。ナマエの肩に手が置かれた。
「──ナマエ、話がある」
チチオヤだ。珍しく息を切らせていた。ナマエはチチオヤの手を振り解いて、吐き捨てた。
「……俺もあったけど、今は無い」
ナマエは怒りがまた沸々湧いてくるのを感じた。ハーマイオニーは心配そうに二人を見つめた。チチオヤはちらっと辺りを見た。生徒たちがじろじろとナマエたちを見ながら通り過ぎていった。
「土曜はすまなかった」
チチオヤは周りを気にして宥めるように言った。息子が癇癪を起こすとでも思っているのだろうか、本当にそうしてやろうかと思いながらナマエは歯噛みした。
「……ハーマイオニー、先に行ってて。ごめん」
「いいのよ」
ハーマイオニーはチチオヤに会釈してさっと観客席に向かった。チチオヤは顎でしゃくってナマエについてくるよう促した。
二人は囲い地を出て、禁じられた森のそばを歩いた。観衆の興奮したざわめきを背後に感じたが、森のそばはしんとしていた。
ナマエは立ち止まって沈黙を破った。
「テントにいなくていいのか」
「ああ──少ししたら向かう。だが、校医がいればひとまずは問題無い」
チチオヤは疲れているように見えた。ハリーがシリウスに聞いた通り、「例のあの人」のことで何かあったのだろうか。ナマエがチチオヤを観察していると、同じようにナマエを見ていたチチオヤがふと呟いた。
「髪が伸びた。母親に似てきたな」
「……わからない、見たことないから」
ナマエは「みぞの鏡」でしか母親を見たことがなかった。それが本当に母親の姿なのかもわからなかった。
チチオヤはなにか言いかけて、口を閉じた。すらりと杖を抜き、杖先を自分のこめかみに当てて目を閉じた。ゆっくりと杖を離すと、細長い銀の糸のようなものが杖先に漂った。ナマエはチチオヤの行動に目を細めた。
「……何?」
「私の記憶 だ」
チチオヤはポケットから小瓶を取り出して、銀の糸を慎重にしまった。
「ダンブルドアに頼んである、これを持って校長を訪ねなさい。私の記憶を見ることができる」
ナマエは眉を顰めたまま、黙って小瓶を受け取った。チチオヤはふうとため息をついて頭に手を当てた。
「私は本来なら口が上手いはずだが、お前にはそれができない」
ナマエは、ドラコがナマエに同じことを言ったのを思い出した。思わず眉根が緩んだ。はじめて、父親に親近感を覚えた。
ナマエが黙って立ち尽くしていると、チチオヤが話し出した。
「……お前が庇った犬はうちで預かってるが、どうも立場を忘れて家を飛び出しかねん。──ハリー・ポッターはやり遂げられそうか?」
シリウスのことだとナマエは思った。父親が世間話のようにナマエの友人の話をするのを奇妙な気持ちで聞いた。
「……うん、大丈夫だと思う」
ナマエがそう答えると、囲い地から爆発的な歓声が響いてきた。試合が始まったのだ。
「さて──戻るぞ」
チチオヤとナマエは来た道を、先ほどよりもゆっくり戻った。ナマエは、早くこうしたかったような不思議な気持ちで小瓶をポケットに入れた。囲い地の近くまで来ると、唸るような風の音が聞こえ、ナマエの頭上を何かが飛び去って行った。間違いない、あれは──ハリーのファイアボルトだ。
ナマエは急いで競技場に戻って、観客席を駆け上がった。すると、爆発的な歓声が湧き起こった。バクマンの興奮した実況が聞こえた。
「──やりました!最年少の代表選手が、最短時間で卵を取りました!」
観客は声をかぎりに叫び、拍手喝采している。頭上高くにファイアボルトにまたがるハリーがいた──金の卵を抱えて。
競技が終わり、ナマエは城に戻る観客の流れに逆らって、ハリーがいるテントに向かった。すると、突然わんわん泣いているハーマイオニーが飛び出してきた。ナマエは狼狽した。
「な、ど──どうしたんだ」
「ロンとハリーが仲直りしたの!二人とも、本当に大バカなんだから!」
ハーマイオニーはナマエの胸でしゃくりあげた。ナマエは複雑な気持ちで固まっていると、テントからロンが出てきた。
「狂ってるぜ」
ロンがハーマイオニーを見て言った。ナマエは眉を下げて笑った。すぐにハリーもテントから出てきた。服が少し破れていたが、嬉しそうな顔をしていた。ナマエも嬉しい気持ちで言った。
「やったな、ハリー!クラムと同点で、一位だぜ」
「──まさか、本当に?」
「やったぜ、ハリー!君が優勝できるって、僕、そう思う!」
ロンが今までの態度を埋め合わせるように言った。ナマエも言った。
「本当にすごいよ、ワールドカップみたいな歓声だった。あんたが実力でひっくり返したんだ」
「君のアイデアのおかげだ」
ハリーは嬉しそうに、すこし照れたように言った。テントからまた一人出てきた。ムーディ先生だった。傷だらけの顔には満足そうな笑みが浮かんでいた。「よくやった」とハリーの肩を叩いて、城の方に歩いた。
「いい考えだった」
ムーディはナマエとのすれ違いざまにそう言って、ハリーにしたようにナマエの肩を優しく叩き、コツッコツッと歩いて行った。
ムーディは闇祓いだけでなく、案外、父親の才能もあるのかもしれないと、ふと思った。
「第一の課題はドラゴンだ」
「ドラゴン?」
「昨日の夜、ハグリッドが見せてくれた。営巣中の、気が立ってるドラゴンが四頭いた」
ハーマイオニーとナマエは息を呑んだ。ハリーは続けた。
「それと──昨日、シリウスと談話室で話したんだ。談話室の暖炉で……それで、ナマエ」
ナマエは唐突に名指しされ、きょとんとハリーを見た。
「シリウスは今、君の家にいるらしい。君のパパがシリウスを匿ってくれているんだって」
「まさか──本当か?」
ナマエもハーマイオニーも目を丸くした。
「ウン。君のパパは、ヴォ──例のあの人が復活しようとしてると思って、それを阻止するためにいろいろ動いてるみたいだって、シリウスは言ってた。それで、家もずっと空けてるって──」
「だから、俺との約束をすっぽかしたことは許してやってくれってことだな。オーケー、了解」
ナマエはできるだけ苛立ちを抑えようと努めたが、乱暴に会話を切り上げることしかできなかった。ハーマイオニーは気遣わしげにナマエを見た。ナマエは無理やり笑った。
「ドラゴンのことを考えよう、ハリーが火曜の夜も生きてることの方が大事だ」
三人はその足で図書館に向かって、ドラゴンに関する本を読み漁った。
「『鉤爪を切る呪文……腐った鱗の治療』……だめだ。こんなのは、ドラゴンの健康管理をしたがるハグリッドみたいな変り者用だ……」
ハリーは「ドラゴンを愛しすぎる男たち」の本をポイッと放った。
「『ドラゴンを殺すのは極めて難しい。古代の魔法が、ドラゴンの分厚い皮に浸透したことにより、最強の呪文以外は、どんな呪文もその皮を貫くことはできない』……」
ハーマイオニーが読み上げると、ハリーはうなだれて投げやりにナマエに言った。
「ねえ、君ならどうする?『来週、ドラゴンと戦え』って言われたらさ」
ナマエはドラゴンと聞いてからずっと考えていたことをゆっくり咀嚼しながら口に出した。
「俺なら──いや、俺が
ナマエは開いていた本を閉じて、顎に手を当てた。
「まず、これはドラゴンを倒す競技じゃないと思う。貴重な魔法生物を四体──しかも営巣中のドラゴンを学生に倒させるなんて、現実的じゃない……」
「どういうことなの?」
ハーマイオニーも顔を上げた。
「きっと、ドラゴンを出し抜きゃいいだけだ。つまり……ドラゴンは営巣中だから──卵とか、そういうものを守ってるんじゃないかって……真正面から戦う必要はない……と、思う」
ナマエはハリーを見た。
「俺ならできないけど、あんたなら──ハリー、あんたにとって、ドラゴンを避けながらじっと地面に置いてある卵を取るのなんて、朝飯前だろ?」
ハリーはナマエの作戦に目を輝かせていたが、気落ちしたように歯を食いしばって言った。
「課題には杖しか持って行けない、箒は持ち込めないんだ」
「だから、杖があれば箒は呼び寄せられるだろう?」
ナマエがじれったそうに言うと、ハリーはさらにがっくりとうなだれた。ハーマイオニーは一瞬はっとしてから、苦い顔でハリーを見た。ナマエは驚いて目を見開いた。
「──まさか、『呼び寄せ呪文』は習っただろう。四年生になって一番最初に──」
「そうだね、本当。君はずいぶん前から使ってたから、四年生の呪文だと知らないのかと思ってた」
ハリーはイライラして言った。ナマエは肩をすくめた。我ながらよい案だと思ったのだ。すると、ハーマイオニーが急にトゲトゲした声を出した。
「ああ!いやだ。またあの人だわ。どうして自分のボロ船で読書しないのかしら?」
見ると、ビクトール・クラムが入ってくるところだった。いつもの前屈みで、むっつりと三人を見て、本の山と一緒に遠くの隅に座った。
「わたし、談話室に戻るわ……。あの人のファンクラブがすぐ来るもの。ピーチクパーチクって……」
そして、そのとおり、三人が図書室を出るとき、女子生徒の一団が、忍び足でクスクス笑いながらやってきた。
それから一週間、ハリーはやはりナマエの作戦通りに「呼び寄せ呪文」を使うことに決め、呪文の練習を始めた。ハーマイオニーとナマエが空き時間の全部を使ってハリーのコーチをした。ハリーは焦りと睡眠不足で見ていられない有様だったが、確実に呪文は上達していた。ハエ一匹動かせなかったハリーだが、試合の前日にはには重たい辞書を引き寄せられるようになっていた。
「集中すれば絶対にファイアボルトを呼び寄せられるわ!」
「大丈夫、できるさ。あんたは睡眠が必要なだけだ」
いよいよ第一の課題当日になった。ナマエとハーマイオニーはハリーを激励した。ハリーは青ざめた顔でこっくり頷いて、マクゴナガル先生に連れられて行った。
禁じられた森のそばに囲い地が建てられ、試合のための競技場が生まれていた。ナマエはハーマイオニーと一緒に競技場に向かった。ハーマイオニーも恐怖で顔が引き攣っていた。
「ナマエ!」
ざわめきの中から名前を呼ぶ声がした。ナマエは思わず振り返ったが、すぐに前を向き直した──声の主は、父親のチチオヤだった。
「ナマエ、いいの?」
「いい」
ハーマイオニーは一瞬、ロンとハリーを見るときの顔をしてから、ちらりと後ろを振り返って「あっ」と声を上げた。ナマエの肩に手が置かれた。
「──ナマエ、話がある」
チチオヤだ。珍しく息を切らせていた。ナマエはチチオヤの手を振り解いて、吐き捨てた。
「……俺もあったけど、今は無い」
ナマエは怒りがまた沸々湧いてくるのを感じた。ハーマイオニーは心配そうに二人を見つめた。チチオヤはちらっと辺りを見た。生徒たちがじろじろとナマエたちを見ながら通り過ぎていった。
「土曜はすまなかった」
チチオヤは周りを気にして宥めるように言った。息子が癇癪を起こすとでも思っているのだろうか、本当にそうしてやろうかと思いながらナマエは歯噛みした。
「……ハーマイオニー、先に行ってて。ごめん」
「いいのよ」
ハーマイオニーはチチオヤに会釈してさっと観客席に向かった。チチオヤは顎でしゃくってナマエについてくるよう促した。
二人は囲い地を出て、禁じられた森のそばを歩いた。観衆の興奮したざわめきを背後に感じたが、森のそばはしんとしていた。
ナマエは立ち止まって沈黙を破った。
「テントにいなくていいのか」
「ああ──少ししたら向かう。だが、校医がいればひとまずは問題無い」
チチオヤは疲れているように見えた。ハリーがシリウスに聞いた通り、「例のあの人」のことで何かあったのだろうか。ナマエがチチオヤを観察していると、同じようにナマエを見ていたチチオヤがふと呟いた。
「髪が伸びた。母親に似てきたな」
「……わからない、見たことないから」
ナマエは「みぞの鏡」でしか母親を見たことがなかった。それが本当に母親の姿なのかもわからなかった。
チチオヤはなにか言いかけて、口を閉じた。すらりと杖を抜き、杖先を自分のこめかみに当てて目を閉じた。ゆっくりと杖を離すと、細長い銀の糸のようなものが杖先に漂った。ナマエはチチオヤの行動に目を細めた。
「……何?」
「私の
チチオヤはポケットから小瓶を取り出して、銀の糸を慎重にしまった。
「ダンブルドアに頼んである、これを持って校長を訪ねなさい。私の記憶を見ることができる」
ナマエは眉を顰めたまま、黙って小瓶を受け取った。チチオヤはふうとため息をついて頭に手を当てた。
「私は本来なら口が上手いはずだが、お前にはそれができない」
ナマエは、ドラコがナマエに同じことを言ったのを思い出した。思わず眉根が緩んだ。はじめて、父親に親近感を覚えた。
ナマエが黙って立ち尽くしていると、チチオヤが話し出した。
「……お前が庇った犬はうちで預かってるが、どうも立場を忘れて家を飛び出しかねん。──ハリー・ポッターはやり遂げられそうか?」
シリウスのことだとナマエは思った。父親が世間話のようにナマエの友人の話をするのを奇妙な気持ちで聞いた。
「……うん、大丈夫だと思う」
ナマエがそう答えると、囲い地から爆発的な歓声が響いてきた。試合が始まったのだ。
「さて──戻るぞ」
チチオヤとナマエは来た道を、先ほどよりもゆっくり戻った。ナマエは、早くこうしたかったような不思議な気持ちで小瓶をポケットに入れた。囲い地の近くまで来ると、唸るような風の音が聞こえ、ナマエの頭上を何かが飛び去って行った。間違いない、あれは──ハリーのファイアボルトだ。
ナマエは急いで競技場に戻って、観客席を駆け上がった。すると、爆発的な歓声が湧き起こった。バクマンの興奮した実況が聞こえた。
「──やりました!最年少の代表選手が、最短時間で卵を取りました!」
観客は声をかぎりに叫び、拍手喝采している。頭上高くにファイアボルトにまたがるハリーがいた──金の卵を抱えて。
競技が終わり、ナマエは城に戻る観客の流れに逆らって、ハリーがいるテントに向かった。すると、突然わんわん泣いているハーマイオニーが飛び出してきた。ナマエは狼狽した。
「な、ど──どうしたんだ」
「ロンとハリーが仲直りしたの!二人とも、本当に大バカなんだから!」
ハーマイオニーはナマエの胸でしゃくりあげた。ナマエは複雑な気持ちで固まっていると、テントからロンが出てきた。
「狂ってるぜ」
ロンがハーマイオニーを見て言った。ナマエは眉を下げて笑った。すぐにハリーもテントから出てきた。服が少し破れていたが、嬉しそうな顔をしていた。ナマエも嬉しい気持ちで言った。
「やったな、ハリー!クラムと同点で、一位だぜ」
「──まさか、本当に?」
「やったぜ、ハリー!君が優勝できるって、僕、そう思う!」
ロンが今までの態度を埋め合わせるように言った。ナマエも言った。
「本当にすごいよ、ワールドカップみたいな歓声だった。あんたが実力でひっくり返したんだ」
「君のアイデアのおかげだ」
ハリーは嬉しそうに、すこし照れたように言った。テントからまた一人出てきた。ムーディ先生だった。傷だらけの顔には満足そうな笑みが浮かんでいた。「よくやった」とハリーの肩を叩いて、城の方に歩いた。
「いい考えだった」
ムーディはナマエとのすれ違いざまにそう言って、ハリーにしたようにナマエの肩を優しく叩き、コツッコツッと歩いて行った。
ムーディは闇祓いだけでなく、案外、父親の才能もあるのかもしれないと、ふと思った。