炎のゴブレット
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「卑劣だな、許せないよ」
「年齢線を越えないといけないし──そもそも、ホグワーツから二人も選ばれるはずがないよ」
「四校目の代表だと思わせたとか?そしたら、ハリーしかいないんだからあいつが選ばれるに決まってる」
「四年生がそんな呪文、使えるわけないよ」
代表選手発表の翌日、朝食の席ではハリーがどうやって炎のゴブレットを出し抜いたかの話題で持ちきりだった。ナマエたちはトーストをかじりながら、レイブンクローの上級生たちの議論を聞いていた。
「ありえない、ありえないだろ……」
「貧乏ゆすりはやめろよ、ナマエ。君にできないことがハリーにできることだってあるさ──」
「ハリーが名前を入れたわけないだろう!」
マイケルがからかうようになだめたので、ナマエは言い返した。思いのほか大きな声が出たので、罰が悪くなり立ち上がった。
「……ハリーを探してくる」
ナマエは大広間の出口に向かった。ハリーはグリフィンドールのテーブルにいなかったのだ。背後でマイケルがイライラしたようにため息をついたのが聞こえた。
大広間を出た途端、一羽の茶ふくろうがナマエの顔面に手紙を落とした。ナマエは頭を振って手紙を拾い上げ、急いで開いた。予想よりも早すぎる、父からの返事だった。
───────────
ナマエ
承知した。
十五時にホッグズ・ヘッドで待つ。
チチオヤ
────────────
几帳面な文字で短く綴られていた。ナマエが読み終えると、手紙はちりになって消えてしまった。ナマエはほっとしたような不安が増えたような、奇妙な気持ちになった。
ナマエは考えながら校庭に出て、辺りを見渡した。ハリーの姿はない。ナマエは草むらでカササギに変身して、空に飛び上がった。
久しぶりの飛行を楽しみながら城の上を飛んでいると、すぐにハリーを見つけた。湖のほとりを一人で歩いていた。
ナマエはゆっくりと降下して、その肩に降り立った。ハリーは一瞬ぎょっとしたが、すぐに気がついたようだった。
「──ナマエ、僕は入れてないんだ」
ハリーが言った。ナマエは頷いて見えるように頭を縦に動かした。ハリーはきょろきょろ周りを確認して、木陰に座った。
「口を聞ける姿になってくれる?」
ナマエはハリーの肩から飛び降りて、人の姿に戻った。
「大丈夫か、ハリー?」
「混乱してるよ、ずっと。みんな僕が代表になって喜んでるけど、違うんだ」
ハリーの言葉にナマエは一瞬きょとんとした。ナマエはてっきり、ハリーが罵詈雑言に耐えかねて外に出てきたのかと思っていたからだ。
「えっと──ああ、そうか。グリフィンドールは代表が出てお祭り騒ぎだもんな──」
言葉を合わせたナマエにハリーは眉を寄せた。
「ナマエ、はっきり言ってよ」
「……みんな、あんたがズルしたと思って言いたい放題」
「ああ、ロンと気が合うね」
ハリーは吐き捨てるように言った。ナマエはさらに目を丸くした。
「ロン?──ロンがあんたを疑ってるのか?なんで?」
「こっちが聞きたいよ」
「嫉妬してるのよ」
背後から落ち着き払った声がした。
「ハーマイオニー!」
ハーマイオニーは紙に包んだトーストをハリーに手渡した。少なくとも、ハーマイオニーはハリーを信じているようだった。ナマエが言った。
「ハリー、あんたの状況はシリウスに伝えるべきだ。どうせ知れることだけど、あんたが自分で名乗り出たんじゃないってわかったほうがいい」
「その通りだわ」
ハーマイオニーが強く頷いた。
しかし、ハリーは苦い顔をした。シリウスが捕まることを恐れているのだろう。ナマエは駄目押しした。
「親父は、『例のあの人』の動きを警戒してた。それに、ダンブルドアは腕利きの闇祓いをホグワーツに呼んだ。ハリー、誰かがあんたを嵌めたんだよ……」
ナマエは話しながら元死喰い人のイゴール・カルカロフが頭をよぎった。ハリーは渋々頷いた。
「マッド-アイもそう言ってた。──僕もそう思う」
翌日から、ナマエはハリーへの凄まじいバッシングを目の当たりにすることになった。みんながみんな、ハリーがさらに有名になろうと躍起になって炎のゴブレットを騙したのだと軽蔑し、冷たい態度をとっていた。ハリーの親友のロンでさえ、そうだった。
ハリーの状況とは裏腹に、セドリックとクラムの二人は、生徒たちの憧れの的になっていた。セドリック・ディゴリーは人望に厚い背の高いずば抜けたハンサムで、ビクトール・クラムはワールドカップのシーカーで、まさに代表選手にぴったりだった。
ナマエがハーマイオニーとハリーと図書館にいると、クラムを目当てにしている女子生徒がそわそわと彼の周りで忍び笑いをしながら様子をうかがっていた。クラムはしょっちゅう図書館に入り浸っていた。
「まったく!気が散るわ。あの無愛想な人の何がいいの?ハンサムでもなんでもないじゃない」
ハーマイオニーが毒づいた。ナマエは逆に感心したように言った。
「でも、クィデッチ馬鹿ってわけじゃなさそうだ。他校の図書館にくるなんて、勉強熱心じゃないか?」
「みんな、あの人が有名だから夢中なだけよ。ウォンキー・フェイントとか何とかいうのができない人だったら、みんな見向きもしないのに──」
「ウィンスキー・フェイントじゃなかったっけ?」
「ウロンスキー・フェイント」
ハーマイオニーとナマエのやりとりに、ハリーは唇を噛んだ。ハリーにはロンの態度がよっぽどこたえているようだった。ロンはハリーを徹底的に避けて、ディーン・トーマスやリーマス・フィネガンと過ごしていた。
「日刊預言者新聞」が試合について報じてからは、ハリーは今まで以上に針の筵に晒されていた。リータ・スキーターの三校対抗試合の記事は、試合についてのルポというより、ハリーの人生をさんざん脚色したものだった。
マイケルたちでさえも、ハリーを庇うナマエのことを奇妙な存在として扱いはじめていた。
第一の課題が行われる週の前の土曜日、三年生以上の生徒は全員、ホグズミード行きを許可された。
ナマエは父親との対面が近づいていることに緊張していた。当日は透明マントを被ったハリーと、ハーマイオニーと三人でホグズミードに向かった。ハーマイオニーがため息をついた。
「ロンがいなくて寂しいくせに、どうしてそう意地を張るの?」
「僕からあいつに何か言うことはないよ、ロンが大人になる手伝いなんてまっぴらだ」
ハリーは強情だった。ハーマイオニーはイライラして言った。
「ナマエも何か言ってよ」
「ロンに話したさ。ハリーが寂しがってるって。けど──」
「ちょっと!僕は寂しがってない」
ハリーがすかさず訂正した。
「はいはい──けど、ロンのやつ、『君の入れ知恵だろ?君は老け薬よりいい方法を知ってたんだ。そうに決まってる』ってさ」
ナマエは嫌味っぽい声真似をした。見えないハリーがかすかに笑ったような気配がした。ハーマイオニーは「もう、知らないわよ」とぷりぷりしていた。
ホグズミードで行き交う生徒はほとんどが「セドリック・ディゴリーを応援しよう」のバッジを胸につけていた。バッジは点滅して時折「汚いぞ、ポッター」の表示に変わった。
「ハニーデュークス菓子店」の前を通る時、店から出てきたテリーがナマエを見つけて声をかけた。
「おぉ、ナマエ!ようやくグレンジャーと付き合ったのか?」
ナマエはなんと言って良いかわからず、ちらりと横目で透明なハリー越しにハーマイオニーを見た。たしかに、他の人からはデートに見えているのかもしれない。しかし、ハーマイオニーは気にも留めていない様子だった。
「──そのバッジやめろって言っただろ、テリー」
ナマエはテリーの胸元の「セドリック・ディゴリーを応援しよう」のバッジを見て言うと、テリーは笑って歩いて行った。ナマエは改めてハーマイオニーを見た。なぜか、いつもと雰囲気が違うように見えた。
「どうしたの?」
「なんか──ハーマイオニー、いつもと違う?違うよな?ハリー」
「別に、いつも通りだと思うけど」
ハーマイオニーはにこっと歯を見せて笑った。ナマエはなぜか顔が熱くなった。
「いつもより──」
かわいい、と言いかけてやめた。透明マントを着ているとは言え、ハリー越しに言うのはなんだか気恥ずかしかった。ハーマイオニーはなぜか得意げだった。
「『三本の箒』に入って、バタービールを飲みましょうよ。ちょっと寒くない?……ロンには話しかけなくてもいいわよ!」
ハーマイオニーは、ハリーの考えをちゃんと察してつけ加えた。
「三本の箒」はいつにも増して混み合っていた。ナマエがバタービールを三本持ってハーマイオニーが座っている席に戻った。
「──ハイ、ナマエ。よく飲むのね」
ナマエがバタービールを飲んでいると、チョウ・チャンが声をかけた。側から見ると、ナマエが一人で二人前のバタービールを持っているように見えるのだ。チョウは生徒にしては珍しく、あの嫌味なバッジをつけていなかった。チョウはクスクス笑って、マリエッタたちのいる席に戻って行った。
「ハリー、早くバタービールをマントの中にしまってくれ」
ナマエが言うと、ハリーはなぜかしどろもどろに「え、ああ」と答え、バタービールがジョッキごと消えた。
「見て、ハグリッドよ」
ハーマイオニーが言った。ハグリッドの巨大なモジャモジャ頭の後頭部が人混みの上にぬっと現れた。隣にはマッド-アイ・ムーディが立っていた。ムーディは魔法の目をぐるぐる回して、ナマエのすぐとなりにピタリと焦点を合わせた。ムーディはハグリッドの背中をちょんちょんと突いて、二人はこちらに向かってきた。
「元気か、ハーマイオニー、ナマエ」
ハグリッドが元気よく言った。ハーマイオニーは「こんにちは」と返した。ナマエはドキドキしてムーディを見つめた。ムーディは、片足を引きずりながらテーブルを回り込んで、体を屈めて囁いた。
「そうだ、ミョウジ。わしには見えているぞ──いいマントだな、ポッター」
ハグリッドもニッコリとハリーのほうを見下ろしていた。ハグリッドにはハリーが見えないことは、わかっていた。しかし、当然ムーディが、ハリーがここにいると教えたはずだ。ハグリッドもかがみ込んでハリーの真上からひそひそ声を出した。
「ハリー、今晩、真夜中に、俺の小屋に来いや。そのマントを着てな」
身を起こすと、ハグリッドは大声で、「ハーマイオニー、ナマエ。おまえさんたちに会えてよかった」と言い、ウィンクして去っていった。
ムーディは身を起こしてからナマエに顔を近づけて、ナマエにしか聞こえないように言った。
「──ポッターを助けてやれ、ミョウジ。おまえにはそれができる」
ナマエは驚いてムーディを見返すと、傷だらけの顔がかすかに口角を上げた。
ムーディはさっさとハグリッドの後に続いて出て行った。
ナマエはぽかんとしてその後ろ姿を見た。
「ナマエ、そろそろ時間じゃない?お父様と会うんでしょう?」
「うん、ああ──」
ナマエははっとして立ち上がった。二人がついてきてくれれば気が楽なのにと思った。
ナマエはホグズミードの大通りを外れてチチオヤが指定したホッグズ・ヘッドに向かった。ホッグズ・ヘッドはさびれて人気がないボロのパブだった。ナマエは遠慮がちに店に入った。
店主がカウンター越しにナマエを一瞥した。ナマエのほかにはマントを深く被った魔法使いが二人と、鬼婆がひとりカウンターに座っているだけだった。至るところにおがくずが散らばり、店内には山羊の臭いが漂っていた。
ナマエは出入り口に一番近いテーブルに座った。そわそわと時計を見た。他の客が訝しげにナマエを盗み見ているのがわかって、居心地が悪かった。
何も注文していないのに、老店主が黙ってバタービールを置いていった。泡が溶けてしまっても、チチオヤはまだ来ない。刻々と約束の時間が過ぎていった。
──遅すぎる。
ナマエは本日二杯目のバタービールを飲み干すと、お代を机に置いて立ち上がった。もう夕暮れだった。
店を出た途端、怒りとアルコールで一気に顔が熱くなった。苛立ちが収まらなかった。父親に振り回されている自分が馬鹿馬鹿しく思えて仕方なかった。
ナマエは怒りに任せてずんずん大股で城に向かって歩いていると、ふとドラコが思い浮かんだ。ドラコが父親の仕打ちを聞いてくれたら、少しは気が晴れるのではないかと思った。
「年齢線を越えないといけないし──そもそも、ホグワーツから二人も選ばれるはずがないよ」
「四校目の代表だと思わせたとか?そしたら、ハリーしかいないんだからあいつが選ばれるに決まってる」
「四年生がそんな呪文、使えるわけないよ」
代表選手発表の翌日、朝食の席ではハリーがどうやって炎のゴブレットを出し抜いたかの話題で持ちきりだった。ナマエたちはトーストをかじりながら、レイブンクローの上級生たちの議論を聞いていた。
「ありえない、ありえないだろ……」
「貧乏ゆすりはやめろよ、ナマエ。君にできないことがハリーにできることだってあるさ──」
「ハリーが名前を入れたわけないだろう!」
マイケルがからかうようになだめたので、ナマエは言い返した。思いのほか大きな声が出たので、罰が悪くなり立ち上がった。
「……ハリーを探してくる」
ナマエは大広間の出口に向かった。ハリーはグリフィンドールのテーブルにいなかったのだ。背後でマイケルがイライラしたようにため息をついたのが聞こえた。
大広間を出た途端、一羽の茶ふくろうがナマエの顔面に手紙を落とした。ナマエは頭を振って手紙を拾い上げ、急いで開いた。予想よりも早すぎる、父からの返事だった。
───────────
ナマエ
承知した。
十五時にホッグズ・ヘッドで待つ。
チチオヤ
────────────
几帳面な文字で短く綴られていた。ナマエが読み終えると、手紙はちりになって消えてしまった。ナマエはほっとしたような不安が増えたような、奇妙な気持ちになった。
ナマエは考えながら校庭に出て、辺りを見渡した。ハリーの姿はない。ナマエは草むらでカササギに変身して、空に飛び上がった。
久しぶりの飛行を楽しみながら城の上を飛んでいると、すぐにハリーを見つけた。湖のほとりを一人で歩いていた。
ナマエはゆっくりと降下して、その肩に降り立った。ハリーは一瞬ぎょっとしたが、すぐに気がついたようだった。
「──ナマエ、僕は入れてないんだ」
ハリーが言った。ナマエは頷いて見えるように頭を縦に動かした。ハリーはきょろきょろ周りを確認して、木陰に座った。
「口を聞ける姿になってくれる?」
ナマエはハリーの肩から飛び降りて、人の姿に戻った。
「大丈夫か、ハリー?」
「混乱してるよ、ずっと。みんな僕が代表になって喜んでるけど、違うんだ」
ハリーの言葉にナマエは一瞬きょとんとした。ナマエはてっきり、ハリーが罵詈雑言に耐えかねて外に出てきたのかと思っていたからだ。
「えっと──ああ、そうか。グリフィンドールは代表が出てお祭り騒ぎだもんな──」
言葉を合わせたナマエにハリーは眉を寄せた。
「ナマエ、はっきり言ってよ」
「……みんな、あんたがズルしたと思って言いたい放題」
「ああ、ロンと気が合うね」
ハリーは吐き捨てるように言った。ナマエはさらに目を丸くした。
「ロン?──ロンがあんたを疑ってるのか?なんで?」
「こっちが聞きたいよ」
「嫉妬してるのよ」
背後から落ち着き払った声がした。
「ハーマイオニー!」
ハーマイオニーは紙に包んだトーストをハリーに手渡した。少なくとも、ハーマイオニーはハリーを信じているようだった。ナマエが言った。
「ハリー、あんたの状況はシリウスに伝えるべきだ。どうせ知れることだけど、あんたが自分で名乗り出たんじゃないってわかったほうがいい」
「その通りだわ」
ハーマイオニーが強く頷いた。
しかし、ハリーは苦い顔をした。シリウスが捕まることを恐れているのだろう。ナマエは駄目押しした。
「親父は、『例のあの人』の動きを警戒してた。それに、ダンブルドアは腕利きの闇祓いをホグワーツに呼んだ。ハリー、誰かがあんたを嵌めたんだよ……」
ナマエは話しながら元死喰い人のイゴール・カルカロフが頭をよぎった。ハリーは渋々頷いた。
「マッド-アイもそう言ってた。──僕もそう思う」
翌日から、ナマエはハリーへの凄まじいバッシングを目の当たりにすることになった。みんながみんな、ハリーがさらに有名になろうと躍起になって炎のゴブレットを騙したのだと軽蔑し、冷たい態度をとっていた。ハリーの親友のロンでさえ、そうだった。
ハリーの状況とは裏腹に、セドリックとクラムの二人は、生徒たちの憧れの的になっていた。セドリック・ディゴリーは人望に厚い背の高いずば抜けたハンサムで、ビクトール・クラムはワールドカップのシーカーで、まさに代表選手にぴったりだった。
ナマエがハーマイオニーとハリーと図書館にいると、クラムを目当てにしている女子生徒がそわそわと彼の周りで忍び笑いをしながら様子をうかがっていた。クラムはしょっちゅう図書館に入り浸っていた。
「まったく!気が散るわ。あの無愛想な人の何がいいの?ハンサムでもなんでもないじゃない」
ハーマイオニーが毒づいた。ナマエは逆に感心したように言った。
「でも、クィデッチ馬鹿ってわけじゃなさそうだ。他校の図書館にくるなんて、勉強熱心じゃないか?」
「みんな、あの人が有名だから夢中なだけよ。ウォンキー・フェイントとか何とかいうのができない人だったら、みんな見向きもしないのに──」
「ウィンスキー・フェイントじゃなかったっけ?」
「ウロンスキー・フェイント」
ハーマイオニーとナマエのやりとりに、ハリーは唇を噛んだ。ハリーにはロンの態度がよっぽどこたえているようだった。ロンはハリーを徹底的に避けて、ディーン・トーマスやリーマス・フィネガンと過ごしていた。
「日刊預言者新聞」が試合について報じてからは、ハリーは今まで以上に針の筵に晒されていた。リータ・スキーターの三校対抗試合の記事は、試合についてのルポというより、ハリーの人生をさんざん脚色したものだった。
マイケルたちでさえも、ハリーを庇うナマエのことを奇妙な存在として扱いはじめていた。
第一の課題が行われる週の前の土曜日、三年生以上の生徒は全員、ホグズミード行きを許可された。
ナマエは父親との対面が近づいていることに緊張していた。当日は透明マントを被ったハリーと、ハーマイオニーと三人でホグズミードに向かった。ハーマイオニーがため息をついた。
「ロンがいなくて寂しいくせに、どうしてそう意地を張るの?」
「僕からあいつに何か言うことはないよ、ロンが大人になる手伝いなんてまっぴらだ」
ハリーは強情だった。ハーマイオニーはイライラして言った。
「ナマエも何か言ってよ」
「ロンに話したさ。ハリーが寂しがってるって。けど──」
「ちょっと!僕は寂しがってない」
ハリーがすかさず訂正した。
「はいはい──けど、ロンのやつ、『君の入れ知恵だろ?君は老け薬よりいい方法を知ってたんだ。そうに決まってる』ってさ」
ナマエは嫌味っぽい声真似をした。見えないハリーがかすかに笑ったような気配がした。ハーマイオニーは「もう、知らないわよ」とぷりぷりしていた。
ホグズミードで行き交う生徒はほとんどが「セドリック・ディゴリーを応援しよう」のバッジを胸につけていた。バッジは点滅して時折「汚いぞ、ポッター」の表示に変わった。
「ハニーデュークス菓子店」の前を通る時、店から出てきたテリーがナマエを見つけて声をかけた。
「おぉ、ナマエ!ようやくグレンジャーと付き合ったのか?」
ナマエはなんと言って良いかわからず、ちらりと横目で透明なハリー越しにハーマイオニーを見た。たしかに、他の人からはデートに見えているのかもしれない。しかし、ハーマイオニーは気にも留めていない様子だった。
「──そのバッジやめろって言っただろ、テリー」
ナマエはテリーの胸元の「セドリック・ディゴリーを応援しよう」のバッジを見て言うと、テリーは笑って歩いて行った。ナマエは改めてハーマイオニーを見た。なぜか、いつもと雰囲気が違うように見えた。
「どうしたの?」
「なんか──ハーマイオニー、いつもと違う?違うよな?ハリー」
「別に、いつも通りだと思うけど」
ハーマイオニーはにこっと歯を見せて笑った。ナマエはなぜか顔が熱くなった。
「いつもより──」
かわいい、と言いかけてやめた。透明マントを着ているとは言え、ハリー越しに言うのはなんだか気恥ずかしかった。ハーマイオニーはなぜか得意げだった。
「『三本の箒』に入って、バタービールを飲みましょうよ。ちょっと寒くない?……ロンには話しかけなくてもいいわよ!」
ハーマイオニーは、ハリーの考えをちゃんと察してつけ加えた。
「三本の箒」はいつにも増して混み合っていた。ナマエがバタービールを三本持ってハーマイオニーが座っている席に戻った。
「──ハイ、ナマエ。よく飲むのね」
ナマエがバタービールを飲んでいると、チョウ・チャンが声をかけた。側から見ると、ナマエが一人で二人前のバタービールを持っているように見えるのだ。チョウは生徒にしては珍しく、あの嫌味なバッジをつけていなかった。チョウはクスクス笑って、マリエッタたちのいる席に戻って行った。
「ハリー、早くバタービールをマントの中にしまってくれ」
ナマエが言うと、ハリーはなぜかしどろもどろに「え、ああ」と答え、バタービールがジョッキごと消えた。
「見て、ハグリッドよ」
ハーマイオニーが言った。ハグリッドの巨大なモジャモジャ頭の後頭部が人混みの上にぬっと現れた。隣にはマッド-アイ・ムーディが立っていた。ムーディは魔法の目をぐるぐる回して、ナマエのすぐとなりにピタリと焦点を合わせた。ムーディはハグリッドの背中をちょんちょんと突いて、二人はこちらに向かってきた。
「元気か、ハーマイオニー、ナマエ」
ハグリッドが元気よく言った。ハーマイオニーは「こんにちは」と返した。ナマエはドキドキしてムーディを見つめた。ムーディは、片足を引きずりながらテーブルを回り込んで、体を屈めて囁いた。
「そうだ、ミョウジ。わしには見えているぞ──いいマントだな、ポッター」
ハグリッドもニッコリとハリーのほうを見下ろしていた。ハグリッドにはハリーが見えないことは、わかっていた。しかし、当然ムーディが、ハリーがここにいると教えたはずだ。ハグリッドもかがみ込んでハリーの真上からひそひそ声を出した。
「ハリー、今晩、真夜中に、俺の小屋に来いや。そのマントを着てな」
身を起こすと、ハグリッドは大声で、「ハーマイオニー、ナマエ。おまえさんたちに会えてよかった」と言い、ウィンクして去っていった。
ムーディは身を起こしてからナマエに顔を近づけて、ナマエにしか聞こえないように言った。
「──ポッターを助けてやれ、ミョウジ。おまえにはそれができる」
ナマエは驚いてムーディを見返すと、傷だらけの顔がかすかに口角を上げた。
ムーディはさっさとハグリッドの後に続いて出て行った。
ナマエはぽかんとしてその後ろ姿を見た。
「ナマエ、そろそろ時間じゃない?お父様と会うんでしょう?」
「うん、ああ──」
ナマエははっとして立ち上がった。二人がついてきてくれれば気が楽なのにと思った。
ナマエはホグズミードの大通りを外れてチチオヤが指定したホッグズ・ヘッドに向かった。ホッグズ・ヘッドはさびれて人気がないボロのパブだった。ナマエは遠慮がちに店に入った。
店主がカウンター越しにナマエを一瞥した。ナマエのほかにはマントを深く被った魔法使いが二人と、鬼婆がひとりカウンターに座っているだけだった。至るところにおがくずが散らばり、店内には山羊の臭いが漂っていた。
ナマエは出入り口に一番近いテーブルに座った。そわそわと時計を見た。他の客が訝しげにナマエを盗み見ているのがわかって、居心地が悪かった。
何も注文していないのに、老店主が黙ってバタービールを置いていった。泡が溶けてしまっても、チチオヤはまだ来ない。刻々と約束の時間が過ぎていった。
──遅すぎる。
ナマエは本日二杯目のバタービールを飲み干すと、お代を机に置いて立ち上がった。もう夕暮れだった。
店を出た途端、怒りとアルコールで一気に顔が熱くなった。苛立ちが収まらなかった。父親に振り回されている自分が馬鹿馬鹿しく思えて仕方なかった。
ナマエは怒りに任せてずんずん大股で城に向かって歩いていると、ふとドラコが思い浮かんだ。ドラコが父親の仕打ちを聞いてくれたら、少しは気が晴れるのではないかと思った。