炎のゴブレット
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十月三十日。この日はついにボーバトンとダームストラングの二校が到着する日で、誰も授業に身が入らなかった。
午後六時きっかりに、巨大なパステル・ブルーの天翔る馬車が姿を現した。ボーバトン魔法学校だ。そして間を空けず、湖からこれまた巨大な沈没船のようなダームストラングの船が到着した。二校の派手な登場にホグワーツの生徒たちはざわめいた。
「嘘だろ、おい──」
マイケルが突然ナマエの肩を掴んだ。ナマエはマイケルの目線を追った。目に入ったのは、ダームストラングの校長、イゴール・カルカロフだった。ワールドカップのキャンプ場でチチオヤがナマエに覚えさせたうちの一人だった。カルカロフは取ってつけたような笑顔をダンブルドアに見せ、流暢な英語を話していた。
「英語が話せたのか、あの人」
ナマエが言うと、マイケルがじれったそうに言った。
「どこ見てるんだ、おい!クラムだよ──ビクトール・クラム!」
マイケルと同じく、テリーも悲鳴のような声で叫んだ。ナマエはカルカロフの隣にいる屈強な男子生徒を見た。ようやくマイケルたちの興奮の理由がわかった。クィデッチのブルガリア代表シーカーが、ダームストラングの生徒だったのだ。
「落ち着けよ、クィデッチの試合をするわけじゃないんだし」
マイケル、テリー、そしてアンソニーまでもが耳を疑うような顔でナマエを見た。ナマエは居心地悪く肩をすくめた。マイケルたちだけでなく、まわりの生徒はみんなクラムを見ていた。テリーは限界まで背伸びをして跳ねていた。
「サインもらえないかな?羽根ペン置いてきちゃったよ」
「いいからもう大広間に行こうぜ」
ナマエが言った。
生徒たちは大広間に移動して着席した。ダームストラングの生徒たちはどこに座って良いのかわからない様子で立っていたが、ボーバトンの生徒たちはレイブンクローの机に座った。ナマエのそばに着席したシルバーブロンドの小さな女の子が、寒そうにマフラーをきつく巻きつけていた。ボーバトンの淡い水色のローブは、薄い絹のようだった。ナマエはそれを見て小声で言った。
「寒いのかな、どこからきたんだろう?」
「おフランスだろ、校長がそういう訛りだった。大して寒くもないのに」
テリーはボーバトン生の態度が気に入らない様子だった。ナマエは丸めて椅子に置いていた自分のローブを指差して、ボーバトンの女の子に言った。
「着る?」
女の子はじっとナマエの顔を見てから、伺うようにその隣にいたボーバトンの女子学生を見た。その子はナマエよりも大人びて見えた。女子学生もマフラーを巻きつけたままで、ふんと鼻を鳴らすように笑った。テリーがナマエの肩を叩いた。
「ほっとけよ、ナマエ。お高く止まっちゃってさ──あーあ、ダームストラングがこっちに座ってくれればよかったのに」
「ビクトール・クラムが、だろ?」
ナマエは言った。ダームストラングはスリザリンの席に着席していた。みんなが席につくと、ダンブルドアが話し始めた。
「──三校対抗試合は、この宴が終わると正式に開始される。さあ、それでは、大いに飲み、食し、かつ寛いでくだされ!」
ナマエが見ていると、カルカロフ校長が、すぐに身を乗り出して、ダンブルドアと話しはじめた。目の前の皿が、いつものように満たされた。ナマエがこれまで見たことがないほどのいろいろな料理が並び、はっきり外国料理とわかるものもいくつかあった。
「なんだろ、これ?」
ナマエが指差したのは、大きなステーキ・キドニー・パイの横にある、貝類のシチューのようなものだった。
「ブイヤベース、でーす」
頭の上から声がした。振り返ると、先ほど、ナマエを笑ったボーバトン生だった。マフラーはもう外しており、輝くブロンドを腰まで垂らしていた。白く透き通る肌に大きなブルーの瞳を持った美少女だった。
「持っていってもいいでーすか?」
「え──」
「アー、どうぞ」
ナマエが何か言う前に、アンソニーが皿を美少女のほうへ押しやった。彼女は両手で皿を持ち上げて、ボーバトン生が集まっているすぐそばの席に戻って行った。テリーはその姿に釘付けになりながら囁いた。
「ヴィーラじゃないよな?」
「……まさか」
マイケルが答えたが、やはり目が釘付けだった。ナマエはため息をついてアンソニーに言った。
「あの──ブイヤベース?あれ、食べてみたかったのに」
「ごめん、つい──」
アンソニーは美少女から目を離すことに成功して、ふうと息をついた。ナマエはからかうように笑った。
「おおげさだな、俺よりも可愛い?」
「君の目ん玉どうなってんだ?ホグワーツにはあんな子いないよ」
テリーが食い気味に、熱を込めて言ったので、ナマエは肩をすくめた。
金の皿が再びピカピカになると、ダンブルドアがあらためて立ち上がった。改めて教員席を見ると、ルード・バグマンとバーテミウス・クラウチの姿があった。
「バグマン氏とクラウチ氏は、この数ヵ月というもの、三校対抗試合の準備に骨身を惜しまず尽力されてきた。そして、おふた方は、カルカロフ校長、マダム・マクシーム、それにこのわしとともに、代表選手の健闘ぶりを評価する審査委員会に加わってくださる」
「代表選手」の言葉が出たとたん、熱心に聞いていた生徒たちの耳が一段と研ぎ澄まされた。いつのまにか現れたフィルチが、木箱を恭しくダンブルドアの前のテーブルに置いた。ダンブルドアが続けた。
「皆も知っての通り、各校から一人ずつ、三人の代表選手が三つの課題に挑戦する。課題の総合点がもっとも高い者が、優勝杯を獲得する。代表選手を選ぶのは、公正なる選者……『炎のゴブレット』じゃ」
ダンブルドアが杖で木箱の蓋を三度軽く叩いた。蓋が軋みながらゆっくりと開き、古い荒削りの木のゴブレットが現れた。ゴブレットの中では青白い炎が燃え盛っていた。
「代表選手に名乗りを上げたい者は、羊皮紙に名前と所属校名をはっきりと書き、このゴブレットの中に入れよ。これから二十四時間の内に、その名を提出するよう」
ダンブルドアは杖でゴブレットの周りに円を描いた。ナマエはそれが十七歳未満の生徒を弾く「年齢線」だろうと思った。ダンブルドアは続けた。
「ゴブレットに名前を入れるということは、魔法契約によって拘束されることじゃ。棄権は許されぬ。相応の覚悟を持って名を入れるよう──それでは、皆。おやすみ」
翌日は土曜日で、みんないつもより早く起き、炎のゴブレットを見物しに行った。しかし、ナマエはふくろう小屋にいた。ドラコに書き直された手紙をチチオヤに送る決心がついたのだ。覚悟が鈍らないうちにさっさと学校のふくろうに手紙を持たせ、塔を出た。緊張からか、わずかに手が震えていた。歩いて城に戻っていると、聞き慣れた声がナマエを呼び止めた。
「おう、ナマエ。元気か?」
「ハグリッド──」
ナマエは、ハグリッドの姿を見て思わず声を失った。ハグリッドは、毛がもこもこの背広を着込み、ド派手な黄色い縞模様のネクタイを締めていた。おまけに髪はぎっとりとグリースが塗りつけられ、二束にまとめられていた。
「ハグリッド──どこかに出かけるのか?」
「いんや、別に」
ナマエが言葉を選んで尋ねると、ハグリッドはぶっきらぼうに言った。触れるべきではなかったようだ。ハグリッドはこほんと咳払いした。
「ビーフシチューがあるぞ、食ってくか?」
「行く!」
ナマエは即答して、異様な風貌のハグリッドとともに禁じられた森のそばのハグリッドの小屋に向かった。小屋の二百メートルほど先にボーバトンの馬車があり、天馬がその脇で草を食んでいた。ちょうどボーバトン生たちがナマエたちの前を通って馬車に向かって歩いていくところだった。その中の一際小さな少女が、ナマエの姿を見つけて飛び上がった。昨日の夕食で寒そうにしていた女の子だった。
「ハグリッド。あの子、どう見ても俺より歳下じゃないか?十七歳にはとても──ハグリッド?」
反応がないハグリッドを見上げると、顔を火照らせてぼうっとした表情を浮かべていた。視線の先には、ボーバトンの校長、マダム・マクシームがいた。ナマエはハグリッドの様子がおかしいことの合点がいった。それからは、ハグリッドの挙動については深く考えないようにした。
小屋に入ると、すぐにハリーたち三人が遊びにやってきた。ハグリッドにお茶を出してもらい、三校対抗試合の話で盛り上がった。
三人もハグリッドの姿に目を白黒させていたが、ナマエが触れないのを見て、何も言わないことに決めたらしい。
ハリーたちは朝食の席でゴブレットを見てきたらしく、様子を話してくれた。
「ダームストラングは全員入れてたよ。フレッドとジョージは『老け薬』を使ったけどダメだったんだ」
「やっぱり」
「やっぱり?」
ナマエの言葉にハーマイオニーが反応した。ナマエは言い訳がましく答えた。
「……材料が足りないって言うから、少し分けただけだよ。でも無理だと思った。『老け薬』は一時的に体が老いるけど、生まれた日が早くなるわけじゃない。みんな若返りのほうが興味があるから、老いる魔法は発展途上なんだ──」
「いい、いいよもう。もし君が代表になったら続きを聞くから」
ロンがナマエの話をうんざりしたように止めると、ハリーが笑った。
結局四人でハグリッドと昼食を食べたが、ナマエ以外はあまりたくさんは食べなかった。ハグリッドがビーフシチューだと言って出した皿の中から、ハーマイオニーが大きな鉤爪を発見してしまったのだ。ナマエは他の三人の皿を手に取った。
「いらないならもらうぜ」
「よく食べるなあ」
ロンが皮肉混じりに言った。
「だって、うまいもん」
ナマエの言葉で、ハグリッドがにこにこして上機嫌になった。
「見ちょれ、イッチ番目の課題はすごいぞ──お前さんの親父も観にくる。仕事でだがな」
「えっ誰──?俺の親父が?」
「もちろん、万が一のためだ。チチオヤがいりゃあ死人が出る確率は下がるってもんだ」
ハグリッドが笑ったが、ハーマイオニーは心配そうにした。みんなで三校対抗試合の話題でひとしきり盛り上がっていると、昼下がりに雨が降り始めた。のんびりと雨音を聞きながら、ハーマイオニーとハグリッドがしもべ妖精論議をしているのを眺めた。ハグリッドはきっぱりと入会を断ったので、ハーマイオニーはひどく機嫌を損ねたようだった。
五時半になると暗くなり始め、全員でハロウィンパーティーの大広間に向かった。
二日連続の宴だからか、この後の代表選手の発表に気を取られてか、みんなどこかそわそわしていてご馳走に身が入らないようだった。ナマエは昨日食べ損ねたブイヤベースを見つけて、自分の皿に盛った。
それでもあっという間に金の皿は空になった。みんなが食べ終わると、ダンブルドアが立ち上がった。杖を一振りすると、蝋燭の火が全て消え、大広間は薄暗くなった。その真ん中で、炎のゴブレットだけが青白く煌々と輝いていた。
ゴブレットの炎が、突然赤くなった。火花が飛び散りはじめた。次の瞬間、炎の舌先から、焦げた羊皮紙が一枚、ハラリと落ちてきた──ダンブルドアはその羊皮紙を捕らえ、再び青白くなった炎の明かりで読もうと、腕の高さに差し上げた。
「ダームストラングの代表選手は── ビクトール・クラム!」
大広間中が拍手の嵐、歓声の渦だ。ビクトール・クラムがスリザリンのテーブルから立ち上がり、教職員テーブルに沿って歩き、その後ろの扉から、クラムは隣の部屋へと消えた。
「ブラボー、ビクトール!」
カルカロフの声が轟いた。そして、炎に巻き上げられるように、二枚目の羊皮紙がゴブレットから飛び出した。
「ボーバトンの代表選手は──フラー・デラクール!」
すると、ナマエの数席先にいた、あのヴィーラに似た美少女が優雅に立ち上がり、シルバーブロンドの豊かな髪をさっと振った。他のボーバトン生はがっかりしたようで、しゃくりあげて泣いている生徒もいたが、寒がりの小さな女の子だけは飛び上がって喜んでいた。ナマエはその子の顔を見て、フラー・デラクールの妹であろうと今更気がついた。
そして三度、「炎のゴブレット」が赤く燃えた。溢れるように火花が飛び散った。炎が空を舐めて高く燃え上がり、その舌先から、ダンブルドアが三枚目の羊皮紙を取り出した。
「ホグワーツの代表選手は──セドリック・ディゴリー!」
ハッフルパフ生が総立ちになり、叫び、足を踏み鳴らした。セドリックがニッコリ笑いながら、その中を通り抜け、教職員テーブルの後ろの部屋へと向かった。大歓声が鳴り止むまでしばらくかかった。
ダンブルドアがうれしそうに呼びかけた。
「さて、これで三人の代表選手が決まった。選ばれなかった生徒も──」
ダンブルドアが突然言葉を切った。「炎のゴブレット」が再び赤く燃えはじめたのだ。火花が迸った。ダンブルドアが反射的に羊皮紙を捕らえた。ダンブルドアはそれを掲げ、そこに書かれた名前をじっと見た。両手で持った羊皮紙を、ダンブルドアはそれからしばらく眺めていた。長い沈黙──大広間中の目がダンブルドアに集まっていた。やがてダンブルドアが咳払いし、そして読み上げた──。
「ハリー・ポッター」
午後六時きっかりに、巨大なパステル・ブルーの天翔る馬車が姿を現した。ボーバトン魔法学校だ。そして間を空けず、湖からこれまた巨大な沈没船のようなダームストラングの船が到着した。二校の派手な登場にホグワーツの生徒たちはざわめいた。
「嘘だろ、おい──」
マイケルが突然ナマエの肩を掴んだ。ナマエはマイケルの目線を追った。目に入ったのは、ダームストラングの校長、イゴール・カルカロフだった。ワールドカップのキャンプ場でチチオヤがナマエに覚えさせたうちの一人だった。カルカロフは取ってつけたような笑顔をダンブルドアに見せ、流暢な英語を話していた。
「英語が話せたのか、あの人」
ナマエが言うと、マイケルがじれったそうに言った。
「どこ見てるんだ、おい!クラムだよ──ビクトール・クラム!」
マイケルと同じく、テリーも悲鳴のような声で叫んだ。ナマエはカルカロフの隣にいる屈強な男子生徒を見た。ようやくマイケルたちの興奮の理由がわかった。クィデッチのブルガリア代表シーカーが、ダームストラングの生徒だったのだ。
「落ち着けよ、クィデッチの試合をするわけじゃないんだし」
マイケル、テリー、そしてアンソニーまでもが耳を疑うような顔でナマエを見た。ナマエは居心地悪く肩をすくめた。マイケルたちだけでなく、まわりの生徒はみんなクラムを見ていた。テリーは限界まで背伸びをして跳ねていた。
「サインもらえないかな?羽根ペン置いてきちゃったよ」
「いいからもう大広間に行こうぜ」
ナマエが言った。
生徒たちは大広間に移動して着席した。ダームストラングの生徒たちはどこに座って良いのかわからない様子で立っていたが、ボーバトンの生徒たちはレイブンクローの机に座った。ナマエのそばに着席したシルバーブロンドの小さな女の子が、寒そうにマフラーをきつく巻きつけていた。ボーバトンの淡い水色のローブは、薄い絹のようだった。ナマエはそれを見て小声で言った。
「寒いのかな、どこからきたんだろう?」
「おフランスだろ、校長がそういう訛りだった。大して寒くもないのに」
テリーはボーバトン生の態度が気に入らない様子だった。ナマエは丸めて椅子に置いていた自分のローブを指差して、ボーバトンの女の子に言った。
「着る?」
女の子はじっとナマエの顔を見てから、伺うようにその隣にいたボーバトンの女子学生を見た。その子はナマエよりも大人びて見えた。女子学生もマフラーを巻きつけたままで、ふんと鼻を鳴らすように笑った。テリーがナマエの肩を叩いた。
「ほっとけよ、ナマエ。お高く止まっちゃってさ──あーあ、ダームストラングがこっちに座ってくれればよかったのに」
「ビクトール・クラムが、だろ?」
ナマエは言った。ダームストラングはスリザリンの席に着席していた。みんなが席につくと、ダンブルドアが話し始めた。
「──三校対抗試合は、この宴が終わると正式に開始される。さあ、それでは、大いに飲み、食し、かつ寛いでくだされ!」
ナマエが見ていると、カルカロフ校長が、すぐに身を乗り出して、ダンブルドアと話しはじめた。目の前の皿が、いつものように満たされた。ナマエがこれまで見たことがないほどのいろいろな料理が並び、はっきり外国料理とわかるものもいくつかあった。
「なんだろ、これ?」
ナマエが指差したのは、大きなステーキ・キドニー・パイの横にある、貝類のシチューのようなものだった。
「ブイヤベース、でーす」
頭の上から声がした。振り返ると、先ほど、ナマエを笑ったボーバトン生だった。マフラーはもう外しており、輝くブロンドを腰まで垂らしていた。白く透き通る肌に大きなブルーの瞳を持った美少女だった。
「持っていってもいいでーすか?」
「え──」
「アー、どうぞ」
ナマエが何か言う前に、アンソニーが皿を美少女のほうへ押しやった。彼女は両手で皿を持ち上げて、ボーバトン生が集まっているすぐそばの席に戻って行った。テリーはその姿に釘付けになりながら囁いた。
「ヴィーラじゃないよな?」
「……まさか」
マイケルが答えたが、やはり目が釘付けだった。ナマエはため息をついてアンソニーに言った。
「あの──ブイヤベース?あれ、食べてみたかったのに」
「ごめん、つい──」
アンソニーは美少女から目を離すことに成功して、ふうと息をついた。ナマエはからかうように笑った。
「おおげさだな、俺よりも可愛い?」
「君の目ん玉どうなってんだ?ホグワーツにはあんな子いないよ」
テリーが食い気味に、熱を込めて言ったので、ナマエは肩をすくめた。
金の皿が再びピカピカになると、ダンブルドアがあらためて立ち上がった。改めて教員席を見ると、ルード・バグマンとバーテミウス・クラウチの姿があった。
「バグマン氏とクラウチ氏は、この数ヵ月というもの、三校対抗試合の準備に骨身を惜しまず尽力されてきた。そして、おふた方は、カルカロフ校長、マダム・マクシーム、それにこのわしとともに、代表選手の健闘ぶりを評価する審査委員会に加わってくださる」
「代表選手」の言葉が出たとたん、熱心に聞いていた生徒たちの耳が一段と研ぎ澄まされた。いつのまにか現れたフィルチが、木箱を恭しくダンブルドアの前のテーブルに置いた。ダンブルドアが続けた。
「皆も知っての通り、各校から一人ずつ、三人の代表選手が三つの課題に挑戦する。課題の総合点がもっとも高い者が、優勝杯を獲得する。代表選手を選ぶのは、公正なる選者……『炎のゴブレット』じゃ」
ダンブルドアが杖で木箱の蓋を三度軽く叩いた。蓋が軋みながらゆっくりと開き、古い荒削りの木のゴブレットが現れた。ゴブレットの中では青白い炎が燃え盛っていた。
「代表選手に名乗りを上げたい者は、羊皮紙に名前と所属校名をはっきりと書き、このゴブレットの中に入れよ。これから二十四時間の内に、その名を提出するよう」
ダンブルドアは杖でゴブレットの周りに円を描いた。ナマエはそれが十七歳未満の生徒を弾く「年齢線」だろうと思った。ダンブルドアは続けた。
「ゴブレットに名前を入れるということは、魔法契約によって拘束されることじゃ。棄権は許されぬ。相応の覚悟を持って名を入れるよう──それでは、皆。おやすみ」
翌日は土曜日で、みんないつもより早く起き、炎のゴブレットを見物しに行った。しかし、ナマエはふくろう小屋にいた。ドラコに書き直された手紙をチチオヤに送る決心がついたのだ。覚悟が鈍らないうちにさっさと学校のふくろうに手紙を持たせ、塔を出た。緊張からか、わずかに手が震えていた。歩いて城に戻っていると、聞き慣れた声がナマエを呼び止めた。
「おう、ナマエ。元気か?」
「ハグリッド──」
ナマエは、ハグリッドの姿を見て思わず声を失った。ハグリッドは、毛がもこもこの背広を着込み、ド派手な黄色い縞模様のネクタイを締めていた。おまけに髪はぎっとりとグリースが塗りつけられ、二束にまとめられていた。
「ハグリッド──どこかに出かけるのか?」
「いんや、別に」
ナマエが言葉を選んで尋ねると、ハグリッドはぶっきらぼうに言った。触れるべきではなかったようだ。ハグリッドはこほんと咳払いした。
「ビーフシチューがあるぞ、食ってくか?」
「行く!」
ナマエは即答して、異様な風貌のハグリッドとともに禁じられた森のそばのハグリッドの小屋に向かった。小屋の二百メートルほど先にボーバトンの馬車があり、天馬がその脇で草を食んでいた。ちょうどボーバトン生たちがナマエたちの前を通って馬車に向かって歩いていくところだった。その中の一際小さな少女が、ナマエの姿を見つけて飛び上がった。昨日の夕食で寒そうにしていた女の子だった。
「ハグリッド。あの子、どう見ても俺より歳下じゃないか?十七歳にはとても──ハグリッド?」
反応がないハグリッドを見上げると、顔を火照らせてぼうっとした表情を浮かべていた。視線の先には、ボーバトンの校長、マダム・マクシームがいた。ナマエはハグリッドの様子がおかしいことの合点がいった。それからは、ハグリッドの挙動については深く考えないようにした。
小屋に入ると、すぐにハリーたち三人が遊びにやってきた。ハグリッドにお茶を出してもらい、三校対抗試合の話で盛り上がった。
三人もハグリッドの姿に目を白黒させていたが、ナマエが触れないのを見て、何も言わないことに決めたらしい。
ハリーたちは朝食の席でゴブレットを見てきたらしく、様子を話してくれた。
「ダームストラングは全員入れてたよ。フレッドとジョージは『老け薬』を使ったけどダメだったんだ」
「やっぱり」
「やっぱり?」
ナマエの言葉にハーマイオニーが反応した。ナマエは言い訳がましく答えた。
「……材料が足りないって言うから、少し分けただけだよ。でも無理だと思った。『老け薬』は一時的に体が老いるけど、生まれた日が早くなるわけじゃない。みんな若返りのほうが興味があるから、老いる魔法は発展途上なんだ──」
「いい、いいよもう。もし君が代表になったら続きを聞くから」
ロンがナマエの話をうんざりしたように止めると、ハリーが笑った。
結局四人でハグリッドと昼食を食べたが、ナマエ以外はあまりたくさんは食べなかった。ハグリッドがビーフシチューだと言って出した皿の中から、ハーマイオニーが大きな鉤爪を発見してしまったのだ。ナマエは他の三人の皿を手に取った。
「いらないならもらうぜ」
「よく食べるなあ」
ロンが皮肉混じりに言った。
「だって、うまいもん」
ナマエの言葉で、ハグリッドがにこにこして上機嫌になった。
「見ちょれ、イッチ番目の課題はすごいぞ──お前さんの親父も観にくる。仕事でだがな」
「えっ誰──?俺の親父が?」
「もちろん、万が一のためだ。チチオヤがいりゃあ死人が出る確率は下がるってもんだ」
ハグリッドが笑ったが、ハーマイオニーは心配そうにした。みんなで三校対抗試合の話題でひとしきり盛り上がっていると、昼下がりに雨が降り始めた。のんびりと雨音を聞きながら、ハーマイオニーとハグリッドがしもべ妖精論議をしているのを眺めた。ハグリッドはきっぱりと入会を断ったので、ハーマイオニーはひどく機嫌を損ねたようだった。
五時半になると暗くなり始め、全員でハロウィンパーティーの大広間に向かった。
二日連続の宴だからか、この後の代表選手の発表に気を取られてか、みんなどこかそわそわしていてご馳走に身が入らないようだった。ナマエは昨日食べ損ねたブイヤベースを見つけて、自分の皿に盛った。
それでもあっという間に金の皿は空になった。みんなが食べ終わると、ダンブルドアが立ち上がった。杖を一振りすると、蝋燭の火が全て消え、大広間は薄暗くなった。その真ん中で、炎のゴブレットだけが青白く煌々と輝いていた。
ゴブレットの炎が、突然赤くなった。火花が飛び散りはじめた。次の瞬間、炎の舌先から、焦げた羊皮紙が一枚、ハラリと落ちてきた──ダンブルドアはその羊皮紙を捕らえ、再び青白くなった炎の明かりで読もうと、腕の高さに差し上げた。
「ダームストラングの代表選手は── ビクトール・クラム!」
大広間中が拍手の嵐、歓声の渦だ。ビクトール・クラムがスリザリンのテーブルから立ち上がり、教職員テーブルに沿って歩き、その後ろの扉から、クラムは隣の部屋へと消えた。
「ブラボー、ビクトール!」
カルカロフの声が轟いた。そして、炎に巻き上げられるように、二枚目の羊皮紙がゴブレットから飛び出した。
「ボーバトンの代表選手は──フラー・デラクール!」
すると、ナマエの数席先にいた、あのヴィーラに似た美少女が優雅に立ち上がり、シルバーブロンドの豊かな髪をさっと振った。他のボーバトン生はがっかりしたようで、しゃくりあげて泣いている生徒もいたが、寒がりの小さな女の子だけは飛び上がって喜んでいた。ナマエはその子の顔を見て、フラー・デラクールの妹であろうと今更気がついた。
そして三度、「炎のゴブレット」が赤く燃えた。溢れるように火花が飛び散った。炎が空を舐めて高く燃え上がり、その舌先から、ダンブルドアが三枚目の羊皮紙を取り出した。
「ホグワーツの代表選手は──セドリック・ディゴリー!」
ハッフルパフ生が総立ちになり、叫び、足を踏み鳴らした。セドリックがニッコリ笑いながら、その中を通り抜け、教職員テーブルの後ろの部屋へと向かった。大歓声が鳴り止むまでしばらくかかった。
ダンブルドアがうれしそうに呼びかけた。
「さて、これで三人の代表選手が決まった。選ばれなかった生徒も──」
ダンブルドアが突然言葉を切った。「炎のゴブレット」が再び赤く燃えはじめたのだ。火花が迸った。ダンブルドアが反射的に羊皮紙を捕らえた。ダンブルドアはそれを掲げ、そこに書かれた名前をじっと見た。両手で持った羊皮紙を、ダンブルドアはそれからしばらく眺めていた。長い沈黙──大広間中の目がダンブルドアに集まっていた。やがてダンブルドアが咳払いし、そして読み上げた──。
「ハリー・ポッター」