炎のゴブレット
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「座りなさい」
ムーディに言われてナマエは座り、あたりを見回した。ルーピンのときは、先生がクラスで使うために手に入れた、闇の生物の見本が置いてあったものだった。しかしいま、この部屋は、とびきり奇妙な魔法道具で一杯だった。
「秘密発見器」や「かくれん防止器 」といった、「ふくろう通信販売」でも買えるような品から、ナマエが本でしか見たことのない「敵鏡」や知らない道具がそこらじゅうに置かれていた。七つの鍵穴が一列に並んだ大きなトランクが壁際に置かれていて、時おりガタガタと音を立てて揺れた。その隣の本棚には古めかしい、ナマエが読んだことも題名を見たこともない本がずらりと並んでいた。
ナマエが本の背表紙を眺めていると、ムーディが問いかけてきて、ナマエは突然現実に引き戻された。
「おまえは親しい人間がいるか?友人──恋人は?」
「えっ、いません──」
ムーディの突飛な質問に、ナマエは咄嗟に答えてから言い直した。
「アー、えっと、友達はいます。何人か」
ムーディはナマエの前にティーカップを置いて、自分は携帯酒瓶を取り出した。
「さっきのマルフォイの小僧もそうか?それとも、ポッターのほうか?」
「どっちも──俺は友達だと、思ってます」
「ほう」
ムーディは意外だというような表情を浮かべた。
「おまえの父親 は、おまえにマルフォイ家の話をしたことがあるか?」
「……いえ、特には」
ナマエは怪訝に思いながら答えた。
「ふん、そうか……本当に何も話しとらんのか……」
ムーディは確かめるように呟くと、どさりと椅子に腰掛けた。
「──ルシウス・マルフォイは間違いなく死喰い人だった。それなのにチチオヤめ、あいつはルシウス・マルフォイの無実を証言した──その結果、ルシウス・マルフォイはのうのうと今も塀の外だ」
ムーディは不服そうに唸った。
「あいつらは何も昔から仲良しだったわけじゃない。ようは取引だ。おまえは、マルフォイの屋敷に誘拐されていた。チチオヤは息子を無事にチチオヤのもとへ返すことを条件に、ルシウスの無実を証言した」
「待ってください、マルフォイ?──えっと、あの──本当に?」
ナマエはうろたえてティーカップを震わせた。チチオヤが自分のためにルシウス・マルフォイと取引をしたと言われるより、単純にルシウスとチチオヤの仲がいいだけのほうが、まだ納得できると思った。そして、ふとシリウスの言葉が脳裏によぎった。
「あの、父は死喰い人だったんですか?父は──『例のあの人』に協力的だったと、聞いたことがあります。それに、俺がマグルと関わるのも、そもそも家から出ることも嫌がります。なんであの人は何も──何を考えて……」
ナマエの声は尻すぼみに小さくなった。こんなことをムーディに尋ねても仕方がないことにも、自分の疑問はひどく幼稚に聞こえるだろうことにも気がついたのだ。
「安心しろ、ミョウジ。チチオヤが闇の帝王に下ったことがないのは確かだ。──しかし、そう思う者も少なくはない。なにせ、奴が闇の魔術に肩までどっぷり浸かっていたことも、マグルを敬遠していたこともまた事実」
果たしてそれが安心すべきことなのか、ナマエにはわからなかった。しかし、元闇祓いのムーディがチチオヤを疑っていないということは、慰めになった。
「チチオヤの考えていることはわしにもわからん。わしが知っていることだけを話してやろう。チチオヤは癒者の中でもずば抜けて優秀だった。そう、呪いを解くことに長けているということは、つまり、呪いを知っているということだ」
ビルがナマエに話していたのと同じことを、ムーディは魔法の目をぐるぐる回しながら話した。そして、目玉をナマエに向けてぴたりと止めた。
「チチオヤは闇の魔術に長けていた。そして、奴は創り出した──『魅了の呪い』……非常に強力で、非人道的な、愛の強制だ……」
初めて聞く魔法だった。ムーディの傷だらけの顔はなぜかナマエには哀れみを持った表情に見えた。
ナマエはふと、先程のムーディの授業を思い出して、身を乗り出した。
「それは、つまり──『服従の呪文』とは違うんですね?あの、愛の妙薬 とも?」
「聡い子だ。ああ、どちらも似ているようで全く違う──。おっと」
ムーディの魔法の目がぐるりと回り、昼休みを知らせるベルが鳴った。
ムーディはナマエを励ますためか、本棚からいくつも珍しい本を持たせてくれた。ムーディは不気味な見た目とは裏腹に、ルーピン先生がやりそうな親しみや気遣いを見せた。
ナマエは後ろ髪を引かれつつ、昼食のために急いで大広間に戻った。すでに生徒はまばらでがらんとしていた。レイブンクローのテーブルに腰を下ろすと、夢みがちな声がナマエに話しかけてきた。
「四年生はもうみんな『魔法薬学』の教室に行ったよ」
振り返ると、三年生のルーナ・ラブグッドが突っ立っていた。ルーナはシッシッと虫を追い払うように手を振ったので、耳にぶら下げている飛行梅がゆらゆら揺れた。
「ありがと、ルーナ──何?」
「ううん、あんたの周りにラックスパートが飛んでる気がしただけ」
「ラックスパートって?」
「耳に入って頭をボーっとさせるんだよ」
「……知らないことだらけだ」
ナマエはふう、と息をついてチーズペストリーの皿を引き寄せた。そう、自分はまだ知らないことが多すぎるのだ。ルーナはまだナマエのそばで見えないハエを叩き落とそうとしていた。
「──ルーナも食べる?」
「ううん、もう食べた。靴を探してただけ。なぜか消えちゃうんだもン」
ナマエはチーズペストリーから口を離して、ルーナの足元を見た。泥のついた靴下だけで、確かに靴を履いていなかった。ナマエは顔をしかめた。ルーナは言った。
「心配してないよ、だって母さん言ってたもン、『失くなってもきっと最後には戻ってくる』って。ちょっと意外なところからね」
「俺は心配する、その足でナールを踏んづけたらどうするんだ」
ナマエは杖を取り出した。
「──アクシオ、ルーナの靴!」
しばらくすると、フクロウが出入りする窓からスニーカーが大広間に飛び込んできた。ナマエはそれをキャッチするとルーナの前に置いた。誰にやられたかとか、いつもこうなのかとか、ナマエが言いたいことは山ほどあったが、ルーナは靴を履いてにっこりした。
「ありがと、あんたって親切だね」
ルーナはそのまま、ナマエが何か言う前にスキップで大広間を出て行った。ナマエは呆気に取られてその後ろ姿を眺めていたが、予鈴のベルが鳴り響いた。急いで食べかけのランチを口に詰め込み、「魔法薬学」の教室がある地下牢へと続く廊下を駆け降りた。ルーナと話したことで、奇しくも肩の力が抜けていた。ムーディから聞いたチチオヤの話は気掛かりではあったが、不思議といつも通りの気分で過ごすことができた。
ムーディに言われてナマエは座り、あたりを見回した。ルーピンのときは、先生がクラスで使うために手に入れた、闇の生物の見本が置いてあったものだった。しかしいま、この部屋は、とびきり奇妙な魔法道具で一杯だった。
「秘密発見器」や「
ナマエが本の背表紙を眺めていると、ムーディが問いかけてきて、ナマエは突然現実に引き戻された。
「おまえは親しい人間がいるか?友人──恋人は?」
「えっ、いません──」
ムーディの突飛な質問に、ナマエは咄嗟に答えてから言い直した。
「アー、えっと、友達はいます。何人か」
ムーディはナマエの前にティーカップを置いて、自分は携帯酒瓶を取り出した。
「さっきのマルフォイの小僧もそうか?それとも、ポッターのほうか?」
「どっちも──俺は友達だと、思ってます」
「ほう」
ムーディは意外だというような表情を浮かべた。
「おまえの
「……いえ、特には」
ナマエは怪訝に思いながら答えた。
「ふん、そうか……本当に何も話しとらんのか……」
ムーディは確かめるように呟くと、どさりと椅子に腰掛けた。
「──ルシウス・マルフォイは間違いなく死喰い人だった。それなのにチチオヤめ、あいつはルシウス・マルフォイの無実を証言した──その結果、ルシウス・マルフォイはのうのうと今も塀の外だ」
ムーディは不服そうに唸った。
「あいつらは何も昔から仲良しだったわけじゃない。ようは取引だ。おまえは、マルフォイの屋敷に誘拐されていた。チチオヤは息子を無事にチチオヤのもとへ返すことを条件に、ルシウスの無実を証言した」
「待ってください、マルフォイ?──えっと、あの──本当に?」
ナマエはうろたえてティーカップを震わせた。チチオヤが自分のためにルシウス・マルフォイと取引をしたと言われるより、単純にルシウスとチチオヤの仲がいいだけのほうが、まだ納得できると思った。そして、ふとシリウスの言葉が脳裏によぎった。
「あの、父は死喰い人だったんですか?父は──『例のあの人』に協力的だったと、聞いたことがあります。それに、俺がマグルと関わるのも、そもそも家から出ることも嫌がります。なんであの人は何も──何を考えて……」
ナマエの声は尻すぼみに小さくなった。こんなことをムーディに尋ねても仕方がないことにも、自分の疑問はひどく幼稚に聞こえるだろうことにも気がついたのだ。
「安心しろ、ミョウジ。チチオヤが闇の帝王に下ったことがないのは確かだ。──しかし、そう思う者も少なくはない。なにせ、奴が闇の魔術に肩までどっぷり浸かっていたことも、マグルを敬遠していたこともまた事実」
果たしてそれが安心すべきことなのか、ナマエにはわからなかった。しかし、元闇祓いのムーディがチチオヤを疑っていないということは、慰めになった。
「チチオヤの考えていることはわしにもわからん。わしが知っていることだけを話してやろう。チチオヤは癒者の中でもずば抜けて優秀だった。そう、呪いを解くことに長けているということは、つまり、呪いを知っているということだ」
ビルがナマエに話していたのと同じことを、ムーディは魔法の目をぐるぐる回しながら話した。そして、目玉をナマエに向けてぴたりと止めた。
「チチオヤは闇の魔術に長けていた。そして、奴は創り出した──『魅了の呪い』……非常に強力で、非人道的な、愛の強制だ……」
初めて聞く魔法だった。ムーディの傷だらけの顔はなぜかナマエには哀れみを持った表情に見えた。
ナマエはふと、先程のムーディの授業を思い出して、身を乗り出した。
「それは、つまり──『服従の呪文』とは違うんですね?あの、
「聡い子だ。ああ、どちらも似ているようで全く違う──。おっと」
ムーディの魔法の目がぐるりと回り、昼休みを知らせるベルが鳴った。
ムーディはナマエを励ますためか、本棚からいくつも珍しい本を持たせてくれた。ムーディは不気味な見た目とは裏腹に、ルーピン先生がやりそうな親しみや気遣いを見せた。
ナマエは後ろ髪を引かれつつ、昼食のために急いで大広間に戻った。すでに生徒はまばらでがらんとしていた。レイブンクローのテーブルに腰を下ろすと、夢みがちな声がナマエに話しかけてきた。
「四年生はもうみんな『魔法薬学』の教室に行ったよ」
振り返ると、三年生のルーナ・ラブグッドが突っ立っていた。ルーナはシッシッと虫を追い払うように手を振ったので、耳にぶら下げている飛行梅がゆらゆら揺れた。
「ありがと、ルーナ──何?」
「ううん、あんたの周りにラックスパートが飛んでる気がしただけ」
「ラックスパートって?」
「耳に入って頭をボーっとさせるんだよ」
「……知らないことだらけだ」
ナマエはふう、と息をついてチーズペストリーの皿を引き寄せた。そう、自分はまだ知らないことが多すぎるのだ。ルーナはまだナマエのそばで見えないハエを叩き落とそうとしていた。
「──ルーナも食べる?」
「ううん、もう食べた。靴を探してただけ。なぜか消えちゃうんだもン」
ナマエはチーズペストリーから口を離して、ルーナの足元を見た。泥のついた靴下だけで、確かに靴を履いていなかった。ナマエは顔をしかめた。ルーナは言った。
「心配してないよ、だって母さん言ってたもン、『失くなってもきっと最後には戻ってくる』って。ちょっと意外なところからね」
「俺は心配する、その足でナールを踏んづけたらどうするんだ」
ナマエは杖を取り出した。
「──アクシオ、ルーナの靴!」
しばらくすると、フクロウが出入りする窓からスニーカーが大広間に飛び込んできた。ナマエはそれをキャッチするとルーナの前に置いた。誰にやられたかとか、いつもこうなのかとか、ナマエが言いたいことは山ほどあったが、ルーナは靴を履いてにっこりした。
「ありがと、あんたって親切だね」
ルーナはそのまま、ナマエが何か言う前にスキップで大広間を出て行った。ナマエは呆気に取られてその後ろ姿を眺めていたが、予鈴のベルが鳴り響いた。急いで食べかけのランチを口に詰め込み、「魔法薬学」の教室がある地下牢へと続く廊下を駆け降りた。ルーナと話したことで、奇しくも肩の力が抜けていた。ムーディから聞いたチチオヤの話は気掛かりではあったが、不思議といつも通りの気分で過ごすことができた。