炎のゴブレット
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
嵐は、翌朝までには治まっていた。しかし、大広間の天井はまだどんよりしていた。ナマエたちが朝食の席で時間割を確かめていると、テリーが言った。
「午前は『魔法生物飼育学』と──うわあ!初日からマッド-アイだ。どんな授業だろう?」
「ロックハート以上ならなんでもいいや。でも、ルーピン未満だろうな」
マイケルがトーストにジャムを乗せながら言った。
朝食を終えると、レイブンクローとハッフルパフの四年生は、ぐちょぐちょの芝生を下って「禁じられた森」のはずれに建つハグリッドの小屋へと向かった。
ハグリッドの足下に木箱が数個、蓋を開けて置いてあり、近づくにつれて、奇妙なガラガラという音が聞こえてきた。ときどき小さな爆発音のような音がする。
「おっはよー!」
ハグリッドは近づいてきた生徒にニッコリした。
「どうだ、見ろ──『尻尾爆発スクリュート』だ!」
ハグリッドは木箱の中を指差した。
「ギャーッ!」
ハッフルパフのハンナ・アボットが悲鳴を上げて飛び退いた。すぐに悲鳴の理由がわかった。箱の中にいたのは、殻をむかれた奇形のロブスターのような気味の悪い生き物だった。一箱におよそ百匹ほどいる。体長約十五、六センチで、重なり合って這い回り、ときどき尻尾らしいところから火花が飛び、パンと小さな音を立てた。
「いま孵ったばっかしだ」
ハグリッドは得意気に言った。それからは散々だった。口なんか見当たらないスクリュートに餌をやるために、何人かが火傷をし、刺され、噛みつかれた。ナマエは怪我をしたハンナの手に杖を当てながら、こわごわ聞いた。
「ハグリッド──こいつら、まさか大きくならないよな?」
「まだ、わからんな。こいつらの好物をみつけてやらにゃいかん」
ハグリッドは、ぜひ大きく育ってほしいと言わんばかりににっこりした。テリーがカエルの肝を木箱に投げ入れてぼやいた。
「ぜーったい、そうなる前に駆除した方がいいよ……」
授業が終わると、ナマエたちはボロボロになって城に戻った。玄関ホールを横切って次のクラスに向かっていると、ふと視界の端に見知った顔が映り込んだ。
「ハリーたちだ」
ナマエは立ち止まった。ハリー、ロン、ハーマイオニーだった。声をかけようとすると、その後ろにマルフォイがいるのが見えた。
そして──マルフォイは、ハリーの背中に杖を向けていた。
「おい──」
ナマエがマルフォイを静止しようとすると──もう一本の杖がマルフォイに向けられていることに気がついた。ナマエも咄嗟に杖をあげた。
バーン!
大きな音が玄関ホールに響き渡り、数人が悲鳴を上げた。
バーン!
二回目の爆発音が響いた。
──何が起こったか、一瞬誰にもわからなかった。そして、吠え声が玄関ホールに響き渡った。
「──若造!今のを説明しろ!」
ムーディ先生が大理石の階段をコツッ、コツッと音を立てて降りてくるところだった。その両目ともが真っ直ぐナマエを見ていた。玄関ホールはしんと静まり返って、全員の視線がナマエとムーディに注がれていた。ナマエが言い淀んでいると、新たな足音が近づいてきた。
「ムーディ先生!何の音です?何をしているんです?」
マクゴナガル先生が慌てた様子で階段を降りてくるところだった。
「マクゴナガル先生。今、この生徒に説明してもらうところだ」
マクゴナガル先生は今初めてナマエに気がついたような顔をした。
「ミスター・ミョウジ?」
「えっと……マルフォイが背後からハリーに呪いをかけようとしたんです。止めようと思ったら──」
ナマエは言葉を切ってムーディを見たが、顎で続きを促された。
「──ムーディ先生がマルフォイに杖を向けたので、その……盾の呪文をかけました。マルフォイに」
「おお、アラスターそれは──本当ですか?」
マクゴナガル先生はショックを受けたような声を出した。ムーディ先生は満足げに頷いた。
「うむ。しかし、なぜ邪魔をした?」
「……えっと……あなたが、危険だと感じました」
「素晴らしい!実に良い──そうはさせんぞ!」
ムーディ先生は突然振り返ってマルフォイの首根っこを掴んだ。マルフォイが情けない声をあげた。どうやらこっそりとその場を立ち去ろうとしていたようだった。ムーディの動く目は、どうやら魔力を持ち、自分の背後が見えるらしい。
「敵が後ろを見せたときに襲うやつは気にくわん!小賢しく逃げるやつもだ!──貴様、ルシウス・マルフォイの息子だな?わしはおまえの親父殿を昔から知ってるぞ!」
ムーディは唸った。マクゴナガル先生はあやうくため息をこぼしかけてから、気を取り直して続けた。
「……ミスター・ミョウジ、それで?」
「アー、ムーディ先生の目がこっちを見たので、自分にも盾の──」
「素晴らしい!よく防御した」
ナマエが言い終わらないうちにムーディ先生が褒めると、マクゴナガル先生が思い切り顔をしかめた。
「『よく防御した』?生徒に呪文をかけたのですか?それも、無関係の生徒にまで?──ムーディ先生、本校では居残り罰を与えるだけです!さもなければ、規則破りの生徒が属する寮の寮監に話をします」
「それでは、次からそうするとしよう」
ムーディはマルフォイに嫌悪の眼差しを向け、解放した。マクゴナガル先生はついにため息をこぼした。
「──ムーディ先生、次は授業がおありですね?ミスター・マルフォイ、おいでなさい。今回は私からスネイプ先生にお話しします」
マクゴナガル先生は、助かったような顔をしているマルフォイを連れて、地下牢へと去っていった。
ムーディ先生は去ってゆくマルフォイを睨みつけたあと、ナマエを見た。
「──ミョウジ!チチオヤの息子だな?え?」
「……はい」
ナマエは恐る恐る答えた。
「おまえの父親 のことはよく知っとる。昨日も世話になった。あの男ほど闇の魔術に詳しい人間は他におらん──」
みんなの前で父親のそんな話をしないでくれ──。ナマエは額に脂汗が浮くのを感じた。
そのとき、始業を知らせるベルの音が響いた。ナマエはほっと息をついた。
「うむ、次はわしのクラスだな?よし──行くとしよう」
ムーディがコツッコツッと音を立てて教室へと歩き始めた。レイブンクローの四年生はざわめきながらそれに続いた。
ナマエが呆然と突っ立っていると、テリー、マイケル、アンソニーがナマエのもとに歩いてきた。
アンソニーがナマエが落とした荷物を渡しながら、呆れたように言った。
「君ねえ、首を突っ込まないと気が済まないの?」
「あーあ、ムーディがマルフォイに何をするつもりだったか教えてほしかったな」
マイケルが言った。
「せいぜい、『足縛りの呪い』ぐらいじゃない?」
テリーも言った。ナマエは、何も言わなかった。むしろ、でしゃばったことを後悔しはじめていた。咄嗟に防いだものの、マイケルたちが言うように、ムーディが放ったのは軽い 体罰程度だったのかもしれない。
ナマエは居心地が悪く、できるだけ教室の後ろの席に座った。
鞄を漁って「闇の力──護身術入門」を取り出そうとすると、ムーディが言った。
「教科書は使わん、しまっておけ」
ムーディは節くれだった両手をパンと叩いた。
「さて──魔法省によれば、違法とされる闇の呪文がどんなものか、六年生になるまでは生徒に見せてはいかんことになっている。しかしそうは思わん、それでは遅い!いいかブート、わしが話しているときは、そんな物はしまっておかねばならんのだ」
テリーはガタッと机を揺らした。どうやら、机の下でこっそり菓子を広げていたようだ。ムーディの「魔法の目」は背後だけでなく、硬い木の板も透かしてみることができるらしい。
「さて……魔法法律により、最も厳しく罰せられる呪文が何か、知っている者はいるか?」
何人かがおそるおそる手を挙げた。ムーディはアンソニーを指しながらも、魔法の目はしっかりとテリーを見据えたままだった。
「はい、許されざる呪文の三つで、『服従の呪文』、『磔の呪文』……『死の呪い』」
「ゴールドスタイン、そのとおりだ」
ムーディが誉めるように言うと、机の上にガラス瓶を取り出した。瓶の中には大きな黒いクモが入っていた。
「では、やって見せよう」
ムーディは瓶に手を入れ、クモを一匹つかみ出し、手のひらに載せてみんなに見えるようにした。それから杖をクモに向け、一言呟いた。
「インペリオ!服従せよ!」
クモは細い絹糸のような糸を垂らしながら、ムーディの手から飛び降り、クモは円を描きながらくるりくるりと側転を始めた。ムーディが杖をぐいと上げると、クモは二本の後ろ脚で立ち上がり、どう見てもタップダンスとしか思えない動きを始めた。みんなが笑った──ムーディを除いて、みんなが。
「おもしろいと思うのか?」
ムーディは低く唸った。
「わしがおまえたちに同じことをしたら、喜ぶか?」
笑い声が一瞬にして消えた。
「完全な支配だ」
ムーディが低い声で言った。
「何年も前になるが、多くの魔法使いたちが、この『服従の呪文』に支配された。誰が無理に動かされているのか、誰が自らの意思で動いているのか、それを見極めるのに魔法省はすこぶる苦労した──次!」
ムーディは再び杖をクモに向けた。
「クルーシオ!苦しめ!」
たちまち、クモは脚を胴体に引き寄せるように内側に折り曲げてひっくり返り、七転八倒し、わなわなと痙攣しはじめた。ムーディは杖をクモから離さず、クモはますます激しく身を捩りはじめた。パドマはクモから顔を逸らした。
「苦痛」
ムーディが静かに言った。
「『磔の呪文』が使えれば、拷問には杖一本あればいい。これも、かつてさかんに使われた──最後だ」
ナマエは不吉な予感に背筋が伸びた。
「アバダ ケダブラ!」
ムーディの声が轟いた。目も眩むような緑の閃光が走り、その瞬間、クモは仰向けにひっくり返った。何の傷もない。しかし、紛れもなく死んでいた。
「『アバダ ケダブラ』の呪いの裏には、強力な魔力が必要だ。おまえたちがこぞって杖を取り出し、わしに向けてこの呪文を唱えたところで、わしに鼻血さえ出させることができるものか。しかし、わしは、おまえたちにそのやり方を教えにきているわけではない」
ナマエの脳裏にハリーの顔がチラついた。ハリーただひとりだけが、「死の呪い」を受けて生き残ったのだ。
「では、なぜおまえたちに見せたりするのか?それは、おまえたちが知っておかなければならないからだ。油断大敵!」
声が轟き、みんな跳び上がった。
「さて……この三つの呪文のどれか一つでも人に使えば、アズカバンで終身刑を受けるに値する。おまえたちが立ち向かうのは、そういうものなのだ。何よりもまず、常に、絶えず、警戒することの訓練が必要だ。羽根ペンを出せ……これを書き取れ……」
それからの授業は、「許されざる呪文」のそれぞれについて、ノートを取ることに終始した。授業が終わると、アンソニーたち三人は感想を言い合う間も無く「占い学」の教室に向かうために急いで出ていった。
ナマエは一人でのろのろとノートを鞄に仕舞った。ムーディの授業は衝撃的だったが、それよりもナマエは、チチオヤとムーディの関係が気がかりだった。生徒はみんな退出し、教室にはナマエとムーディの二人だけになった。
ムーディは黒板を消しながら背を向けて話し出した。
「わしにチチオヤのことを聞きたいのか?ミョウジ」
ムーディの目は背後が見えるだけでなく、心の中まで見えるのかと思って、ナマエはひやりとした。ナマエが答えあぐねていると、ムーディが振り返り、コツッコツッと体を揺らしてナマエの前まで歩いてきた。
「──ミョウジ、前任のルーピン先生からも聞いているぞ。ルーピン先生の武装解除呪文を防いだことがあるとか、人間に呼び寄せ呪文を使ったとか、いろいろ──」
ナマエは頬が熱くなるのを感じた。それを悟られまいと、顔をこわばらせた。
しかし、ムーディは裂けた口角を上げて微笑んだ。
「次のクラスは無いな?──わしの部屋に来い、茶でも出してやる……」
ナマエは思わぬ親しみを見せたムーディに驚きつつ、後に続いた。
「午前は『魔法生物飼育学』と──うわあ!初日からマッド-アイだ。どんな授業だろう?」
「ロックハート以上ならなんでもいいや。でも、ルーピン未満だろうな」
マイケルがトーストにジャムを乗せながら言った。
朝食を終えると、レイブンクローとハッフルパフの四年生は、ぐちょぐちょの芝生を下って「禁じられた森」のはずれに建つハグリッドの小屋へと向かった。
ハグリッドの足下に木箱が数個、蓋を開けて置いてあり、近づくにつれて、奇妙なガラガラという音が聞こえてきた。ときどき小さな爆発音のような音がする。
「おっはよー!」
ハグリッドは近づいてきた生徒にニッコリした。
「どうだ、見ろ──『尻尾爆発スクリュート』だ!」
ハグリッドは木箱の中を指差した。
「ギャーッ!」
ハッフルパフのハンナ・アボットが悲鳴を上げて飛び退いた。すぐに悲鳴の理由がわかった。箱の中にいたのは、殻をむかれた奇形のロブスターのような気味の悪い生き物だった。一箱におよそ百匹ほどいる。体長約十五、六センチで、重なり合って這い回り、ときどき尻尾らしいところから火花が飛び、パンと小さな音を立てた。
「いま孵ったばっかしだ」
ハグリッドは得意気に言った。それからは散々だった。口なんか見当たらないスクリュートに餌をやるために、何人かが火傷をし、刺され、噛みつかれた。ナマエは怪我をしたハンナの手に杖を当てながら、こわごわ聞いた。
「ハグリッド──こいつら、まさか大きくならないよな?」
「まだ、わからんな。こいつらの好物をみつけてやらにゃいかん」
ハグリッドは、ぜひ大きく育ってほしいと言わんばかりににっこりした。テリーがカエルの肝を木箱に投げ入れてぼやいた。
「ぜーったい、そうなる前に駆除した方がいいよ……」
授業が終わると、ナマエたちはボロボロになって城に戻った。玄関ホールを横切って次のクラスに向かっていると、ふと視界の端に見知った顔が映り込んだ。
「ハリーたちだ」
ナマエは立ち止まった。ハリー、ロン、ハーマイオニーだった。声をかけようとすると、その後ろにマルフォイがいるのが見えた。
そして──マルフォイは、ハリーの背中に杖を向けていた。
「おい──」
ナマエがマルフォイを静止しようとすると──もう一本の杖がマルフォイに向けられていることに気がついた。ナマエも咄嗟に杖をあげた。
バーン!
大きな音が玄関ホールに響き渡り、数人が悲鳴を上げた。
バーン!
二回目の爆発音が響いた。
──何が起こったか、一瞬誰にもわからなかった。そして、吠え声が玄関ホールに響き渡った。
「──若造!今のを説明しろ!」
ムーディ先生が大理石の階段をコツッ、コツッと音を立てて降りてくるところだった。その両目ともが真っ直ぐナマエを見ていた。玄関ホールはしんと静まり返って、全員の視線がナマエとムーディに注がれていた。ナマエが言い淀んでいると、新たな足音が近づいてきた。
「ムーディ先生!何の音です?何をしているんです?」
マクゴナガル先生が慌てた様子で階段を降りてくるところだった。
「マクゴナガル先生。今、この生徒に説明してもらうところだ」
マクゴナガル先生は今初めてナマエに気がついたような顔をした。
「ミスター・ミョウジ?」
「えっと……マルフォイが背後からハリーに呪いをかけようとしたんです。止めようと思ったら──」
ナマエは言葉を切ってムーディを見たが、顎で続きを促された。
「──ムーディ先生がマルフォイに杖を向けたので、その……盾の呪文をかけました。マルフォイに」
「おお、アラスターそれは──本当ですか?」
マクゴナガル先生はショックを受けたような声を出した。ムーディ先生は満足げに頷いた。
「うむ。しかし、なぜ邪魔をした?」
「……えっと……あなたが、危険だと感じました」
「素晴らしい!実に良い──そうはさせんぞ!」
ムーディ先生は突然振り返ってマルフォイの首根っこを掴んだ。マルフォイが情けない声をあげた。どうやらこっそりとその場を立ち去ろうとしていたようだった。ムーディの動く目は、どうやら魔力を持ち、自分の背後が見えるらしい。
「敵が後ろを見せたときに襲うやつは気にくわん!小賢しく逃げるやつもだ!──貴様、ルシウス・マルフォイの息子だな?わしはおまえの親父殿を昔から知ってるぞ!」
ムーディは唸った。マクゴナガル先生はあやうくため息をこぼしかけてから、気を取り直して続けた。
「……ミスター・ミョウジ、それで?」
「アー、ムーディ先生の目がこっちを見たので、自分にも盾の──」
「素晴らしい!よく防御した」
ナマエが言い終わらないうちにムーディ先生が褒めると、マクゴナガル先生が思い切り顔をしかめた。
「『よく防御した』?生徒に呪文をかけたのですか?それも、無関係の生徒にまで?──ムーディ先生、本校では居残り罰を与えるだけです!さもなければ、規則破りの生徒が属する寮の寮監に話をします」
「それでは、次からそうするとしよう」
ムーディはマルフォイに嫌悪の眼差しを向け、解放した。マクゴナガル先生はついにため息をこぼした。
「──ムーディ先生、次は授業がおありですね?ミスター・マルフォイ、おいでなさい。今回は私からスネイプ先生にお話しします」
マクゴナガル先生は、助かったような顔をしているマルフォイを連れて、地下牢へと去っていった。
ムーディ先生は去ってゆくマルフォイを睨みつけたあと、ナマエを見た。
「──ミョウジ!チチオヤの息子だな?え?」
「……はい」
ナマエは恐る恐る答えた。
「おまえの
みんなの前で父親のそんな話をしないでくれ──。ナマエは額に脂汗が浮くのを感じた。
そのとき、始業を知らせるベルの音が響いた。ナマエはほっと息をついた。
「うむ、次はわしのクラスだな?よし──行くとしよう」
ムーディがコツッコツッと音を立てて教室へと歩き始めた。レイブンクローの四年生はざわめきながらそれに続いた。
ナマエが呆然と突っ立っていると、テリー、マイケル、アンソニーがナマエのもとに歩いてきた。
アンソニーがナマエが落とした荷物を渡しながら、呆れたように言った。
「君ねえ、首を突っ込まないと気が済まないの?」
「あーあ、ムーディがマルフォイに何をするつもりだったか教えてほしかったな」
マイケルが言った。
「せいぜい、『足縛りの呪い』ぐらいじゃない?」
テリーも言った。ナマエは、何も言わなかった。むしろ、でしゃばったことを後悔しはじめていた。咄嗟に防いだものの、マイケルたちが言うように、ムーディが放ったのは
ナマエは居心地が悪く、できるだけ教室の後ろの席に座った。
鞄を漁って「闇の力──護身術入門」を取り出そうとすると、ムーディが言った。
「教科書は使わん、しまっておけ」
ムーディは節くれだった両手をパンと叩いた。
「さて──魔法省によれば、違法とされる闇の呪文がどんなものか、六年生になるまでは生徒に見せてはいかんことになっている。しかしそうは思わん、それでは遅い!いいかブート、わしが話しているときは、そんな物はしまっておかねばならんのだ」
テリーはガタッと机を揺らした。どうやら、机の下でこっそり菓子を広げていたようだ。ムーディの「魔法の目」は背後だけでなく、硬い木の板も透かしてみることができるらしい。
「さて……魔法法律により、最も厳しく罰せられる呪文が何か、知っている者はいるか?」
何人かがおそるおそる手を挙げた。ムーディはアンソニーを指しながらも、魔法の目はしっかりとテリーを見据えたままだった。
「はい、許されざる呪文の三つで、『服従の呪文』、『磔の呪文』……『死の呪い』」
「ゴールドスタイン、そのとおりだ」
ムーディが誉めるように言うと、机の上にガラス瓶を取り出した。瓶の中には大きな黒いクモが入っていた。
「では、やって見せよう」
ムーディは瓶に手を入れ、クモを一匹つかみ出し、手のひらに載せてみんなに見えるようにした。それから杖をクモに向け、一言呟いた。
「インペリオ!服従せよ!」
クモは細い絹糸のような糸を垂らしながら、ムーディの手から飛び降り、クモは円を描きながらくるりくるりと側転を始めた。ムーディが杖をぐいと上げると、クモは二本の後ろ脚で立ち上がり、どう見てもタップダンスとしか思えない動きを始めた。みんなが笑った──ムーディを除いて、みんなが。
「おもしろいと思うのか?」
ムーディは低く唸った。
「わしがおまえたちに同じことをしたら、喜ぶか?」
笑い声が一瞬にして消えた。
「完全な支配だ」
ムーディが低い声で言った。
「何年も前になるが、多くの魔法使いたちが、この『服従の呪文』に支配された。誰が無理に動かされているのか、誰が自らの意思で動いているのか、それを見極めるのに魔法省はすこぶる苦労した──次!」
ムーディは再び杖をクモに向けた。
「クルーシオ!苦しめ!」
たちまち、クモは脚を胴体に引き寄せるように内側に折り曲げてひっくり返り、七転八倒し、わなわなと痙攣しはじめた。ムーディは杖をクモから離さず、クモはますます激しく身を捩りはじめた。パドマはクモから顔を逸らした。
「苦痛」
ムーディが静かに言った。
「『磔の呪文』が使えれば、拷問には杖一本あればいい。これも、かつてさかんに使われた──最後だ」
ナマエは不吉な予感に背筋が伸びた。
「アバダ ケダブラ!」
ムーディの声が轟いた。目も眩むような緑の閃光が走り、その瞬間、クモは仰向けにひっくり返った。何の傷もない。しかし、紛れもなく死んでいた。
「『アバダ ケダブラ』の呪いの裏には、強力な魔力が必要だ。おまえたちがこぞって杖を取り出し、わしに向けてこの呪文を唱えたところで、わしに鼻血さえ出させることができるものか。しかし、わしは、おまえたちにそのやり方を教えにきているわけではない」
ナマエの脳裏にハリーの顔がチラついた。ハリーただひとりだけが、「死の呪い」を受けて生き残ったのだ。
「では、なぜおまえたちに見せたりするのか?それは、おまえたちが知っておかなければならないからだ。油断大敵!」
声が轟き、みんな跳び上がった。
「さて……この三つの呪文のどれか一つでも人に使えば、アズカバンで終身刑を受けるに値する。おまえたちが立ち向かうのは、そういうものなのだ。何よりもまず、常に、絶えず、警戒することの訓練が必要だ。羽根ペンを出せ……これを書き取れ……」
それからの授業は、「許されざる呪文」のそれぞれについて、ノートを取ることに終始した。授業が終わると、アンソニーたち三人は感想を言い合う間も無く「占い学」の教室に向かうために急いで出ていった。
ナマエは一人でのろのろとノートを鞄に仕舞った。ムーディの授業は衝撃的だったが、それよりもナマエは、チチオヤとムーディの関係が気がかりだった。生徒はみんな退出し、教室にはナマエとムーディの二人だけになった。
ムーディは黒板を消しながら背を向けて話し出した。
「わしにチチオヤのことを聞きたいのか?ミョウジ」
ムーディの目は背後が見えるだけでなく、心の中まで見えるのかと思って、ナマエはひやりとした。ナマエが答えあぐねていると、ムーディが振り返り、コツッコツッと体を揺らしてナマエの前まで歩いてきた。
「──ミョウジ、前任のルーピン先生からも聞いているぞ。ルーピン先生の武装解除呪文を防いだことがあるとか、人間に呼び寄せ呪文を使ったとか、いろいろ──」
ナマエは頬が熱くなるのを感じた。それを悟られまいと、顔をこわばらせた。
しかし、ムーディは裂けた口角を上げて微笑んだ。
「次のクラスは無いな?──わしの部屋に来い、茶でも出してやる……」
ナマエは思わぬ親しみを見せたムーディに驚きつつ、後に続いた。